HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Evil Nine Interview

ブレイクス・シーンにおいて常に熱い視線を浴び続けているのが、Tom Beaufoy と Pat Pardy の二人からなる Evil Nine である。1998年に活動をスタートしてすぐにその才能を Adam Freeland に認められ、Adam 主宰のブレイクス系名門レーベル Marine Parade から好ペースでリリースを重ねていき、ヒップ・ホップやパンクのエッセンスを取り入れた、ブレイクスというジャンルに絞られないそのスタイルと、独特のファットなベースラインで、シーンにおいてゆるぎない地位と人気を確立してきた二人が、Fujirock Festival '05 に出演するために来日、HigherFrequency とのインタビューに答えてくれた。

Evil Nine と言えば、Marine Parade の一時的倒産によってアルバム "You Can Be Special Too"のリリースが延期され、倒産の前に、市場に出回っていたアルバム 約千枚がファンの間でかなりの高値で取引されたり、初来日のギグが謎のシークレット・ギグだったりと、ファンの間では "ハプニング多し"といったイメージのあるユニットだが、そんな出来事についてもEvil(悪)らしからぬNice なスマイルで語ってくれたのだった。

> Interview : Mark Oxley (HigherFrequency) _ Translation : Kyoko Maezono _ Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)

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HigherFrequency (以下HRFQ) : まず、今日は忙しい中ありがとうございます。香港と中国からこちらに来たばかりだそうですが、来日は今回が初めてじゃないですよね?

Tom Beaufoy : そう、2回目だよ。でもちゃんとした来日はこれが初めてだな。

HRFQ : そういえば前回の話は小耳に挟んだような気がします。渋谷の Pearl Lounge でしたよね。

Tom : ああ、けっこう笑える話だったよ。だってさ、相当な額のギャラを受け取っていたから、もっと大きいクラブでプレイできるはずだったんだ。でも来てみたらプロモーターが「Womb が無理、他にもプレイする場所がない」って言うんだ。それで彼らは、小さいバーで友達のために開いたプライベート・パーティで俺たちをプレイさせたのさ。宣伝も一切なし、唯一のプロモーションといえば、店のドアに「今夜は Evil Nine がプレイします」って書いた紙切れを貼っただけ(笑)。

HRFQ : それでどうなったんですか?

Tom : "キル・ビル"に出てくるレストランに連れて行ってもらった。実は昨日の夜もそこに連れて行ってもらってね。「前回は日本に10時間しかいなかったけど、俺たちここに来たことあるぜ!」って感じだった(笑)。前回は、そこで素晴らしく美味い飯を食って、30人くらいの客がいる狭いバーでギグをやって10時間後には飛行機に乗って家路に着いてたよ。

HRFQ : トータル的な日本の印象はどうですか?

Pat Pardy : ここは最高だよ。人がいいし、清潔だし買い物も楽しい。日本人は色んなカルチャー、ファッションや音楽を喜んで受け入れている感じだね。

Tom :そうそう、周りも見るといつも何か必ずクレイジーなことが起こっているから面白いよ。

HRFQ : 日本人の読者のために、Marine Parade に加わることとなった経緯を少し教えて下さい。Adam Freeland とは、お友達だったんでしょうか?

Pat : 元々は友達じゃなかったけど、今じゃ親友みたいなもんさ。ずっと曲作りをしていた俺と Tom が、カセットでデモを送ったら一番最初に連絡してきたのが Adam だったんだ。送った次の日に電話してきたから、友達のジョークかと思ってね。電話で「Adam Freeland だけど」って言われて、「は?冗談だろ?」とかなんとか言ったら、「いや、本人だよ」って。それからすぐ彼の家に行って仲良くなって、それ以来ずっと親友なんだ。

HRFQ : それはいつの話ですか?

Tom :えーと、7年前くらいかな。多分。

Pat : そう、7年前だよ。

Tom : 不思議なのは、俺たちはカセットでデモを送っただろ?いくら7年前だって、カセットのデモなんて大抵はゴミ箱直行がほとんだだったんだ。他のレーベルにもかなりの数を送ったけど、唯一 Adam がそれを聴いてくれた理由は、Gemma っていう俺たちの知り合いの女の子が当時 Marine Parade で働いていたからなんだ。彼女は今 Gem っていうアーティスト名で活躍していて、イギリスじゃ新しいポップ・センセーション的存在なんだよ。彼女の歌、もう日本で聴いた?新しい Dido みたいな感じで、今じゃ相当成功してるけど、昔は Marine Parade で働いていたのさ。まあ、とにかく彼女が俺たちの知り合いだったから Adam はカセットを聴いてくれたんだな。

HRFQ : お二人とも Evil Nine を結成される前はDJをされていたんですか?

Tom : 俺はね。Pat は何年かエレクトロニック・ミュージックのプロデュースっぽいことをしていて、俺は他のバンドにもいたけどDJは10年とか11年やってた。俺たちが出会ったのは本当にラッキーな偶然だったね。コラボレーションするのにお互い丁度いい時期だったからさ。Pat は俺のDJを見たことがあって、共通の友達もいたし、2人とも"曲を作ろうぜ"ってノリだったんだ。

HRFQ : あなた達の音楽はヒップ・ホップの影響をすごく受けていますが、ヒップ・ホップは作曲する過程で最もインスピレーションを受けたジャンルだと言えますか?

Pat : 沢山あるうちの1つだけどね。ロックとヒップ・ホップの2つのジャンルから一番影響を受けたかな。

Tom : だけどハウスやテクノ、それにフォークも、レゲエも、全部そうだよ。俺たちは全てのジャンルが好きだし、とりあえず何でも聴くよ。ただ、スタジオにいる時にダンス・ミュージックはあんまり聴かないんだ。なんせ週6日間、毎日8時間もスタジオにいるからね。

Pat : 色んな種類を聴くことで失うものはないしね。

Tom : そう。なんでも決め付けてかかるもんじゃないよ。俺たちはヒップ・ホップが好きだけど、時々イライラするのはヒップ・ホップの連中がオールドスクール・ファンク系以外のものを音楽として受け入れないってことなんだ。ヒップ・ホップでも、もっとオープンな連中はどんどん面白いものを生み出しているのにさ。Timberland みたいなヤツがいい例だよ。彼は他の音楽をちゃんと受け入れて、そこから最先端の音をつくり出してるだろ?

HRFQ : アルバム"You Can Be Special Too"が昨年6月に日本でリリースされました。このアルバムは今年の Breakspoll でもベスト・アルバム賞を受賞しましたね。おめでとうございます。作品のコンセプトについて少し教えてもらえますか?

Tom :リスナーにとって何か意味を感じさせる、ちゃんとしたアルバムをつくりたかったんだ。色んなテイストを盛り込んで、面白くてエキサイティングなものをね。コンセプトはそれだけだったよ。

Pat : クラブ・ミュージックだけで終わらない、いいアルバムにしたかったんだ。家でも外でも聴けるようなね。家で4つ打ちのダンス・トラックばかり聴くのには、みんな飽きてきてるかなって感じるんだ。

HRFQ : 今回のアルバムではたくさんのアーティストとコラボレーションされましたね。特に Aesop Rock との "Crooked" ではどうやって彼を迎えるに至ったのですか?

Pat:俺たち、ずっと Aesop Rock のファンだったんだ。マジで大ファンでさ。ある日2人でスタジオにいて、突然この曲に Aesop Rock を入れたいって思ったわけ。それで彼にメールして、曲を聴いてもらったらすごく気にいってくれてね。ヒップ・ホップのアーティストが俺たちの作品を評価してくれることは、俺たちにとって常にかなり特別なことなんだ。さっき Tom が言ったみたいに、彼等はいつもダンス・ミュージックを受け入れてくれるわけじゃないからね。でもよかったよ。すごくいいって言ってくれて、そこから事が運んだわけだから。最高の曲ができて、今じゃ彼以外の人をこの曲に入れることは想像もできないよ。ほんとに。

Tom : そうだよな。"Pearl Shot" の Juice Aleem も、New Flesh 好きな俺たちが彼のアルバムに参加したことで友達になったんだ。初期バージョンの "Pearl Shot" の曲を聴いた彼がトラックをすごく気に入ってくれて、その夜パットに電話してきてさ。「明日の予定は?」って…。

Pat : それどころか、朝の11時に電話がかかってきて「Juiceがこの曲をやりたがってる。しかも今日」っていう感じだったんだ。それで彼の居場所を聴いたら、電話してきたヤツが「タクシーで今そっちに向かっているところだ」って。30分で俺がスタジオに駆けつけたその瞬間に、彼が入ってきたんだ。まっさらの状態でフリースタイルをやって、後から自分でダブにしてくれた。もう完全に流れがこっちに来てきたとしか言いようがないよ。

HRFQ : 誰かが自分達の所に来てそういったことをやってくれるのは、すごくいい気分でしょう?

Tom : 最高だよ。彼には本当に才能があるしね。

Pat:俺たちっていつも計画してないのに、ただ幸運に恵まれて上手くいっちゃうんだよな。

HRFQ : アルバムは大成功だったわけですが、Marine Parade の破産をめぐって多少問題もありましたよね。その時はどう思いましたか?

Tom : 怖かったよ。どうなるかよくわからなかったし。でも、ある意味自由になった気がした。俺たちには最高のアルバムがあるから問題ないって感じで。だから、全てが無駄になるっていう恐怖心はそんなになかったな。ただ、リリースできない沢山のアルバムがディストリビューション・オフィスに山積みになっているっていう事実と、その光景の方にぞっとしたよ。でも、破産が起きる前に1000枚が流出していて、Ebay(オークションサイト)でものすごい値段で売られるっていう現象が起きたんだ。俺たちも Ebay にシングル"Crooked"の Bassbin リミックスのプロモを出したら95ドルになったよ。それを落札したヤツには申し訳ないって感じ! 2ヶ月待ったら5ポンドで買えたのにさ。

Pat :でも、みんな待てなかったのさ。もう待ちくたびれていたからね。だから、あの一件はアルバムの宣伝になったし、最終的には丸く収まったってわけ。

HRFQ : あれは大元のディストリビューターが倒れたのが原因ですよね?

Tom : そう、3MV ね。レーベルの中でも特にインディーズはディストリビューターに一定の借金をしていると思う。それは徐々に返していくものなんだけど、3MV は自分等の財政がマイナスになったから、他に借金返済の催促をした。でも当然誰も金を持っていないから、それで連鎖的に他のレーベルも倒れたんだよ。NuPhonic の連中とかがね。

HRFQ : なるほど。最近では Atomic Hooligan がレーベルを始めましたが、倒産騒ぎの際に、自分たちでレーベルを運営することは考えましたか?

Pat : そうだね。Marine Parade が倒産した時点ではオプションの1つだったよ。でも俺たちは世間的に見てビジネスが得意なタイプじゃないんだ。今はビジネスができる有能なマネージャーがいるけどね。俺たちは違う。

Tom : Evil Nine を始めたばかりの頃に、レコードを山ほど世に送り出したくて、自分たちのレーベルをスタートさせるのが一番てっとり早い方法だと思ったけど、みんなにやめた方がいいって言われたよ。見た目は華やかでも、すごく大変だぜってね。

Pat : そうだよな。小さいレーベルが登り調子のまま利益を出し続けるのは本当に難しいよ。いつかはやるかもしれないけどね。

HRFQ : 新しいミックス・アルバム"Y4K"をリリースしますね。それについて話を聞かせてください。

Pat : ああ、あの作品には今の俺たちの音を反映させたかったんだ。俺たちのDJを聴きに行った時みたいに、ロック調のものや、テクノ、あとは雰囲気があるものとか、ノリのいい曲を全部取り入れたかった。もし色んなサウンドやテイストの音楽が好きな人だったら、1つの"体験"ができる内容だよ。

Tom : あと確実に踊れるね。

Pat : そんなもんかな、俺たちの好きな音楽の集まりさ!中途半端な曲は1つも入ってない。俺たちが入れ込んでいて、力強いと思う曲ばかりだよ。

HRFQ : ヨーロッパのブレイクビーツ・シーンと、今後について話してもらえますか?

Pat : 今のところ東ヨーロッパのシーンがすごく熱いよね。みんなに受け入れられてる。でも俺たちはブレイクビーツ以外の音楽も好きだから。

Tom : ブレイクスはね、俺たちが始めたばかりの頃は数えるくらいの人たちしかやっていなくて、フレッシュなシーンだったんだ。みんながそれぞれ自分の方向性を持って道を切り開いていたから、そのヴァイブに惹かれたんだ。でも、最近は大勢の連中が壁にぶつかっているね。一つのジャンルが確立されてくると、「ブレイクスはこうでなければいけない」みたいな定義を付けられるようになってしまうんだ。でも俺たちは、ブレイクスは、全ての人がオリジナルなことをやっているシーンであってほしいんだ。そもそもブレイクスのいいところは、色んな側面が持てるところだからね。ハウスっぽかったり、ポップだったり、何でもありなのに、最近では大概がそうじゃない。決まった音で、"ワーワー"みたいなノイズが入っていないとダメみたいに思われてるのさ。イタリアの Santos や Maddox がいいとか、イタリアのシーンがフレッシュで熱いってたまに聞くんだけど、この間行ってみて実際人気がある感じだったよ。イギリスのプロデューサーが気に入るかどうかはわからないけど、新しい人々がシーンにフレッシュな風を吹き込んでくれるといいね。

HRFQ : 一番好きなクラブってありますか?

Pat : Fabricかな。最近この答えばっかりだよね。

Tom : 俺たちがあそこの新しいレジデントだっていうのは偶然だよ(笑)。でもマジでいいクラブだよ。あそこのメインルームは俺たちの音にぴったりなんだ。

Pat : 義務でこう言ってるわけじゃないよ(笑)。それに、俺たちの地元ブライトンにあるクラブ Audio もすごくいいよ。

HRFQ : フジロックは楽しみですか?

Tom : とってもね。

Pat :(皮肉で)俺は山の中で大勢の人相手にプレイしたくないなあ(笑)。

HRFQ : ライブ・セットですか?

Tom : いや、DJセットにアクセントをつけたものになるね。MCとコンピューターを使って、明け方3時45分から5時までやって、そのままイギリスに戻って Global Gathering でプレイする予定。それも翌朝4時にね。皮肉で)俺たちはいつも一番いい時間帯しかもらえないからね(笑)。

Pat:しばらくの間は忘れることのできない週末になるだろうね。フジロックについては素晴らしい話をたくさん聞いているし。

Tom:本当は最後までいたいけどね。

HRFQ : では、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

Tom : 今まで通り、ずっとビューティフル・ピープルでいてくれよ!

End of the interview

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