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NIGHT FISHING

Report

NIGHT FISHING

  • Text : Hiromi MatsubaraPhoto : 太田好治

  • 2015.9.10

  • CDJ-2000NXS2 DJM-900NXS2

TimeOut Cafeで行われた「Part1」での、転換時のこと。サカナクション・山口一郎は、「みんなノってる? みんなもっと自由に動いていいんだよ。ドリンク買いに行っても良いし」とオーディエンスに微笑みながら話しかけた。ただその言葉には、表情とは裏腹に若干の緊張感が込もっていたようにも感じられた。サカナクションが手掛けるクラブイベント『NIGHT FISHING』は今回が念願の初開催。そして会場に集まったオーディエンスの多くは、クラブイベントという音楽の遊び場に来るのが初めて、とのことだからオーガナイザーから緊張感が漂うのも無理もない。それでも次第に、すぐ側でゲストたちのパフォーマンスを見ながら楽しそうにノっている山口一郎を見て、一緒になって揺れる人も現れたり、彼の「音楽を探してみて」という言葉を手掛かりに新しい音楽の遊び場をフルに楽しもうとする人の熱心な姿勢が、『NIGHT FISHING』の濃密な雰囲気を作り上げていった。

 

『NIGHT FISHING』は、サカナクションの音楽を構成するアート、ファッション、テクノロジー、またそれを仕事としている方々をより知ってもらうことを大きなテーマとしているが、「Part 1」「Part 2」と題されたパーティーシーンにフォーカスすると、“クラブイベントでの音楽との触れ合い方”を存分に楽しんでもらおうということに重点を置いている。DJやエレクロニック・ミュージックをライヴで披露するアーティストたちによって多様な音楽が流れるクラブで、音楽にノり、探し、出会うといった体験をすることで、音楽観や嗜好も自然とアップデートされていく。音楽そのものの見方と聴き方が新しくなれば、サカナクションの音楽もまた新たな視点で楽しむことができる。これは、かねてよりクラブ・ミュージック好きを公言している山口一郎はもちろん、サカナクションの音楽性/音楽観を作り上げている重要なルーツとなっている1つの音楽の循環だ。そういう、彼ら自身が体験してきたある音楽の循環をみんなにも楽しく体験してもらおうと、新たな遊び場をオーガナイズする側に回ることは非常に意味のあることだ。

とにかく内容と演出が初回に相応しく非常に充実していた。まずラインナップで言えば、個人的に出演することが意外に感じられたQrionが、USツアーを経て磨きのかかったパフォーマンスで多くのオーディエンスの心を掴んでいたのが素晴らしかった。ライヴ後はCDも相当売れていたし、会場でたまたま会った友人も初見にも関わらず彼女のことを絶賛していた。

 

「Part 1」では会場が『Boiler Room』スタイルを踏襲したセッティングだったことに、彼らのクラブ・ミュージック好きをいきなり実感させられた。本家さながらのカメラ位置でライヴストリーミングが行われ、オーディエンスはブースを180度囲み、アーティストと近距離で熱やヴァイブスを共有する。『Boiler Room』がどうこうと言われずにそのもの知らずとも会場の多くの人がそのフォーマットを堪能していることに僕はとても興奮した。『NIGHT FISHING』凄い、『Boiler Room』も凄い(今後実際に両者がコラボすることがあったらもっと凄い)。そして、そんなセッティングの中でのAOKI takamasaとBUNによるライヴユニットNeutralのパフォーマンスに僕はさらに興奮した。TimeOut Cafeを破裂させるかのごとく高音から低音までがほぼ均一に混ぜ込まれた音像を増幅させていく2人の手元と、演奏中の2人のコンタクトの様子を、終始ほぼ真横から眺めることができる機会はなかなか無いだろう。

 

「Part 2」でもトップバッターの和太鼓バンドGOCOOのパフォーマンスにいきなり衝撃を受けた。メインステージのサイドからフロアに直接的に伝わってくる圧倒的な熱量と躍動感の和太鼓演奏に、始めフロアはただただ息をのんで見つめるのみという感じだったが、曲が進んでいくごとに段々と一体となってグルーヴを感じ、さらには演奏と一緒になって手拍子をしたり歓声を上げたりしながらグルーヴを作っていくというのは、この日唯一無二と思える光景だった。この後の深い時間に、〈op.disc〉のTaroや、AOKI takamasaとMAAによるDJユニットのA.M.が熟練のテクニックでフロアを揺らすグルーヴを作り上げていたが、それとはまた異なっているようで、しかし根本的な体感はそれほど差が無いような不思議なグルーヴをGOCOOは披露していた。またグルーヴという点で言えば、VJのRhizomatiksがメインステージに組み立てられた全面スクリーンに映し出した映像の数々が、グルーヴに呑み込まれるという感覚を視覚から体感させるようだったことにもかなり鮮烈な印象を受けた。こういうところで、改めて『NIGHT FISHING』のテーマを実感する。音楽は必ずしも身体にくる振動を楽しむだけのものではない。映像やノリノリで楽しそうに揺れている周囲の人といった目から入ってくる情報や、それを受けて自然と内側から湧いてくるもの、肌に浸透してくる熱なども、音楽を感じ、探し、楽しめる重要なポイントであり、おそらく『NIGHT FISHING』はそういうことを徐々に実感して(、理解して)いくことを積極的にサポートしている。

 

 

 

 

「Part 1」から「Part 2」と立て続けにフロアにいたことも含め、あまりにフロア上の人の流れが無くて息が詰まりそうになった瞬間に、気分転換にフラっと訪れてみた、KATAの「EXHIBITION」がまた格別に居心地が良かった。展示されていた写真家・奥山由之のヴィヴィッドできめの少し粗い写真は、『NIGHT FISHING』に新たな視点と感情を与えるものがあったし、そもそもクラブイベント中にギャラリー的なアートの空間に移動することがあまりないため、初めて同じクラブの中で音楽と写真を交互に知覚するという体験をすることができた。オーディエンスが現場で異なるフォーマットの表現物の持つ“気”や“意味”を意識的に連結させていくことをし易いのも『NIGHT FISHING』のテーマを実感させられるポイントだ。

 

いつだったか、山口一郎が「シーンを作っていくのはリスナー」だと言っていたことを思い出す。クラブイベントもそれと同じだと思う。クラブイベントはライヴイベントよりも“アーティスト対オーディエンス”性が弱まり、より近い距離感で密に楽しめるからこそ、クラブイベントにおける最高の雰囲気を作るのには、DJやアーティストのパフォーマンスだけではなく、パフォーマンスに応えるオーディエンスの姿勢も同等以上に重要になってくる。フロアにいる限りはグルーヴを感じ続け、そのDJのテクニックを見つめる。『NIGHT FISHING』で気になったDJがいたら、そのDJがプレイするパーティーへ遊びに行き、また次の『NIGHT FISHING』へ戻ってくる。このサイクルが、フロアでの音楽の味わいをだんだんと変化させるはず。そして、『NIGHT FISHING』というパーティー、ひいては日本のクラブシーンをひと回りもふた回りも大きくすることに自然と繋がっていくだろう。とりあえず僕は、山口一郎が予てより推しているFloating PointsとStimmingのプレイがいつか『NIGHT FISHING』で観ることができる日を心待ちにしている。

 

 

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