今年10月に発表された DJ Mag DJ Top 100 で見事一位に輝いたトランス界のカリスマ Paul Van Dyk によるコンピレーションCD "The Political Of Dancing 2"が先日リリースされた。長年にわたりシーンを牽引してきたリーダー的存在でありながら、常に音に対する情熱と探究心を忘れないことで、幅広いジャンルのリスナーから高い人気を誇っている彼、本作は、そういった音楽活動を通して積極的にチャリティーなどを含める政治的活動を行っている Paul による 思想をベースにしたコンピレーション・シリーズの第二作目であり、そのリリースを記念する来日ギグが、500人限定のプレミアム・ギグというかたちで行われた。
HigherFrequency はギグを直前に控える Paul に接触、コンピレーションについて、また作品に込められた "Political (政治的)" なメッセージなどについて訊いた。
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> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : こんにちは Paul!
Paul Van Dyk : こんにちは。
HRFQ : 今日はありがとうございます。
Paul : こちらこそ。
HRFQ : DJ Mag の Top 100 で見事一位に選ばれましたね。おめでとうございます!
Paul : どうもありがとう!
HRFQ : さて、こうして日本に戻って来られたわけですが、数ヶ月前には ageHa という大きなクラブでプレイされましたね。覚えていらっしゃいますか? 3000 人以上のクラウドが集まったと思います。しかし、今日のギグは前回とは少し様子が違うようですね。今回プレイされるのは決して大きいとは言えないクラブですが、どうですか?今日のギグを楽しみになさっていますか?
Paul : あぁ、もちろんさ。東京の小さいクラブでプレイした経験はあまりないからね。今回のギグが実現したのは、日本のファンから「今年中にもう一回プレイしてくれ」という内容のメールをたくさんもらったからなんだ。ただ、どうせまた日本でギグをやるなら、何か特別なことがしたいと思ってね。ビッグ・クラブでのギグとは違った、もう少し深いものをやりたいってね。だからすごく楽しみだし、今日のギグも素晴しいものになると思うよ。
HRFQ : 私たちもすごく楽しみです。今回のギグは "The Politics of Dancing 2" のリリース・ツアーの一部ということですね。本作はあなたの手がけるコンピレーション・シリーズ "The Politics of Dancing" の第二作品目ですが、第一作目は4年前にリリースされましたね。2作目をリリースするまでにどうしてこれだけの時間がかかったのでしょうか?
Paul : これは普通のDJミックスCDとは違う作品だからさ。僕はミックスCDが嫌いなんだ。クラブでのギグの雰囲気をCDに録音することなんて不可能だからね。このCDは、アーティストであり、DJであり、ミュージシャンであり、プロデューサーであり、リミキサーである自分を合体させてしまうという、テクニカルなコンセプトを持った作品なんだ。よく聴いてみると、トラック11のドラムとトラック5のベースラインが、トラック7で一緒に使われたりしている。こうやってCDをつくるのにはすごく時間がかかるというのが一つの理由かな。
もう一つの理由は、常にDJツアーをして回っているから。DJが大好きだからね。それに、この4年の間にアーティスト・アルバムを2枚もリリースしたし、今も来年発売予定のニュー・アルバムを制作中なんだ。常にたくさんのことをやっていて、忙しいのさ。それが大きな理由かな。
HRFQ : 分かりました。アルバムについてですが、トラックの選出など、制作の際のクリエイティヴなプロセスについて少しお話していただけますか?
Paul : トラックの選出はクリエイティヴなプロセスと言えるようなものでもないんだけどね。ただ曲を聴いて、好きなものをプレイするのみ。特にコンピレーションを制作するときは、音楽的なことも重要な要素なんだ。そういったことを考えながらトラックを集めて、ライセンスをとって、コンパイルするのさ。
HRFQ : トラックのリエディット等はされるのでしょうか?
Paul : さっき言ったのはリエディットに関することだけじゃないんだ。全てのトラックのパーツを集めて、全体に入れ込んでいく。それをミックスして順番に並べていくのさ。
HRFQ : そういった作業には、Ableton Live を使われているのですか?
Paul : 実際は、 Ableton と、Serato の Scratch Live と Audio Logic という3つのソフトウェアを組み合わせて使っているんだ。
HRFQ : わかりました。このCDの思想的な面についてお伺いしていきたいと思います。あなたは、社会正義について強い意識と関心を持ち、実際に行動を起こしているDJとして知られていますが、今回のコンピレーションの思想的なコンセプトについて少しお話していただけますか?
Paul : ここ数年は、9.11 や アフガン戦争、それにイラク戦争などによって、この世界で一緒に生きていくために最も適している思想が、民主主義であることが明らかになったと思うんだ。強くて、強くて民主的で健康な社会を成立させるためには、全ての人の協力が必要で、多くの人が加われば加わるほど、民主主義の力も強くなる。まずは選挙に参加すること。それにチャリティー団体や他の社会活動に参加すること。もし身の回りで間違ったことが起こっていたら、それを変える努力をして欲しい。それが僕の信じていることであり、僕が行っていること、僕が人々に気付いて欲しいことなんだ。あと、もう一つ間違いなく言えることは、音楽やそれを通して入ってくる収入は、こういった活動を進めていくのに役立ってるということ。結果、全てがサークルのように巡り巡って、人々の元に戻っていくというわけさ。
HRFQ : イラクやアフガニスタンへの侵略は "TPOD1" のリリース後に起こりましたが、こういった出来事は、"TPOD2" 以降の作品に込めるメッセージを変えるきっかけになったのでしょうか?
Paul : そうだね。もちろんだよ。"TPOD1" はまた違ったコンセプトをもとにリリースした作品だったんだ。あの作品を通じて皆に気づいて欲しかったのは、全ての「楽しみ」という要素や、大勢の人に素晴らしい時間を与えている「音楽」というものには、同時に "グローバルな規模での若者文化" をクリエイトする力があるということ。 そしてその若者文化は、信仰する神の違いや、宗教、それに出身地の違いなどを乗り越えて、全ての人々を結びつけることが出来るんだ。イスラエル人がパレスティナ人と踊り、イラク人がアメリカ人と踊り、日本人がドイツ人と踊る…もしその人物がいい人格を持っていれば、どんな国で生まれようが関係ないのさ。特にこういう時代には、そういったことは政治的な問題と言えると思うんだ。だからこのコンピレーションの名前も "The Politics of Dancing" と付けたのさ。
HRFQ : わかりました。チャリティーといえば、最近ハリケーン "カトリーナ" の被害者のためのチャリティー・ショーを行われましたが、いかがでしたか?
Paul : すごく良かったよ。ただ、あのショーは差し迫ったニーズがある時に行われた単発のチャリティー活動だったんだ。もちろんそういった活動もするけど、他にも持続的に行っている活動があってね。 ボンベイに Akanksha というプロジェクトがあって、僕はそちらの方を重点的にサポートしているんだ。金銭的な面はもちろんだけど、もう一つはそのプロジェクトについて話すこと。人々にそのプロジェクトの存在を知ってもらわなければならない。そうしないと、罪のない子供たちが次々と命を落としてしまうんだ。
HRFQ : 是非このインタビューで、日本の読者にそのプロジェクトを知ってもらうきっかけがつくれればと思います。プロジェクトについてお話していただけますか?
Paul : もちろんさ。このプロジェクトの素晴しいところは、ただ子供たちに食料を与えるだけのキャンプではないということ。紛争地帯やスラム街にある学校のようなものなんだ。ここでは、子供たちが食料や衣服を与えられるだけではなく、教育も受けることが出来る。しかも、簡単な数学や書き物を教えるだけではなくて、一般の子供たちが習うような全ての教科を習うことが出来て、成長して、独立して仕事に就けるようになるまで、きちんとした指導を受けることが出来るんだ。そういった素晴しいコンセプトを持つプロジェクトではあるけれども、まだまだ多くのサポートが必要なんだ。現地には、これから変化させていかなくてはならない、絶望的に間違っていることがたくさん残っているからね。
これが一つで、もう一つは、Akanksha プロジェクトからインスパイアを受けて、僕がドイツの赤十字とベルリンにつくった Rueckenwind というプロジェクト。Rueckenwind とは、ドイツ語で '支援の追い風' という意味なんだけど、ここ数年間、ドイツは深刻な経済問題を抱えていてね。経済状況が悪ければ、たくさんの困難が生まれてくる。で、そういった場合、一番先に被害を受けるのは子供たちでしょ。ドイツには、他の子供たちと同じように成長する可能性を与えられない貧しい子供たちがたくさんいるんだ。そういった子供たちを僕たちがサポートするというわけ。僕たちが養成した職員を貧しい家庭に送り込んで、彼らが時間の管理や経済的な管理をサポートするんだ。子供たちは、僕たちの施設でコンピューターの使い方を習うことが出来て、時代に着いていくことが出来るようにする。ただ、テレビの前に座っているような毎日だけじゃなくてね。それに、僕たちにはミニ・バスもあって、それに乗って子供たちをいろいろな町に連れて行ったり、農場で本物の牛や木をを見せてあげることができる。このプロジェクトでは、僕自身が経験してきたようなごく当たり前の教育を彼らに与えているというわけさ。その他にもスポーツなんかも教えているんだけど、こういったプログラムは僕がベルリンの赤十字と一緒に考えてつくったもので、僕も彼らもこのプロジェクトの浸透にはかなりの力を入れているんだ。
HRFQ : こういったプロジェクトの成果を直接に見られたことはありますか?
Paul : もちろんさ。前回インドに行った時に、現地の Akansha スクールを訪ねてね。正直、あんなに胸が張り裂けそうになった瞬間はなかったよ。一年生のクラスで、彼らはちょうど1から100まで英語で数字を覚えたばかりだったんだけど、クラスの子供20人全員が、どのくらい意欲的に番号を覚えたか僕に見せたがったんだ。みんな一緒になって「One ! Two!」って大声で叫ぶんだよ。あれは本当に胸が張り裂ける思いだったな。あの子たちは既にものすごく辛い人生を送ってきたのにも関わらず、自分たちで何とかそれを変えていこうと一生懸命なんだ。彼らに必要なのは、僕らのほんの少しのサポートなのさ。その結果は確実に表れてくるものだしね。
それに、ベルリンの家族からもたくさんレスポンスがあるよ。子供たちの態度が変わったとか、精神のバランスがよくなって、リラックスするようになったとか。それに、誰かに愛されていると思えるようになってきたとかいう声もある。先日、200人の子供を集めてクリスマス・パーティーみたいなものをやって、来週はサーカスを観にいくんだ。こういう感じでいろいろな活動をしていて、その成果は確実に表れているよ。
HRFQ : 分かりました。本当に素晴しいプロジェクトだと思います。これで最後の質問になります。今日のギグを見に来るファンや、今までにあなたのギグに出向いたことのあるファンに対して、メッセージをいただけますでしょうか?
Paul : ギグに来てくれてありがとう。日ごろのからのサポートにも感謝しているし、またすぐに日本に戻ってくることを約束するよ。今日のギグがすごく楽しみなんだ。まだ僕はプレイをしていないから、どんなことが起こるかすごくすごく楽しみだよ。君たちがこのインタビューを見る頃には、僕がすごくエキサイトしてたってことが分かるだろうね。じゃあ、また後で。夢をあきらめないで!
End of the interview
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パーティーレポート : Paul Van Dyk TPOD2 Tour Extra Show @ UNIT (2005/12/08)
リリース情報 : Paul Van Dyk / Politics Of Dancing Vol.2 (2005/09/19)
関連リンク
Akanksha Project Official Site
Paul Van Dyk Official Site
UNIT Official Site