「ブレイクスにはオタクみたいに専門的知識が必要なところもあるね。でも、それはエレクトロニック・ミュージック全般に言えることじゃないかな。ブレイクスはかなりオタクっぽいよ。だけど、オタクな人こそ面白いのさ」
ロンドンの Fabric にある素っ気ないミーティング・ルームで、新しいコンピレーション CD をプロモーションするために話を聞かせてくれた
Evil Nine の Tom と Pat。二人は、自分たちの人格を決定付けた ‘70年代から’80年代のイギリスでの学生時代を、笑いながら語ってくれた。
「学校でちょっとオタクっぽくて馬鹿にされていた奴っていうのは、その後の人生をみていると、凄く冴えた面白い奴になっているものなんだ。でも逆に、学校で人気者だった奴は、今じゃ
Argos かどっかでマネージャー代理の職にでも就いているのさ」Tom はこう続ける。「俺は学校で人気者だったけど、オタクでもあったんだ」
「人気のあるオタクだったんだな」笑いながら Pat は言う。
自称ゴスであり、The Cure の大ファンであることを明かしてくれた Tom も、学校ではいじめられっ子だったことを認めた。(「小さい頃は、よく殴られたりしていたんだ」)すると、Pat
は即座にこう返す。「殴られた経験がない子供って結構少ないんじゃないかな」
「みんないじめっ子か、いじめられっ子だったのさ」と Tom は応えた。
「俺のアクセントはかなり中流階級っぽいものだけど、幼い頃は労働者階級のエリアで過ごしてきたんだ。家庭は貧しかったけど、親父は中流階級出身の人だっ
たからね。最終的にはウェールズやヨークシャで一番貧しい地域に住むことになったんだけど、そこではみんなその土地の訛りで話していたから、俺のしゃべり
方は金持ち気取りのものだと思われてしまっていたよ」
学校を卒業して何年か経ってから、Evil Nine の二人はそれぞれブライトンに出てきている。Tom はチャリティー・ショップから仕入れた編み糸細工を売って生計を立て、Pat
は大して頭を使わない工場での仕事に従事していたのだと言う。二人とも音楽で身を立てていくことを夢見ていたが、実際は成功には程遠い状況であった。
「ブライトンに移り住んでからは、ウエスタン・ミュージックみたいなものをつくって暮らしていたんだ。生活のためじゃないよ。なにしろ俺は3年前まで失業保険で食っていたくらいだからね」と
Pat は言う。
「俺も失業保険をもらっていたよ」Tom は続ける。「Evil Nine を始めたとき、俺は1ポンド・ショップで働いていたし、 Pat は工場勤務だったんだ。ファースト・シングルが出たときは、彼が働いていた工場に持っていったのを覚えているよ。俺たち
はもう何年も苦しい生活を続けていたけど、そんな中でもどうにか音楽をつくっていこうとしていたんだ。Pat も俺もバンドでプレイしたりして、小さい頃から音楽に関わっていたからね。俺は大学でイラストレーションを学んでいたから、将来はアートか音楽のどちらか
に進むしかないと思っていた。でも、大学でアートを学んでいたらすっかり嫌になってしまったから、結局は音楽の道に進むことに決めたのさ」
結成から9年の時を経て、Evil Nine はブレイクス・シーンを代表する正真正銘のスターとなった。また、チャンスさえあればエレクトロ、ハウス、ロックといった異なるジャンルにも挑戦し、DJ
/ プロデューサーとしてもブレイクスの枠を超えて注目やサポートを受けるようになったのである。そういった彼らの姿勢は、Simian Mobile
Disco から The Clash の曲までミックスされている Fabric のミックス CD で完璧に表現されている。
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以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Yoshiharu Kobayashi)
Skrufff (Jonty Skrufff) : Fabric のミックス CD を手掛けることは、あなたたちにとってどれくらい大きな意味を持っていますか?
Evil Nine: (Tom) : 本当に大きな意味を持っているよ。それに、いろんな意味で、光栄なことでもあるんだ。俺たちは Fabric と結構仲がいいし、まだそんなに名前が知られてない頃から DJ をさせてもらっていたしね。今ではレジデント DJ になっていることもあって、Fabric とは本当にいい関係を保っていると思う。それに、俺たちは Fabric でプレイするのが大好きなんだ。あそこでは何でも好きな曲をかけられるし、ほとんどのクラウドがそんな俺たちのプレイについて来てくれる。どんな曲をプレイしたって大丈夫なんだ。あの曲をかけなきゃって心配する必要もなくて、自分たちらしい DJ ができる場だから、思う存分に Evil Nine らしさを表現したプレイができるのさ。それは Fabric のミックス CD でも同じで、どんな曲を入れたって構わないということだったんだ。だから、本当にエキサイティングで、個性的で、バリエーションに富んだ前向きな姿勢の曲を入れてみたよ。だって、その方が盛り上がるからね。
Skrufff : あなたたちが所属するレーベルのオーナーである Adam Freeland や Tayo、それに Ali B といったアーティストたちは、みんな PR としてそのキャリアをスタートさせています。なぜブレイクス・シーンのスターには PR だった人が多いのでしょうか?
Pat : さあね、たぶんみんな PR としていまいちだったからじゃないの(笑)たぶん彼らは音楽全般に興味があったから、音楽業界にそういったかたちで関わっていたんだと思うよ。でも、PR
をしつつも DJ は続けていたんだろうね。
Tom : たぶん彼らがプレイし始めたときはブレイクスもかなりエクレクティックなものだったはずさ。流行遅れでちょっと恥ずかしいと思われるようになったのは、つい最近のことだよ。それもこれも、クソみたいなブレイクスがたくさん出回り過ぎてしまったせいさ。俺たちが始めた頃は、ブレイクスは本当にエキサイティングでダイナ
ミックだったんだ。シーン全体も今みたいに延々と同じことを繰り返しているような感じじゃなくて、上がり調子でどんどん盛り上がっていくような雰囲気でね。これはシーン全体の話で、さっき名前が挙がった人たちのことを言っているんじゃないよ。たぶん当時はブレイクスが本当に凄い時期だったから、彼らもそのスタイルに夢中になって行ったんだろうね。
Skrufff : Adam Freeland もあなた方と同じブライトン在住で、海に面した豪華なマンションに住んでいるそうですね。あなたたちも今では彼のように大きな家に住んでいるのですか?
Tom : いや、そんなことないよ。自分の家は持っているけど、Adam ほど豪華なものじゃないさ。
Pat : 俺はガールフレンドとマンションに住んでいるんだ。でも、俺の家も Adam のものほど立派じゃないね。
Tom : Adam と同じくらい稼げるときもあるけど、たぶん彼の方が上手な金の使い方をしているんだろうな。
Pat : 何年も貧乏生活をしてきたから、今は金がある生活を楽しんでいるんだ。色々と無駄遣いだってできるしね。
Skrufff : 一般的に言って、シーンではもっとたくさんのお金が動いているということに気付いていましたか?
Tom : もうちょっとたくさんのお金が動いているみたいだね。みんな俺たちよりも少しだけ賢いんだよ。もっと人の目を引く服を着たりしてさ。
Skrufff : 最近はデュオの DJ がたくさんいますが、あなたたちはなぜデュオを始めようと思ったのですか?
Tom : 俺たちは一緒に DJ をしているから、外に出て行くときもデュオとして活動しているんだ。最初は俺だけで DJ をしていたんだけど、Pat もどうやって曲がミックスされていくのかをみた方がいいと思ってね。だから、これは俺たち二人にとっていいことなのさ。それに Ableton を使い出したことで、また一つ上のレベルに行けたと思う。Ableton を使えば、二人でプレイしてジャムるようなこともできるからさ。今 Pat はギグの数を減らしているんだ。スタジオ・ワーク にもうちょっと時間を割きたいからね。そうすれば俺がギグをしている間に、Pat がスタジオでの仕事に専念できるしさ。Fabric なんかではいつも一緒にやっているけど、できるだけ時間を有効に使ってスタジオ・ワークをしていきたいんだ。だらだらとやることは避けてね。今年はセカンド・ア ルバムをつくらなきゃいけないからさ。
Skrufff : アルバムはどれくらいまで出来ているのですか?
Tom : まだまだだね。
Pat : まだ2%ぐらいと言ったところさ。今は色々試したりしている段階だけど、特別変わったことをしようとしているわけではないんだ。セカンド・アルバムではこれまでとは違ったものをつくらなくてはならないっていう固定観念にははまりたくないからね。俺たちは独自のサウンドを確立しているけど、それを繰り返す必
要はない。でも、これまでとは完全に違ったサウンドをつくりたいわけでもないんだ。まだアイデアの段階だけど、今のところいい感じになっているよ。いいアイデアがたくさん出てきているから、それを使ってアルバムをつくるのを楽しみにしているんだ。
Skrufff : バンド形式で自分の曲を演奏してみたいと思いますか?
Pat : ああ、そのうちやってみたいね。今はバンドでやることを念頭において曲作りをしているしさ。俺たちは二人ともベース・プレイヤーで、ギターも少し弾ける。 それに俺はドラムもできるし、ギタリストや MC、シンガーの友達もたくさんいるんだ。だから、やるんだったらセッション・ミュージシャンを集めるんじゃなくて、そういった友達と一緒にやりたいね。 セッション・ミュージシャンを集めるだけじゃ、ソウルが足りない音になるだろう。だから、基本的に今はバンドでやることを考えて曲を書いているんだ。
Skrufff : 最終的には Basement Jaxx や The Chemical Brothers みたいになるのが夢ですか?
Tom : その二組については触れないことにしておきたいんだ。勘違いはして欲しくないんだけど、彼らのことは好きだよ。でも、みんな彼らのことを、あれこれとジャンルに当てはめたりしないで、ただ The Chemical Brothers、Basement Jaxx、Underworld と呼んでいるじゃないか。そういったところが俺は好きだし、Evil Nine もそんな存在になりたいって強く思ってるんだ。
Skrufff : どうして Evil Nine という名前にしたんですか?
Tom: Pat が思いついたんだ。
Pat : 17、18歳の頃に、一人で曲作りをしていたら思いついたのさ。ある日突然、「お、Evil Nine」といった感じでね。Evil っていう言葉を思いついて、それとマッチする響きを持った数まで数えてみたんだ。でも、そのとき思い付いたことは、もう何年も忘れていたよ。
Tom : 書いてみると、字面が美しいのもいいね。だから、みんながよくやるみたいに普通に 9 って書いて欲しくないんだ。でも、いくら俺たちが
E.V.I.L. N.I.N.E. だと言っても、Evil 9 と書いてしまう人が多いけどさ。Evil Nine って書いた方がよっぽどいいよ。
Pat : ある意味、すごく調和の取れた名前だと思うね。だから、結構気に入っているんだ。
End of the interview
Fabric - Evil Nine は、Fabric から発売中。
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インタビュー : Evil Nine Interview @ Fuji Rock Festival 2006 (29/07/2005)
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