ファッション&カルチャー雑誌 Dazed and Confused で音楽ジャーナリストとして活躍したのち、Felix da Housecat や Tiga を世に送り出したエレクトロクラッシュの先駆け的レーベル City Rockers で A&R を務め、現在に至ってはエレクトロ・シーンを代表するレーベル Crosstown Rabels を運営する…という一風変わった、しかし誰もが羨むようなキャリアを持つアーティストと言えば、Damian Lazarus である。常にシーンのパイオニアと形容されるレーベルで、様々なヒット・アーティストを発掘して来たと同時に、彼のホームと呼ぶに相応しいイビサの DC10 をベースに「今最もブッキングの難しい」DJの一人として、世界中を飛び回る彼。そんな名実共に「売れっ子DJ」である Damian が、代官山 UNIT で行われている人気エレクトロ/ディスコ系パーティー deAthdisko で待望の来日ギグを行った。
以前、本誌の契約ジャーナリスト Jonty Skrufff のインタビューにおいても、「プロデューサー業をしない」信念について語ってくれた Damian。今回のインタビューでも、ラフでイージー・ゴーイングな姿勢の内側に隠れた固い信念を露わにしながら、最近の活動や今後の予定、そして世界レベルで認められている A&R としての「利き目」について語ってくれた。
> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 日本は今回が初めてですか?
Damian Lazarus : いいや、二回目だよ。二年前に来日して、Womb でプレイしたんだ。ただ、その晩何が起こったのか分からないんけど、何となく変な感じのギグに終わってしまってね。だからそれ以来しばらく来日してなかったんだ。思うに、当時は新しくレーベルをスタートしたりして、ちょうど自分のDJスタイルを見つけようとしている時期だったから、満足のいくギグが出来なかったのかもしれない。正直言って、今まで日本はなかなか手の届かない国ではあったんだ。でも、今こそレーベルや自分自身をブレイクさせる時だと思ったんだ。友達や他のDJからも東京や大阪に関する素晴しい話はたくさん聞いていたしね。Ricardo や Luciano なんかも「日本は素晴しい」って口を揃えて言ってたよ。それに、僕のレーベルのアーティストでもある Jennifer Cardini も、よく日本でプレイしてるんだ。
HRFQ : よくイビサでプレイされていますね。一年中向こうにいらっしゃるような印象があるのですが…
Damian : そうだね。まず一つ目の理由として、イビサが好きだから。そして二番目の理由は、地球上で一番素晴しい場所 DC10 でプレイできるから。それに、自分の住んでいるところから1時間半の距離にあるからね。
HRFQ : あなたにとって、未だにイビサは影響力のある場所だと言えますか?
Damian : かなりね。この夏以降 DC10 や Cocoon で僕のプレイを見たっていう人からたくさんのフィードバックをもらったんだ。すごくインスパイアされたとか、プレイがきっかけでこんなレコードを買ったとか、こんかギグに行ったとかいろいろね。夏の間、毎週月曜日には DC10 が Cocoon で、30〜40種類もの国籍を持った人たちが、一つのフロアで素晴らしい音楽を聴いているんだ。それってかなりスペシャルなことだと思うよ。
HRFQ : イビサ以外にそういったインスピレーションのある国や都市があると思われますか?
Damian : う〜ん、そうだね。特にヨーロッパにはたくさんあると思う。ベルリンが明らかにそうだし、パリやロンドンにも面白いパーティーや音楽がたくさんある。それに、サンティアゴやサンパウロといった南アメリカの都市もここ数年シーンにとってすごく重要な場所だしね。だから、結局すべての場所と言えるのかもしれない。どこかに行く度に音楽に興味ある人や、クラブやレーベルを運営してる人、またはアーティストなんかに会うしね。だから本当にインターナショナルなものなんだと思うよ。以前まで、こういったアンダーグラウンドなサウンドはコミュニティー・ベースだったり、小さい都市の中のほんの小さなグループから発生する音楽シーンだったんだ。例えば、ジャングルが生まれた時だって、あれはすごくロンドンのアンダーグラウンドな音だったしね。ただ、今現在のエレクトロはかなり広い規模で認識されているんだ。
HRFQ : コンピレーション・シリーズ "Rebel Futurism" の第一弾がリリースされた当時、エレクトロ・シーンは現在と比べてアンダーグラウンドなものでしたし、コンピレーションに収録された Blackstrobe や Steve Bug といったアーティストも当時はあまり知られていませんでした。最近のエレクトロ/ミニマル・シーンの盛り上がりによって、あなた自身にどんな影響がありましたか?
Damian : こういうことは常に起こってきたんだ。City Rockers をやっていた時や、初めて"Rebel Futurism"を作ったときも、全く無名のアーティストばかりしてきたのに、その6ヵ月後には必ずそこらで聞く名前になってしまった。だから何か違ったものを見つけることや、あるものをネクスト・レベルに持っていくのを助けることにおもしろさを感じるんだ。さっき君が挙げたようなアーティストは、確かに昔ほどアンダーグラウンドではなくなってしまったかもしれない。でも、彼らは未だにシーンのトップにいて、ブームを作ってるんだ。こういった音楽はもともとアンダーグラウンドなものだし、最近ではそれが Sasha や Steve Lawler、John Digweed といった違ったジャンルのメジャーなDJにプレイされるようになったというだけで、このジャンル自体がコマーシャルなもの担ってしまったという意味ではないと思う。このジャンルが新しいかたちのダンス・ミュージックとして多くの人に受け入れられるようになったというだけで、僕にとってはむしろすごく喜ばしいことだよ。
HRFQ : ブームのおかげで仕事が順調になったと言えますか?
Damian : ある意味そうかもしれないね。シーンが盛り上がれば、より多くの人が僕の DJ スタイルやレーベルに興味を持ってくれるしね。それに、シーンに興味を持ち始めたり、新しい音に出会うことを期待している人は日々増えるばかりだし。何かものすごく新しいことを始めるときは、ただ自分の周りの友達にその良さを説得すればいいだけのことなんだ。今となってはこのシーンについてなんの説得もいらないけどね。ただ、今でも結構性質の違ったレコードに関しては、広める前に周りに対して売り込みをしなくちゃならない場合もあるよ。
HRFQ : これだけシーンが大きくなった今、どのようにしてご自分のスタイルを新鮮に保たれているのですか?トリップ・ホップやヒップホップの要素を入れ込んでいるアーティストも多くいるようですが、あなたもそういった音を取り入れることはありますか?
Damian : 多くのレコードの中でも、飛びぬけて奇妙な、ナンセンスなレコードをプレイしようとしてる。ただ変わったレコードだけをね。プレイのときはいろんな音やアイデアを行ったり来たりしてるんだ。僕は常に、レーベルを進化させようとするのと同時に、自分のプレイ・スタイルも進化させようとしてるのさ。自分のしていることに退屈したくないからね。DJするのも好きだし、レーベルの運営も楽しいから、常に新しくてフレッシュなものを作っていこうと思ってるんだ。
僕は毎日ロボットのように同じセットばかり繰り返して、クラウドをうっとりさせようとするDJとは違うんだ。自分が実験的なことをしていると思いたいのさ。セットの中であまりヒップホップはプレイしないけど、いいトラックがあって、タイミングが合えばもちろんプレイする。どんなジャンルにも「ノー」とは言わないよ。昔はジャングルやドラムンベースをよく聴いてたから、昔のレコードを見ながら、「これはセットに入れられるかも」なんて考えてるよ。
HRFQ : 以前はジャーナリストをなさっていたそうですね。ジャーナリストから A&R 、そしてレーベル・ボス兼DJ に至るまでの変化はどのように起こったのでしょうか?
Damian : 偶然さ!どうしてそうなったかって?それは分からないけど、僕にとっては自然な成り行きだったような気がするよ。常に音楽業界で仕事がしたかったし、DJはしていたけど、DJとしてキャリアを積んでいく気はあまりなかったというだけのこと。DJという職業が僕の生活のメインになったのはここ数年のことだしね。ただ、常に音楽業界で働きたいとは思っていたし、それに向かって進んでたのは確かだよ。だから今の状況にはかなり満足してるね。
HRFQ : DJという仕事とレーベル・オーナーという職業に共通点はあるのでしょうか?
Damian : 共通点があるかどうかは分からないけど、この二つの職業はとても近い距離にあると思う。レーベルを運営しているおかげで、僕は常に新しくて、フレッシュな音源を聴くことが出来るしね。僕にはアイデアがあるし、そのトラックが僕のレーベルや、DJやクラウドが気に入ってくれそうかどうかは、だいたい感じ取ることが出来る。ただ、実際にそれをテストすることも必要だよね。だから、DJをしてダンス・フロアの反応を直接見ることが出来るのは、信じられないくらい素晴しい特権だと思うんだ。レーベル運営のみをしている人の場合、新しいトラックのコピーをたくさんの人にばら撒かない限り、フィード・バックを得ることが出来ない。もちろん僕たちだって、そういう作業は常にしているけど、ただ僕にはそれよりも早く、ダイレクトにリアクションを見ることの出来る機会があるんだ。もしそのトラックがダンス・フロアでクラウドに響かなければ、アーティストのところにトラックを持ち帰って、いい方向へ持っていくように助けるのは、僕にうってつけの仕事だしね。
その他の利点は、世界を飛び回りながらいろいろな人に会うことが出来るということ。そのおかげで常にいいチャンスにめぐり合っているし、クリエイティヴなアーティストから毎日のようにデモが送られて来るんだ。だから素晴しいと思うよ。
HRFQ : DJをしながら音楽制作を行うことで生じる利益に対してかなり批判的な意見をお持ちのようですが、レーベルを運営しながらDJをして生じる利益はないのでしょうか?
Damian : もし人々が僕のDJスタイルを気に入らなかったら、レーベルも気に入ってはくれないだろうね。もし、DJとしての僕の活動を気に入ってくれたなら、「これほどのセットなら、レーベルにも期待が出来そうだ」って思ってくれるはずなんだ。だから、利益があると言えば、あるかもしれないね。DJをするプロデューサーも、いいプレイすれば人々にレコードを買ってもらえる。ただ、そういう方法は僕にとってあまり納得が行くことじゃないんだ。もちろん自分のレーベルのレコードをプレイするのはすごく楽しいし、他のDJや友達がレーベルの作品をプレイしているのを聴くと、すごく嬉しく感じるよ。
HRFQ : 今日はロング・セットをプレイされますが、どのくらい下準備をなさいましたか?
Damian : 少しはね。だけど、ここ数週間ずっとツアーして回っていたから、手元にあるレコードの枚数も限られているんだ。ツアーの時は、意外と少ない枚数しか持っていかないんだよね。プレイにはレコードとCDの両方を使っているんだけど、だいたいツアーの時は、新しい音楽を受け取ったりとか、どこかに行く度にレコード・ショッピングしたりしているし、プロデューサーや友達のところに行く度に新しい音をもらうしね。そうやって常に手持ちの音楽をアップデートしているんだ。だからあまり事前の準備はしないよ。ここ数日は新しい、まだプレイされてないような音楽ばかりを聴いていてね。そういうトラックをたくさん聴きながら、それが自分のセットやクラウドに合うかどうか、どんなクラウドが集まるかを考えてたんだ。
HRFQ : 毎日たくさんの音楽を受け取られると思いますが、未だにレコード・ショップには頻繁に通ってらっしゃるのですか?
Damian : 常に通ってるよ。広いジャンルから新しいレコードも古いレコードも買ってる。最近では映像制作にも関わっていて、音楽監督をしてるから、常に広いジャンルの音を探しているんだ。これは最近本格的に始めたことなんだけどね。実はここ数年の間も、地味にやってはいたんだ。BBC のドキュメンタリーも幾つか手掛けたし、今は初の音楽監督作品に取り組んでるんだ。
HRFQ : 今後そういった映像関連の仕事を増やしていかれるつもりですか?
Damian : そうだね。すごく面白い仕事だし。自然な進歩のような気がするよ。だけど、これは現在僕がしている通り、メインの活動と平行して出来る仕事なんだ。いくらこの仕事が以前からやってみたかったとしても、ヴォリュームを増やすことはまだ考えられないな。
HRFQ : この仕事を通して音楽制作をするに至る…ということは考えられますか?
Damian : どうだろうね。いつも制作関係の質問をされるんだけど…もちろん制作について考えたりはするさ、でも最優先に考えているものではないんだ。でも、もしかすると将来的には有り得るかもしれない。でも僕自身、外の空気も吸わずにずっとスタジオにこもっていられるタイプだとは思えないんだよね。外で人と社交する方が好きなのさ。
HRFQ : 映像関連の他に将来的に予定されているプロジェクトはありますか?
Damian : 正直言って、今のままで十分幸せなんだ。長いスパンで物事をプランする必要性もあるとは思えないしね。レーベルのアーティストや、コンタクトを取った才能のあるDJたちと、これから一緒にやりたいことがたくさんあるし。今のままでも十分忙しいしね。
HRFQ : DJとしての近況を話していただけますか?
Damian : ちょうど話をしているオーガナイザーが何人かいて、幾つかのオファーを受けたよ。"Rebel Futurism" は今年中にも第三作目がリリース出来そうだし、Time Out マガジンに " The Other Side of London" っていうミックス CDも担当してね。これはロンドンのナイト・ライフを基に、トリッピーな深夜の旅を表現した作品なんだ。それにMatthew Styles と一緒にコンパイルした ミックスCD "Get Lost" を僕のレーベルからリリースするよ。僕のミックスも彼もミックスも相当クレイジーなダンス・ミックスに仕上がってるんだ。こういうクレイジーな感じが大好きでね。このアルバムはすごく面白いよ。4月にリリースが決まってるんだけど、リスナーは相当びっくりするだろうよ。
HRFQ : わかりました。ロング・セットに期待してます。今日はありがとうございました。
Damian : ありがとう。
End of the interview
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