HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

DJ Hell Interview

端正な顔立ちにスラリとした長身。ピンと伸ばした背筋に、体にフィットしたオーダメイドと思しき良質なスーツ…。ダンス・ミュージックを知らない人が彼を見かければ、きっと著名なデザイナーか、あるいはそうでなくても、エレガントなセレブリティと思うだろう。しかし、そのようなステレオタイプの予想は、この男が築いてきた真のキャリアを耳にした時に大きく裏切られる事となる。彼の名はDJ Hell。ドイツ出身のトップDJ/プロデューサーにして、名門レーベルINTERNATIONAL DEEJAY GIGOLOSのオーナー。そしてFischerspoonerやMiss Kittenなど、今をときめくエレクトロ系トップ・アーティストを数多く発掘してきた慧眼を持つトップA&Rとしても知られるトップ・アーティストである。

ヴェルサーチをこよなく愛し、その全てのファッション・ショーの音楽を担当、ドイツ版「GQ」の マン・オブ・ザ・イヤーにも選ばれたことのあるHellは、まさにエレクトロニック・ミュージックをカルチャーの域まで押し上げた功績者の一人であり、その動向が常にシーンの耳目を集めてきた存在である。そんな彼が、今や恒例となったWIRE04への出演の為に来日。6月末に最新オリジナル・アルバム"NY Muscle"(ワールドリリースは昨年9月)が国内発売された事もあり、そのプロモーションの一環としてHigherFrequencyとのインタビューに応えてくれた。

エレガントかつ淡々とした口調で我々の質問に答えてくれたHell。しかし、その発言の一つ一つは、彼なりの鋭い視線と、独特なアイロニーに包まれており、そのどれも示唆に富んだ内容のものばかりであった。紙面に制限のないオンライン・サイトならではの利点を活かし、ここにその長時間に渡る発言の全容をお届けする。最後までくじけずに読んで頂きたい(笑)。

> Interview : Laura Brown (ArcTokyo) _ Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency) _ 写真提供 : Victor Entertainment, Inc.

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HigherFrequency (HRFQ) : WIREに出演なさるのは今回で5回目となるわけですが、このフェスティバルに参加するそもそものきっかけは何だったんですか?

Hell : メイン・プロデューサーである石野卓球のアイデアだったんだと思うよ。僕はもう10年位前から日本にちょくちょく来てたりしていて、90年代の頃には、ツアーやプロモーションの為に年に4〜5回日本に来た時もあるんだ。だから日本は友達がたくさんいて、一度日本に来たらなかなか帰れないんだよね。でも今回はプロモーションとかWIREがメインだったから、あまり友達には会えなかった。会いたかったけど……でもとっても無理。だってプロモーションがあったし、ギグがあったでしょ。それにショッピングだってしなきゃいけなかったし、新しい靴も買わなくちゃいけなかったし…。別にいつも買い物ばっかりしてるってわけじゃないんだけど、たまに…友達の間ではこう呼んでるんだけど、"ハード・コア・ショッピング"をしなくちゃいけないときもあるんだ。

HRFQ : 昨年の10月に全世界でリリースされたアルバム「NY Muscle」ですが、最近になって日本盤がビクターからリリースされましたね。以前、いくつかのインタビューで「このアルバムは単なる"エレクトロクラッシュ"をコンセプトとしたものではなく、それ以上のもの」とお話していましたが、これはどういったことなんでしょうか?

Hell : そんなこと言ってたっけ?まぁ、いつも同じことばかりやっていてもつまらないからね。今回のコンセプトは、僕たちの間では"エレクトロ・ファンク"って呼んでいる、そもそもデトロイトで生まれたものなんだ。同じことを繰り返すのは好きじゃないし、それに僕が今更「エレクトロクラッシュのアルバムをつくります」って言ったって、それってすごく単純で簡単過ぎることだと思わない?まして、僕はエレクトロクラッシュのアーティストやシンガー達の全員を知ってるようなものでしょ。 FischerspoonerもそうだしMiss Kittenもそう。その他にもCrossoverもInternational Deejay Gigolos (以下Gigolos)で押してきたアーティストたちも大勢いる。だから、もし僕が同じ音楽ばっかりやってたら、きっと彼らにボロクソに言われてたと思うよ。それに、きっとリスナーにも気に入ってもらえなかったと思うし、何より僕が気に入らなかったと思うんだ。だってエレクトロクラッシュなんて、90年代から既にやっていた事だし、今は2004年なんだから、それより進んだものをつくらなくちゃ格好悪いでしょ。今回NYに行って、James Murphyとか、Alan Vegaと一緒に音をつくったのも、そういうことが頭の中にあったから。彼らは本当に新しい種類のエレクトロニック・ダンス・ミュージックを作っているアーティスト達なんだ。ロックとか、80年代初期から後期にかけてso-called no-waif music(NYではno-waifと呼ばれてるみたいだけど)をベースにした感じの音楽なんだけど…バンドにたとえるとLiquid LiquidとかESG、あとニューウェーヴのバンドでGang of Fourとかかな。こうやって名前を並べていくとキリがないんだけど、彼らのアルバムにはそういうバンドから受けた影響がすごくはっきりと現われているんだ。

…って何が言いたいのか分からなくなってきちゃったけど、とにかく何かを定義するってことは難しいってこと。アルバムってものはすごくパーソナルなものなんだけど、そうなりすぎてもダメ。もし、作品の中で自分を出しすぎたら、聴く側は勘違いしてたくさんの誤解が生まれてしまうからね。だけど一方で、アーティスト自身の音楽を表現するという意味で、アルバムと言うものは一番クリアで伝わりやすい手段だとも思う。だから、その意味では今回のアルバムはみんなに気に入って貰えるんじゃないかな。どのくらいの人が買ってくれるかは分からないし、チャートには入らないだろうけど、これは確かに僕の作りたかった音楽だからね。あと、このアルバムには結構時間をかけたんだ。だからリリースすることには、何のプレッシャーも感じなかったし、完成させようと思えばいつだって完成させることが出来たから、プレッシャー自体も全然感じなかった。ただ、強いて言えばたくさんの曲が限られた時間の中で作られた感じはするかもね。だから「ここで終わり?」って感じの曲もあると思う。でもアルバムの制作全体には1年以上もかかったんだ。何度もアレンジしなおして、エディットしなおしてって感じで…。いつかキリをつけなくちゃ、いつか「はい、終わり」って言わなくちゃいけないんだ、ってずっと思ってたんだけど、これがなかなか難しくてね。「ここも変えたい、あそこも変えたい」ってやっている内にキリがなくなっちゃって…。でもやっと「はい、これでもう終わり」って感じでリリースする事が出来たんだ。で、ヨーロッパでは2003年の秋に出して、今回は日本。あと、来年の一月にはブラジルでリリースされる事になっている。まぁ、アルバムにしてはながーい道のりだったね。今までにいっぱいインタビューを受けて、いっぱいプロモーションしてきたけど、今こうして日本にいて、アルバムもリリースされて…。結構同じことを話してたりもするんだけど、日本の人たちがこういう音楽をどんな風に思っているのか、すごく興味があるよ。

DJ Hell Interview

HRFQ : このアルバムのタイトルは日本人にとってはすごくユニークな感じがしますね。どうしてこういったタイトルを付けようと思われたのですか?

Hell : 僕の場合、アルバムのタイトルは大体プロモーションをやってるときに思い浮かぶんだ。それまでタイトルはなし。突然"NY マッスル"っていう言葉が浮かんできて…。実は、その質問に関しては、インタビューを受けるたびに違うことを言ってやろうと思っているんだ。すでに多方面でいろんな解釈をされてきてるからね。う〜ん、何か新しい理由はないかなぁ。考えてみよう。NYに住んでたから…NYが好きだから…NYの人が好きだから…NYにいるときは筋肉がものを言う…いつも忙しい…前進する…休まない…いつも前に、もっと前に…忙しくしろ…人をスタジオに誘う…トレーニングはしてたけど、それは体の形をキープするためだけであって…。まぁ他にも意味はあったけど…。あと、NYにはマッチョな男がいっぱいいるからね。それにマッチョ・ガールもマッチョな犬も。前のアルバムは「Munich Machine」っていうタイトルだったから、今回の「NY Muscle」ときて、次のアルバムはベルリンをベースにしたものになる…とかね。まぁ、とにかく「NY Muscle」にはいろんな意味があるってこと。ていうか、ただ聞こえがいいしね。パワフルだし。何か意味してる感じがするし…。

HRFQ : 現在Puff Daddyの新曲をプロデュースなさっているそうですが、そのことについて少し教えてもらえませんか?

Hell : 以前に僕のアルバムを彼に渡した事があったんだけど、それを随分気に入ってくれたみたいだったんだ。でも、さすがに、彼が「Let's Get Ill」っていう曲をKeliと制作したって話をBad Boy Recordingのスタジオで聞かされた時には、本当にビックリした。Puffyがテクノをやってて、しかもそれがすごい良いんだからね!あれはすごいショックだったなぁ。初めて聴いたのはマイアミのWMCでの事だったんだけど、僕はベストDJにノミネートされて座席に座ってたんだ。ノミネートされたのは良かったんだけど、壇上に登ってたくさんの人の前でスピーチしなくちゃいけなくなって、しかもすごく変な人たちの前だったから、どうしようって感じだったんだけど、そこにPuffyがKelisとやって来ていきなりライブをやり始めたんだ。「Let's Get Ill」をね。いや、それはもう、信じられなかったよ。そこにいた人もみんなびっくりしてて…。それが事の始まりさ。

その後、彼と直接連絡をとって、自分でつくってみた「Let's Get Ill」のリミックスを聴いてもらう事になったんだ。そしたらそのリミックスをスゴク気に入ってくれてね。ある日彼から電話が来て「君のやってること、すごいかっこいいよ。是非会って話をしよう」ってことになって、まだプリプロの段階のNY MuscleをPuffyのマネージャーに渡すことになったんだ。そうしたら本当に気に入ってくれたみたいで、そのアルバムの中の2曲を使わせてくれって言ってきた。だけどその話は断ったんだ。だって、彼は音楽を買うタイプのアーティストで、いつも他の人がつくった音楽の上に自分の歌詞をのっけてアルバムを作ってるわけでしょ。だから、こう言ったんだ。「僕は自分の音楽は売らないんだ。今までにそうしたことがないし、この音楽は自分のためにつくったものだからね。でも君がもしこういう感じの楽曲が欲しかったら、君のためにつくってあげることも出来るよ。でもこの二曲は僕のものなんだ」ってね。今はそういう段階かな。曲を作ったり、プロデュースしたりし・・・。でも、まだ曲はつくり終わってないんだけどね。

でも、Puffyみたいなアーティストや彼のファンが、僕の作っているような音楽にも興味をもってくれるっていうのは嬉しいことだよね。僕は94年以前からNYに住んでいるんだけど、もしそこに一年でも住めばヒップホップやR&Bの影響をすごく受けてしまうものなんだ。でも逆に、The Neptunesやその他のプロデューサーたちもエレクトロニック・ミュージックからすごく影響を受けていて、それは彼らがつくるビートにも現れているし、音自体もエレクトロニック・ミュージックに近いものになっていると思う。Missy Elliottもそうだったし、The Neptunesもミニマル・テクノやエレクトロニック・ミュージックに影響されて、それを違うビートで表現していたしね。僕もNYに来て、そういった新しいタイプのR&Bやヒップホップに影響を受けていたし、Puffyの曲にだって影響を受けたよ。「Bit Boy of Life」って曲だけど、すごいいい楽曲でね。だから、彼らも僕の曲を気に入ってくれるんじゃないかなと思う。僕の楽曲には彼らからの影響が見えるはずだし、だからかえって僕の音楽のリズムが新鮮に聴こえるのかも知れないしね。

DJ Hell Interview

HRFQ : 現在どんなアーティストとのコラボレーションをしているのですか?他に進行中のプロジェクトはありますか?

Hell : Pet Shop Boysの「West End Girls」をリミックスしたよ。それにGrace Jonesとも一緒に仕事をして、それは近々発売される予定になっている。Grace Jonesとは、リミックスばかりじゃなくて、新しいオリジナル作品を一緒に作っていきたいと思っているんだ。それが将来のプランのうちの一つかな。あと、アーティストのリミックスとか、リリース予定のニュー・シングルとか、アルバムの他にもプランは沢山あるんだけど、今取り組んでいるのは、「International Deejay Gigolos」のドキュメンタリー・フィルム。過去7年間のGigolosを追ったもので、DVDでリリースされる予定なんだけど、WIREの様子も入ってるし、とってもプライベートなカットも入ったりしているよ。あと、サウンドの面では、すでに次のアルバムのことを考えてる。まぁ、ちょっと早すぎるかもしれないけどね。だって今まさに「NY Muscle」のプロモーションをしているわけだし・・・。でも今後は、もっとバンドをプロデュースしていきたいとも思ってるんだ。あくまでタイミングが合って、いいオファーがあればの話だけどね。スタジオに入って、プロデューサーとしてバンドに指示するんだ。まだバンドははっきりとは決まってないんだけど、でもプロデュースしてみたいバンドは山ほどいるよ。古いバンドも新しいバンドも含めてね。

HRFQ : 最近はどういったアーティストの音楽を聴いているんですか?どんなアーティストが面白いですか?

Hell : それは教えられないな。だってバンドの名前を言えば他のレーベルに契約されちゃうでしょ。まぁ、それは冗談だけど…。でも、Gigolosのすごい所は、僕が目を付けたアーティストの殆どが、Gigolosと契約したいって言ってくれる事なんだ。だから、違うレーベルからオファーが来ても、すぐにそっちと契約することもしない。それって本当に素晴らしいことで、僕にとっては嬉しい限りのことなんだ。無理やりアーティストを喜ばせようとしたり、セールスして回らなくたっていい。彼らの方から僕のほうに寄ってきてくれる訳だからね。勿論、いつだって新しい才能を見つけようとはしているし、ここ日本でだって例外じゃない。日本人だって僕にCD-Rやいろんなものを送ってくるし、それだってキチンと聴いている。でも、アーティスト側からそういったアプローチがあるっていうのは嬉しい事なんだ。

あと、年に一回新しいバンドをラインナップしたレーベルのパーティーをやっている。ちょうどWIREの前の週にやったんだけど、ベルリンでのイベントは大成功だったよ。ドラムがいて、ベースがいてシンガーがいるタイプのバンドが殆どなんだけど、中でもロンドンの X-Loverっていうバンドがスゴクてね。インド系のブロンドの女の子がヴォーカルをやってるんだけど、ある意味ストリッパーみたいなヴォーカリストで、パフォーマンスが素晴らしいんだ。声もすごく良いし、エレクトロ・ロック系の音楽をやってるんだけど、ディスコ系の影響も強い感じ。だからロンドンでは既に人気があるアーティストなんだけど、今回 Gigolosと契約してくれることになったんだ。もちろん僕も彼らのことをプッシュしていくつもりだし、来年のWIREに連れてこれるといいなと思っている。みんなもすごく気に入ってくれるんじゃないかな。ヴォーカリストは特にアイドル的な可能性を持っている子だし、ものスゴクいいシンガー兼パフォーマーでもあるんだ。

あと、彼らの他にも、ものすごくプッシュしたいバンドやアーティストが何組かいるね。まぁ、その殆どがパリ出身のアーティストなんだけど。例えば最近契約した3人のアーティストなんかは、みんなユニークな音楽をやってる奴らばかりで、サウンド的には「ポップ」と言うのが一番しっくりくるタイプの連中だ。でも本当にかっこいいし、すぐに人気が出ること間違いなしって感じの音楽をやっているんだ。新しい音楽のスタイル…まだジャンルの名前は付けてないんだけどね。"エレクトロクラッシュ"みたいな言葉は思い浮かばないんだろうけど…彼らは"ディスコ・ポゴ"とか"エレクトロ・パンク"って呼んでるみたいなんだけど、しっくり来るジャンル名がなかなかなくて。まぁ、音楽はジャンルで分けなくてもそれ自体が自然とジャンルを語るわけだし、僕たちには"Gigolos"っていうブランドがあるから、ジャンル名はいらないのかもね。"ジゴロ・ロック"っていう名前があるけど、わざわざそれをジャンル名にしたりはしないんだ。だって"ジゴロ"と"ロック"じゃ簡単すぎるでしょ。それに言葉の意味も簡単に分かっちゃうしね。

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HRFQ : 今までにGigolosレーベルで契約したいと思った日本人のアーティストはいますか?もしポテンシャルのあるアーティストがいれば契約したいと思いますか?

Hell : 問題は・・・まぁ問題というほどでもないけど、大体いつも日本人が僕にくれる楽曲は、Gigolos風にアレンジされた作品のような感じがするんだよね。だから、いつも日本人は自分たちのバックグラウンドから影響を受けた、独自の音楽スタイルを見つけなくちゃダメだと思うんだ。ヨーロッパ風にするんじゃなくて、ケン・イシイとか、田中フミヤみたいに、自分なりの道をみつけて革新的なことをやっているアーティストもいるんだからね。でも、常に新しい才能は探しているつもりだよ。昨日レコードショップでみつけた"Blow"っていう日本の新しいレーベルがあるんだけど、ここはスゴク新しい感じの音楽をリリースしていると思ったね。コンピレーションと12インチを二枚出してたみたいなんだけど、かなりモダンなダンス・ミュージックだったよ。特に聞いていて嬉しかったのは、彼らのレーベルでやっている事が、僕らがGigolosでやっていることに比べて、そう大きな違いはなかったってこと。彼らの音楽はどのジャンルにもフィットするような音楽だったし、これからが期待できるレーベルなんじゃないかな。

でも、日本人のアーティストから貰う音源は大体が頑張りすぎちゃってるんだよね。だからいつも彼らに言うんだ。「頑張りすぎないで」ってね。でも、もし日本のGigolosが誕生したら嬉しいよ。WIREでプレイしたKagamiっていうアーティストがいたでしょ?彼もスゴクかっこいいよね。実は彼も以前僕にデモを送ってきたことがあって、もうすこしでリリースまで行きそうだったんだけど、その前に日本のFrogman Recordsと契約しちゃったんだ。もし、あの時契約していれば彼が"ジャパニーズ・ジゴロ第一号"になっていただろうね。まぁ、その後も彼の他の作品をGigolosからリリースしたいと何回か思ったけど、彼は今のレーベルでうまくやってるみたいだし、あんまり強く押したくなかったからヤメにしたんだ。でもDJセットで彼の曲はかけるよ。彼にはものすごい才能があるからね。まぁ、このWIREの後に、日本人からもっと作品が送られてくることを願ってるよ。

HRFQ : そもそもFischerspoonerやMiss Kittinが有名になったのは、あなたに才能を認められて、Gigolosから作品をリリースしたことがきっかけですよね。あなたがA&RとしてGigolosと契約するアーティストを決める時に、こだわる部分はどこですか?

Hell : 彼らはもう既に手のかからないアーティストになっていて、今更Fischerspoonerに、どうやってギグをしろとか、雑誌の表紙になるにはどうしたらいいかなんて説明する必要はないんだ。言ってみれば「契約終了したアーティスト」と同じくらい手が掛からないって事かな。まぁ、要は彼らは契約した時から完璧だったんだよ。ビデオ・ワークやグラフィック・デザイン、写真について、もちろんライブや音楽についても、初めから彼ら自身ですごくしっかりしたビジョンを持っていたし、僕は何もしなくてよかったわけ。でも、Miss Kittinについては少し違ったね。当初、彼女は全くの初心者だったから、たまにアドバイスしてはいたよ。「こういう風にメイクしろ、とかこの服を着ろ」なんてことはさすがに言わなかったけどね。でも、彼女も今では大きく成長して、世界中のあちこちをツアーしている。 Fischerspoonerや他のバンドさえも彼女から影響を受けて、自分たちがやっていることにもっと自信を持てるようになってきているくらいだ。そう言えば彼女、最近では革のマスクとかを衣装として付けるようになったみたいだよ。

まぁ、DJであったとしても、ステージに上がるってことは"ショーをする"ってことだから、僕はDJでも演出とかに凝るべきだと思うんだ。何をするかは問題じゃなくて、何か特別なことをするっていうのが大切。だから、僕のA&Rとしての仕事は、彼らに自由を与えてあげることなんだ。もし彼らが裸でパフォーマンスしたかったら、きっとそうさせると思う。僕は彼らに好きなことをやらせるためにここにいる訳で、だから特に「何かをしてはダメ」って感じで制限することはないんだ。それが僕の役割…全くいい役割だよ。

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HRFQ : イギリスでは、今やビック・クラブの時代は終わり、小さいクラブに人々の注目が集まってきていますが、そういった変化はあなたの母国、ドイツでも起こっているのですか?

Hell : イギリスでは、なんでも商売にしようとするからね。レコードだけじゃなくて、Ministry of Soundみたいに、ジャケットとかTシャツとか、去年の夏のはやりのコンピレーションCDのようなものばっかり発売して、あまり音楽に関係ないところでビジネスをしようとするから、リスナーも「あぁ、これはお金儲けしようとしてるんだな」って、離れてしまったんだと思う。もちろん音楽に関係してはいたけど、お金ばっかりに目がいってたような気がするな。最近のリスナーはすごく敏感だし、音楽の善し悪しに関わらず、何でもかんでもリリースしてたら、彼らも飽きてしまうと思うんだ。それはクラブも同じことで、もし毎晩毎晩、大しておもしろくも新しくもないような、名ばかりのヒット・チューンばっかりかかってたら飽きてしまうでしょ。ビック・ネームDJがプレイする、本当は安全圏なのに、でもチョッとだけ実験的に見えるセットなんかにも、みんなもう飽き飽きしているわけだし…。だから、みんなにビック・クラブにいく理由がなくなってしまったんだと思う。それだけに、そういう古いスタイルを変えていかなくちゃいけないはずなんだ。でも、そういったクラブやDJがどうやって変わっていくのか、僕には分からないし、気にもしてないけどね。

一方、ドイツでは続々と新しいコンセプトをもったビック・クラブがオープンしているんだ。Sven Vathが<Cocoon>をオープンしたんだけど、あれは本当に大きくて、"スーパー・クラブ"そのものだね。おいしい料理が食べられるエリアとか、バー・エリアとかいくつかのエリアに分かれていて、すごくユニークなコンセプトを持ったクラブなんだ。こんな感じのクラブはドイツに今までなかったんじゃないかな。ドイツでこう言ったクラブを作る為には、資金的な面で力や知識のある人の協力が絶対に必要なんだけど、ベルリンは、さすがにエレクトロニック・ミュージックの街と呼ばれているだけあって、パーティーが出来るスペースがたくさんあるんだ。違法なパーティーやクラブもたくさんあるし…。誰かが一度数えたらしいんだけど、毎週末、ベルリンの街だけで150ものエレクトロニック・ミュージックのパーティーが開かれているらしい。たくさんの違法パーティーにたくさんのディスコ…。やっぱり、エレクトロニック・ミュージックにおいては、ベルリンは世界の中でもトップ・クラスの街だと思うよ。だから、ベルリンでプレイすることは、僕にとってもいつも少し特別なことなんだ。クラウドの音楽に対する知識がすごく高いし、いつでも新しいものを求めてる。僕は絶対にそんな事はしないけど、もし当たり前のセットをプレイしたら、クラウドは絶対に満足しないだろう。彼らの期待を上回らなくちゃいけないし、知識のある彼らには、何か特別なことをしないといけないんだ。だからこそ、Gigolosをベルリンで始めたわけ。ここでクラブをやって、ここのクラウド判断を見てたかったからね。まぁ、ベルリンはエレクトロニック・ミュージックの街だし、その意味でSven Vathのクラブはフランクフルトが合ってるんじゃないかな。僕もそこで今週末プレイするんだけどね。

HRFQ : あなたのDJセットについて少し教えてもらえますか?セットをする上で、最近登場してきた、Final ScratchやTraktorなどの新しいテクノロジーには興味がありますか?

Hell : Traktorを使ってコンピレーションをつくったことがあったんだけど、一番初めに出てきたヴァージョンだったから、クラブで使うのはまだムリという印象だったね。今はFinal ScratchとNative Instruments(注:ReaktorをリリースしているドイツのNATIVE INSTRUMENTS社)が一緒になって新しいヴァージョンを開発したみたいだけど、新しいソフト・ウェアが見つけられなかったんだ。二番目か三番目のヴァージョンだったかはわからないけど…。でも、もう売ってるはずだよね。まぁ、どんなものなのか試してみようという気持ちもあったし、それに、もしプロのDJが使いこなすことが出来たら彼らのプロモーションの役にも立つだろうと思って、一番初めのバージョンは使ってみたんだけど、あれでミックスをやるのはなかなか難しかったね。最後には完璧になって、ミスもなくなったけど…。あと、最近ではよくCDを使っているかな。アーティストたちがMP3で音楽を送ってきてもプレイできるように、音源をCDRに焼いてしまうんだ。相変らずターンテーブルも持ってるし、CDプレイヤーは2台も持っている。そう言えば、新しいTechnicsのプレイヤーが出て来た時はすごく嬉しかったな。あれはちょっとした芸術作品だと思うよ。デザインも素晴らしいし、完璧だと思う。でも、やっぱりCDプレイヤーといえばPioneerだね。

いずれにしても、Final Scratchのシステムが加わったら、もう大量のレコードを持ち歩く必要はなくなるだろうね。いつもクラブに出かける前にセットの準備をするんだけど、100枚以上のレコードとCDを準備するのって結構大変で、ラップ・トップを使えばそれが解消されるんだろうし…。まぁ確かに、新しいテクノロジーっていうのは便利だし、いろんな利点を持った新しいDJのスタイルだと思うよ。でも、そればかりに頼るのもいけなくて、レコードもCDもMP3もそれぞれ使いこなすべきだと思うんだ。Final Scratchは将来的にメインなDJの方法になってくるだろうけど、ただFinal Scratchだけを使ってるようなDJに未来はないと思う。やっぱり全ての方法を知ってから、新しいものを作り出すようにしなきゃダメだからね。それに、Final ScratchはDJにとってすごくいい機械だと思うけど、僕には合わないんだ。自分がオールド・スクールなタイプだとは言いたくないし、いろんなものを使ってみたいとも思っている。でも、僕は単純にレコードが好きなんだ。

HRFQ : 最後になりますが、日本のファンにメッセージをお願いします。

Hell : アドバイスするのは嫌いだから、ただニルヴァーナが言ったように、「君らしくいて」ほしいね。日本が好きだし、日本人に会うのも好きだし、仕事をするのも好きだから。あと、Gigolosをヨロシクな!

End of the interview


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