テクノというジャンルは、アーティストの個性がぎっしりと詰まった傑作をしばしば世に放つ事があるが、2002年にAkufenがForce Incからリリースした「My Way」は紛れも無くその中の一枚であると言えるだろう。PerlonやMusique Risqueeといったレーベルに作品を提供し、同時にRichie HawtinやMassive Attack、Cabaret Voltaire、Yelloと言ったアーティストの作品をリミックスしてきたAkufenことMarc Leclair。その彼がsonarsound tokyo 2004に出演するために久々の来日を果たし、クールで研ぎ澄まされたニュータイプ・セットでフロアに集まった超満員のクラウドに巧妙な音の催眠術を仕掛けてくれた。
マイクロ・ハウスやクリック・ハウスなど、彼のサウンドを表現する言葉は多々あるが、ジャンル的な区分けはともかくとしてAkufenのサウンドが「未来のエレクトロニック・ミュージック」の萌芽として世界的に認知されていることは、かのFabricのコンピレーションに抜擢されたことからも間違いない事実であると言えるだろう。ちなみに今回HigherFrequencyが行ったのはEメール・インタビューである。にも関わらずこの分量!しかも理路整然と書き連ねられたその主張は、まさに知性派アーティストならではといったところだろう。
> Interview : Laura Brown (ArcTokyo) / Translation : Kei Tajima (HigherFrequency)
HRFQ : 先週東京で行われたsonarsoundでプレイされましたが、実際にプレイされた感想はいかがですか?
Akufen : いつも通り素晴らしいプレイが出来たと思う。日本でのギグはいつも特別で、思い出に残るものばかりなんだ。一度もいやな思いをしたことがないし、オーディエンスも国自体も本当に素晴らしいと思うよ。日本のオーディエンスは本当にダンス・ミュージックが好きでたまらないんだね(笑)。どの国のオーディエンスも、このくらい音に対してリスペクトを払ってくれたらいいのに。
HRFQ : あなたがエレクトロニック・ミュージックに興味を持ち始めたきっかけを教えて下さい。何があなたをインスパイアしたのですか?
Akufen : 14歳くらいから聴き始めたのかな。ちょうど'80年代に入ろうとしている時で、僕はまだ若かったんだけど、どうしても当時のポップ・ミュージックやロックが好きになれなかったんだ。だから僕をはじめとするたくさんの人がそうであったように、その時ちょうど開花し始めていたポップ・ミュージックと新しい幻想的なな考え方を融合した音楽…つまり、New Waveサウンドを聴き始めたんだ。当時その文化的な革命を担っていたアーティストには、Kraftwerk、Telex、Devo、Cabaret Voltaireや、今回のSonar sound でも最高のアクトをみせてくれた坂本龍一のYMOなどがいたんだけど、彼らの音楽はいまだにフレッシュだし、メンバーはいい感じで年をとってる。まだエレクトロニック・ミュージックに望みはあるってことかな(笑)。 それからしばらくたって、確か16歳くらいの時かな。Steve Reichと Philip Glass の仕事に紹介されたんだけど、今思えばそれが僕の人生のターニング・ポイントだったと思う。それからというもの、僕の人生が音楽を中心に回り始めたんだ。
HRFQ : 先日リリースされたFabricのコンピレーションについてですが、各メディアに大絶賛されていますね。今回この作品をリリースするきっかけは何だったのでしょう?
Akufen : このプロジェクをやることになるとは、まったく予想していなかったんだけどね。まず、ことの始まりはFabricのレジデントDJ、Craig Richardsからのオファーを受けて、Fabricでプレイしたこと。それがすごく上手くいったから、また2、3ヶ月もしないうちにLondonの有名なクラブでプレイすることになって、そうして何度もイギリスに行っているうちに、僕とFabricのスタッフの関係もビジネスから友情へと変わっていったんだ。それである日彼らがFabric 17の話を持ちかけてきたってわけ。ただ単に僕にチャンスを与えようと思ってオファーしてきたわけではなくて、音楽的な面ですべてを僕に任せる形でオファーしてきてくれたから、すごく嬉しかった。だって、見慣れた曲ばかりが入っている、平凡なミックスCDだけはつくりたくなかったからね。このミックスCDを僕が今ここにいる理由である、尊敬するアーティストや友達に捧げたかった。彼らの音楽は今までも、そしてこれからも僕をインスパイアし続けるし、それをより多くのリスナーに聴いてもらいたいんだ。
HRFQ : Anna Kaufenなどの他のプロジェクトについて教えていただけますか?
Akufen : 一応Anna Kaufenもヒットを出したプロジェクトだったんだけど、もともとレギュラーで進めていくようなプロジェクトではなかったんだ。あれは半分冗談でスタートしたものだから…実際すごくいいジョークなんだけど(笑)。でも、別名義ってものはこういう感じでいいんじゃないかなと思うんだ。別名義は音楽に多様性を加えてみたり、違った方向のものを試すときに使うものって思ってるけど、それぞれが定まったスタイルからはみ出しちゃいけないとも思うんだ。今僕が別名義として使っているのはHorror inc.だけで、これはもうちょっと精神分裂病っぽい感じの…そうだな、ある意味Hyde氏とドクターAkufenっていう感じのプロジェクトかな(笑)。僕を"micro-何たら"っていうカテゴリーから解放してくれるような名義で、一生付き合い続けていくものだと思うよ。悲しいことに、アーティストの感受性はほとんど発達したテクニックや音の影に隠れてしまうんだ。とにかく、Hyde氏がドクターAkufenの殻を破って出てくるところを楽しみに待つとしようかって感じかな。
HRFQ : 最近進めているプロジェクトはありますか?
Akufen : 父親になって、もっといい人になること(笑)。冗談、アルバムだよ。今ちょうど新しいアルバム…セカンド・アルバムの制作に取り掛かっているところ。3年くらいかかってしまってるんだけど、時間をたっぷり取ってつくりたいんだ。でも、その間にも他のアーティストの楽曲をリミックスしたり、頻繁に海外でDJしていたというのもあるしね。それと同時に、Musique Risqueeっていうレーベルの仕事もしていて、今はそれに重点をおいてるんだ。だってレーベルのアーティストのためにベストを尽くしたいし、彼らのことを知るためには時間が必要でしょ?僕にとってはどんな関係もスペシャルじゃないとダメなんだ。
HRFQ : あなたの音楽は" Micro-House"などと呼ばれたりすることがありますが、そういったカテゴライズのされ方についてはどう思われますか?
Akufen :"Micro-house"は、元はといえば XLR8R magazineのジャーナリストと友達のPhilip Sherburneの言葉の引用で、Herbertの時代からまた使われ始めたみたいなんだけど、もう少しテクニカルで政治的な見方をすると、自分では"micro-sampling"と呼ぶほうが正しいと思う。だって僕の音楽のベースになっているのはサンプリングされた音だし、僕は本物のサンプリング中毒だし、これからもそうなんだ。それに、音をリサイクルすることは資源をリサイクルすることと同じくらい価値があると思っていて、今は誰がそれを倫理的にやっているかなんていう討論があったりもするけど、それはまた別の話であって…。とにかく、誰もカテゴライズされることから逃げることは出来ないでしょ。でも、将来的にはどの音楽もジャンル抜きに、ただA to Zで分けられるようになるような気がするな。個人的には、BachもSerge GainsbourgもAtom heartもやってることに大して差はないように思うんだ。というのもここに挙げた3人の音楽は、僕に同じようなアップ・リフティングな感覚を与えてくれたからね。すでに僕たちは音楽が複雑でカテゴライズ出来ないような時代に到達していて、だからいずれそういうジャンル分けも意味がなくなるのさ。音楽は音楽なんだから。
HRFQ : 楽曲をつくるプロセスについて教えていただけますか?
Akufen : 音楽の遺伝子をめちゃくちゃにするんだ(笑)。ラジオやテレビ、留守電や野外録音といった日常の生活に存在する音ならなんでも切り取って、ごちゃごちゃに融合して、それを一つにまとめあげて大きな有機体をつくり上げる…こういったサウンド・コラージュ的な発想はもう何十年も存在しているもので、 The surrealistsやthe canadian automatists、the beat poetsといったアーティストたちも、音や、映画、ペイントやライティングをコラージュしてきた連中だと思う。こういう作品のほとんどは直感によってその方向性が決められていくもので、最初はナンセンスなものの集まりに見えるものが、気づかないうちに徐々に形になっていく。そして、見る人それぞれによって違ったイメージの扉を開けてくれるんだ。まぁ、しばらくはこのやり方に拘ってみようと思っているよ。少なくともサンプリングが純粋なアートの形として認められない限りね。
HRFQ : あなたは初めからソロとして活動なさっていますね。一緒に仕事してみたいアーティストはいますか?
Akufen : 一人で仕事するほうが性にあってるんだよね。結構頑固な奴なんだ(笑)。コラボレーションしてみたいとは思うんだけど、だいたい相手のミュージシャンと上手くいかなくなっちゃうんだよね。だから今こうしてエレクトニック・ミュージックをつくってるんだと思うよ。自分で満足できる音楽だからね。一緒に仕事してみたいアーティストを上げるとすれば、Steve ReichとかNegativland、Uwe Schmidtかな。
HRFQ : モントリオールでの生活はあなたにどんな音楽的影響を与えましたか?
Akufen : いろんな面で影響されてきたよ。モントリオールは町の顔をした、他文化的な村の集まりなんだ。あそこの人間はみんなそういう考え方をしてる。北アメリカの中では、文化的にも、食べ物も、美的感覚も、芸術的にも一番ヨーロッパに近い町かもしれない。まぁ、ある意味で世界中のほかの国から切り離されてしまったような島なんだけど、それも全然悪くなくて、とくに港町だからモントリオールには様々な新しいものやムーブメントが入って来ては通り過ぎていくんだ。だからモントリオールから出てくる音楽はスペシャルなのかもしれないね。
HRFQ : ライブ・セットについてですが、最近ではFruity Loopsをつかってらっしゃるそうですね。他に何か新しいテクノロジーは使ってらっしゃるんですか?
Akufen : そうだね、ライブ・セットではAbleton Live 4を使ってるよ。これはどのミュージシャンも使っているスタンダードなタイプなんだけど、すごくシンプルで信用できるし、ほかのソフトウェアには無いほどインタラクティヴなんだ。今はFLstudioと呼ばれているんだけど、Fruity Loopsは曲を書くときに使っているよ。もう6年も使っているけど、全然飽きないんだ。とてもベーシックなシーケンサーで、どんなにたくさんの音でもループでも重ねることが出来るから、僕の音作りには欠かせない存在だね。Robert Schumannも「ピアノのペダルを必要以上に踏むのはうるさいだけだし、ただミスをカモフラージュしようとしているに過ぎない」と言った様に、必要以上のプロセスはダイナミズムを殺してしまうと思うから、そんなにエフェクトにはこだわってないんだ。FLstudioのほかには、Sonic Foundry Soundforgeも6年以上使ってる。事実上これが僕のメイン・サンプラーで、すごくパワフルで直感的に使えるから好きなんだ。あと、ElectronのMachinedrumやRolandのMC-202、Nordlead 2、Doepherのモジュラー・システムA-100、それにフェンダーのテレキャス・ギターは勿論って感じかな。まぁ、別に大きな秘密があるわけじゃなくて、手軽なトリックをたくさん使って、何時間もかけて色々試しながら曲を作っているって感じだよ。使ったものの痕跡をうまく消しながらね。
HRFQ : 最近気になったレーベルやアーティストはいますか?
Akufen : 新しいレーベルだとシアトルのOracとか、コローニャのKarloff 、新しいFreude Am Tanzenの作品もすごくいいよ。ベスト・プロダクション賞をあげるとすれば、Robag Whrume、Bruno PronsatoことSteven Ford、the Rip-Off-artistことMatt Haines、そしてモントリオールからだと、DeadbeatやSteven Beaupre、Mossa、Eggたちにあげたいね。
HRFQ : 日本でプレイしたばかりですが、全体的に見てオーディエンスの反応や、知識についてはどう思われましたか?
Akufen : 前にも言ったように、日本ですべての経験したギグやすべてのクラウドは僕にとってスペシャルで、ギグの評判も良いいんだ。もし僕がベストを尽くせば、日本のクラウドはそれを感じて、2倍にして返してくれる。ただ、日本の中でも京都には特別な気持ちがあるんだ。田舎なんかは本当に素晴らしいと思うよ。お寺とか空間とか、京都には開かれたスペースが世界中のどこと比べても多いんだ。道路や歩道も広いし、自然に囲まれているし。僕は少し閉所恐怖症気味だから、京都にいると落ち着くんだ。とにかく、日本は素晴らしい場所だし、僕の6歳になったばかりの娘も是非連れて来たいものだね。彼女はまだ来たことがないから、いつも「いつ日本に連れてってくれるの?」って聞かれちゃうんだ。
HRFQ : 最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
Akufen : リスペクトと感謝とたくさんの愛をみんなに贈ります!それ以外に言うことは見つからないよ!
End of the interview
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Akufen / Fabric 17 リリース情報 (2004/07/24)
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