HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

James Holden


 1999年にリリースされた’Horizons’は、ダンスミュージック・シーンに落とされた一つの衝撃だった。若干19歳のオックスフォード大学生-- James Holdenによってプロデュースされたこのトラックは、Nick WarrenやDave SeamanといったトップDJたちのサポートを受けると共に、当時一世を風靡していたプログレッシヴ・ハウス・ムーヴメントに乗って大絶賛を受けた。それから6年の間、徐々にコマーシャル化し、遂には勢いを失っていくこととなったプログレッシヴ・ハウス・ムーヴメントに反比例するかのように、プロデューサーJames Holdenは、長い間あたため続けてきたその類まれ無い才能を開花させ、次々と頭角を現していく。Nathan FakeやPetterをはじめ、有望な才能が多数在籍するレーベル Border Communityを設立し、レーベルのファースト・リリースとなった自身のトラック ’A Break In The Clouds’をはじめ、ダンス・ミュージックに対する固定観念を見事に吹き飛ばすようなリリースを続け、遂には、既成のシーンの代弁者になるのではなく、誰も真似することの出来ないホールデン・ワールドを築き上げてしまったのだ。

 そんなカリスマ性と才能を持った、鬼才James Holdenの待望の初来日公演が行われたのは2月5日のこと。ギグ当日、プレイ前の貴重な時間を頂いて、HigherFrequency念願のインタビューが実現。’Horizons’ヒット後に待ち受けていた意外な逆境、気になるスタジオ・セット・アップ、そして彼のストイックさなしには存在し得なかったであろう、レーベル Border Communityにまで及んで語ってもらった。おそらく日本初公開となるであろうビデオ・インタビューと合わせて、じっくりと堪能してもらいたい。

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> > Interview : Matt Cotterill _ Translation & Introduction : Kei Tajima _ Photo : Mark Oxley

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HigherFrequency (HRFQ):やっと来てくれましたね、James!!日本はどうですか??昨日は大阪でプレイされたそうですが。

James Holden (以下James) : すごく楽しんでるよ!昨日のギグもすごく楽しかったし、いい感じだった。ツアーを回り始めて2・3年になるけど、今回はまったく違う世界に来たみたいだよ。ヨーロッパはどの国もみんな同じだし、アメリカも全部同じに見えてたけど、日本はすごくエキサイティングな国だね。

HRFQ : 'Horizons'がリリースされた後のJames Holdenについては、今までにも様々なことが書かれたり語られたりしてきましたが、'Horizons' 前のあなたについては、あまり知られていないようですね。あなたがどのようにして音楽活動を始めたのかということについて、興味のある人はたくさんいると思うのですが…

James : 僕の父がピアノを教えてくれたんだ。彼はプロというわけではなかったんだけど、趣味としてピアノを弾いていて、僕に教えてくれて。そうするうちに、僕は人が書いた曲を演奏するより、自分で音楽をつくりたくなって、曲作りを始めたんだ。それで、コンピューターを買って…当時はダンス・ミュージックなんて全然好きじゃなかったんだけど、エレクトロニカのトラックをつくっていたし、バンドを組めるほどの数の友達もいなくてね(笑)。ギターを弾ける子は一人知ってたんだけど、それじゃ足りないでしょ!?だからコンピューターで曲をつくり続けていたら、ある時、学校の音楽の先生が、エレクトロとかテクノ、アシッドが好きなもう一人の先生に僕の曲を聴かせたんだ。そしたらその先生が、僕にいろんな音楽を紹介し始めて、それからは僕もテクノばっかり聴くようになって。そうしているうちに、’Horizons’が出来たんだ。この曲は楽しみのつもりでつくったトラックだったけど、レーベルと契約することになって、それからは随分長い間彼らに縛られるかたちになってしまったね。その時につくってた音は自分が本当に好きなものでもなかったんだ。だから、James Holdenとしてのキャリアが始まったのは、僕がBorder Communityを始めたときからと考えて欲しいな。Border Communityからリリースした”A Break in the Clouds”で、僕の全てが始まったんだ。誇りに思えるのはそこから先のことだけだね。この作品をリリースしたポイントで初めて一人前のDJ/プロデューサーに成り得たような気がするし、あの曲は、自分自身のサウンドで、自分が信じたものだったから面白かったんだと思うんだ。

HRFQ : Border Communityに関しては、後ほど詳しくお話を伺いたいのですが、まず、あなたのウェブ・サイトにも記してあった、MogwaiやBoards of Canada、M83といったバンドについてですが…

James : うん、君も聴くの??

HRFQ : 特にMogwaiは大ファンです。素晴らしいサウンド・スケープですよね。こういったバンドがあなたの音楽性に与えた影響は大きいですか?

James : かなり大きいね。ああいうインストゥルメンタル音楽には、自由な発想が詰まっていると思うんだ。トラックの構成の仕方も、含まれている要素も、ダンス・ミュージックに比べたらすごく自由だしね。ダンス・ミュージックの音はすごく限られていると思う。例えば、M83の演奏するような素晴らしいノイズ音の波は、Tiestoのトラックの中にもあるかもしれない。ただ、ダンス・ミュージックの場合、その音の後に何が起こるのか簡単に予測できちゃうでしょ?僕は人を驚かすことの出来るような、感情のこもった音をつくりたいんだ。僕の周りでも、Nathan Fakeは特にM83の大ファンで、昨日Nathanから聞いたんだけど、M83が彼にニュー・シングルのリミックスを頼んだらしいんだ。その時のNathanの喜びようったらなかったよ!あんなに興奮してる人ははじめて見たよ (笑)!

Chris Liebing Interview

HRFQ : 'Horizons'はフリーウェアのBuzzで制作されたそうですね。現在のスタジオ・セット・アップを教えていただけますか?

James : その時とあんまり変わらないよ。コンピューターは今のほうがいいものを使ってるけど、基本的にはPCと、その他にはスピーカー2つとノブとスライダーの付いた小さいMIDIボックスだけ。あと、あんまり使ってないけどキーボードもあるよ。カシオの小さい20ポンド(4000円)くらいのキーボードで、電池で動くようなやつなんだけど、かなりヤバいノイズ音を出すんだ!今までベストだと思ったノイズ・サウンドは、大体このキーボードからマイクでひろったものだったり、ギターアンプにつないで録音したものなんだ。

HRFQ : あのボサノヴァ・サウンドが入ってるキーボードですか?

James : そうそう (笑)!

HRFQ : それはお金のない若いクリエイターたちには嬉しいニュースですね。他に何かお勧めのプラグインやソフトウェアはありますか?

James : やっぱりBuzzかな。フリーウェアだしね。他にもインターネット上にはタダでゲットできるソフトウェアが山ほどあるけど、その中でもBuzzは絶対にお勧め。実際、僕はCubaseも使ってるんだけど、この二つのコンビネーションが好きなんだ。Buzz特有のヤバい音をCubaseに取り込んで、そこで細かいディティールを加えて音を完成させるんだ。ただ、いろいろ学ぶツールとしてはBuzzが最適だと思うよ。

Chris Liebing Interview

HRFQ : その他のテクノロジー、例えばFinal Scratchなどは使われますか?

James : 僕はアナログはあまり使わないから、CDJの方をもっと使うかな。トラックをリ・エディットすることだって出来るし、ループさせることも出来る……いろんなトリックがつかえるからね。ラップトップでも同じこと。もしラップトップをつかえば、その機能を活かしてもっといろんなことが出来るかもしれない。ただ、今の時点ではラップトップをうまくコントロールできる方法がないのさ。だから、今僕と何人かの友達とでラップトップ用のコントローラーをつくる会社を設立しようとしてるんだよ。そのコントローラーをつかって、ラップトップをCDJみたいにコントロールすることが出来たら、可能性は無限大になるよね。後6ヶ月もすればそのコントローラーをつかってDJできるようになって、何でも出来るようになると思うと、すごく楽しみだよ。飛行中にブートレッグをつくることもできるようになるし、DJセットだって、ただ人のトラックをつないでプレイするいうよりも、自分のオリジナルのトラックをプレイしている感じに近くなるから、僕にとってはかなりエキサイティングだしね。こういうコントローラーの誕生や、音楽のダウンロードで、今後2・3年でエレクトロニック・ミュージック・シーンは大きく変わっていくことになるんだろうね。楽しみだよ。

HRFQ : その楽曲ダウンロードについてですが、アーティストとして、インターネットを通してたくさんの人々が楽曲を聴いてくれることは、とても喜ばしいことだと確か以前おっしゃっていましたが、レコード会社側やビジネス的な面で考えると、逆に非常に好ましくないことですよね?

James : そうだね…もちろん僕だって生活していかなくちゃいけないからね(笑)。音楽業界の人々がインターネットを恐れているのは、そういうことからなんだ。でも、例えば週末にツアーに出ることが決まっていて、そのツアー中にプレイしたい新しいトラックを前日に探していたとしても、オンライン・ショップを見れば、欲しい楽曲が山ほど見つかっちゃうんだよね!今までも、普通のレコード・ショップだったら絶対に見つからなかったような楽曲も、オンライン・ショップを通して買った経験はたくさんあるし。ただ、僕がいろんな音楽を聴きはじめたころ、本当にレコードおたくな友達が2人いたんだけど、レアなレコードを買ってきては、「このレコード見てみろよ!」っていう感じで競い合ってて、確かにそういうのが懐かしかったりもするけどね。今はそんなことしなくても全部コピーできちゃうからさ。でも当時は、ラジオで流れてる曲で、すごく好きなのにレコード・ショップでみつけられないってことが結構あって、それが嫌だったな。だから今でも暇があるときなんかは、欲しかった曲の名前を思い出して、インターネット・ショップで探してみたりしてるんだ。だから、もしオンライン・ショップが合法になって、きちんと整備されれば、将来的にメインになってくる可能性は十分にあり得ると思ってるよ。

HRFQ : あなたが手がけたリミックス作品についてお話を伺っていきたいのですが、その中でも Britney Spearsの'Breathe On Me'のリミックスはいろいろな意味で衝撃的でした。素晴らしい作品に仕上がっていると思ったのですが、このトラックをリミックスされるきっかけはなんだったのでしょうか?

James : Britney側からのオファーだったんだ。僕自身、はじめはBritneyのリミックスをするのにはすごく抵抗があって…”セル・アウトしてる”みたいな感じじゃない?でも、僕の母も、妹も彼女の曲は知ってるしね、それが一番大きい理由かな!(笑)。実際、オリジナルの曲もBritneyの他の曲に比べたらいい曲だったし。それに、ちょっとKylie(Minogue)みたいな雰囲気があったし、そういう感じのポップ・ミュージックだったからいいかなって。それに、これはリミックスしてから聞いた話だったんだけど、この曲をプロデュースしたのは昔Brother in RhythmでDave Seamanと一緒に曲を書いてた人だったらしいんだ。そんな曲を僕がこんなにグチャグチャにしちゃって、彼もやりきれなかったと思うよ(笑)。でも、よく考えてみれば、Britneyのアカペラを自分のコンピューターで好きなように操作できる機会なんて、なかなか無いからね。このチャンスはちょっと見逃せなかったかな。

HRFQ : リミックスする作品を選ぶ基準はあるのですか?

James : そうだね。というのも、今は実際にリミックス出来る十倍の量を頼まれるんだ。基準はというと、リスペクトするレーベルやアーティストの作品を選んでるかな。このツアーが終わったら、Black Strobeのリミックスをすることになってるんだけど、それはやっぱりBlack Strobeの大ファンだからだし、Crosstown Rebelsの”Safari”だって、リミックスすることにならなくても、もともと自分で買ってプレイしていただろうし。最近では、DJすることで生活していけるようになったから、リミックスはあまりやらないで、ただ好きなものだけ受けてるって感じかな。ただ、ここ2年ぐらいで、僕にリミックスをして欲しいっていう人からたくさん話が来るようになって、すごく嬉しいけどね。

Chris Liebing Interview

HRFQ : Nathan FakeやThe MFAをはじめ、素晴らしい才能が揃っているあなたのレーベルBorder Communityについてお伺いしていきたいと思います。Border Communityのウェブサイトやジャケットのアート・ワーク、サウンドに素晴らしい統一性が感じられるのですが、あなたが一番大事にするレーベルのコンセプトとはなんですか?

James : そうだね。さっきも言ったように、僕自身がレーベルに縛られて、好きな音楽をつくれないという不幸な状況を経験してきたから、とにかく自由なレーベルをつくりたいと思ったのさ。ずっと前からインターネットでチャットしたり、MP3を交換し合っていた友達がいたりして、僕の周りに才能のあるアーティストがたくさんいるのは知っていたから、彼らが自由に音楽をつくることの出来る拠点みたいなものを置いて、そして、本来行われるべき正しいディールを経験してもらって、本来レーベルがアーティストに対してするべき動きを見てもらいたかった。レーベルをはじめた当初は、取引先のディストリビューター会社に、「そんなこと出来るわけないよ。かなりのリスクがあるから、それだけはやめろ」って言われたりしたけど、僕たちは「うるさいな、とにかくやってみるんだ」の一点張りで。そうやって何度か喧嘩しながら、いいディールを結ぶことが出来て、今は自分たちの好きなように何でも出来るようになったんだ。すごく嬉しいよ。それに、才能のある友達に恵まれて、僕はすごくラッキーだったね。でもやっぱり、みんな音楽が大好きで、ジャンルにこだわらないで、いろんな音楽をつくるってところに共感して、ここに集まってき来てくれているとも思うんだけど。だって、Nathan Fakeの今度リリースするアルバムなんて、全然ダンス・ミュージックじゃないんだ。M83やBoards of Canadaみたいな、シンセでつくったロック・ミュージックって感じなんだよね。彼がM83の曲をリミックスするのも素晴らしいと思うけど、そんなダンス・ミュージックと距離のある彼が、ベルリンで普段Richie Hawtinがプレイしてるクラブでプレイするっていうのもすごいよね。そういう事が起こっていて、なぜかよくわからないけど、すべてが上手くいってるんだ。要するに僕たちはラッキーなんだね(笑)!本当にラッキー。これ以上の幸せはないんじゃないかと思うほど幸せだよ!

HRFQ : 才能のあるアーティストが出てくるすごくエキサイティングな時なんでしょうね。レーベルとしてアーティストを選ぶ時の基準とは何ですか?

James : ただ、僕たちの好きな音をつくるアーティストということだね。

HRFQ : 今後のリリースについて少し教えてもらえますか?

James : 実は、リリースしたいものがなくてしばらくお休みをしていたんだ。the MFAもちょっと動きがなかったし、Petterはかなりゆっくりしてたみたいだし…Nathanはちょうどオリジナル・アルバムをつくり終えたところで、僕は相変わらずノロノロやってたから、リリース自体がなくて。でも今年は、まずハンブルグのアーティスト…まだ名前も決まってないようなアーティストなんだけど、デモの山から発掘した期待の新人のリリースがあって、かなり楽しみなんだ!今日のギグでもプレイするかもしれないな。それと、僕はEPをほとんど仕上げたし……あとは最後のトラックにヴォーカルを乗っけるだけなんだけど、仕上がりが楽しみだね。今回のEPは他の作品より少しエクレクティックな感じになってるんだ。それと、さっきも言ったNathanのアルバムがリリースされるよ。

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HRFQ : DJとして、最近お気に入りのトラックはありますか?

James : たくさんあるよ。ドイツのシーンがそうであるように、いい音楽があふれてる時だと思う。ただ、既にピークには達していて、いろんな人や企業がお金儲けに乗り出してきてるのは感じてるんだ。ちょうど少し前のプログレッシヴ・ハウス・シーンみたいに、どんどんコマーシャルになってクオリティーが下がっていくっていう感じさ。でも、そんな中でも確実に面白いことをやってる人たちはいるんだよね。Michael Meyerのアルバムなんて、本当にすごいと思うよ。音的には’90年代半ばのイギリスのプログレッシヴ・ハウスに似てるんだけど、すごくフレッシュな感じがするし。今すごく人気のあるAlden Tyrellなんかもいいし、それにInternational PonyのDJ Kozeもいいね。International Ponyはヒップ・ホップのバンドなのに、彼のつくる音はかなりエレクトロなんだよ!彼がつくる音は全部かっこいいと思う。

HRFQ : いろいろなジャンルの音楽がクロスオーバーされている時代なんでしょうね。世のジャーナリストたちはよくジャンル分けしたがりますが、あなたはカテゴライズが嫌いなアーティストの一人ということで…

James : でも、それが彼らの仕事だからね(笑)!

HRFQ : まぁ、彼らも生活しなきゃならないということですね!最近、イギリスのジャーナリストの間では、英ガーディアンズ誌の’Dance Music Is Dead’の記事が発端となって、さまざまな論争が繰り広げられていますが、あなたの目には今後のダンス・ミュージック・シーンはどのように映っていますか?

James : ダンス・ミュージック界の古株たちがシーンを仕切っていた時代はすでに終わりを迎えたと思うよ。僕の彼女はBorder Communityと同時に、インターネット上でthemonobrow.comっていうページを運営してるんだけど、今日ホテルでそれを読んでいたら、The EndでJeff MillsとLaurent GarnierとJosh Wink.が3週続けて登場するって書いてあったのね。これって、トランス・シーンでいえば、TiestoとArmin(Van Buren) とFerry Corstenが連続で見れるくらいすごいことなんだけど、でも彼女はそれをネタにして笑い飛ばしてたんだ!実際、僕も彼らのプレイは見たいとは思うけど、それよりDJ Kozeや、Superpitcherを見に行きたいと思うのが本音だね。そういうことなのさ。大きいクラブも次第にこういう時代の動きに気付き始めてるとは思うけど、今アンダーグランド・シーンは、本当に久しぶりに、今までにないくらい大きな力を持つようになったんだ。大きなクラブや、コマーシャリズムなんてあまり関係なくなってる。でも……このクラブは大きいね(笑)!

HRFQ : でも、アンダーグラウンドな要素はあるクラブですよ、ここに来るにはバスに乗らなくちゃいけないし、外は寒いですしね(笑)!James、今日は本当に有難うございました!今後の活躍に期待してます!

James : ありがとう!

End of the interview

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