HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Daniel Bell Interview

デトロイトが生んだ奇跡のミニマリストDBXことDaniel Bell。90年代の初頭、Richie HawtinやJohn Aquavivaらとの出会いを経て、Plus 8より作品をリリースする事でデトロイトにおける重要人物の仲間入りを果たしたDanielは、93年にミニマル・テクノの歴史に残るアンセム"Losing Control"を自ら設立したAccelerateより発表。最小限の構成要素で最大限の効果を引き出すという美学に支えられたこの曲は、イギリスの名門Peace Frogからもライセンス・リリースされ、Danielは世界的な名声を獲得する事になる。その後も、Theo Parrishらと共にレーベル"Elevate"を設立するなど、デトロイト・シーンの隆盛の中心的な役割を果たすが、2000年には満を持してベルリンへと転居。現在ではヨーロッパに基盤を置きながら、DJとして世界各地を飛び回る傍らで、自らの制作活動や新人発掘を精力的に行っている。

鮮やかなデビューを飾ってから10年以上を経ても、そのスタンスを見失うことなく活動を続けるDaniel Bell。9月の始めに相棒のCabnneと共に待望の再来日を果たし、東京・名古屋・大阪の3都市公演を行った彼に、HigherFrequencyがインタビューを行い、自身のレーベルや最近のニューテクノロジーなどについて話を聞いた。

> Interview : Laura Brown (Arctokyo) / Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)

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HRFQ : 今回は名古屋と大阪でもプレイされたそうですね。どうでしたか?

Daniel Bell : ものすごく良かったよ。お客さんがいい感じだった…特に大阪がね。ギグもうまく行ったし、クールな人にもたくさん会うことが出来たし。音に対しても理解力のあるクラウドが多いと思ったよ。

HRFQ : 今までに、Accelerate、7th City、Elevate、Harmonie Parkといった4つのレーベルから作品をリリースされて来ましたが、現在でもその4つのレーベルに携わっているのですか?

Daniel : Elevateに関しては活動を休止している状態かな。7th Cityもそういう感じになってしまっていて、ちょうど何とかしなくちゃと思っているところだよ。Accelerateでは、僕自身の古い楽曲を再びマスタリングしたものをリリースしていこうと思っているんだ。僕が90年代の半ばに手掛けた作品が欲しい、聴きたいっていうリスナーが結構いたから、じゃあそれを再びマスタリングして、新しくパッケージし直してリリースしようってことになって。出来れば、来年中にリリースしたいと思っていて、ゆっくりだけど着々と準備は進んでるよ。Harmonie Parkに関して僕が関わったのは、Rick Wadeと一緒に会社をスタートさせたことと、レーベルの始めの一枚をリリースしたことだけで、二枚目のリリース後にはレーベルから離れなくちゃいけなくなったんだ。あの時はいろいろと忙しくてレーベル業にまで手が回らなくてさ。だからレーベルごと、Rickの有能な腕に任せることにしたんだ。

あと、もしかしたら、今度また新しいレーベルをスタートするかもしれない。レーベルを立ち上げて、それを終わらせてっていう流れが好きだからね。一つのレーベルをながーく続けて最後は立ち消えになってしまうよりも、こういうパッケージ・セットみたいな感覚がいいと思うんだ。同時にいつも気をつけていたことは、リリース過多にならないことだね。一つ一つのリリースに時間をかけて、その作品がレーベルのカラーやアイデアに沿っているように気を付けているよ。レーベルに関しては、ざっとこんな感じかな。

HRFQ : 先ほどの4つのレーベルのコンセプトはそれぞれ何ですか?

Daniel : 7th Cityに関しては、ゆるい感じのコンセプトに基づいていて、その名前もThe 7th Cityというデトロイドの架空の町が出てくるコミック・ブックからとったもの。だから、レーベルを支えている考え方も、デトロイトやデトロイトのテクノシーンで起こっていることにベースを置いて、それを自分達のやり方で進化させていこう、ってものなんだ。7th Cityからリリースされる音楽は、どれもカラーの違うものだけど、必ず共通点がある。それは、どの曲もデトロイト・テクノにインスパイアされてつくられたものだってこと。でも、7th Cityのために僕自身がレコーディングしたのはたったの1、2曲だから、ほとんど他の人のために運営しているレーベルだと言えるんじゃないかな。

逆に、Accelerateは僕の作品だけをリリースしているレーベルで、リミックス以外は誰の作品もリリースしていないし、コンセプト自体も他のレーベルと大きく違うものなんだ。立ち上げたのはレイヴ・シーンが盛り上がっていた1992年で、僕自身もRichie (Hawtin)と一緒にツアーを回って、アメリカやイギリスでたくさんレイヴ・パーティーをやっていた頃。でも、初期のシカゴ・ハウスやデトロイドものを聴いて育った自分にとって、このレイヴ・シーンっていうものがバカ騒ぎにしか見えなくて、どうしても好きになれなかったことを覚えている。だからAccelerateはそれに対してのための反動みたいなもので、自分のルーツや好きなスタイルに戻って音楽を制作し、レーベルの見た目や紹介のされ方といったことだけじゃなくて、音楽面においても無駄なものを省いて、綿密な計画をもとにまだ自分が成し遂げていなかったものをやり続けていこうって感じで始めたものだったんだ。

あのレイブのブームは、まるでデトロイト・テクノがドイツに上陸した時みたいなものだったかもしれない。デトロイト・テクノは、ドイツにおいて他の音楽とミックスされて、テクノと呼ばれる別のサウンドになったんだけど、その時には元々の思想から外れたものになってしまっていた。様々な、ハイエナジー系の音楽と交じり合って、今ではいつも過剰なまでのエネルギーに満ち溢れた音楽になったわけなんだけど、これは、僕にとってこれは間違ったことなんだ。というか、こういうスタイルは僕の望んでいるものじゃない。だから、Accelerateは、そういうアクションに反するレーベルであって、グルーブ感といった要素にもっと焦点をおいたものなんだ。

HRFQ : 最近、誰か新しいアーティストと契約しましたか?

Daniel : Frankieというアーティストと契約したよ。フランス人で、若いのにかなりカッコいい音楽をつくってる奴なんだ。既にFrankieっていう自分のレーベルで何枚かリリースもしているんだけど、ものすごくクールなサウンドで、そのアプローチの仕方にもすごく目をひかれるんだ。DJとしてのキャリアもあるみたいなんだけど、プロダクションを始めたのはごく最近らしいよ。彼のレコードは、僕らの間でも最近のナンバーワン・ヒットなんだ。

HRFQ : 近々あなた自身の作品をリリースする予定はありますか?

Daniel : いつになったらまた自分の作品に取り組めるか、見当がつかないよ。リミックスの仕事もかなり溜まっちゃってるからね。今、Arkの楽曲のリミックスに取り組んでいて、他にもKrikorという他のフランス人へのリミックスとか、"Trapez"のOliver Hackeへのリミックスとか、いろいろあるんだ。しかも僕は音楽をつくるのに結構時間がかかるから…。つくるのが遅いってわけじゃないんだけど、いつも世界中でツアーしてるし、ツアーのあいだは曲が作れないし…。やっぱり、音楽をつくるときは、誰に邪魔されることもなく、ただスタジオに一人でスタジオにこもってつくるのが好きだからね。しばらくのあいだ楽曲製作から離れてしまってはいるけど、その分、頭の中にはつくりたい音楽が溜ってるんだ。だから次に楽曲作りに入る時はかなりたくさんつくれると思うよ。

HRFQ : あなたのセットは基本的にレコード中心で、ソフトウェアやニュー・テクノロジーなどはあまり使われないですよね。いままでにそういったマシーンを使おうと思われたことはありますか?もしそうなら、何を使いたいですか?

Daniel : そうだね、レコードが中心だね。あと、もしCDを持ってたら使うだろうね。そういう新しいものに反対というわけではないんだけど、僕にはレコードが一番使いやすいかな。Final Scratchとかにもあんまり興味がないね。

HRFQ : 将来的に、12インチを売るレコード・ショップは、一定のお金を払ってMP3をダウンロードできるオンライン・ショップに取って代わってしまうと思われますか?

Daniel : 難しい質問だね。でも確かに、今メインストリームで起こっているブームが僕たちのフィールドにおいてもトレンドになり得る、という見方はあると思う。はじめてCDが出てきた時も、誰もがアンダーグラウンドなレコード・ショップもいずれかはCDショップに変わってしまうと思ったんだ。でもそうはならなかった。MP3を売るオンライン・ショップや、その手のユーザーのためのマーケットも存在することになるとは思うけど、僕たちDJやアーティストからしてみれば、やはりまだレコードの持つ力は強いと思うよ。僕の友達の中にもしょっちゅうFinal Scratchを使ってはいるけど、結局はプレイするためにレコードを買って、それをMP3に落としたものをFinal Scratch経由でプレイしている奴もいるくらいだし…。レコードにはダンス・ミュージックを活発化させる力があって、それは70年代から変わっていないと思う。だからそんなに簡単にレコード・ショップは消えるとは思えないな。僕みたいに、レコードが好きな人間もたくさんいるわけだし。それに、やっぱりクラブで使うのにはレコードが一番だよ。もしMP3で同じ曲をかけたとしてもレコードと同じ音は出ない。いいサウンド・システムのクラブだと、素人耳でも簡単にわかるくらい差がついてしまうんだよ。MP3がレコードに取って代わるかどうか…。わからないな。もしそれがクラブ・ユースではなくて、ホーム・リスニング用の音楽だったら、将来的に十分ありえるかもしれないけどね。

HRFQ : もしオンライン・ストアが、あなたのレーベルの楽曲を売りたいと言ってきたらどうしますか?

Daniel : 全然構わないと思う。実際Apple社との話し合いも進んでいるし。

HRFQ : 現在はベルリンに移られたそうですが、もしデトロイドに住み続けていたらあなたの音楽は現在のスタイルとは違ったものになっていたと思われますか?海外に住むことが、あなたの音楽にどのように影響するか教えて下さい。

Daniel : 正直に言うと、住む場所を変えることが僕の音楽に影響するとは思わないんだ。ちょっと横柄な言い方かもしれないけど、移動すること自体に大きな影響力があるとは思えない。僕にとっては、コミュニティーに加わって、誰かと一緒に仕事をしたりする経験が、自分自身を向上させるきっかけになるんだ。こういうコミュニティーには競争も勿論つきものだけど、みんながクールに付き合ってさえいれば、シーン全体にもいいことだと思うしね。これは確かにベルリンで経験したことであって、もしデトロイトにいたら一生経験できなかったかもしれない。だから、ベルリンに住んでいて影響されることも少しはあるのかもしれないね。音作りより、DJセットの方がベルリンに来て変わったと思う。ただ、以前からカチッとしたDJスタイルがあったわけじゃないし、ちょっとスタイルが変わっただけで、大部分の音楽スタイルも固まっているから、やっぱり影響してないと言えるのかな…。

HRHQ : 最近、刺激されたりインスパイアされたアーティストはいますか?

Daniel : エレクトロニック・ミュージックだと、やっぱりドイツにたくさんいるね。まだあまり一般に知られてなくて、レコードも1、2枚しか出していないアーティストとかがすごくおもしろいよ。特にドイツとか、スイス、フランスとかにたくさんいるけど、全体的にみても結構いい状況なんじゃないかな。最近出てくるほとんどのアーティストは、アイデアや自分のスタイルをしっかり持っている奴らばかりで、それってすごくクールだと思うし、そういう姿勢が必要だと思う。アーティスト名を出すとなると難しいんだけど…Baby Ford、PerlonのZip、Ricardo Villalobos、Luciano、Arkというところかな。でも、RicardoとかLucianoの名前は、リスナーにとって新しい人たちっていうイメージがあるかもしれないけど、実は彼らのキャリアもすごく長いんだよ。特にBaby Fordなんかは、僕が90年に音楽をつくり始めたのに、彼は87年か88年にはもう始めてたんだ。これって世間一般の"使い捨て"の音楽文化とは違って、一人のアーティストが自分のスタイルを突き詰めて、それを広めながら発展させていくことが出来る、Jazzのような息の長い音楽ジャンルのスタイルにダンスミュージックが近づいたってことだし、すごくいいことだと思うんだ。

HRFQ : 不安な政治情勢や不正政治などのいわゆる逆境は、皮肉なことに様々な芸術のかたちを生み、それを発展させてきました。逆境だからこそ、強くて、人々を感動させる芸術が生まれるという考えには同意しますか?ベルリンの音楽シーンからはそういった要素は感じられますか?

Daniel : わからないな…すごくロマンティックな考え方だとは思うけどね。でも一方で、すごく危ない考え方なんじゃないかな。だって逆境から生まれた創造力だけで出来たものなんて、すごくダークなオーラが出てそうだし…。ただ音楽をつくることや、それを発展させることだって難しいことに変わりはないんだよ。もっとパーソナルな苦労かもしれないけど、クリエイティヴなものに苦労はつきものなんだ。だけど、もし苦しみが音をつくる楽しみを上回ったら、作品も死んでしまうんだ。だから、やっぱり何かを発展させるためには、人々は安全な場所で、安心して作業するべきだと思う。デトロイトとか、ベルリンみたいに比較的お金がかからないところでね。

確かにもっと厳しい状況の下で、人々が抑圧されたがために生まれてきた芸術もある。でも決していつもそうとは限らないと思う。もちろんとても裕福な人がつくった素晴らしい音楽もあって、彼らが苦労しなかったからといって、音楽の価値も下がるということにはならないでしょう?人の人生で何が起こって、何が彼らを影響するかなんて、本人以外誰もわからないのさ。

HRFQ : これから先もベルリンに住み続けると思われますか?

Daniel : そうは思わないね。今は結構いろいろなところに引っ越したり、移り住む人が多いけど、特にアーティストにとってはどこで暮らそうがあまり大きな問題にはならないんじゃないかな。あと2、3年はここに暮らしてみて、その後どうするか考えてみるよ。もしここの物価が高くなったら、どこか他の場所を探さなくちゃいけなくなるけどね。

End of the interview

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