HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Steve Bug Interview


テクノ大国ドイツにおいて、10年以上に渡って第一線で活躍を続けるミニマム・ファンク/テック・ハウスのマイスター Steve Bug。Jeff Samuel や Phonique といったアーティストを抱える Poker Flat や、ディープ・ハウス系のレーベル Dessous、そして自身の趣味的なレーベルだという Audiomatique のオーナーとしても手腕を奮い、多面的にその才能を発揮しているドイツが誇る優れた才能の一人である。そんな彼が Yellow の人気レギュラー・パーティー Real Grooves に約一年ぶりに登場。控え室で出番を待ち構えている中、 HigherFrequency のインタビューに応じてくれた。

> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Yoshiharu Kobayashi (HigherFrequency)

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Higher Frequency (HRFQ) : 新しいミックス CD が今月リリースされますよね?それについて少し教えてもらえますか?

Steve Bug : 今回リリースされるのは "Bugnology" シリーズの第2弾なんだけど、基本的なアイデアは前作と全く同じなんだ。オーソドックスなミックス・スキルは使わないで、コンピューター上でエディットやミックスをしてみるというね。これまでに僕はレコードを使って作ったミックス・アルバムを3、4つリリースしてきたんだけど、常々もっと変わったことができないかと思っていたんだ。ミックスをスムーズにするためにエディットしたトラックをループ・マシーンに入れてプレイしたり、エディットでトラックを長くしてミックスしやすくしたりする作業は、僕の DJ にとって本当に重要なことだよ。でも、そんなふうにエディットしたトラックとレコードをミックスするのは、ちょっと馬鹿らしいと思い始めてきてね。だって、そうやって手を加えたトラックも含めて全部コンピューター上に持っておけば、それだけで全てが済むわけだからさ。僕はよくトラックを短くエディットすることもあるんだけど、あんまり多くのパートを削り過ぎないように気をつけているんだ。だって、そういった作業をすることによって、ときに原曲の持つヴァイブが無くなってしまうこともあるからね。

HRFQ : Sasha や Richie Hawtin も最近そういったミックスをしていますよね。これから DJ としてやっていくには、プロデューサーとしても優秀でないといけなくなるのでしょうか?

Steve Bug : いつの時代だってそんなものだと思うよ。いや、以前は必ずしもそうではなかったかもしれないけど、今はもう違うんだ。もちろん自分で曲を作らなくても腕のいい DJ にはなれるけど、仕事を見つけるのは大変だろうね。実際のところ、大事なのは音楽そのものよりも名前が売れていることなのさ。本当は大した腕前でも無いくせに、外部プロデューサーにいい音を作ってもらったおかげで名を挙げて、世界中からオファーが舞い込む DJ だっているしね。つまり、大切なのは有名であることなんだ。だから、以前と少し状況は変わってきていると思うけど、やっぱり DJ とプロデュースの両方が出来るに越したことは無いよ。音楽制作が出来なくても素晴らしい DJ にはなれるさ。でも、色々とやることでより多くの知識が身につけられると思うんだ。僕も'91年に DJ を始めた頃は、クラブや友達の家でプレイしていたんだけど、直ぐに音楽制作の方にも関心が出て来たんだよね。本当に音作りには興味が湧いて、色々と知りたいと思ったんだ。まあ、音楽が好きな人なら、いつかは音楽制作に関心を持ち始めるものだと思うよ。

HRFQ : 最近ミニマル・スタイルの音楽が流行していますが、DJ を始めた当初からそのような音楽をプレイしているあなたにはこの風潮がどのように映りますか?

Steve Bug : ちょっと変な感じさ。だって流行なんていつかは終わるものだからね。今のシーンには酷い作品がたくさん出回っているせいで、それと似たような傾向の音を作るのをやめたくなるように感じることもあるよ。例えば、今はアシッド・ハウスの人気が爆発している状態だとしよう。そうすると、そのおかげでいいトラックも幾つか出て来るけど、しばらくしたら全然駄目な作品ばかりになってしまうだろうね。そんな感じで、次々と流行は移り変わっていくんだ。まあ、僕はいつも自分のサウンドを深めていくことに集中しているから、そんなことはあまり関係ないけどね。それにしても、みんなちょっと視野が狭いなと思うこともあるよ。僕はディープ・ハウスも好きなら、テクノも好きなんだ。どんな音楽だって好きさ。僕はいつだってミニマルよりもハウス寄りのトラックを使ってきたんだ。今はいいミニマル・チューンが沢山出てきていると思うけど、それでもハウス寄りのトラックを選んで使っているよ。最近はデトロイト・テクノ全般とディープ・ハウスが特に気に入っているんだけど、ディープ・ハウスでいいものはたくさん出てきていると感じるね。ミニマルの問題は、トラックが全てコンピューター上で作られていて、ミキサーとかアナログの機材を通していないから、みんな同じようなサウンドになっていることなんだと思う。だから、どのトラックもみんな似たような感じの平坦なサウンドになっているんだよね。僕はミニマルが好きだけど、あんまり聴き過ぎるとさ…。もちろんみんなが一緒のアナログ機材を使って曲作りをしても同じ問題が起きるかもしれないけど、アナログの場合は実際みんな違った機材を使っているからね。でも、コンピューターは結局コンピューターでしかないんだ。ちょっと変な感じだけど。

HRFQ : あなたが所有するレーベルの一つである Poker Flat からは現在6つのミックス CD が出ていて、コンパイルを担当しているアーティストの中には大物の名前もあります。どうやってあなたはこうした才能を見つけてくるのですか?

Steve Bug :ただ自分の好きな音楽を選んでいるだけだよ。僕はいい音楽をいつも捜し求めているから、いいトラックにも出会うことが出来るんだ。今僕は3つのレーベルを運営しているけど、そういったことが出来るのも本当にたくさんのデモが送られてくるおかげさ。送られてくる音源の中には、たくさんのいいトラックがあるからね。

HRFQ : 今は3つもレーベルを運営しているのですか?

Steve Bug : そうだよ、Poker Flat、Dessous、Audiomatique という3つのレーベルを持っているんだ。Poker Flat は、僕や友達の Martini Bros、Martin Landsky といったアーティストの作品を出すために設立したレーベルなんだけど、Hakan Lidboのこともレーベルを立ち上げてから直ぐ、偶然見つけたんだよね。彼が僕たちの元にデモを送ってきて、それが本当に気に入ったから、うちのレーベルからリリースすることにしたんだ。でも、今考えてみればそれが友達以外では初のリリースだったね。しばらくしたらレーベルが大きくなってきたんで、僕はベルリンに移ったんだけど、Guido Schneider に出会って友達になったのはそのときのことなんだ。そういうわけだから、結局 Poker Flat のメンバーはみんな友達かデモがきっかけということになるね。でも、それはいいことだと思うんだ。と言うのも、僕たちにはみんないい友達がたくさんいて、音楽についても色々と話せて、同じようなバックグラウンドを持っているのも、そういうレーベルの成り立ちだからこそだと思うからね。

Dessous は、最初全ての作品を Vincenzo が友達と一緒に手掛けていたんだけど、彼はバルセロナに引っ越したのをきかっけに曲作りを止めてしまったんだよね。だから、彼の代わりに今は Phonique が Dessous の中心となってやっていて、Vincenzo も少しだけ作品を作るという感じで続いているんだ。常々思っていることなんだけど、いいレーベルを作るには、アーティストのコミュニティのようなものを持っているのが大事だよね。だって、そうすれば自分のリリースしたい作品を自由に出すことができるんだからさ。

Audiomatique はまた少し違うんだ。このレーベルはもっと趣味的なもので、純粋にリリースしたいと思った作品を出しているだけなんだよね。だから、そんなにビジネスっぽい感じではなくて、ただ楽しもうというノリなんだ。だから、2ヶ月くらいの間ヒットする曲が時々出てきて、後は全く音沙汰なしになっても、「いいじゃん、やろうぜ!」って感じで続けていくつもりさ。

Steve Bug Interview

HRFQ : 3つもレーベルを持ち、曲作りや DJ もやっていると本当にお忙しいと思いますが、どうやってそれぞれに割く時間を作っているのですか?

Steve Bug : 分からないな。実は、今は曲作りになかなか上手く時間を割くことが出来なくて、それが悩みの種になっているんだよね。自分でも駄目だとは思うけど、これまでに何度もアーティスト・アルバムを作ろうとチャレンジしてみて、一度として完成させたことが無いんだ。他の仕事とか、ツアーもあるからさ。でも、やっぱりアーティスト・アルバムを作りたかったから、2年かけてようやく8曲を仕上げたんだけど、当時からその曲もいつかは手直ししたいと思っていたんだ。それで、ある日あんまり曲作りの調子が出なかったから、その8曲にもう一回取り掛かってみようとしたんだよね。でも、実際にコンピューターにアップロードして手を加えようとしたときに、こう思ったんだ。「なんだ、この曲はもう1年半も前の曲じゃないか」そう考えたら、もうその曲を使う気にはなれなかったのさ。そんな感じで削って行ったら5曲が残ったんだけど、それではアルバムには足りないから後10曲くらい作りたいと思ったんだ。まだ曲のアイデアはあったからね。でも、ちょうどスタジオを移らなくてはいけないときだったから、結局は時間が取れなくてさ。だから、新しいスタジオに移ったら、2ヶ月ぐらいは DJ を止めてアルバム制作に集中しようと思うんだ。そうじゃなきゃ、永遠にアルバムが完成しそうにないからね。

HRFQ : DJ T やMatthias Tanzmann といったアーティストとこれまでコラボレーションをしてきましたが、あなたがこの人となら上手く行きそうだと考える基準はなんですか?

Steve Bug : 特にこれといったものはないよ。DJ T は元々友達だったんだけど、彼はよく僕と一緒にスタジオに入りたいと言っていたんだ。だから、まだ彼が Get Physical を始める前に、僕の方から彼を誘ってみたのさ。僕は友達と一緒に仕事をするのが好きだからね。彼とは2曲ほどいい感じで仕上げたけど、それから彼は他にいいプロデューサーを見つけたんだ。彼は今も上手くやっていると思うよ。グルーヴ・マガジンをやっているときは、曲作りや DJ の時間があまり取れなかったみたいだけど、あの雑誌を売り渡して Get Physical を始めてからの活躍は目覚しいものがあるよね。

Matthias も元々の友達だったし、彼の作品のことも気に入っていたんだ。ベルリンにいたときのことだったと思うけど、一緒に食事をしていたら「よし、一緒にやってみようぜ!」と彼が言ってきたんだよね。Common Factor の Nick Calingaert とも、だいぶ前にシカゴにいるときに一緒に曲作りをしたんだ。ただなんとなくスタジオに行って、いいものが出来なくても別に気にしないというミュージシャンっぽいノリでね。楽しんでいたから、時間の無駄だとは感じなかったな。1人でスタジオに入って、誰も手助けしてくれる人がいないのも嫌なものだよ。僕だって週に5日スタジオに入っていても何にも完成しないことが時々あるしさ。今は Martin Landsky と一緒にスタジオに入っているんだけど、彼とは Poker Flat から出す Nick Holder の昔のトラック 'Erotic Illusions' のリミックスを2つ仕上げたんだ。これが本当に上手くいったから、二人でもっと色々やってみようかと話しているところさ。

HRFQ : 今のお話とはまた別のコラボレーションについても伺わせてください。あなたは先日ファッション・フォトグラファーとのコラボレーションをして、同じようにファッションをテーマにしたミックス CD も出しました。そして、本日のイベントは Diesel-U-Music からのサポートを受けています。他にもファッションをテーマにしたコラボレーションは何かありますか?

Steve Bug : 一つ言っておきたいのは、僕にとってはそのコラボレーションのテーマはファッションではなくて音楽だということなんだ。そのフォトグラファーとのコラボレーションは楽しかったよ。彼らは Dessous から出てる作品が好きで僕をコラボレーションの相手に選んだみたいだし、彼らのウェブサイトから流れる音楽もかっこよかったから、いいセンスしているなと思ったしね。それに彼らの写真も素晴らしかったから、一緒にやってみたらきっと面白いものが出来ると思ってオファーを引き受けたんだ。結果として、今までで最高のものが出来たのではないかと思っているよ。この作品は、ゴールドの CD に分厚いブックレットが付いた高級そうな仕上がりになっているんだ。実際はそんなに高級なものではないんだけどね。彼らと僕らでは求めるアートワークが違って、なかなか話が前に進まず時間がかかってしまったけど、最終的には本当に面白い作品が出来上がったと思うよ。

HRFQ : そろそろ DJ の準備も必要でしょうからインタビューを終わらせてもらいます。本日はありがとうございました。

Steve Bug : こちらこそ。

End of the interview

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