’90年代半ばから Force Inc、 Tresor、 M_nus といった名門レーベルで活躍し、ここ数年は自身が立ち上げた Persona Records を中心に素晴らしいミニマル&テック・ハウス作品をリリースしているベテラン・アーティスト Stewart Walker。 Fumiya Tanaka 率いるパーティー Chaos にも幾度と来日し、日本人からも絶大な支持を得ている彼が、今年の春に待望のニュー・アルバム "Concentricity" をリリースした。そんな好調を極めるかのような活動を続ける彼に HigherFrequency が再びインタビューを決行し、絶好調である Persona Records の運営スタンスや、アルバム "Concentricity" について、さらには今後のリリース予定などを訊いた。
> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation : Ryo Tsutsui (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : ここ数年の間あなたはすべての作品をご自分で運営する Persona レーベルより発売されていますが、それは一般に発売されている音楽と比べてご自身の作る音楽の方向性が異なることを示しているのでしょうか?
Stewart Walker : Persona は僕にとって自分と自分の音楽の根本をはっきりさせるための手段なんだよ。以前に他のレーベルに曲を提供していたときは、そのレーベルとの関係を維持するのにすごく忙しかったり、スタジオにいるときも無意識的にそのレーベルにあわせた曲を作ろうとしてしまっていたんだ。しかも、最初の自分のアイディアとは違う方向に行ってしまうことが多かった。テクノを作ろうと思っていたのにメロディアスなハウスにしてしまったり、クリッキーなアンビエントを作ろうとしていたのにかなり激しいテクノにしてしまったり。だから自分らしい音楽を作るというルールだけを持ったレーベルを作ろうと思ったんだ。確かに僕は常に新たな方向性を示そうとしている。それは同じような曲を2度は作りたくないと考えているからなんだ。今は新しいものを生み出すために自分を信じて創作活動ができて満足しているよ。たとえそれが今のジャンルの区分けに収まらないものであったとしてもね。
HRFQ : 現在、 Persona は大きな飛躍の時期を迎えているように感じられますが、今の状況に100%満足されていますか?それともこれ以上に達成したい目標があるんでしょうか?
Stewart Walker : おそらく100%満足するってことはないんじゃないかな?自分のまわりの音楽やレーベルを見て、いい音楽を作っていると感じたり、レコードが売れていると知れば、すぐに競争心が芽生えるものだからね。でもこういった説明よりもプロデューサーとして、またレーベルオーナーとしてどのような満足を求めているのかをもう少し具体的に説明してみよう。
まずプロデューサーとして満足を感じる瞬間というのは、例えば一年とか、作ってから時間がたっていてスタジオでおこなった細かい作業なんかももう覚えていない状態のものを聴いたときに、その音楽がまるでずっと前から存在していたように自然に聴こえたときなんだ。結局スタジオで実際に制作している時間っていうのは「10%のひらめきと90パーセントの努力」っていう格言どおりで、いいグルーヴが生まれるまでの最初の45分は楽しいんだけど、そのグルーヴを曲にする作業をしている間は苦しいものだからね。
一方でレーベルオーナーとしてはまだまだやるべきことがいっぱいあるんだ。 Personaは最近になって自分たちのオペレーションでの運営を始めたばかりなんだけど、レコード・レーベルを運営することはとても複雑で難しいことなんだと感じている。さまざまな問題を解決することに時間をとられてしまって将来のプランを考えるほどの余裕を失ってしまっているからね。でも自分たちのやりかたを見つけて先にいけると信じているよ。
HRFQ : あなた以外にも Persona の常連といえる存在に Reynold と Touane がいますが、彼らの音楽のどういったところに魅力を感じていますか?
Stewart Walker : 今 Persona でトレンドとなっているのが、ダンス・ミュージックのプロデューサーになる以前に何らかの音楽経験を経ている人たちの音楽なんだ。必ずしもアカデミックな音楽教育である必要はなくて、バンド経験があったり、若いころから4トラック・レコーダーを使って音楽を作っていたりとかっていうことなんだけど。以前に Jeff Mills のインタビューを読んだことがあって、彼は音楽的な素養はなくて、でも自分のプロダクションの独創性を伸ばすためにそれをあえて身に着けようとはしなかったということを語っていた。当時僕はそのアプローチの仕方にすごく感銘を受けたし、彼にとってはそれがよかったと思う。でも今はそれがベストな方法だとは思っていないんだ。もし音楽的知識を持たない人が始めてコンピューターの前に座って曲を作ったとしても、ほとんど場合彼らがいつも聴いているものと大差ないものしか生まれてこないと思う。僕が子供のとき兄に `Blue Monday` を聞かせたとき彼は「テクノはどれもボンボンいってるだけで面白くない」といっていたけど、今僕が Beatport とかで新しいトラックをチェックしてても、新たな進歩に出会うことはあまりないんだ。僕にとってなぜ Reynold と Sam の音楽が興味深いかというと彼らの音楽は深くて、密度が濃くて、ただ単に12インチを1000枚売って明日には忘れられるっていうような音楽よりも、もっと意味があるように感じられるからなんだ。
HigherFrequency (HRFQ) : 以前の私たちとのインタビューで、製作中に一旦立ち止まってコンセプチュアルな視点からエンジニア的な視点に切り替えて判断する必要がある場合があるとおっしゃっていましたが、新しいアルバム “Concentricity” でも同じようなやり方をされたのでしょうか?
Stewart Walker : 今はコンセプト的なものはあまり大事だとは思っていなくて、むしろプロダクションの質が大事だと考えるようになってきている。僕は15年エレクトロニック・ミュージックを作ってきているし、10年リリースもしてきた。自分の音楽に対する理解も深まっているし、スタジオで自分がやれることもわかっている。確かにコンセプチュアルにやることは楽しいけど、今はある意味コンセプトはマーケティングと同義だと考えているんだ。 僕は音楽はそこに乗せられたマーケティングの効果がなくなったときに真価が問われると考えている。たとえば Gorillaz なんかを例にとると、架空のバンドという設定の大きなコンセプトがあって、興味をもって買って iPod に入れていたとするよね。2年たってたまたまその曲を見つけたときになんだっけ?って思って聴いてみたとすると、その時こそ自分の正直な感想が分かるときなんだと思う。僕がもっともコンセプト志向だったのが “Stabiles” の時だけど、ある意味のぼせ上がっていたんだと思う。そういう風に演出して見せることが大好きだったから。でも今は音楽さえあればそれで十分なはずだと考えているよ。もし芸術家と職人を分けて考えるなら僕は職人になりたい。結局そこにこそ芸術があると思っているから。
HRFQ : “Concentricity” は全曲がミックスされているのがとても興味深いと思いましたが、そのような形を選んだ特別な理由はあるんですか?
Stewart Walker : エレクトロニック・ミュージックはポップ・ミュージックと比べて1曲1曲のタイムスケールが長いからかな。僕はどっちも好きなんだけど、音に変化があったほうが好きだし、 “Grounded in Existence” を作ったときはポップ・ミュージックの短いタイムスケールを意識して制作したんだ。でもテクノはやっぱりDJセットに組み込まれてこそ威力を発揮するものだからね。簡単にいってしまうと1曲1曲をミックスに適した作品にしたかったから今回のようなかたちをとったのさ。実際にやってみてDJが使いやすいようにイントロとアウトロをスムーズにするにはどう仕上げていけばいいのか検証できていい訓練になったよ。
HRFQ : “Concentricity” のようなスタジオ・アルバムとあなたの実際のライヴ・セットでは大きな違いはありますか?
Stewart Walker : 違いはあるだろうね。スタジオ・アルバムで大切なのが仕上がりの緻密さだったり、完成度だったりするけど、ライヴで大事になってくるのはパワーだからね。そのパワーを演出するにはどこで使ってもうまく混ざるように1つ1つの素材がもっとシンプルな作りになっていたほうがいいんだよ。僕も去年は自分のライヴでもっと完成された状態のものを使っていたんだ。僕にとってそれは、自分の曲がDJミックスの中で使うとどんな感じなのかを体験するはじめての機会だったんだけど、あまりしっくりはいかなかったんだよね。はじめてDJたちがシンプルな16小節イントロの曲を好む理由を理解したよ。僕にとってはいい経験だった。
HRFQ : 以前。あなたは自分自身をDJではなく、ライヴ・アクトと捉えているということをおっしゃっていましたが、それはご自身の中で意識的なご決断なんでしょうか?
Stewart Walker : 僕がエレクトロニック・ミュージックに興味を持ったころはお金もあまりなかったからターンテーブルとミキサーを買ってDJを始めるのか、シンセサイザーを買って音楽を作るのかを選ばなくてはならなかった。そんな中でDJセットを買って、更に毎週新譜のレコードを買うより、安い中古のアナログ・シンセを買ったほうが安かったのさ。それに僕はミュージシャンとしての未来を見据えていてレコードに自分の名前を載せられるようになりたいって思っていたから。
ただ自分がプロデューサーとして進歩していったときにDJをやったほうがいいんじゃないかって思った時期もあった。そうすることが世界中を回って自分の音楽をプレイできるようになる道だったし、当時の僕の憧れのプロデューサーたちもみんなDJをしていたから。でも有名になったプロデューサーがDJを始めて失敗する話もたくさん聞いていたからね。みんなDJとしてはそれほどうまくも無かったっていうのも確かに事実だったんだけど。それにレコード屋にいって百曲聴いて、その中から2曲選んで、なんていう作業はできそうになかった。そんな中ある友人に2ヵ月後にライヴをセッティングしたから準備を始めろって言われて、そのときからDJにはそれほど興味がなくなった、自分の音楽だけでみんなが踊っているってことに魅了されてしまったんだ。
最近もまたDJをやろうかと思ったりしたけど、今までプロデューサー、パフォーマーとして積み重ねてきたものを思うと、そんな気持ちだけでライヴ・アクトをやめるのはバカらしいと考えているよ。
End of the interview
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