’90年代から常に世界のテクノ・シーンを支えてきたイギリスのトップDJ / プロデューサー Carl Cox が約2年ぶりに来日を果たした。 Carl Cox は、テクノDJ御用達のビッグ・レーベル Intec Records を主宰し、DJとしても’07年の DJ Mag Top 100 で7位に選ばれるなど常にクラブ・シーンのトップ街道をひた走るグローバル・アーティストだ。そんな彼が’05年の Electraglide 以来に来日を果たし、最新のテクノやハウス・ミュージックを盛り込んだ独特のファット・グルーヴで多くのオーディエンスを沸かせる前に HigherFrequency が2度目のインタビューを決行。今回初のギグとなった WOMB への期待、ここ1年間リリースがストップしている Intec Records の状況、彼のDJに対するスタンスや近状などを熱く語ってくれた。
Interview by Masanori Matsuo (HigherFrequency), Len Iima (HigherFrequency) _ Translation by Ryo Tsutsui(HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 2年ぶりの来日公演、心待ちにしておりました。今回の東京公演では、初の WOMB での公演ですよね。 WOMB への期待、また同クラブに関してはどんな情報を持っているのかお聞かせください。
Carl Cox : Ritchie Hawtin や Christian Smith といった多くの DJ 仲間がこれまでに WOMB でプレイをおこなってきているんだ。特に Christian Smith なんかは WOMB からコンピレーションも発表しているし、とても愛情を感じているようだよ。僕にとっては今回初めてプレイすることになるから、一体どういう感じになるのかわからないし、だからこそすごくワクワクしてるよ。僕は常にどういう演出をするのかビジョンを持って本番に望むけど、実際にプレイしたときにそれ以上のものが生まれることを常に期待しているんだ。お客さんはいつも WOMB ですばらしいパーティを体験しているんだと思うけど、僕は実際にその場に行って、みんなのバイブを感じて、自分のプレイを提供してみないとどうなるのかはわからない。だけど一ついえるのは僕は自分のハートとソウルと音楽を持って、準備万端 WOMB に駆けつけてるってことかな。
HRFQ : ここ2年でエレクトロ・ハウスやミニマル系の楽曲も多く取り入れ、あなたのプレイ・スタイルが従来のものより変わってきたと思います。しかし、その中でも Carl Cox ならではの独特のグルーヴ感や引き込まれるような存在感は全く変わっていないと思います。 DJ プレイ時の技術的なクセなどもあるのでしょうか?
Carl Cox : いい質問だ。僕はこれまでずっと Funk, Soul, House, Techno といった様々なタイプの音楽から自分がいいと思うものを抽出することに長けてきたんだ。そして抽出したものを組み合わせて自分のスタイルや感覚を表現することにも長けてきたと思っている。何か一つのサウンドに従属したことなんてないんだ。
多くの人は僕の音楽がハードで、早くて、エネルギーがあって、テクノオリエンティッドだと感じるようだけど、僕がハウスをかけたとしてもハードで、早くて、エネルギーがあるのさ。自分がクリエイトするものはどうしてもエネルギーに満ちたものになってしまうんだ。それは僕の音楽人生の中で変わらずに持っている特徴なのさ。
面白いことにミニマルをプレイしてもそうだし、テクノなんかでは元曲よりもさらにエネルギッシュに聴こえるときもあるよ。様々なスタイルやジャンルの音楽があるけれど、音楽というくくりで一つに捉えてしまって、その中で僕が作ったり、コンパイルしたりしている Carl Cox というスタイルの音楽なんだと思っているんだ。
自分の中に様々な音楽のフィーリングを持っているんだけど、僕から見たその曲のエネルギーを捉えてダンスフロアへと注入しているのさ。
例えば Armin van Buuren が僕とまったく同じレコードをプレイすることもあるかもしれないけど、僕は彼とはまったく違ったかけ方をすると思うよ。それはいいとか悪いということではなくて、ただ単に僕がもっているテイストなんだ。それは自分自身でコントロールして、発展させて、理解してきたもので、人々に対しても僕がプレイするレコードは、それが Minimal や Techno や Trance だからプレイしているんじゃなくて、僕が本当にいい曲だと感じているからプレイしているんだということを理解してもらえてきたということなんだ。結局いいレコードはいいレコードなのさ。僕はとにかくいいレコードをプレイしているんだ。
HRFQ : そういった幅広い楽曲のセレクトを心がけているようですが、複数のジャンルの中から良い新譜を探していくのはかなり大変だと思います。普段の生活の中でどのようにして新譜を発掘されているのですか?
Carl Cox : 僕は幸運なことに世界中を旅することができて、その旅の中でいつも新しい音楽を創っているDJやプロデューサーに会うことができるんだ。ギリシャやバルト諸国など、様々なエリアで制作されているもの受け取ることができるし、おそらくDJとしてそういった地域からの作品を受け取った最初の方の一人に入るんじゃないかな。それはすごく楽しいことだよ。ペルーやブラジルなんかでも常に誰かが何かを作っているし、そういったものを受け取って、気に入ったものをプレイしてみて、他にだれも持っていないものだったとしたら Carl Cox レコードに加えるんだ。また同時に僕がやっているラジオの影響で、毎日、自宅や僕のFTPサイトに様々な人から音楽が送られて来るんだ。あと何か特定の楽曲を探しているときはダウンロードサイトで購入している。でもとにかく沢山の音楽が世界中から送られて来るんだ。
HRFQ : 受け取ったものを全て聴かれているんですか?
Carl Cox : そうしたいけど、それをしたとしたらおそらく音楽を全て聴くだけで、半年かかかってしまうと思うよ。だから時間があるときにファイルや CD に音楽を落として2,3時間かけて CD にマークをつけたり、ダウンロードしたりするんだ。一つのレコードに10種類のミックスが入っていることなんかもあるから、全部聴いてみて自分に一番しっくりくるバージョンを見つけるんだ。そのために全部をチェックしてみるから10分、15分はかかるんだよね。時間はかかるけど、新しい楽曲は必要だからね。
HRFQ : あなたが主宰する Intec Records や 23rd Century Records はここ1年新たなリリースがありませんよね。同レーベルは日本でも相当な人気を誇っており、新譜の発売を心待ちにしているファンも多いと思いますが、今後のリリース予定はありますか?
Carl Cox : ここ2年の間にレコード制作は大きな変化を迎えているんだ。レコードはもう売れないし、プレスやアートワーク、パッケージといったものはもう作っていない。昔は皆レコード店でアナログを探していたけど、今は直接ダウンロードして買ってしまうからね。僕は Intec 50番をレコードで制作したときが9年間 Intec を通してリリースしてきたものの区切りだったと感じている。 23rd Century Records も僕の音楽だったりとか Intec に収まらなかったものをリリースする場所なんだけど、僕は一旦、一歩引いてどうやって音楽を販売してプロモートしたらいいかを考えたかったんだ。そういったところから考えて、レーベル名を変えた Intec Music と 23rd Century Music を通し、デジタルで販売で皆がダウンロード購入できるようにすることにフォーカスしたいと考えている。それが音楽流通の未来だと思うよ。
Amato のようなディストリビューターが倒産していっていることがそのことを如実に示していると思う。僕はそんな沈み行く船に乗っかっていたくないと思っていたから、一旦動きを止めたんだ。そして自分なりの調査や準備に一年かかった。来年(2008年)には Intec Music からの新しい音楽を聴いてもらえると思う。それに 23rd Century からは僕のアルバムを発売される予定だしね。こういった変化に対応するのはは難しいし、長いプロセスになると思う。いままでレコードを買ってきた多くの人はこれからもレコードを買いたいと考えているからね。ただそういった人たちのためにレコードを作り続けようと思うとお金がかかりすぎて採算が合わないんだ。時代が変わっているということかもしれない、ただ人々は今でも音楽を買いたいと考えていて、そう考えるとレコードに縛られる必要がなくなっていいのかもしれない。1年間、僕は Intec のリリースごとに4,5000ポンド失っていて、それは好きでやっていたことだったけど、僕の会計士からするとただ単にお金の無駄遣いということでもあったから、一旦立ち止まって、お金が出て行くのを押さえて、どうやって Intec Music をマネージしていくのか戦略を練る必要があったんだ。
HRFQ : 以前、他のインタビューで「DJとして成功するにはまず12"をリリースしてヒットを出すことだ」とおっしゃってましたが、それは mp3 でのデジタル販売でも可能だと思いますか?
Carl Cox : おそらく一緒だと思うよ。DJ になりたい人はどんどん増えているから、そんな中で突出するには世の中に好かれる楽曲を作るしかないと思う。例えば Fedde Le Grande は10年前はだれも知らなかったけど、今は誰でも知っている。それは沢山の DJ がプレイした、たった一曲のヒットが彼を DJ 界の新風へと押し上げたことがきっかけとなっている。それがなければ彼も多くの DJ と一緒で無名なままだったかもしれない。それは皆に起こることではないから彼は幸運だったといえるけど、誰でもそこを目指すしかないと思う。ヒットする楽曲を作るべく努力して、自分自身がユニークに見える何かを見つける必要があると思う。そしてそれがそもそもなぜ自分が DJ として成功したいと思ったのかを写す鏡になるんだと思う。
僕は常に自分が成功していたとしてもそうでなかったとしてもとにかく音楽をプレイすることを求めて活動してきた。だれでも自分がまずどうして DJ をしたいのかを見つめる必要があると思う。それを理解していれば本当は成功するかどうかは大切なことではないはずだよね、だっていずれにせよ好きなことをやっているんだから。でもだからといってがんばらない人なんていないわけで、自分の意識は DJ の技術を磨く方に向かっていたとしても、成功への道という意味でいえば楽曲制作に注力することが大切だと思う。できるだけ沢山の人に会って、できるだけ沢山の人に自分の音楽を聴いてもらって、そうやっていればきっと何かが起こるはずだよ。それが本当に起こると信じることが重要なんじゃないかな。
HRFQ : 年末最大のビッグ・イベントといえるカウントダウンでのギグですが、今年を含めここ数年は韓国でのプレイを選ばれてますよね。なぜアジア、そして韓国を選ばれているのですか?
Carl Cox : 初めて韓国でプレイしたときにすばらしい経験をしたことがきっかけとなっているんだ。そのときは韓国にいったのが人生で初めてで、僕は自分の Carl Cox としての成功がソウルまで届いているなんて思いもよらなかったし、何を期待したらいいのかまったくわからなかった。ただ蓋を開けてみたら半分は西洋人だったけど、残りの半分は韓国人が僕の音楽に入り込んで精一杯楽しんでいたんだ。それにカウントダウンが唯一僕が韓国でプレイするチャンスなんだ。僕にとって年の変わり目に自分にとって意味のある場所でプレイすることはとても大事なことだと考えているんだけど、韓国はそれに当てはまる場所なんだよ。 日本でも何度もプレイしたことがあるし、中国、シンガポール、クアラルンプール、タイ、こういったところでも何度もプレイしたことがあるけど、韓国はずっとそういうチャンスがなかったんだ。そのなかでカウントダウンという大きな機会にプレイすることは韓国の多くの人に聴いてもらうまたとないチャンスだと考えている。それに彼らもそれをとても喜んでくれているしね。それに僕はオーストラリアのメルボルンに家を持っていて、新年の2ヶ月はそこで夏を楽しむんだけど、そこに向かう途中でもあるし丁度いいんだ。
End of the interview
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