DATE : 5th February, 2005 (Sat)
PHOTOGRAPHER : Mark Oxley / Official Site
TEXT : Kei Tajima (HigherFrequency)
まず結論から言ってしまうと、やはり"噂"は本当だった。2月5日、ageHa@STUDIO COASTのメイン・フロアに居合わせたすべての人が、彼のつくり上げた空間を目前に、こう確信したはずだ。「James Holdenほどの天才はいない」と。若干26歳という若さで、メイン・フロアを埋めつくすクラウドを完璧に操ってしまうほどの力量と、まるで悟りきっているかのようにストイックな世界観を持ったこのクリエイターを、「天才」と呼ぶ以外に、どんな言葉で表現出来るというのだろう。 | |
プログレッシヴ・ハウス・シーンの期待の星として、長年来日が心待ちにされながらも、なかなか実現せず、その人格すらミステリアスな存在となっていたJames Holden初来日の吉報が入ったのは、一月上旬。お年玉さながらの嬉しいニュースに、HigherFrequencyも一ヶ月前から気合いを入れてイベントに向けての準備にとりかかる。そんな盛り上がる気分とは裏腹に「本当に来るのか?」という疑問も抱いていたのも事実で、東京公演一日前に大阪に無事到着したというニュースを聞いたときは、思わずホッとしてしまった。イベント当日、ageHa側の協力もあってJamesのセット直前に通常より長いインタビュー時間を用意してもらい舞台裏でJamesと対面。ここで行ったインタビューはまた後ほどチェックしてもらいたいのだが、Jamesの音楽に対する愛情や、姿勢を改めて感じさせるようなインタビューだった。お土産に持っていった日本酒を嬉しそうに抱える姿は、まだあどけない少年といった感じ。そんな彼がこれから数十分後、大物DJ さえも"ビビる"というageHaの広いフロアを埋めつくす満員のクラウドを前に、どのようなセットを見せてくれるのか期待がふくらんだ。 James登場の時間が近づき、メイン・フロアの2階のDJブースに細い影が浮かび上がる。すると、浮遊感のあるメロディーと力強い重低音が低く響き渡り、その瞬間にフロアの雰囲気がガラリと変化したのが伝わって来た。クラウドも瞬時にJames Holdenの登場を察知したのか、歓喜の声で彼を迎え入れる。セット前半はドイツのレーベルKompactの作品をつないでいき、Jamesらしい空間をビルド・アップ。最近のJamesのDJセットではお馴染みのSuperpitcherの"Happiness"や、Nathan Fakeのトラックをプレイし、"気持ちのいい"セットを展開していく。クラウドはただ天を仰ぎ、まるで全身をJamesに委ねてしまったかのようにフロアを泳いでいた。。 | |
中盤に差し掛かると、少しBPMが早めのトラックを次々とドロップしてくるJames。彼がジャンルの壁を越えて幅広い人気を誇っているのは、こういったボーダレスな選曲センスにあるのだろう。太いベース音に合わせて、こちら側もズブズブと深い空間にはまっていくと、何やら聴き覚えのある電子音が闇を突く。James HoldenがCo-Producerとして参加した、Sashaの"Bloodlock"だ。脳裏に響いてくる高音に、筆者も思わず手を上げて感動を表す。それからJamesは、再びベース音と共にクラウドを暗闇へと誘ってき、ノイズ音とエレクトロニカの中間を危うく辿りながら、エキセントリックとも言える展開を見せていく。正直筆者はノイズが得意ではないのだが、ふと気がつけば、フロアで踊り続けているクラウドと同様に、そのノーマルとアブノーマルを行き来する"危うい快感"にすっかり陶酔してしまっていた。そこで、一転してフロアのテンションをグッと上げたのはBritney Spears "Breathe On Me"のリミックス。誰もがプレイされるのを待ち望んでいたトラックだが、「ここでこう来るか!」的な展開に、クラウドもすっかりノック・アウトされてしまったようだ。続いてNathan Fakeの"The Sky Was Pink"や、Petterの"All Together"などがドロップされ、再びJames節とも言えるセットが展開されていくと、James 自身のトラック"A Break In The Clouds"によって、フロアも最高潮にヒート・アップ。クラウドはJames一人を崇拝するかのように熱いまなざしをブースに向け、Jamesは先ほどのインタビューのときに見せた表情とはまったく別人のような、力強い顔つきをしていた。 フロアが明るくなり、Jamesが手を上げてブースを去っても、なかなかフロアを去ろうとしないクラウドに、アンコールとしてFischerspoonerの"Emerge"がドロップされ、まるでドラムン・ベースのように響き渡る怒涛のビートがフロアを支配する。そしてラストはNathan Fakeの"Overdraft"で華麗にフィニッシュ・アップ。あどけない笑顔で手をふって、ブースを後にするJames。筆者はというと、頭の中に残るきれいな音の余韻と、James Holdenがダンス・ミュージック・シーンの将来に落としてくれた一行の光を垣間見た興奮で、なかなかフロアを後にすることが出来ず、しばしそこに立ちつくしているのであった。 | |
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