DATE : 22 November 2005 (Tue)
MAIN FLOOR DJs : Sasha & John Digweed, Ohnishi
LOUNGE DJs : Ben Sims, Layo & Bushwacka!, DJ Wada, DJ AKi, Malo
PHOTOGRAPHER : STRO!ROBO, Masanori Naruse
TEXT : H.Nakamura (HigherFrequency)
長い年月をクラブ・ミュージックと共に過ごしていると、時折、何年経っても記憶から消えないパーティーというものに出会うことがある。いわゆる、後にその夜のことが語られる時、「伝説の〜」という枕詞が付けられることになるパーティーなのだが、結論からまず言ってしまうと、今回の「CLUB PHAZON - WOMB MOBILE PROJECT」は、筆者にとって何年経っても忘れることの出来ない、まさに「伝説のパーティー」と呼ぶに相応しい内容であった。 ラフォーレ・ミュージアム・六本木で行われた「CLUB PHAZON - WOMB MOBILE PROJECT」は、渋谷のクラブ WOMBが持つ「PHAZON SOUND SYSTEM」をはじめ、ライティング、フルカラー・レーザー、窒素ガスなど全部まとめて移動して、WOMBさながらのクラブ体験をさせてしまおうというプロジェクト。'04年には、Richie Hawtin と Ricardo Villalobos という二人のトップDJを招聘することで、東京のシーンに大きな一石を投じ、今年のラインナップには早くから注目が集まっていたが、10月に入って WOMB から発表されたプレス・リリースの中に「彼ら」の名前を見つけた時には、筆者もさすがに驚きの色を隠せなかったことを記憶している。 その「彼ら」とは、Sasha と John Digweed。'94年、ミックスCDの歴史的名盤と言われる「Renaissance - The Mix Collection」によってプログレッシブ・シーンの夜明けを高らかに宣言、その後、共に行ったニューヨークの巨大クラブ「トワイロ」における伝説的なレジデント活動を通じて、それまで存在していたクラブ・ミュージックの世界地図を完璧に塗り替えてしまった二人のカリスマだ。勿論、それぞれによるパフォーマンスは、ここ日本においても何度か実現しているが、今回の公演は、何と言ってもプログレッシブ・シーンのシンボルとも言える「Sasha & Digweed」によるもの。彼らの出身地であるイギリスですら滅多にお目にかかれない、このプレミア・イベントを目の前にして、驚かないほうが却って不思議だと言うべきであろう。 さらに、驚くべき点はそれだけではない。最終的に決定したラインナップには、オープニングDJとして OHNISHI、そしてラウンジDJとして MALO、DJ AKi、CO-FUSION の DJ WADA らに加えて、何と Layo & Bushwacka! と Ben Sims の名前が!どちらもヘッドライナーとして WOMB を満員にしてきた強力なアーティストであり、昨年、自らが設定した高いハードルを果敢なまでに越えようとする WOMB スタッフの意気込みが伺えるところだ。 | |
さて、いよいよやってきたイベント当日。はやる気持ちを抑えながら、普段よりもずっと早く会場に足を踏み入れると、丁度、メイン・ルームでは、オープニングDJの OHNISHI が、ダーク&トライバルなプログレッシブ・チューンでフロアをビルド・アップしているところ。昨年は、向かって正面にDJブースが設置されていたが、今年のブースの位置は入り口から見て左側に設置されており、フロアの真ん中にはダンサー用のスペースが設けられるなど、フロア全体の雰囲気も一新。ステージ上には、向かって左側に Sasha が使用するAbleton Live が組み込まれた Mac に特注コントローラーが、そして、右側には John Digweed 用の PIONEER の CDJ を中心としたセットがそれぞれ組まれ、主役たちの登場を待っている。またサウンド・システムも、昨年の経験を経て巧みにチューニングされて格段にパワーアップ。AIBA が操るライティングとフルカラー・レーザーと共に、まさに六本木の地に「アナザー WOMB」を出現させていた。 やがて、メイン・フロアでの OHNISHI のプレイが加速度を増し、フロアにもクラウドが満ち溢れた頃、AIBA の操るフルカラー・レーザーが待ち望んだアーティストの名前を刻み始める。いよいよ Sasha の登場だ!とてもスペシャルなセットの始まりとは思えないくらい「あっさり」とステージ上に現れ、淡々とセットの準備に入るサシャ。そして少し遅れて、John Digweed もステージ上に姿を現す。筆者も今まで何度となく目にしてきた二人の姿ではあったが、やはり二人同時に並んでいる姿には、思わず息を呑んでしまう。 そして、Sasha のプレイがスタート。既にヒート・アップしているクラウドを更にあおるかのように、比較的アッパーなプログレッシブ・チューンからスタートした彼のセットは、ファットなスクウェア波ベースが炸裂するエレクトロ系トラックから、リッチでゴージャスなパッド・シンセが飛び交う伝統的なプログレ系トラックまで縦横無尽に駆け巡り、早くも「天才 Sasha 」らしい自由奔放な世界観をフロアの上に綾織りのように紡ぎ始めていく。シームレスでありながら、前の曲からは予想もつかない展開… この流れこそ「Sasah の真骨頂」というべきスタイルであり、これまで2度の「Fundacion」で彼が見せた直線的な流れとは異なったものだ。もし、この日のセットを頭に描きながら、あの WOMB でのセットが構築されていたとすれば、やはりこのアーティストは「稀代の天才」であると言わざるを得ないだろう。 | |
そして、Sasha のセットがレッド・ゾーンを超え、メーターの針が振り切れた状態になり出した頃、AIBA のレーザーがもう一人の天才の名前を描き始める。John Digweed の登場だ。「果たしてこのテンションを、John はどのように料理するのだろうか?」そんな事を考えながら彼のプレイに体を委ねた筆者は、それからしばらく後、鳥肌の立つような感覚を体験することになる。とは言え、こういった感覚ばかりは、上手く文章で伝えられないところ。それをあえて表現すると、車のスピードは決して落ちていない…別にギアをシフト・ダウンしたわけでもない… 窓の外に流れている景色もさっきの続き… しかし、その景色から伝わってくるスピード感や色合いは確実に変化している… と言った感じだろうか。確かにプレイされているのは、同じプログレッシブ系トラックで、おなじみのヒット・チューンも何曲かプレイされている。しかし、それまでの Sasha が作ってきた世界観とは全く異次元のグルーブ感とニュアンスが、いつの間にかフロア全体を包み込んでいるのだ。Sasha が、天才的な一瞬の閃きと自由奔放な感覚に満ち溢れたセットを披露すれば、John がその一切の要素を損なうことなく、巧妙にフロアのテンションを「安定」させていくとでも言おうか。時には二人ともブースに上がり、時には単独で。そして、最後の1時間はバック・トゥ・バックで繰り広げられていったこのパーフェクトなコンビネーションこそ、Sasha & Digweed がこれほどまでに特別な存在としてリスペクトを集めてきた理由なのかもしれない… その思いが自然に気持ちの中で湧きあがってきた瞬間、筆者のこのイベントに対する評価は、冒頭に述べたごとく「決定的」なものになったのである。 ところで、プレイされていた楽曲について興味深く思ったのが、中盤のピーク・アワーでプレイされていた曲の多くが、ここしばらくのトレンドであったエレクトロ・フレーバー中心のものではなく、重量感のあるキックに2・4のスネアが過剰なまでにブーストされた、かなりハードなリズム・アプローチを持った曲が多かった点。ハイハットも洗練された雰囲気よりも、むしろ無骨でラウドなハットの連打といったニュアンスのものが多く、近年の例で言えば Jark Prongo 風、批判を恐れずに思い切って言ってしまうと、かつての DJ Duke や初期の Armand Van Helden といった10年前のハード・ハウスを彷彿とさせる「硬質」かつ「縦ノリ」なビートが際立っていたように思えてならなかった。決して、Van Helden の「Witch Doctor」のリメイクがプレイされ、サイレンが鳴り響いたから…というわけではないが、エレクトロ、アシッド・ハウスのリバイバル、そしてイタロ・ハウスのサンプリングと来れば、「次はハード・ハウス?あるいはワイルド・ピッチ?」と勘繰ってしまうのは仕方のないところ。「それは違うだろう!」と思われた方、そこは、あくまで筆者の個人的予想というところでご容赦願いたい。 | |
しかし、こういった最高の内容のセットを目の前にすると、やはり言葉の持つ無力さというものに、相変わらず打ちひしがれてしまう。簡単に言ってしまえば「ヤバい」の一言であって、どのような形容詞を使おうとも、この日の素晴らしい雰囲気を伝えることは出来ないのだろう。やはり、クラブ・ミュージックは肌で感じ、その場の雰囲気に全身を浸してみないと伝わらないものなのだ。最近では「スーパースターDJの終焉」とか「プログレッシブ・シーンの変節」と評論家がこぞって書きたてるなど、ここ数年における彼らを取り巻く環境自体は、決してポジティブであったとは言い難い。しかし、そんな状況下においても、常にトップDJとしての定位置をキープし、黎明期と何ら変わらないチャレンジ精神で新しいサウンドを貪欲に追求し続ける彼らは、やはり「別次元」の存在であり、確実に「スーパースターDJそのもの」であった。ただ、派手な外車や高級な家を持っているという意味の「スーパースター」ではない。クラウドの呼吸を完全に読み取り、最高のエンターテイメントを我々に与えてくれるという意味においての「スーパースター」だったのである。 後半に差し掛かった頃、Sasha があるボーカル・トラックをプレイしている時。かなり派手なブレイクが続く間はフロアが完璧にヒート・アップしたのだが、ブレイク明けの低音が弱く、一瞬フロアのテンションが下がった場面があった。ところが、その数秒後、別のトラックのビートをいきなり挟んだかと思うと、再びそのボーカル・トラックへと戻り、さっきと同じハイ・テンションなブレイクへ。そして、その次にブレイクが明けたときには、完璧にローがブーストされたトラックが待っていたのであった。その時、横で軽く頷く John Digweed。この夜の二人はあまりにカッコ良く、そして「スーパースター」だった… そんな100%の満足感と共に、拍手と完成の鳴り止まない会場を後にした筆者であった。 |
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