HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Erol Alkan


Mr.C が経営するロンドンの人気クラブ The End。そこで平日の月曜日という開催日でありながらも、耳の早いロンドナーの間で圧倒的な人気を集めているイベントがある。その名前は「Trash」- ポスト・ハウス、オルタナティブ・ダンス等など……その呼び名は様々あれど、要は今や生誕から20年以上が経とうとしているハウス・ミュージックの最も新しい現在進行形を伝えるパーティーとしてシーンを騒がせているイベントだ。 そのプロモーターとして活躍し、目下新世代のアイコンとしてイギリスで大いに注目を集めているのが Erol Alkan。キプロス島からの移民である厳格な両親を持つ、イギリス在住の DJ/プロデューサーである。

その穏やかでインテリジェンスな香りを漂わせるキャラクターとは裏腹に、サウンド・スタイルは至ってワイルドでアヴァンギャルド。エレクトロやハウス、ディスコ、そしてハードロックからパンクまでをも吸収するその貪欲な音楽的感性は、一体彼のどこにそんな要素があるのか?と思わせるほど、意外なまでの衝撃を持って我々に語りかけてくる。また、ご存知 2 Many DJs としても知られる Soulwax や Peaches といった今をときめくトップ・アーティストたちを、まだ世の中がその才能に気付くはるか昔からプッシュし続けるなど、その A&R 的慧眼に定評がある。

昨年には、自らが発掘したと言っても過言ではない Mylo の大ヒット・シングル"Drop The Pressure"のリミックスを手がけ、今年の4月には Resist が放つ"Bugged Out"のコンパイラーとしても抜擢されるなど、いよいよその知名度もワールドワイドな広がりを見せつつある Erol。そんな彼に、ロンドン在住ジャーナリスト Jonty Skrufff が話を訊いた。

> Interview : Jonty Skrufff _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)

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Skrufff : ようやく本格的なコンピが出ることになったのですが、何故今まで出てなかったのですか?

Erol Alkan : まず一つ言えるのは、これまでの4年間は本当にあっという間に過ぎて行った感じで、コンピを出すなんてことは最近になるまで考える暇すらなかったってこと。それに、自分が普段やっていることを作品にしても、それがキャリアの積み上げになるとは決して思わなかったからね。まぁ、まだキャリアが浅い段階でコンピを出す人たちがたくさんいることは知っているけど、あれって「自分はこういった感じですよ」という音楽的な刻印を自分自身に押してしまうようなものでしょ。でも、僕は01年からずっとコンスタントに仕事をしてきたし、自分自身のクラブを運営するだけじゃなく、週のうちに3回DJをこなし、その他にも世界をツアーしたり、とにかくいろいろなことをやってきた。だから、とにかくコンピを出している時間的な余裕がなかったんだ。ミックスCDをキチンとした形で出そうと思えば、時間を取っていろいろなことをキッチリ考えないといけないからね。

Skrufff : 具体的にはどういったことを考えていたんですか?

Erol : 自分のサウンドをみんながどのような受け止め方をするのかってことさ。僕は、「単なるダンス系のDJ」といった風に見られてしまうような落とし穴にハマリたくはない。何もそれが悪いことだと言っているわけじゃないけど、僕がDJをする時は、たくさんの違った側面を見せるようにしているし、たった一つの形に収まったことは一度もないからね。だから、コンピを出す時には、自分の様々な要素を出来るだけ反映したものを出したいと思っている。例えば"Bugged Out"のCDがそう。この作品では、"Bugged Out:のパーティーで自分が実際にプレイしている雰囲気を反映したかったんだ。

実は、これ以外にもミックスCDのオファーはいくつかあって、01年と02年には、メジャー・レーベルから「Soulwax のミックスCDと同じようなものを作ってくれ」と100万円以上のディールを持ちかけられたこともある。でも、僕は彼らの尻馬に乗って、そのクリエイティビティを侮辱するようなことはやりたくなかったから断ることにして、もっと違ったアイデアが提案されるのを待つことにしたんだ。だから、自分に仕事を依頼してくる人の動機によっては、敢えて断ってきたと言えるかもしれないね。

Skrufff : 100万円以上のオファーを断るのは大変じゃなかったですか?

Erol : 僕が金持ちだからお金が必要なかったというわけじゃない。ただ、そういった種類のお金を受け取りたくなかったんだ。僕の人生はお金には依存していないし、今の自分で充分に幸せだからね。僕はクラブ・シーンにも長く関わってきたし、一度に大きなお金を受け取るということが、必ずしも自分を金持ちにしてくれるとも思っていない。だから、今まで大きな金額に感激したこともないし、そういった金額が僕の周りで飛び交っていたとしても、それで引っかかると言うこともあり得ないんだ。僕は何をやるにしても、自分自身が楽しめるかどうかってことが一番大切な要素だと思ってるし、金額の大きさで興味を持ったことは今までに一度もない。実際、昔大金が転がり込んできた時、僕はいろんなところに出かけまくって、結局間違ったお金の使い方をしてしまったことがあってね。まぁ、決して飲んだり騒いだりしたわけじゃないんだけど、やっぱり自分が一番楽しいのはクリエイティブである時だし、毎晩のようにパーティーに出かけるというのは、結局自分らしくないってことが良くわかったんだ。

それに、僕は大金をくれる人たちの情けにすがって、数年間自分の人生を売り飛ばすようなこともやりたくない。そういった人たちは、もし僕のプロジェクトが失敗に終わったとしても、税務会計上のロスとしてその損失を計上できるわけだけど、僕はそうはいかないからね。まぁ、僕も年をとったし、昔に比べると随分と賢くなったものさ。とにかく、嫌な連中の言いなりになるのはまっぴらだよ。

Erol Alkan Interview

Skrufff : 過去にメジャー・レーベルと契約をしていたことはあるんですか?

Erol : いやいや、それはないよ。でも、13年間もDJをやってきて、あと、いろんなバンドの友達、あるヤツは成功していてあるヤツは目が出なくて…そんな連中がたどってきた道や、自分自身のことを振り返ってそう思ったのさ。決して音楽業界についてわめき散らしているわけじゃない。ただ、こういったオファーが来た時に、自分がどう感じるかってことを言いたかっただけなんだ。

Skrufff : 97年にあなたのホームページ上に掲載された記事、それに01年にあなたが書いたレビューを見ると、他の連中がその才能に気付く随分前から、Soulwax や Peaches といった連中をプッシュしていましたよね。彼らとはどういった接点だったのですか?

Erol : 僕は、どこから最高のエネルギーが発せられていて、どこから一番面白いものがやってくるのかをいつも探しているんだ。Peaches はとても面白いパフォーマーだったし、Soulwax も音楽的にとても面白い化学反応を生み出しているヤツらだった。だから、初めて聴いたときは、スゴク興奮したものさ。僕がいつも大切にしているのはそういった初期衝動的なものであって、「ワォ、こいつらスゲェな!」と思えばそれが全てって感じ。そこからリスク・テイクしていくわけなんだけど、その最初の勘に従ったおかげで、Trash でサポートしたバンドの8割が4年以内にブレイクしたというわけなんだ。まぁ、残りの連中も、単に同じような成功が訪れなかっただけで、それぞれみんな才能のある連中だったけどね。ただ、超ビッグになるアーティストというのはいつの時代にも必ずいるもので、人が良いと言っているからという理由じゃなくて、自分が純粋に好きだからという理由で、正直にアーティストをサポートしていきさえすれば、必ず上手く行くものさ。

Skrufff : とにかくたくさんのCDやメール、それにアナログなどが送られてくると思いますが、どうやっていつも自分にフィットする音楽を見つけているのですか?

Erol : 作品が僕に自然に引き付けられていくか、あるいは、僕が作品に引き付けられていくって感じかな。良い音楽や才能あるアーティストを見つけるという作業は、いつも偶然の出会いから始まるもので、それはひょっとしたら、自分がプレイをする時のサポート・バンドかもしれない。例えば、2年半前に僕がDJをやったあるイベントでのこと。若いオープニングDJがスゴクいいセットをプレイしていたものだから、「すごくいい曲だね。CD貰ってもいい?」と頼んだら、そいつは「これ全部自分の曲なんです」って答えるんだ。「こいつはクールなヤツだなぁ」とその時思ったんだけど、実はそれが Mylo だったというわけ。あと、Trash の Rory もいつもデモを受け取る立場にいるんだけど、ある時1枚のCDRを渡されてね。それが Bloc Party だったんだ。だからいつもこんな感じさ。キチンとした理由で何かのアクションを起こし、人が集まってくる環境を持ち、そして良し悪しを判断できる目を持つ…。あとは、お金を騙し取ったり、他人をヒドイ目にあわせてやろうなんて思っていない限り、必ず人は集まってくるものさ。

あと、いつも驚かされるのは、人はいかにクラブで行われていることからインスパイアされるかってこと。あたかも大勢の人の間で共鳴しあっているが如くね。だから、クラブで才能あるバンドを見つけるのは簡単なことだし、僕にとっては世界で一番簡単なことで、かつ自然なことかもしれないんだ。そこにいるだけで、自分自身が目印になって人が集まってくるって感じでね。そういった自然な環境にさえ自分自身をおくことが出来れば、何も難しいことはない。それは、かつてボブ・ディランが「彼が曲を書いているわけじゃない。自然に曲がやってくるんだ」と言ったみたいに、すごく簡単なことなんだ。

Skrufff : ものすごい集中力をお持ちのようですが、いったいどこから来るのですか?

Erol : 多分、すごく厳しく躾けられ、良い意味で規律正しく育てられたことで、そういった集中力が養われたんだと思うよ。僕はナンセンスなことには反応しないし、人を惑わすような「巨大でギラギラしたもの」には興味を持ったことがない。それに若い頃はずっと内面的な思索にたくさんの時間を割いていたしね。だから、僕は安っぽくてセンセーショナルなアーティストや金持ちには興味がわかないんだ。

Skrufff : 大学は出られたんですか?

Erol : いや出てないよ。当時はアートをやっていて、そのキャリアのおかげでミドルセックス大学に入学が認められてたんだけど、結局行かなかったんだ。まぁ、何年かアートを続けていてかなり抑圧された感じになっていたし、もうそれ以上続けたくないなと思ったというのが理由なんだけど、今でもアートとか絵画は大好きだから、今から考えると残念なことをしたと思うね。でも、音楽は常に自分にとって一番好きなものだったし、その頃既にDJとしてクラブで回していた。始めたのは17歳の時さ。

Skrufff : そういった厳格な経歴からDJへと移行していくのは難しかったですか?

Erol : 母親の背中を通り抜けて家をこっそり抜け出し、DJをしてからまた家にこっそり戻ってくる…最初の1年はそんな生活だったよ。実際、僕の両親が、僕が正しいことをやっているということを認めてくれたのは、本当につい最近、ほんの2、3年前のことなんだ。

Skrufff : 最初の頃は「DJを辞めろ」と言われましたか?

Erol : いや、そうは言われなかったよ。でも、彼らは移民としてここに住み始めた最初の世代だし、人生についても僕とは違った考え方を持ちながら70年代にここで成長してきた人たちだ。しかも、キプロス島から移住してきて、この地で根を下ろさなければならなかったという状況を考えると、違った考え方を持っていても当然のことと言えるだろう。で、やっぱり親としては子供に対してベストを求めるわけだし、彼らの経験からすると、ナイトクラブに行くということはベストなことではなかったというわけさ。まぁ、それは理解できるとしても、実際に僕が目にしたものを見たわけじゃないから間違った考えなんだけどね。

Skrufff : ハウス・ミュージックのメインの流れが、ようやくあなたが数年に渡ってプッシュしてきたサウンドや、ミックスへのアプローチといったものに追いついてきた感じがしますが、今のクラブ・シーンにおいてどのようなことをやっているのですか?

Erol : 相変らず世の中には良いものと悪いものがあるし、先駆者とフォロワーがいる。個人的には、自分が昔やっていたようなことをやっている連中がいるとも思えないし、そういった目で物事をみたこともない。僕は、レコードの良し悪しを判断してるし、特にキック・サウンドでダンス系作品の良し悪しは分かってしまう。最初の1発目のキックで、その作品が持っているスピリッツが分かる…これは普遍のルールさ。

End of the interview

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