本名 : Alex Prat、熊野 功雄
スタイル : テクノ
出身地 : 日本、フランス
関連プロジェクト : Alex From Tokyo
関連レーベル : Innervisions, Deeply Rooted, Reincanation
オフィシャル・サイト : http://www.myspace.com/tokyoblackstar
日本の、いや世界中の先鋭的なクラブ・シーンの人気者、Alex from
Tokyo。東京とニューヨークの二つの大都市を拠点に世界中を飛び回るこのフレンチDJと、エンジニア/サウンド・プロデューサーとしてワールドレベルのサウンドを手掛けるイサオ・クマノの2人のコンビが Tokyo Black
Star だ。それぞれの詳細なプロフィールや音楽遍歴は書き出したら相当のスペースが必要とされるので、ここではあえて触れずにおくことにするが、2人の最初の出会いは90年代中頃。今を遡ること十数年前になる。以後、イサオ・クマノが手掛けるラジオ番組の制作やアレックスが持ち込むダンス・クラシックスのリ・エディットの制作等で親交を続けてきた2人は、'00年、NY
ハウスの雄、Big Moses や、アフロ・ビートの名ドラマー、Tony Allen の作品のリミックスを2人して手掛けることになる。それらのリミックス・プロダクションがあって、この Tokyo
Black Star (以下TBS) は誕生することになる。そして、これらのリミックス・プロダクションで手応えを感じた2人は、より積極的に楽曲制作に取り組んでいく。'02年にフランスの
DJ Yellow 率いる Yellow Production の人気コンピ "Bossa
Tres Jazz 2" のために制作した楽曲 'oka uja' が初のオリジナル楽曲のリリースとなる。
Alex from
Tokyo とイサオ・クマノ。この2人の奇蹟的に絶妙なバランスは素晴らしい。それはお互いのスキルに対する全く惜しむことのない最高レベルのリスペクトの上に成り立ち、それが自然とそれぞれの役割を決定し、事を運ぶ。これが可能なのは、2人に共通の「何か」があるからに他ならない。TBS におけるその「何か」とは? 2人の口から異口同音に発せられる言葉は明瞭で力強く、説得力のあるものだ。『自力で作る』。これが意味するものは何か?TBS の2人は続ける『予算ありき、マーケティングありきではなく、自分達の感性のおもむくまま自由に制作する』。『フィーチャリング・アーティストの名前の力や、お金をかけた宣伝に頼ってしまっては意味がない』と。それはつまりインディペンデントなスタンスでやっていくということだ。『音楽が自由を失ってはいけない』。
あくまでも『ピュアなマインドで、クリエイティヴィティー100パーセントで』。かくして、Alex とイサオ・クマノの2人はお互いが日本にいるタイミングに時間を作り、お互いの状況が許す限り、イサオ・クマノのスタジオを拠点に自由に制作を続けてきた。そして、制作した楽曲は Alex がDJに行った先々で仲間に手渡す。どこからどこまでも DIY (Do It Yourself)を貫いてきた。
'04年、TBS の楽曲 'BLADE DANCER' が出来上がって、Alex はドイツのクロスオーバー系のインディ・レーベル、Sonar Kollektiv に所属する友人 Dixon に音源を渡した。反応は早かった。『この曲をリリースするために、新しいレーベルを立ち上げたい』と伝えてきた。それが、今や、先端的なダンスミュージック・シーンから絶大な支持を誇るドイツの人気レーベル、 Innervisions なのだ。TBS をはじめ、Ame、Henrik Schwarz …等々、新世代の名立たるアーティスト達の素晴らしい作品をリリースしているが、 Innervisions のスタンスもまた『ピュアなマインドで、クリエイティヴィティー100パーセントで』なのだ。 Innervisions の他にもTBSは ’05年 'RAINBOW featuring Yurai' をフランスの DJ
Deep のレーベル Deeply Rooted からリリースしたり、イタリアの友人エンリコに贈った楽曲
'REINCARNATION' はそのまま彼の運営するレーベル名になったり…。自由なクリエーションの結果生まれた楽曲が、志を同じくする仲間と繋がり、共鳴し、新たな場(レーベル)を作り、新たなアーティストの発表の場へと派生していく。これほどエキサイティングなことがあるだろうか。TBS はまさしくその渦を巻き起こす原動力となったのだ。
『TBSは…イマジネーション(想像) VS インフォメーション(情報)なんです…。』と、イサオ・クマノは言う。『どうすれば売れるか?』のために情報を収集(マーケティング)し、それに合わせた『商品』を作るのではなくて、純粋に内側からくるもの、ピュアなイマジネーションを音に反映させた『芸術』をクリエイトしているという自負がTBSにはある。お金にものいわせ展開される宣伝や、匿名で書き込まれるインターネット等の掲示板やブログ。そういった無責任なインフォメーションが溢れる現代の世の中で、音楽においてもインフォメーションの力は計り知れない。しかし、TBSは聴く者の内側にある直感と、そこから沸き立つイマジネーションの力を信じている。だからこそ、彼らも『自力で作る』にこだわり、外のインフォーメーションを気にせず、自分達の直感とイマジネーションの力を信じて、納得いくまで自由に制作してきた。無責任なインフォメーションによって消費される商品を作るのではなく、人間に与えられた感性を信じて、イマジネーションというポジティヴな力で繋がるために。TBS の2人が共有するものはここである。そして彼らの作品に触れ、遂にはレーベル Innervisions まで立ち上げてしまった Dixon も同じものを共有している。 Innervisions 、この言葉はまさに直感から沸き立つイマジネーションのことだ。そして、TBSのファースト・アルバム "BLACK SHIPS" に素晴らしいアートワークを寄せているニューヨーク在住の日本人アーティスト、トモカズ・マツヤマも共有するものは同じだ。
彼ら TBS のイマジネーションが詰まったこのアルバム "BLACK
SHIPS" は、彼らいわく『幕末に来航したペリー艦隊「黒船」とかけてるところもある』という。これは非常に面白い。当時、鎖国をしていた日本に開国を要求してきたアメリカの艦隊だが、肌も目の色も、使っている言葉も違う人間が、モクモクと黒い煙を立ち上らせた何やら剛そうな蒸気船でやってきたのである。当時の日本人には、それはもう、ワケがわからないもの凄いパニックだったに違いない。そんなパニックを引き起こした「黒船」とかけているということ…。人は未知なるものと向き合うとき、イマジネーションを全力で働かせているものだ。未知ということは情報がないということだから、情報=インフォメーションより先にイマジネーションが働くのが自然なのだということを示している。TBS
の "BLACK SHIPS" は溢れるインフォメーションの鎖でがんじがらめにされてしまっている現代人に対し、その鎖を断ち切って、心を開いてイマジネーションを働かせていこうとメッセージを投げかけている。
TBS のファースト・アルバム "BLACK SHIPS" は、彼らの言うとおり『この作品が、素直に生きていくこと(の良さ)を証明し、人のエネルギーになるようなものであれば…』。ということだが、この作品がリリースされるということは、それが決まった時点で Innervisions によって既に証明されたと言えるだろう。あとはイマジネーションの力、感性による繋がりの拡大を期待したい。 (Kenji Hasegawa : gallery)
Tokyo Black Star : インタビュー
Tokyo Black Star インタビュー (2009/04/06)
Tokyo Black Star 関連リンク
Tokyo Black Star Myspace Page
Alex From Tokyo website
Innervisions website