貫禄あふれる風貌に、文句のつけ所のないキャリアと実績。それでいて、プレイはいつでも全力投球。いつしか白のタンクトップを脱ぎ捨てて、「お前らだらしねぇぞ」とばかりにフロアをグイグイと引っ張ったかと思えば、クラウドと一体となった時には熱い涙にむせび泣く… そんな人間味あふれるヒーローを世界は「Boss」の愛称で呼び、「頼れる兄貴」として常に親しみと尊敬の念で見つめ続けてきた。彼の名前はDavid Morales。今更そのプロフィールを細かく説明するまでもない、ダンスミュージック・シーンの大物中の大物である。
そんなDavid兄貴が、6月の来日に引き続いて、約11年ぶりの最新アルバム"2 Worlds Collide"を引っさげて10月にジャパン・ツアーを敢行。左腕にしっかりと刻まれたタトゥーの文字通り「愛」に満ち溢れたパフォーマンスを各地で披露してくれた。Yellowのギグの翌日に行われたインタビューは、まさにDavidの熱〜いメッセージが満載!「なぜ今回は女性ボーカルばかりのアルバムなんですか?」という問いに「女が好きだからさ」とサラリと応じる余裕は、まさにダンスミュージック男塾の塾頭さながら。HigherFrequencyの一人称はいつも「僕」で統一しているが、今回はさすがに「俺」で行かせて頂くことにした。
> Interview & Translation : Eri Nishikami _ Photo : Mark Oxley (HigherFrequency) _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HRFQ : 昨日のYellowはいかがでしかた?
David Morales : 最高だったよ。 Yellowでプレイするのは好きだね。
HRFQ : 今回は陰と陽という二つのコンセプトで、東京では2ヶ所でプレイしますよね?次のAirでのプレイは昨日のYellowとはまったく違ったものになるんでしょうか?
David : たぶんそうなるな。まったく同じものにはならないよ。多分もう少しダークでテッキーな感じかな。
HRFQ : 最後にアルバムをリリースされてから11年経っていますよね?音楽制作から長い間遠ざかっていた最大の理由はなんだったんですか?
David : 実際は10年なんだけど、その間はずっとDJでツアーをやってたんだ。1986年から1995年くらいまでは、ただひたすら毎日スタジオにいた感じだったんだけど、なんとなくつまらなく思ってたところにちょうどツアーのオファーがあってね。ちょうど、スタジオでのプロダクションにそこまでの思い入れもなくなってたし、それ以来スタジオよりツアーで出てることのほうが多くなっていったんだ。でも3年前に新しくスタジオをつくってからは、またスタジオでの作業に戻るようになって…それで今回のアルバムが出来上がったというわけ。これからはレコードの制作とツアーとの時間的なバランスをとっていきたいね。
HRFQ : 現時点で"2 Worlds Collide"は日本でリリースされただけですよね?
David : そう。次はメキシコで、そのあと全世界でリリース。日本が一番最初なんだぜ!
HRFQ : 前作はメジャー・レーベル マーキュリーからのリリースでしたが、今回はご自分のレーベルからのリリースですよね。インディーズ・レーベルからのリリースにはもちろんいい面もたくさんあると思いますが、一番大変だったことはなんですか?
David : そりゃやっぱり資金だな。今回のリリースに関しては全て自分で出資したんだ。ただ、メジャーはいろいろややこしいから、メジャーかどうかってことにこだわりはなかったよ。メジャーっていうのは結局は企業だからオカネのことしか頭になくて、クリエイティビティやクリエーターの気持ちなんていうのは関係ないんだ。これは過去に学んだことだし、もう同じ失敗はしたくないね。レコード会社のやつにどんなレコードを作るか指図されるなんてまっぴらだよ。自分の判断で自分の作りたいものをつくって出来あがったものに満足する…そうすれば、たとえそれが売れなくてもハッピーでいられるだろ?あと、自分のレーベルを持つっていうのはクリエイティブ・コントロールに関して、完全な自由を手に入れるってこと。誰をスタッフとして雇うかとかも含めてね。ただし、ただ単にレコードを出すっていうだけではないから、いろいろお金はかかるのは事実なんだ。でも俺自身DJっていう枠だけにとどまっていたくないし、自分たちのやってることを新たなレベルに持っていくっていうのが大きな目標だからな。もちろんプロモーションやマーケティングをやるにしてもプレス担当を雇うのにお金がかかる。でもレコードがどんなに最高の仕上がりでも、それを店に置く資金がなければ意味がないだろ。俺は5000枚のレコードを売ろうとしてるわけじゃないんだよ。10万枚売りたいんだ。確かに本当に考えないといけないことがいろいろありすぎて、こんなの馬鹿げてるって感じることもあるさ。特に今回の作品は全世界でライセンスされるから、それぞれの地域の人間に任していかなければならないと言う面もある。でも、大きなレコード会社の囚人になってロック好きのプレスに宣伝されるよりずっとマシだろ!ただ、俺はDJの世界だけにとどまっていたくないだけなんだ。他のアーティストは音楽誌以外のメディアにも取り上げられるのに、DJに関してはそういった露出がなさ過ぎる…新たなレベルっていうのはこういうことを指すんだ。
HRFQ : アルバム・タイトルの"2 World Collide"には、最近世界中で起こっている様々な衝突に対するメッセージが含まれていると解釈していいのでしょうか?それとも個人的な経験からつけられたタイトルですか?
David : 自分の経験っていう側面も勿論あるんだけど、それより人生は様々なことと関りあって成り立っているんだって意味が込められてる。昼と夜、白と黒、二人の人間というふうに、常に違った物や認識が関わりあっているってこと。金持ちだろうが貧乏だろうが、俺たちが生きてる世界って言うのは常に何かがぶつかり合っているだろ。アルバムの歌詞を聴いてくれれば、共感できることがあるはずだと思うよ。
HRFQ : アルバムでは女性シンガーばかりをフィーチャーしていましたが、魅力的な男性シンガーは見つからなかったのですか?それともアルバムの方向性に関係があるのでしょうか?
David : だって、女が好きだから仕方ないよ(笑)!!まあ、女性の方が売れるしね。多分ヒップ・ホップなんかでは男のほうが売れるんだろうけど。それに男でダンス・ミュージックをやるやつを探すのは大変なんだ。例えばNew OrderとかDepeche Modeのシンガーがやってくれれば一番ありがたいけど、そういう感じのアーティストでダンス・ミュージックをやってくれるアーティストを探すのは至難の業だからね。まあ、ある意味ハウスミュージックっていうものがリスペクトされていないっていう証拠かもしれない。ただ、一人だけ使おうと思ってた男性アーティストがいたんだけど、結局ダメになったんだ。
HRFQ : 最近の傾向として、サンプルとコンピューターだけでつくった機械的なトラックものよりメロディアスな「歌」が好まれる傾向にあると思いますが。
David : 今の問題は、みんなメロディーのないトラックばかりを聴かされてるってこと。そこらじゅうにあふれ返ってるよ。でもそれって、メロディーをつくった経験が少ない奴が音をつくっているからなんだよね。トラックだけのほうがそりゃ簡単さ。メロディーを入れるってことは、シンガーという自分以外の人間を自分の世界に引き込まなきゃならないってことだろ?違うパーソナリティーを自分の世界に受け入れるってことで、自分とは違うエネルギーを相手にしなければいけない。自分ひとりの作品のときは、自分のためだけにやればいいんだけど、ほかの誰かを引き入れるってことは、その誰かと一緒に最高のものをつくり上げる努力をしないといけないってことなんだ。俺自身はもちろんそんな才能をもって生まれたわけではない。ただ、より多く経験したってことなのかな。誰でもやりながら覚えていくもんだよ。
HRFQ : あなた自身はレコードのリリース時期やコンセプトを決めるときに、このトレンドを意識していましたか?
David : いや、俺自身は昔も今もずっとそのスタイルだから。それしか知らない。でも、その曲がどれだけリッチでエモーショナルに聴こえるかっていうのは、ほぼ歌とメロディーにかかっているって言ってもいいんじゃないかな。ただ、ヒップホップやR&B、それにポップスやジャズにも、それぞれメロディーがあるに比べて、ハウス・ミュージックはもともとメロディーの少ないジャンルかもしれないね。
HRFQ : 最近のテクノロジーの進化でプロダクションやDJは本当に簡単になったと思いますが、その裏ではお気楽なDJやプロデューサーによる気持ちのこもっていない音楽が垂れ流されていると思います。これについてはどんな意見をお持ちですか?
David : まさにその通りだ。テクノロジーのおかげで音楽をつくることもプレイすることも本当に簡単になった。いわば方程式みたいなものさ。今じゃ目をつぶってたってプレイすることが出来るだろうね。俺がプレイし始めたころは、テンポさえも自分で何とかしなきゃいけなかった。バラバラのテンポを何とか一つにしてストーリーを作り上げるって作業はクリエイティヴでなきゃできないことで、どうつなぐかによってはパーティーの流れ自体を滅茶苦茶にしてしまう可能性だってあったんだ。しかも、あのころのレコードっていうのは、ほとんどライブ・ミュージシャンの演奏だったことも忘れないでほしい。とにかく一番のトレーニングは俺自身がやってきたこと…つまりクリエイティヴになるためにバリバリ働くってことだ。でも、今はクリエイティヴじゃなくても簡単に音楽がつくれてしまうけどな。CDJなんかのテクノロジーは確かに凄いけど、同時に大きな犠牲も払っていると思う。音質っていう犠牲をね。デジタルからアナログに変換することはできないし、確かに超ハイファイな店に行けば手に入るかもしれないけど、誰がDJブースに250万円も払うっていうんだい?
HRFQ : 個人的にファイナルスクラッチなどに興味はありますか?
David : イエス&ノーだな。コンピューターに関して気に入ってる点といえば、5000枚、10000枚分のレコードカタログをコンピューターに入れて持ち歩けること。5000枚のレコードは絶対運べないからな。1000枚ならいけるかもしれないけど、それでもクレイジーだよ。ただし、コンピューターって言うのはいろんなプロセスを踏まなきゃいけないだろ。俺はその場その場で自然にやっていくタイプだから、レコードとかCDなら「これ」っていうのがすぐ目でわかるけど、コンピューターだと目の前にレコードがないだけ考える作業が入ってきてしまうからな。でもテクノロジーが可能にしてきたことは本当にスゴイと思うし、コンピュータを使ったすごいプレーも見たことがあるから、それを否定する気はまったくない。でもやっぱりいい面と悪い面があるっていうか、とにかく俺はオーディエンスとの直接的な関わり合いが好きなんだ。オーディエンスあってのショーだと思ってるからね。だってパーティーなんだぜ。来てる人と"お〜!元気だったか〜!!"とかやりたいだろ。でもコンピューターに集中してたら、それができない。それはありえないな。だって、俺がパーティーのホストみたいなものだろ。それが来てくれた人に"(パソコンを見ながら)ようこそ。どうぞ楽しんでいってください(かなり真顔で)"ってな感じじゃどうしようもないと思うよ。
HRFQ : ロンドンのThe CrossでDanny Ramplingのパーティーでプレーしましたよね?最近はヨーロッパでプレーすることも多いんですか?
David : 多いっていうか最近はほとんどヨーロッパだな。イタリアはいいね。俺のセカンド・ホームみたいな感じだ。もちろん日本の次だけどな。メシはうまいし皆音楽大好きだし。夏には毎年イビサでレジデントをやってるんだ。
HRFQ : PachaのDEF mixパーティーも大成功だったと聞きましたが、今年のイビサはいかがでしたか?
David : 最高だったよ。フランキー(ナックルズ)とサトシ(トミイエ)で3ヶ月、いやほぼ4ヶ月だな。あそこはクラブ界のメッカでシーンにとって重要な場所だ。
HRFQ : ただ、それに反してNYでは政治家によるシーンへのプレッシャー大きくなっているというネガティブなニュースを耳にしますが実際どうなんでしょうか?
David : もう長いこと同じ状態で、クラブなんて見かけないって感じだよ。ただ、クラブの数自体は最近増えてるからマシにはなってるのかな。NYではどんなにビッグなDJでも取り上げられないし、俺たちのシーンに注目している奴もいない。NYではクラブをオープンするのにもすごくお金がかかるし、俺はNYでプレイするのは大嫌いなんだ。あそこでプレーするのが一番怖い。だからツアーに出ているほうがいいんだ。ギャラも多いし、認めてくれているし。NYで誰も俺をブッキングしたくないなら全然オッケー、チャオ!ツアーに出るだけさ!
End of the interview
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関連サイト
DEF Mix Production Official Site
Victor Entertainment David Morales Page