オーストラリア出身のDJとしては最も大きな成功を収めてきたAnthony Pappaが、4月に引き続いて今年2度目となる来日公演を今週末に12月11日(土)にClub Airにて行う。今年は、彼の出身地でもあるメルボルンのレーベルEQからリリースしたコンピレーション"Balance 006"が非常に高い評価を受ける一方で、DJとしては相変わらず世界各地を飛び回る多忙な毎日を送ってきたAnthony。半年間という短いインターバルで実現された今回の来日公演は、それらの活動を通じてさらにパワーアップした彼の姿を間近に体験できる絶好の機会であるといえるだろう。
その来日公演に先駆け、HigherFrequencyが今年4月に行ったAnthonyとのインタビューをリバイバルにて掲載する。これでしっかり予習をして、土曜日に備えよう!
> interview & photo : jim champion / translation : h.nakamura (HigherFrequency)
Higher-Frequency (HRFQ) : Club Airでプレイされるのは今回が2回目ですよね。
Anthony Pappa : そう、Club Airでは2回目だね。東京では今まで7〜8回くらいはプレイしたかな。あと、Wombでもプレイした事があるよ。
HRFQ : AirとWombを比較してみてどうですか?
Anthony : う〜ん、箱の大きさからして全く別のクラブだよね。Wombの方がもっと大きいし。でもどちらもとても好きだよ。Wombで回すのも楽しいしね。多分、ここAirよりWombでプレイした回数の方が多いんじゃないかな。Airの方が少し小さいけど、その分クラウドとの距離も近くてより親密な感じもするし・・・逆にWombではDJブースがちょっと遠いところにあり過ぎて難しい部分もあるかも・・・もちろんクラウドととのつながりは感じる事は出来るんだけど、遠くに居る分だけより大変かもしれないね。
HRFQ : サウンドシステムに関しては如何ですか?
Anthony : Airのサウンドシステムは"ファンタスティック"だ。Wombの音も巣晴らしいよ。いやホント、日本のクラブはどこも音といい、ライティングといい、「電気的」なものに関しては全てパーフェクトなんじゃないかな(笑)。
HRFQ : ヨーロッパと比べてみてどうですか?
Anthony : ヨーロッパの幾つかのクラブでは、本当に素晴らしいサウンドシステムが備わっていて、その意味では日本と同じレベルだと言って良いかもしれない。でも、日本のクラブがどこへ行っても素晴らしいサウンドシステムを持っているのに対して、ヨーロッパでは必ずしもそうじゃないんだ。良い所は良いけど、それ以外は平均点といった感じかなんだよね。
HRFQ :以前のあなたのインタビューを読んでいて、オーストラリアとイギリスのシーンはとても似通っているという発言を目にしましたが、それは本当ですか?
Anthony : 全くその通りで、オーストラリアのクラブシーンはイギリスのシーンをいつも追いかけているんだ。日本の人たちがイギリスのシーンを追いかけているかどうかは分からないけど、ここにはファンの人たちが独自のスタンスで支えているシーンがあるんじゃないかなと思う。勿論、イギリスから来るDJも大勢居るんだろうけど、みんなそれとは別に「いいパーティー」とか「いい音楽」「いいプログレッシブ・ハウス、いいプログレッシブ・テクノ」と言った普遍的な要素を追いかけているような気がするんだ。
HRFQ : アジアについてですが、シンガポールとかクアラルンプール・・・
Anthony : (質問が終わる前に) シンガポールは最高だね!Zoukは本当に大好きだよ!あそこは僕がアジアで気に入っているクラブの一つなんだ。クアラルンプールのZoukも本当に素晴らしいしね。あと、他には香港でもプレイしたかな。台北、北京、大阪・・・ほんとアジアは殆どの都市でプレイしたかもね。アジアのシーンはとてもグレートだよ。
HRFQ : アジアのクラウドについてですが、他の国と比べて違いはありますか?
Anthony : シンガポールは、いわゆるドラッグに関する法律がとても厳しいからその意味では大きく違うだろうね。でもスゴク良い雰囲気で、悪い意味での違いじゃなくて、あくまで良い意味での違いって事だけど・・・。まぁいずれにしても、クラブに出かける人たちはみんな同じ理由で出かけるわけだから、国によって微妙な違いはあるにしても、それほどまでに大きな違いはないと思うよ。
HRFQ: 少し昔の話になりますが、16歳の時にDMCのチャンピオンになったんですよね?
Anthony : うん、15歳の時だったかな。あれから15年も経っちゃったね(笑)。
HRFQ : いわゆるHip Hopのスタイルですよね?あなたがHip HopからHouseへ移っていったのはどういう経緯だったのですか?
Anthony : 僕がHip Hopを選んだのは、単にスクラッチをやるのに一番適していたからで、Houseは昔からいつもHip Hopを同じくらいプレイしていたし、いわゆるHip Hop専門の DJであった事は一度も無いんだ。DMCのコンペに行った時には、自分のやりたい事をやる為にHip Hopをチョイスするのが最適だっただけなんだ。Houseではスクラッチをする訳にはいかないし、バトルをする時はHip Hopスタイルが一番いいからね。
HRFQ : (イギリスに渡る前に)オーストラリアでは既に有名になっていましたよね?
Anthony : 15歳の時にDMCで優勝してからスグにクラブでプレイするようになったんだ。だから当時は16歳くらいで、本当はクラブに行っちゃいけない年齢だったんだよね(爆笑)。パパに送ってもらってプレイして、プレイが終わったら又パパが迎えに来てくれるって感じで・・・これ本当だよ(笑)。僕がプレイしていたクラブはどこも18歳以上しか入れないところだったんだけど、子供の僕がそこでプレイしていたわけ(笑)。まぁそんな感じだったから、21歳の頃までにはたくさんの事をやり遂げてしまったけどね。
HRFQ : その後イギリスへ渡る訳ですが、それはあなたにとっては大きな賭けを意味していましたか?
Anthony : 何かが決まっていたり、準備されていたからイギリスへ渡ったわけじゃないんだ。 イギリスへ渡ったのは、単にそれが自分の踏むべき次のステップだと思ったからさ。でも大変だったよ。いわゆる小さな池の大きな魚から大きな池の小さな魚になったわけだからね。イギリスでの競争は本当に激しいものだったし、僕自身はそれまで自分がオーストラリアで成し遂げてきた事をよく知っていても、イギリスの人たちは僕の事を全く知らないわけだし・・・。ホント「振り出しに戻る」って感じで全てのキャリアをゼロから作っていかなければならなかったんだ。
HRFQ : 最近ではオーストラリアのシーンもとても大きなものになってきましたよね。もし、あのままオーストラリアに残っていたら、今と同じようにトップになれたと思いますか?
Anthony : オーストラリアを離れるときには僕はトップだったし、今でも年に数回は帰るようにしているんだ。実際に6月にはまた戻る事になると思うよ。次のアルバムが数週間後にオーストラリアでリリースされる事になっていて、Balanceって言うMix CDなんだけど、このシリーズにとってはビッグなリリースになりそうで、ツアーも大きいものが予定されているんだ。僕の地元であるメルボルンのレーベルなんだ。でも、オーストラリアのシーンは本当にグレートになったと思うよ。もし、あのまま残っていたとしても、多分自分がやってきた事と同じ事をやっただろうね。自分のパーティーをやっていたかもしれないし・・・あるいはオーストラリアの人たちとちょっと意見が分かれていたかもしれないけどね。
HRFQ : オーストラリアに帰ろうとは思わないですか?
Anthony : 多分いつかは帰るだろうね。今はイギリスにガールフレンドもいるし、すっかりこちらの生活に落ち着いちゃっているんだけど、オーストラリアは自分にとってあいかわらずベストな国で、いつかレコードをプレイするのを止めたくなった時や、年をとった時にはオーストラリアに戻りたいと考えているんだ。
HRFQ : 初期の頃から比べると、Renaissanceのシーンはどう変わってきたと思いますか?
Anthony : 初期の頃のRenaissanceは、そのサウンドやイメージにおいてまさにパイオニア的な存在で、本当の意味でのミックスCDを最初に作った会社だといっていいと思う。1枚目のRenaissance CDは本当に大きなセンセーションを巻き起こしたからね。勿論、今でも彼らが最先端を走っていることは間違いないんだけど、ただ、最近では彼らの他にも良い仕事をする人たちが増えてきたこともあって、RenaissanceもGlobal UndergroundやMinistry達と競争しているレーベルの一つといったニュアンスになって来ているんじゃないかなぁと思う。僕にとってのRenaissanceと言えば、常に時代の先端を行き、新たな事にチャレンジしている憧れの存在だったし、イメージも見かけもサウンドも本当にカッコ良く、本当に彼らは全てにおいてツボを押さえていた。まぁ、そのイメージについては今でも十分にキープしていると思うし、今でも応援しているけどね。
HRFQ : Renaissanceと関わるようになったキッカケは何だったんですか?
Anthony : Dave Seamanを通じてと言うべきだろうね。彼がオーストラリアに来てツアーをした時に、一緒にあちこち旅をする機会があってお互いに仲良くなったんだ。その後、僕がイギリスに渡った時に、当時Daveが運営していたレーベルStress Recordsで仕事をするようになって、そのうちDaveからRenaissanceを紹介されてオープニングDJとしてのチャンスを貰うようになったのが僕とRenaissanceの関係の始まりだよ。
HRFQ : 先ほど、今度リリースされるMix CDであるBalanceの話が出ましたが、収録曲に関してお話していただけますか?
Anthony : CD 1は完全にブレイクビーツの作品になっている。オーストラリアのブレイクビーツ・シーンはとても大きくて、僕自身もブレイクビーツが大好きでだし、それに何か今までと違う事がやりたいとも思っていたから、今回の作品はこの路線で行こうと決めたんだ。スタイル的にはNorthern Exposure系のブレイクビーツを中心に、チルでファンキーなんだけど決して重たくない感じになっていて、殆どアフターアワーズ系のブレークビーツCDと言ってもいい雰囲気なんだけど、かといってチルアウト系のCDでもない・・・CD1の方はそんな感じかな。一方で、CD2の方はハウシーな感じでスタートして、だんだんとテクノっぽくなっていく感じ。途中でいくつかプログレッシブ系の音も入っているし、2枚目はどちらかというとHouse/Technoよりの作品だと考えてもらっていいと思う。だから1枚目と2枚目は違う雰囲気になっているんだけど、それでいてお互いに調和が取れていて、トータルのパッケージとしてはとても良い感じに仕上がっていると思うんだ。
HRFQ : Pappa and Gilby名義の作品については如何ですか?
Anthony : 今のところ2作品の予定があるんだ。一つは"Autojiya"という作品で、これは6ヶ月ほど前に作った作品だから決して新しいとい言う訳ではないんだけど、今頃ちょうどリリースされているころだと思う。それからもう一つの方は"Miracle"と言う曲で、こっちはまだリリースされていないけど、近いうちに発売になるはずだ。でも、もっとたくさん制作しないとダメだと思っているんだよね。あちこちツアーで周っているから、なかなか大変なんだけど・・・。
HRFQ : そうですね。本当にあちこち旅をされていて、まさに世界を飛び回っている訳ですからね。いつもラップトップを持ち歩いていているんですか?
Anthony : うん。いつでも制作できるようにMacを持ち歩いているよ。ソフトはLogicを使っているんだ。
HRFQ : 何かお勧めのソフトは他にありますか・
Anthony : 最近では、AbletonのLiveがとても気に入っているね。良いソフトだよ。
HRFQ : 最近、Progressive Houseのサウンドが以前と比べてよりアップリフティングでメロディアスになって来たと思いますが、これについてはどう思いますか?
Anthony : これはProgressive Houseだけに言えることじゃなくて、音楽全体に言えることなんじゃないかな。ついこの間までは、どれもこれも余りにダークで歪んだ感じになり過ぎていた感があって、シーン全体も退屈なものになっていたからね。でもその結果として、自分で自分の首を絞める形で壁にぶち当たってしまい、今はグルッと一回りして戻ってきた感じなんだと思う。でも、僕はProgressive Houseだけじゃなくて、HouseやTech House、それにBreak Beatsなんかもプレイしているし、結局のところ、それらをつなぎ合わせて、どうやっていい流れのセットを組めるかということの方がもっと大切だと思うんだ。
HRFQ :最近プレイしているお気に入りの曲を何曲かあげてもらっていいですか?
Anthony : Silver Planetから出ているRhythm Unlimitedの"All I Want To Do"。これはヤバイ。あと、Submissionから出ているPig and Donの"Basement"という曲かな。この曲は今度のMix CDの中にも収録したよ。
HRFQ : たくさんのデモCDを受け取られると思いますが?
Anthony : 今度のMix CDを出すに当たって、1ヶ月の間に約1,300曲くらい、あるいはそれ以上を貰ったね。100枚のCDR、いや実際には120枚くらいだったかな。Mix CDにはそういった曲の中からベストと思えるものを何曲かだけピックアップして入れたんだけど、プレイする時は良い曲であればドンドン使っているよ。
HRFQ : 日本人DJからポテンシャルのある楽曲を貰ったことはありますか?
Anthony : OMB、Hattori、Satoshi、Osamu M、他にも何人かいるね。日本に来る度にたくさんの人がCDをくれるんだけど、勿論良ければプレイするようにしているよ。
HRFQ : あちこちツアーをされている中で、そういった音を聴く時間を見つけるのはなかなか難しくないですか?
Anthony : でもそれが家にいる時にやっていることで、平日はレコードを選ぶ作業になるべくたくさんの時間を費やすようにしているんだ。まぁ、DJがステージに現れてみんなに「スゴイ」と思われているのはせいぜい3時間くらいのことかもしれないけど、結局は準備が必要なんだよね。僕はもう17年間もDJをやっているから、今更Mixのやり方は勉強する必要はなくて、基本的には音を聴いた上でその曲がどこにフィットするか等を見極めていく作業が僕にとっての準備なんだ。
HRFQ : あなた自身トップDJの一人として、何千人という人の前でプレイする機会があると思いますが、そういう時はどんな気持ちですか?
Anthony : 時々神経質になることがあるね。DJをやっている限りは、どうしてもナーバスになってしまうことはあるし、お客のことを考えないようにしてプレイする事も時にはあるんだ。全く考えないというわけじゃないんだけど、あまりそれに惑わされないようにして、ただひたすらにプレイするって感じで。それにクラウドから強迫観念を感じることも時々あるし、クラウドが大勢の時は特にそうだね。「たくさんお客も入っているし、いいパーティーにしなければ」なんて考え始めると、自分に馬鹿な質問を投げかけたりしてナーバスになったりすることもあるんだ。でも、そういう感覚が本当は好きなんだけどね。
HRFQ : 難しいとは思いますが、今まででのベストギグをあげるとしたら?
Anthony : ブエノス・アイレスでの大きなイベントかな。あれは本当にビックだった。
HRFQ : どんな感じだったんですか?
Anthony : 5,000人くらいの人がいて、メンタルな部分やその他の部分でも本当にビックなイベントだった。みんなスロウでファンキーなものも好きだったから、ビルドアップしていった後に来たクライマックスは本当に最高だったよ。とにかくメチャメチャ反応の良いクラウドだったね。あと、ハンガリーもみんなひたすら音楽を愛しているって感じで良かったよ。
HRFQ : 未来のスーパースターDJに関して、誰か可能性を感じる人はいますか?
Anthony : 彼は僕の友人なんでひょっとしたら偏った意見に聞こえるかもしれないけど、オーストラリア出身のPhil Kに可能性を感じるね。本当に才能のある男で、ずっと前から「スゴイ奴だなぁ」とは思っていたんだけど、最近Dave Seamanと一緒にCDをリリースした事もあって、やっと有名になってきたんだ。Daveと時々一緒にツアーもやっているから、みんなが彼を目にする機会もこれから多くなるんじゃないかな。認知度さえ上がってくれば、彼は間違いなくスーパースターになれるDJだと思うよ。でもPaul Oakenfoldみたいなスーパースターってことじゃなくて、色んなところでプレイする名の知れた意味でのスーパースターってことだけどね。
HRFQ : これから先の話に話題を移しますが、今年の予定は?
Anthony : 6月、7月までは、たくさんのツアーを続けながらBalance CDのプロモーションを行う予定になっていて、夏にはギリシャ、スペインなどのヨーロッパ諸国で多くを過ごすことになると思う。あと、出来ればシングルを制作する時間と、今年の後半にもう一枚コンピレーションを出せるような時間を持ちたいと考えているんだ。コンピに関してはどれ程のオプションがあるかどうかは分からないけど、(Balanceを出したばかりで)時期尚早だとは思っていないからね。
HRFQ : 今年中に再来日できる可能性はあると思いますか?
Anthony : 勿論!日本は本当に大好きだし、素晴らしいところだよ。次はガールフレンドと一緒に来て、出来れば1週間くらい滞在したいものだね。出来れば1年に一度以上は来たいなぁと思っているんだ。
HRFQ : 日本のファンに何かメッセージはありますか?
Anthony : 僕のNew Mix CD "Balance"をお店で見つけよう (笑)。あと、また近いうちにみんなに会えるのをとても楽しみにしているよ。アジアのシーンはとても強力だから、これからもサポートしていきたいと思っているんだ。ひょっとすると世界の他の地域より強力かもしれないね。これはシーン全体が下向きの状況の中ではとてもいいことで、いろんな所でシーンがピークを過ぎて下がってきているのに対して、日本では今でも強力だからね。
Global Underground Tokyo feat. Anthony Pappa イベント情報 (2004/12/11)
End of the interview
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