HigherFrequency  DJインタビュー

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Infusion Interview

「ポスト・ケミカルブラザーズ」という言葉が果たして正しい表現かどうかは別にして、現在のプログレッシブ・ハウス・シーンの中で最も熱い視線を集めていることは間違いないであろうオーストラリア出身の3人組ユニットInfusion。リリースする全てのトラックがSasha、John Digweed、Dave Seamanといった世界のトップクラスのDJによってこぞってプレイされ、ロック・ミュージックの息吹をも感じさせるその独特なグルーブ感を武器に、あっという間にスターダムの中心へと駆け上がってきた彼らが、9月末に最新アルバム"SIX FEET ABOVE YESTERDAY"をリリースし、そのプロモーションを兼ねての来日ライブを11月2日にWOMBにて行った。

クラブというフィールドを背景にすくすくと成長し、メジャー・マーケットというより広い海原へと漕ぎ出そうとしている彼らにHigherFrequencyがインタビューを実施。今回のアルバムのコンセプトやスタジオ・ワークの詳細などについて話を聞いた。

> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Photo by BMG Japan _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)

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HRFQ : まずアルバム"Six Feet Above Yesterday"についてお伺いしていきたいんですが、前作と比べてロック色が強くなっていますね。アルバムを制作するに当たって何か特別なコンセプトがあったのですか?

MANUEL : 特に無いかな。このアルバムをつくるのには結構時間がかかったんだ。完成させるまでに2〜3年間はかけて曲をたくさん書き溜めていったし、曲をつくっているときは、アルバム全体が完成したとき、どういう風に聴こえるかなんて考えたりしなかったからね。

JAMIE : 僕が思うに、自分たちの音の方向性が定まった結果完成したアルバムだと思う。以前から僕たちがどんな音楽をつくりたいかが定まってきているような感覚はあったんだけど、やはり完成させるとなると時間がかかったね。とにかく前のアルバムとは違うものをつくりたかったし、いろいろな楽器を取り入れることにも興味があったし…スタジオでストリングスを録音することも前からやってみたいとは思っていたんだけど、これも予算がなければ出来ないことだったしね。そういった願望が、アルバムが完成に近づくにつれて色濃く出てきたんだと思う。でも最終的にどんなアルバムになるかは、完成するまで分からなかったよ。アルバムが完成する6ヶ月くらい前になって、やっと「よし、このアルバムならリリースできるぞ。結構濃いアルバムになったぞ」って思えるようになったって感じかな。

HRFQ : 本当にいろいろな音の凝縮されたアルバムだと思いました。ホーンやヴァイオリンの入った'Invisible'のように、雰囲気に富んだ曲も収録されていますが、このようにチルな雰囲気の楽曲は以前からつくりたいと思っていらっしゃったのですか?

JAMIE : とにかくライヴでプレイするものとは違う内容のアルバムをつくりたかったんだ。もちろんライヴは楽しいし、いろいろな場所でプレイして得ることの出来るエナジーにはすごいものを感じる。だけど、僕たちがトライしたいことはそれだけじゃないんだ。やっぱり音楽をつくりたいんだよ。アルバムはそういう欲求を満たすところであって、12インチでそれを表現することは出来ない。だからこのアルバムは自分たちが納得できるものにしたかったし、リラックスしたり曲をかいたりしながら、いろんなアイデアにオープンでいるように努めたんだ。他のどのバンドもそうするようにね。

MANUEL : 多分たくさんの人たちが僕たちがライヴでプレイするような、いわゆる"DJセット"らしいアルバムを期待していたと思うんだ。でも、僕たちはエレクトロニック・バンドだからね。

JAMIE : 無理もないと思うんだ。だって僕たちのライヴを普段見ている人は、僕たちがスタジオでどんなことに挑戦してるかなんて見当も付かないはずだからね。

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HRFQ : ライヴで見せるあなたたちの顔は、あくまでも一面にしか過ぎないということですね。

JAMIE : その通り。だからリスナーの中には驚いた人もいるのかもしれない。でも僕たちにとってはいたってナチュラルな方向なんだ。今までもこういうスタイルを目指して活動してきたからね。

MANUEL : 今回のアルバムは、3年前にリリースしたアルバムの延長線上に位置するものだとも思うんだ。前のアルバムは、確かにもう少しエレクトロニカ色が強かったし、今回のようにたくさん楽器は使われていないけど、実際いろいろなことに挑戦したのは確かだからね。

HRFQ : あなたたちが影響されてきた音楽について聞いていきたいのですが、まずひとつ気になったことがあったのでお伺いします。アルバムの中でも、'Love and Imitation'には強いNew Orderの影響が感じられたのですが、'Love and Imitation'(愛と模倣)というタイトルをとっても、この曲は彼らへのオマージュという解釈をしてもいいのでしょうか?

FRANK : あの曲の単調なベース・ラインのことを言っているんでしょ?ある意味、ピーター・フック(New Orderのベーシスト)の弾くようなシンプルなベース・ラインが入っていれば、全部New Orderのマネになっちゃうんだよ。彼はそんなにベース上手くなかったからね(笑)。あのベース・ラインと"Blue Monday"の比較からは一生逃れられないんだろうけど…

JAMIE : 全然意識してなかったよね。この曲のアイデアが浮かんで曲をつくった時は何も感じなかったんだけど、曲が完成に近づいているときになって「あれ、この曲って…」って。でも、ある意味僕たちが聴いてきた音から今の僕たちの音楽が生まれてるんだから、しょうがないかなって。「New Orderっぽい曲をつくろう!」って特に意識してやったわけじゃないし。いくらそのバンドが好きだったとしても「OK、Depeche Modeみたいな曲をつくろう」みたいなやり方で曲をつくったことはないし、そういうことは避けようとしてるんだ。もし一定のバンドの音に近すぎたら、遠ざけるための工夫をするしね。音を聴いてきたアーティストからインスパイアされるのは当然のことだけど、そのままコピーをしようとしたらいけないよ。そういうやり方がクリエイティヴなやり方だとは思えないんだ。

HRFQ : また、このアルバムには、King Crimsonを髣髴とさせるサウンド・スケープを感じました。あなたたちの音楽性にプログレッシヴ・ロックの影響は色濃く出ていると思われますか?

FRANK, JAMIE, MANUEL: もちろん、当然だよ!

JAMIE : 僕とManuelはPink FloydやBrian Enoを聴いて育ったし、それに僕はコンテンポラリー・クラッシック・ミュージックにも興味がある。だからそういう音の影響はバンドの音に表れてるだろうね。繰り返しループするギターとかさ…。僕は個人的に、自分たちの楽曲にムードをつけるのが好きなんだ。それも強いサウンド・スケープのあるプログレッシヴ・ロックとかを聴いてきた影響だと思うしね。楽曲にムードを感じれば感じるほど、楽曲に対して強いコネクションを感じることが出来るんだ。

HRFQ : スタジオ・ワークについてお伺いして行きたいのですが、スタジオでは通常一緒に曲作りをするんですか?それともバラバラに行うのですか?

FRANK : まず初めに何らかのアイデアが生まれて、そこから曲作りがスタートする。メンバーの誰かが曲に対するアイデアを思いつかないと始まらないんだ。「今日は月曜だから働く日だ。曲をつくろう!」てなわけにはいかないでしょ。最初のアイデアなしに何か始めることなんて出来ないし、アイデアが浮かんだらそこでやっと3人が集まって、「これはダメだね」とか「いいアイデアだね、じゃあ曲作りをはじめよう」って感じになるんだ。

JAMIE : 僕たちみんな一緒に住んでいて、スタジオも家の中にあるんだ。Frankは彼の部屋にコンピューターを持ってるし、僕も持ってる。だから、いつもメンバーのうち誰か一人はスタジオにいて仕事をするっていうスタンスかな。だいたい隣り合わせで暮らしてたら、誰がどんな音をつくってるのかは聴こえてくるから、そこに行って「今こうしてるのが聴こえたけど、こうしてみたら?」みたいな感じで調整できるしね。3人同時に1台のコンピューターの前に集まって作業するのはちょっと大変だからね…

FRANK : みんなコンピューターを使いこなせるからね。それが問題につながるんだ!(笑)

MANUEL : 3人集まるのは、だいたい曲が完成に近づいてるときかな。いろいろ試しながら曲を一定のレベルまで完成させて、アレンジや音を加えてから、やっと3人で集まって最終仕上げをするんだ。

JAMIE : やっぱり、エレクトロニック・ミュージックという分野では、ライターとして、プロデューサーとして、エンジニアとして…という感じで一人が同時に作業していくことには結構時間がかかってしまうんだ。かたちを整えて、正しい取り扱いをしたりっていう、その一つ一つのプロセスに時間が必要だしね。

FRANK : 正直、自分が作業してる時に後ろから監視されてる感じは嫌だけどね。(笑)

JAMIE : でも、「じゃあ、あと2〜3時間後にどこまで出来たか聴かせて」っていう感じよりかは、全然マシだと思うけどな。さっきも言ったように、一緒に住んでて、メンバーがどんな音をつくってるのが聴こえれば、その楽曲がいい方向に進んでるか、もしくは悪い方に進んでるのかがわかるしね。もちろんそれでも曲作りの初期の段階では、バラバラに作業するんだけど、それがある程度まで完成したら、僕たちなりのやり方で完成させていくんだ。

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HRFQ : スタジオのセットや、ソフト・ウェアについてはいかがですか?アウトボード系のシンセとソフトシンセのどちらを多く使っていますか?

JAMIE : 僕たちは、全部コンピューター任せにしない主義なんだ。コンピューターなら何でも出来るっていうっていう考え方をしてた時期は終わって、今は自分たちで出来ることもたくさんあるって思ってる。しかも手作りの音はユニークだからね。最近では、もう少しざらっとした質感の音をつくりたいと思っているから、外部エフェクトも使うことの出来る今のスタジオ・セット・アップにはすごく満足してるんだ。アナログ・シンセを何台か持っているし、それに外部の音を取り込んで作業したりするのにもハマッているよ。実際今回のアルバムも、小さなスピーカーで音をとってそれをミックスしたり、ギターの音を録音してテープに落としてまたそれを録音したり、いろいろなことを試しながらつくったんだ。確かにソフト・ウェアで出来ることもあるけど、逆に出来ないこともたくさんあるからね。

FRANK : 僕たちが昔聴いていた音楽にも関係があるのかもしれないね。昔の音楽はけっこうシンプルだったでしょ?基本的には彼らはシンセサウンドを一発録りでトラックに落としながらリアルタイムでフィルターをかけたりしていたわけだし、そこに楽曲としての魅力があったんだと思うんだ。逆に今の音楽はみんな似ているんだよね。シンセサイザーを録音することも本当に簡単に出来るし、いくつもある異なったパラメーターを同時に操ることもできる。でもそういうことが楽曲を非音楽的にしちゃうんじゃないかな。

JAMIE : この辺りのいろんな方法論は、アルバムの制作を通じて学んでいったことなんだよね。実はファースト・アルバムはMIDIのみを使ってつくられた作品で、サンプルをMIDIでサンプルをMIDIでプレイ・バックして、それを1日か2日の間にはミックスしてしまえば「ハイ終わり」って感じだったんだ。でもやがてコンピューターに録音が出来て、あとからデータを呼び出したり元の状態に戻したり出来てしまうってことに僕らも気づいてね。最初は「すごい!50の違ったことが同時に出来る!」なんて思ったものさ。でも結局それを全部同時に完成させるのは無理だってことに気づいて…。まぁ、この方法論は時にはすごく役に立つこともあるんだけどね。例えば、曲をつくっている最中に壁にぶつかって、「もっと違う感じの曲がつくりたいのに!」となった時に、しばらく放っておいて6ヶ月後に急に完成させるなんてことも出来る訳だし…。実は、このアルバムの中でも2、3曲そういう感じで出来た曲があるんだ。要はバランスってことかな。いつもそうやって昔つくった曲を掘り出して作業するわけにもいかないし、だいたいそんなことをやっていたらアルバムを完成させるのが難しくなっちゃうしね。(笑)

HRFQ : 賢いやり方だと思いますけどね。その全部がプロセスなんですね。

FRANK : そうなんだ。そういうもの全部あわせて僕たちの試みは成り立ってる。さっき言ったように、人は音楽のシンプルさを忘れて「もうすこし早いコンピューターを買わなくちゃ、そうしたらいろいろと便利になる!」なんていう考え方をするようになるんだろうけど、(Jamieを指差して)彼のコンピューターをみたら驚くよ!(笑)

JAMIE : もう6〜7年も同じ古いコンピューターを使ってるんだ。

FRANK : Pentium 900 だっけ?

JAMIE : そう。プロデューサーの友達なんかに「どんなPCで曲作りしてるの?」って聞かれて、「(小さい声で)えぇと…Pentium…900…」って答えると、「何それ?僕なんて最近G5を買ったばっかりだよ!」なんて言われちゃうんだ(笑)。でも、大事なのは自分が持っているものを有効に使うことでしょ?例え立派なG5で音づくりを始めても、その機能を使いこなせる知識が無かったら意味が無いからね。

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HRFQ : ライヴ・セットについてお伺いしていいですか?今年はGlastonbury、イギリスとアルゼンチンのCreamfieldsといった大きいフェスティヴァルでもプレイされましたが、そこでのリアクションはいかがでしたか?

MANUEL : すごく良かったよ。どんなフィード・バックが期待できるかは国によって違ったりもするんだけど、全体的にはよかった。特に南アメリカはすごかったよ。

JAMIE : どこかの国に戻ってきたときに、以前よりたくさんのグット・クラウドが見に来てくれるということは、前のギグが良かったっていう印だと思うし、今回アルゼンチンのCreamfieldsとGlastonburyでは特にそれを感じたんだ。メキシコでギグをやって、またアルゼンチンに戻ったんだけど、とにかくすごかった。2〜3年前にはあんなすごい数のクラウドを前にプレイするとは夢にも思わなかったよ!オーストラリアのバンドがあんな大きなイベントでプレイすることになるなんて、みんなびっくりしたんじゃないかな。オーストラリアではバンドが世界的に成功したりすると、突然「前は良かったのに、有名になってからダメになったね」なんて言われちゃうことが多いけどね(笑)。

HRFQ : 最後の質問です。ライヴ・バンドとして、クラブ・シーンに対してどのようなアプローチをしているんですか?

MANUEL : 今まで僕たちがやって来た通りだよ。バンドを始めた当初から、オリジナルの曲をいい感じに即興でリミックスして、その場でセットをつくっていくというスタイルはまったく変わっていない。自分たちのトラックの細かいパーツが全部シーケンサーとサンプラーに入っていて、その場でアレンジ出来るようになってる…それが僕たちがずっと今までやってきたステージングなんだ。だから、一つ一つのショーが違ったものになってくるし、いつもフレッシュなセットをクリエイト出来る。曲を全部をまるごとシーケンサーに入れて、毎晩同じものをかけてるわけじゃないんだよ。それじゃおもしろくないからね!(笑)

JAMIE : いろいろな場所でギグするけど、同じセットを6ヶ月も続けてやるようなバンドにはなりたくないんだ。あえてここで名前は挙げないけど…彼らは大きいバンドだからそういうことが出来るんだけどさ。

HRFQ : なんだか想像がつく気がしますね。

JAMIE : (笑)でしょ?でも僕たちがおんなじようなセットをやり続けたとしても、絶対に上手くはいかない。「じゃあ、やってみようよ」って感じに、いつも何か違うことにトライしてみないとダメだし、それがあるからライヴは楽しいんだよ。

HRFQ : 去年のWOMBでのギグも、本当に楽しんでプレイしている様子が伺えました。

JAMIE : (笑)その通り。音が波に乗ってきて、Manuelの音とFrank独特の音のコンビネーション、それにミックスとエフェクトのすべてがいいかたちで合わさってシナジーを起こして、初めてクラウドを沸かせることが出来るんだ。そうなった時はもう最高だよ!クラウドはクレイジーなくらいに踊るしね。こういうライヴのプロセスが好きなんだ。すごく楽しいよ。

HRFQ : 日本のファンにメッセージをお願いします!

MANUEL : ロック・オン、ジャパーン!!(笑)

JAMIE : 日本に来なくなるなんて考えられないよ!大好きだからね、絶対にまた戻って来たいんだ。ちなみにどこの国でもこんな風に言ってるわけじゃないからね。日本のクラウドは素晴らしいし、ここでプレイするのが大好きなんだ。

FRANK : 同じこと言おうと思ってたのに先に言われたよ!(笑)これからも応援してほしいな。僕たちのこと忘れないでね。

MANUEL : 僕たち、ただ愛されたいだけなんです!!(爆笑)

FRANK : もしこれからも応援し続けてもらえるなら、僕たちも出来るだけたくさん日本に来れるようにがんばるよ。

JAMIE : そう、それでFrankに日本人の奥さんを見つけてあげるんだ!!

(一同爆笑)

End of the interview

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