ニューヨークと東京を拠点に活動をしているフレンチDJ Alex from Tokyo と、エンジニア/サウンドプロデューサー熊野功雄によるユニット Tokyo Black Star。Dixon と Ame 主宰によるベルリンのカリスマ・レーベル Innervisions からこれまでに4枚のEPをリリース、さらに数々のリミックスワークも手掛けるなど国内外各地で高い評価を受けている。そんな彼等が4月4日、Innervisions からは記念すべき初となるアーティスト・アルバム "Black Ships" をリリースした。これまでの集大成を発表した直後となる、様々な思い溢れる彼等に HigherFrequency がインタビューを決行。2人の関係やアルバム "Black Ships" についてはもちろん、日々変わり行くシーンの中に長年身を投じてきた2人だからこそ言える深い音楽への考え方などを、フルボリュームで語ってくれた。
Interview & Introduction : Midori Hayakawa (HigherFrequency)
Tokyo Black Star - 'Black Ships' Promo movie
HigherFrequency (HRFQ) : お2人の出会いから、ユニットとして活動を開始するに至るまでのエピソードをお聞かせ下さい。
Kumano : 初めて会ったのは '97年あたりかな…当時クラブのパーティーを特集する DJ Mix の番組をやっていて、スタジオにDJの人に来てもらって1時間のミックスを毎日のように録っていたんですね。そこで Alex とは初めて知り合いました。そこから後に独立して会社を作って、わりと自由にできるようになったので、Alex と好きなことやろうよということで関係が始まりました。
Alex : 熊野さんがモザンビークというスタジオで働いていて、その時にクラウン・レコードでコンピレーションの企画があり、その中で2人で1曲作ったのが始まりですね。
HRFQ : 初めて会った時のお互いの第一印象は?
Kumano : ん〜日本語しゃべれるじゃんって(笑)
Alex : みんなそうなんじゃないかな(笑) 機材がたくさんある狭いスタジオの部屋で、鬼のように忙しくしていて、この人すごい!と思ったことを覚えていますね。
Kumano : 昼は収録して、夜はクラブイベントやって、本当いつ寝てたんだろうってぐらい忙しかったですね。ダンス系のジャンルは全部やっていましたね。
Alex : 僕もDJやっていたから、お互いごちゃごちゃしたライフスタイルの中でいつも連絡取り合って、収録は日曜日が多かったんですよ。毎回遅刻をする僕に合わせてくれて、すごくいい人だなという印象でした。
HRFQ : お互いの魅力についてお聞かせ下さい。
Kumano : いろんなことを同時にできる、僕も Alex もそういうタイプなんですよ。お互いやるな!って。
Alex : そうそう。いろんなことを調整できる、adapt できる。今でもそうなんだけど、性格的にもライフスタイル的にも、だいぶ違うんだけれどもすごくかみ合っている。
Kumano : だんだんそうなったというよりは、元々そんな感じだったよね。特に制作ではカタいことをやっていると、どういうふうにしたいのか合わせるって感じになるんだけど、そういうのが全くないですね。セッションになってる。
Alex : そう。すごく自然にここまで来れた。お互いのことをリスペクトして、そこから関係が始まったから、いきなり友達というよりは仕事的な入り口から入って、徐々にいろんなことをやるようになっていったという感じですね。お互いに持っていないところを持っている。一緒にいると勉強になるよね。健康的な関係でもある。アーティストの立場からすると、セッション、コラボレーションだね。
HRFQ : それぞれの音楽的なバック・グラウンドで共通している部分はあるのですか?
Kumano : Prince とか好きだったね。やっぱもともとダンス・ミュージック的なエレクトロニックビートが好きだったね。ジャズを勉強したりもしたけど、結局ダンス・ミュージックが好きで、Alex とはそういう世代的に同じ時代にいたからね。
Alex はDJで、僕もDJの人を相手にミックスを録る仕事をしていたので、感じる感性とかお互いバッチリくるところがあるね。
バック・グラウンドは何だかんだいって共通している部分があるんじゃないかな。
HRFQ : 具体的なアーティストで言うと?
Alex : さっき Prince の話が出たけど、結構 Prince は話題に出てくるよね。
Kumano : まぁでもエレクトロニックな Drum Machines が好きだったから、すごい独特なビートを出してたのは当時は Prince が一番すごかったんじゃないかな。
その後はクラブでかかるダンスミュージックがだんだん進化していったからそれを追っかけていった。なかでも Larry Head は二人とも大好きで、本当にかっこよかった。そのころのレコードの音は今聴くと意外にしょぼかったりするんだけどね(笑) Mr. Fingers とか今でも好きだよ。
Alex : よく出てくるのは Larry Head、Underground Resistance、Prince、あともちろん、YMOだよね。
後、もっと幅広く言うと、音楽以外だと、とても影響されてるアーティストは岡本太郎、Antonio Gaudi, Stanley Kubrick, イサム・ノグチがいますね。
HRFQ : Tokyo Black Star というユニット名の由来は?
Alex : 初めてのリミックスの仕事で、Kerri Chandler のサブレーベルから作品を出す友人と一緒に仕事をしたんですね。Kerri Chandler がたまたま日本に遊びに来たとき、友達の家でそのリミックスを聞きながら、Black Star っていうシャンパンでイェーイ!ってお祝いして。Black Star って響きがいいなと思って。哲学的な意味は全くないね(笑)
HRFQ : Tokyo Black Star の音のスタイルやコンセプトは?
Alex : ファンクだよね。
Kumano : 結局グルーヴが出てしまう。
Alex : そうだね。
Kumano : わりと軽いの作ってみようと思っても、ドープでファンキーなものになってしまうんだよね。
お互いが盛り上がる状態になっちゃうとそうなってしまうのかな。うわ、きた!ってとこまでに到達するのが早いんですよ。同じことをやっていても飽きるから、時間をおいて、生の音入れたり、より新鮮な形にするっていうこともある。
Alex : フリーにやってるよね。ジャンルもないんだけど。熊野さんのスタジオのつくりから始まってるから、そこにやっぱりスタイルはあるよね。ケーブルを作ったりとかそこから始まって音ができるから。
Kumano : 制作方法としては確かにスタジオがベースになっているんだけど、そこで出る音っていうのは何曲かやると、また同じようなことになってきちゃって、そうするとつまらなくなってしまう。面白くないと作品として成立しないから、あえて自分の家の楽器使わないとか、友達の家に行って触ってみるとか。何しろ飽きないようにしてるよね。
HRFQ : 先日リリースされたファースト・アルバム "Black Ships" についてお聞きします。 まず Innervisions との繋がりは?
Alex : '99年にフランスの Yellow Productions レーベルから "Bossa Tres Jazz" っていうプロジェクトに関わったときに Sonar Kollektiv の Dixon と知り合い、それから2004年に彼がニューヨークにプレイしにきて、その時に彼に渡した 'Blade Dancer' って曲を気に入ってくれて、「出したいんだよね!」って連絡があって。Ame とレーベルを始めることになったんだけど、彼等とはビジョンもそうだし、雰囲気もそうだし、特別な関係ですね。自然にここまで来たって感じですね。
Kumano : アルバムもいつまでに何曲作んなきゃとか、そういうのも全くなくて・・・
Alex : 準備されたときにやろうよっていうか。
レーベルの初めてのEPも僕等で、初めてのアーティスト・アルバムも僕等がリリースするって、何かそういうプロセスになっているんだなって。
一緒に仕事をしていて気持ちいいし、やりやすいし。ただ友達で仲がいいからとかではなく、それ以上に音楽でコミュニケーションがとれていて、刺激になっている。
Kumano : Tokyo Black Star としてどんなものを作るって意識しないで、出来ちゃったものをそのまま送ったら、そのまま出したいって。本当にいいの?ってこっちが聞きたくなるぐらいだったよ(笑)
チャレンジングなことやってるんだけど、意外とすんなり受け入れてくれて。
Alex : でもその分こだわりも強いし、厳しいところもあるよね。その中で音楽でコミュニケーションしているからすごくいいよね。
HRFQ : 楽曲制作におけるそれぞれの役割、2人の間の作業のスタイルは?
Kumano : コンピューターの画面上の操作は大体僕がやるんだけど、Alex がつまみでグィ〜っとやったりとか叩いたりとか、眠くてイスにもたれて「最高!」って言うだけのときもあるし(笑)
Alex : メインのマシン担当は熊野さんだね。
Kumano : 曲聴いてわかると思うんだけど、大したことしてないんですよ(笑)
HRFQ : 制作するときは、常に一緒にということですか?
Alex : そうだね。一緒にいると遊べるからね。
Kumano : いい年こいて、「今のキター!」とか「コナい」とかいってる(笑)「もうちょっとイケるだろー」ってやり直すとかね(笑)
HRFQ : デジタルセールスは上昇、CDセールスは低下しているという状況下でCDアルバムを出すことに関してどうお考えですか?
Kumano : チャレンジだよね。本当はアナログのアルバムを出したいわけなんだけど。今はこの形がベストだということだね。
Alex : 今のCDマーケットは特に厳しいから、アイディアとしてはすごくシンプルなパッケージで安いものを作るか、すごくハイクオリティで凝ったものを作るか、中途半端なものはダメだという結論になったんだ。
Kumano : 遊びが遊びを呼ぶようなことが、ペインティング作品を提供してくれたマツさんにもバッチリ言えるんですよ。僕等が楽しく作ったものに答えてくれた。さらにそれが遊び友達を呼ぶように先の面白いことに繋がっていくよね。
デジタル配信の方がリスクも少ないし、運営・経営としての観点はビジネスの問題であって、
僕等がやってるのは遊びだから、遊べるのか遊べないのかそれは自分の責任で、やれるとこまでみんな持ち寄って遊ぼうよって。それぞれのできるギリギリの能力の中で面白いことをやっていくっていうね。確かに今の時代、CDなんて出さなくてもいいかもしれない。売れないしね。でも、本当にいいパッケージができた、これは自分でも本当に欲しいわけなんですよ。
Alex : そうなんだよね。ここまで一緒にやってこれて、こんなに素晴らしいものができて、言い方は変なんだけど、それでもう充分満足なんだよね。
Kumano : 僕等はパーティー世代だから、オーガナイズするときは常にリスクは負っているわけで、遊びだからそれは引き受けて、成功したら最高になる。それは制作もそうだしDJもそうだし、レーベルもみんなそうだけど、心意気がないとね。電卓を弾いてこういう音楽が売れる、こういうやり方だとリスクがないからとか勝手にやってくれよと。俺は勝手に遊ぶからっていうところはあるよね。割と今回のものは男気があるんじゃないですかね。そういう意味では。
HRFQ : 将来のビジョンは?
Kumano : 持ってたらファースト・アルバム出すのに10年もかからないよね(笑) 遊び続けられるかどうかは重要な課題だね。
Alex : 1つの夢として、映画音楽とかはやってみたいよね。今回のアルバムは、単純にダンス・ミュージックのアルバムではないので、近い将来、もっともっと面白いプロジェクトをやっていくことですね。
Kumano : アルバムもライブもそうだけど、僕等は一応最高だと思ってやるわけなんだけど、誰も評価してくれない可能性もあって、今回売れないかもしれないし。でも一緒にやろうって言ってくれてる仲間がいて実現するから。
僕と Alex の中での遊び根性みたいなものは、よほど虐げられない限りやり続けると思うんですよ。相手にされなくなっても(笑)わかんないですよ。世の中の現実とのバランスが。やってみなきゃわかんないですよ。
HRFQ : HigherFrequency 読者へ伝えたいことは?
Alex : 今回のアルバムにはメッセージがあって、みんなと一緒にコミュニケーションをとって、遊び続けること。その気持ちをキープすることかな。
Kumano : 楽しくなくなっちゃったら無理して聴く必要もないし、遊びにいく必要もないし。楽しいところに向かっていこうよって。やる方もそうだし聴く方もそうだし、無理して付き合う必要もないと思う。正直にやりましょうよ。楽しくあれるようにね。
Alex : 音楽で自由になろうってことですね。フリーになりましょう。
Kumano : 表現物を共有することはさ、精神的な繋がりとか遊びとか、そういうものって本当にいいコミュニケーションだと思うんで、そこを正直にできるような遊び方をみんなができるといいなって思います。
Alex : 僕等がダンス・ミュージックにハマリ始めた頃と比べてクラブもそうだけどフリーな場所ではなくなったから、それが全体的に反映されているから、これから楽しく面白くやり続けるためには新しいこともやって、フリーにやっていかないとね。
HRFQ : どういうところがフリーじゃなくなっていると感じますか?
Kumano : やっぱりね、うまくやろうと思いすぎなんじゃないですかね。それでみんなが同じような感じになっていくのが窮屈な感じはしてて。そうやって生きていこうと思うと作品もつまらなくなるし、ゲットーでめちゃくちゃな方が作品は面白いと思うんですよ。
Alex : 情報社会になって想像力を生かす時間と場所もどんどん失いつつあるから、それが全体的に流れていると感じるね。世界全体に言えることなんだけど。それがもう一つのテーマでもあるね。イマジネーションをもっと生かそうよってね。
Kumano : 昔は景気がよかったからそういう余裕があったんだよね。だから売れる売れないとか知るかって感覚でやっていたんだよね。音楽っていうものがもっと自由だったね。
Alex : 心も自由だったね。
Kumano : はみ出る部分を楽しめる余裕があったのかもしれないね。
Alex : 恐がらないで、思い切ってやりたいことをやりましょう!
Kumano : エンジニアリングの仕事もしている僕が言うのもなんなんですけど、
作る人はクオリティーを追求しすぎなのではないかと思うんですね。クリエイティブティーの方が大事だと思うんです。なんでもある程度のクオリティーがないと恥ずかしい、と思いすぎで、クオリティーが高くてもクリエイティブティーがなかったらつまんないよね。作る人はそういうところに入り込みがちなんだけど、結局はイメージの伝達だから、何をやっているのかってことが一番大事だと思う。
End of the interview
■Tokyo Black Star のファースト・アルバム "Black Ships" が遂に完成!
この "Black Ships" を率いるのは優れた才能を持つ2人の戦士達によるユニット、Tokyo Black Star だ。感度の高いアンテナを武器に、東京とニューヨークの二つの大都市を拠点に世界中を飛び回るフレンチDJ、アレックス・フロム・トーキョー。そのアレックスを東京の基地(スタジオ)で迎える相棒、イサオ・クマノ。彼はソロ・アーティストとして活動しつつ、この基地の主として、ミキシングからマスタリングまでを統括する優秀なエンジニア/サウンド・プロデューサーなのだ。彼ら Tokyo Black Star の航海は実に様々な出会いに溢れつつ進んできた。Sonar Kollektiv の Dixon との出会いは、このアルバムをリリースするレーベル、Innervisions 設立のきっかけとなったし、'STILL SEQUENCE' はニューヨーク在住の画家で新進気鋭の日本人アーティスト、トモカズ・マツヤマとの出会いを導いた。その彼は "Black Ships" のこの素晴らしいアート・ワークを手掛けている。さらに、持ち前の渋い声が魅力なブラック・ポエット、Rich Medina も物語りの登場人物として加わり、Tokyo Black Star のステート・オブ・マインドを宣言!本作、 "Black Ships" はそんな Tokyo Black Star のノンフィクション航海記であり、そして同時にイメージの世界を航海する最高のフィクションなのだ。アップ・トゥ・デートでクラブ・オリエンテッドなダンス・ミュージックのスタイルのなかに見事に落とし込まれたダンスミュージック・ノヴェルと言えるだろう。出航の高揚感を想わせる冒頭。そして、ときに順調に、またときには困難に直面しつつの緩急に富んだ航海。二度、三度と訪れるクライマックスを経て、またあらたな航海へと。あなたがPLAYボタンを押せば、物語りのスタートだ。舞台の始まりは、海賊達が集うといわれる決して地図に載ることのない港?あるいは遥か銀河の彼方の宇宙ステーション? (Text : Kenji Hasegawa (gallery))
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スペシャル : Innervisions
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