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Camp Off-Tone 2015

Report

CAMP Off-Tone 2015

  • Text : Kenjiro HiraiPhoto : Tomoko Matsusaka (Off-Tone)

  • 2016.9.7

  • CDJ-2000NXS2 DJM-900NXS2

行こうよ、アンビエントの森へ ──『CAMP Off-Tone 2016』に寄せて

毎年200人のみに開かれる未だ多くの幻想に包まれた野外アンビエントパーティー『CAMP Off-Tone』。5周年記念となる『CAMP Off-Tone 2016』の開催を目前に、昨年初めて山梨県甲府市のマウントピア黒平に出現する極上のアンビエント空間を訪れ、すっかり魅了されてしまった若き野外フェス愛好家の体験記をお届けします。

 

 

山梨は甲府にあるマウントピア黒平にて2015年9月26日(土)に開催された、野外アンビエントパーティー『CAMP Off-Tone 2015』。今年で開催は5年目となる『CAMP Off-Tone』は、アンビエントサウンドでの遊び方を提案してきたが、その集大成ともいえる野外パーティーの様子をレポートする。ここに記す、パーティーという形で体現されたアンビエントの思想や、『CAMP Off-Tone 2015』ならではの光景に興味を持っていただけたら幸いだ。イントロダクションとして、このパーティーやアンビエントミュージックについて知ることができる、『CAMP Off-Tone』オーガナイザー陣とKaito aka Hiroshi Watanabe氏による『アンビエント対談』に目を通していただけると、より想像が膨らむだろう。

 

 

会場のマウントピア黒平に着いたのは、ちょうど西日が辺りを包むころ。甲府駅では夏の面影を残した嫌な湿気を感じたが、標高1000mを越えるマウントピア黒平の多分に水分を含んだ冷たい空気は肌に心地良かった。近くを流れる清流のせせらぎの音が聴こえ、忙しくない日常との分断を感じるこのパーティーに、僕は心を躍らせながらテントを張った。

 

リラックスした雰囲気のキャンプサイトでは、誰もが思い思いの時間を過ごしていた。早々に乾杯を済ませて談笑を楽しむグループや、虫取り網を片手に茂みに分け入る兄妹、メインフロアのから聞こえてくるオープニングのfishuのDJプレイを聴きながら、父親に「これ何の音?」と質問を投げかける小さな子供。

誰もが肩の力を抜いている様子は、パーティーにエンジンがかかりだす前のムードと言うよりは、『CAMP Off-Tone』全体に通じる、空間の楽しみ方の自由度の高さが現れていたのだと、今になって思う。僕はと言えば、テントを張り終え、折り畳みのイスに座り一息ついたものの、周りの人たちの様子を見て、普段から足を運ぶナイトクラブやフェスとの雰囲気の違いに若干の戸惑いを覚えた。

 

 

そんな気持ちの収めどころを探すように、メインフロアの「Outer Space」に足を運ぶことにした。広すぎない会場全体にOuter Spaceの音が響いていたが、一歩その中心部に足を踏み入れると、その音はかなり気持ち良く身体に沁みてくる。真っ白のテントが重なった秘密基地のようなDJブースを前方に、淡い色のロウソクと背の高い木々に囲まれた広場では、体を突き抜けるのではなく、覆うような音に浸ることができた。音楽を楽しむフロア、というよりも、音に溢れる居心地の良いスペース、と形容する方がしっくりくる場所だ。

fishuのプレイに包まれたOuter Spaceでは、子供たちがカラフルなラケットでボールを打ち合い遊んでいた。一瞬、「ここはフロアなのに」と思ったが、会場内のどこでボール遊びをするか、となると、広さ的にこのOuter Spaceが一番適している。まだ明るく、人も少ない。使えるスペースで自由に過ごす、という発想はこのパーティーでは大切なことなのかもしれない。

 

 

Outer Spaceの二番手は、サウンドデザイナーのAO夫妻によるアンビエント/テクノユニットsorto & nodoのライヴだった。鳥のさえずりなどの環境音を取り入れたアンビエントミュージックと川の音が混ざり、音楽の一部なのか山の音なのか、周囲と音楽が溶け合うようだった。sorto & nodoが穏やかに「次で最後の曲です」と観客に話しかけた頃に陽が落ち、ロウソクに温かな灯が点りはじめた。純白のDJブースから周りの木々の先端まで照らすVJとロウソクの灯。光に囲まれはじめたスペースは、視覚的にも安らぎを与えてくれる空間へと変化していった。

 

 

そして僕は、まだ足を運んでいなかった「Inner Space」にも足を運んでみることにした。Inner Spaceは屋内のステージで、キャンプ場の建物の一室にあり、無料で入浴できるお風呂やボディーチューニングを受けられる部屋も同じ建物にある。お風呂やボディーチューニングもすでに盛況のようで、参加者が音楽による精神的な快楽だけではなく、肉体的な癒しも求めていることが伺えた。

 

Inner Spaceは和室が濃紺の幕の装飾で彩られた空間で、参加者は座布団に座ってリラックスしながらライブやトークを楽しむことができる。本来、音楽のパーティーにあっては邪道なものとしか思えない、アンビエントミュージシャンで小豆研究家のadzukiによる、「小豆塾」も緩く楽しむことができた。小豆や砂糖の種類によって餡子の味が変わること、美味しい餡子の炊き方など、ここでしか聞けない小豆話が、adzukiのレクチャーと参加者のコミュニケーションの中で披露された。後になって、彼が丹精込めて作った白餡最中を食べたが、優しい味が口いっぱいに広がる。彼の餡子への愛は本物だった。僕もここで聞けた話と、参加者に配られた製餡のバイブル、「製餡ノート」は大切に持ち帰っている。何故か参加者の中でadzuki並みに小豆に詳しい方がいて、誰も予想だにしなかっただろう白熱した小豆談義の時間となった。その人の立場に関わらず、人と人の距離感が近く多くのコミュニケーションで溢れるのは、参加者が200人限定という小さな村のような規模感で行われるこのパーティーの特徴であったと思う。

 

 

白熱の小豆塾に次いでInner Spaceでは、Higher Frequencyで掲載した対談の続編、「続・アンビエント対談」が行われた。喜多郎のシルクロードや、先の対談で話題に上がったKaito aka Hiroshi Watanabeの父のアンビエント作品など、いわゆるアンビエントのクラシック以外の楽曲も取り上げながら、アンビエントの思想や「聴き方」が提示され、それを探る観客の姿があった。パーティーの前半に執り行われたこの対談は、主宰のMatsusaka Daisukeの「このパーティーを能動的に、自由に楽しんで欲しい」というメッセージをお客さんが受け取り実行に移す、そのための足掛かりとして機能していたように思う。

実際、僕は会場に到着してから「続・アンビエント対談」までの4時間近い時間で、ゆっくりとパーティーにメンタルを慣らした。と、いうより、4時間かけないと慣らすことができなかった、という言い方が正しいかもしれない。『CAMP Off-Tone』では、「今はまだ後ろの方で観るべきだろう」や「このステージにいるのが正解だ」といった、これまでいくつも足を運んできた他の野外パーティーやフェスで刷り込まれたセオリーが通用しなかったからだ。別の言い方をすれば、「ステージやその他のブース間にある、決まった人の流れがない」といったような感覚だ。僕が到着間もなくから感じていた戸惑いの正体はそれだった。これまで自分はあらゆるパーティーで自分のいる場所を「選んで」いたのではなく、周りの空気に合わせて動いていたのかもしれない。そんな気付きを得はじめたころ、『CAMP Off-Tone』という空間を楽しむために、僕は肩の力を抜くことができた。

 

また、このパーティーをリラックスして楽しむために大きな役割を果たしているのは、Bar&Foodの充実のラインナップだ。キャンプ場の木製のバーベキュー・スペースを改装してつくられた参加者の憩いの場には、都立大の「Craft Beer Diner TAKIEY」による何種類ものクラフトビールやワイン、神泉の鉄板焼き屋「いにしな」の料理長を務めるG3の贅沢な肉料理、パーティーピープル達の胃袋を満たしてきた老舗パーティーケータリングユニット「まるまん」。音楽のパーティーに限らず美味な料理でお腹を満たすことがきるということは、居心地が良い空間の必須条件だ。僕は、まるまんの「玄米のトマトリゾット」と「さつまいもとかぼちゃのサラダ」というヘルシーなプレートを注文。見た目から素敵なリゾットの口に優しく広がった野菜の味わいは、冷えてきた体に心地良く染み込んでくれた。

ヘルシーな夕食に舌鼓を打ちながら観たDJ蟻は、リラックスからさらに一段階上の精神世界に吸い込まれるようなLIVE DJセットを披露した。Brian Enoを大きくフィーチャーした今回のスペシャルなDJは、夜を迎え落ち着きはじめていたパーティーの全体の空気に合わない訳がない。広がるような低音のシークエンスが視覚化されるパネルを観ていると、より一層イマジネーションが駆り立てられた。夜の森のさらに深みに誘うようにOuter Spaceに多くのオーディエンスを呼び寄せていたDJ蟻は、この夜のピークタイムへの入り口を作っていたと言えるだろう。

 

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次に迎えたのはMinilogueとしても知られるSebastian Mullaert。『Off-Tone』にマッチする音楽性を軸にしているとは言え、選択する楽曲の幅が広い彼がこの場でどのようなプレイを披露するのか気にはなっていたが、一週間前にUlf Erikssonとのユニットで『THE LABYRINTH 2015』に出演したこともあってか、ここまでのパーティーの空気から想像していたよりもずっと攻めたてるようなプレイだった。しかし、それはパーティーの雰囲気と決して外れていたわけではなく、むしろオーディエンスを一歩先のテンションに連れて行ってくれた。ビートの繋ぎの境目で爆発するのではなく、心地良く溶け合うウワモノにジワジワと誘うような展開。お客さんの反応を観る限り普段からクラブで遊び慣れている人も多いようで、Sebastian MullaertのこんなDJを待っていたのかもしれない。どちらにせよ、Sebastian Mullaertという主犯を置いて、夜の森での秘密の遊びをスペース全体で共有する時間は心地良かった。

 

Sebastian Mullaertが惜しまれながらプレイを終えたところで、僕は1日の疲れを癒すべく、温泉へ向かった。夜中に入ることを決めていた、パーティー中は入り放題の温泉は、実は僕の中で一二を争う楽しみだった。……しかしあろうことか、温泉の開いている時間を勘違いしており、その日は温泉に浸かることができなかったのだ……! その日の締めの安らぎを奪われた落胆は大きかったし、『CAMP Off-Tone』という自由な空間において、できると思っていたことができなかったことがショックだった、のかもしれない……。とはいえ、これは完全に僕に非があるので、早々に切り上げてテントに戻ることにした。標高1000mを越える会場、9月の夜は秋の寒さに包まれるとは言え、衣服を重ねればなんてことはない。寝袋の温もりを感じながら、この日は穏やかに眠りについた。

 

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まだ太陽が昇り切らない、息が白くなるほど寒い時間に目を覚ました僕は、早々にOuter Spaceへと向かう。体も目も覚め切っていないこのタイミングで聴くKaito aka Hiroshi WatanabeのDJセットは今までに無い最高な体感があるはず、という確信があったからだ。目を瞑って椅子に座りながら、透明感のあるサウンドスケープに身を委ねる。Hiroshi WatanabeはDJセットでの『CAMP Off-Tone』の出演は今回が初めてとのことで、そのプレイ自体に、眠い目をこすりながらも期待していたが、起きているのかまた眠ってしまったのか、そんな夢見心地の時間を届けてくれた。徐々にエンジンがかかるようにビートが入り、Outer Spaceに人が集まり始め、朝日が差してくる。その様子は、まるで彼の丁寧なプレイが『CAMP Off-Tone』に朝を呼び込んでいるかのように清らかだった。

 

Hiroshi Watanabeのプレイに後ろ髪を引かれながらも、僕は念願の温泉に足を運んだ。体の芯から温められる、癒しのひと時だ。その後、山本コヲジ+Yosinori Saitoのライヴを観るべく同じ建物にあるInner Spaceの入り口のふすまを開ける。まず目に入ってきたのは、前方に座りライブをする2人ではなく、畳敷きの部屋一杯に横たわり眠るお客さんたちだ。ライヴを目の前にして眠る、眠る人を前にしてライヴをする。この光景は何なんだ……と思いながらも場所を見つけ腰を下ろす。山本コヲジが水晶の器を響かせ、増幅されたその音像で満たされるInner Spaceは、確かに最も心地良く眠りにつくことができる場所なのかもしれない。しかし耳を澄ませば、隣で眠る人の寝息や衣擦れの音が立ち、遠くからはOuter Spaceでのプレイも聞こえる。様々な音がInner Spaceには散りばめられていた。「これは眠っていない方が間違っているのか?」と思うほどに穏やかな空間だったが、僕はその音に耳を傾けていたかった。この空間と時間をいかに過ごすかの裁量は、その人自身に委ねられている、そのパーティーの思想を最も実感した山本コヲジ+Yosinori Saitoのライヴセットだった。ライヴ終了時、2人が僕を観ながら「これで終わりです」と声をかけてくれ、部屋には僕1人の小さな拍手が鳴り、周りの人は眠ったまま。その瞬間も含め、『CAMP Off-Tone』でしか体験できない光景の、その最たるものだっただろう。

 

 

Outer Spaceでこのパーティーの終わりを飾るのは、主宰のMatsusaka Daisuke。エレクトロニカ/アンビエントを軸足に置きながらも、ファンキーなテックハウスやJackson5の“Never Can Say Goodbye(HF & K.U.D.O. Remix)”などのソウルフルなナンバーも交え、綿密にミックスされながらも自由度の高いプレイで、パーティーは大円団に向かっていった。満足げな表情で揺れ続ける人、椅子に座り知人との談笑に華を咲かせる人、心地良く眠る人。空間の過ごし方それ自体を捉え直し、能動的に楽しみを見出す、このパーティーを象徴するシーンだった。

 

居心地の良い空間を生みだし、身体と行動を縛るあらゆる規制から解放する、アンビエントミュージックの思想を体現したかのようなパーティーだった。ありとあらゆるジャンルの人が集まる場にコンセプトはつきものだが、『CAMP Off-Tone』ほどアンビエントの思想に忠実なパーティーを、僕は他に知らない。俯瞰して見れば、『CAMP Off-Tone』という空間自体が「アンビエント」的だったし、中に身を置いてみれば、パーティーを楽しむ一人一人に能動的に空間を楽しむ、肩の力が抜けた態度が心に残っている。

 

僕自身、『CAMP Off-Tone』以降の他のパーティーの過ごし方が徐々に変わり始めている。いま居る空間の中で、自分の楽しみをフラットに気負わず選択すること……いや、「選択する」という表現よりも、もっと反射的で無意識的なパーティーの過ごし方をすることが自然にできるようになっていると思う。そしてこれは、音楽のパーティーを愛する人に限らず、居心地の良い場所、自分のお気に入りの場所で時間を過ごす全ての時に、ライトに用いることができる精神状態なのだろう。主宰のMatsusaka Daisukeが先の対談で述べていた、「(アンビエントミュージックのカルチャーが)もっとライトな形で日常に溶け込んでいくきっかけとなっていくといいですね」と語っていた部分は、まさにそういうことを示しているように感じる。

 

『CAMP Off-Tone』は、音楽や食をはじめとしたコンテンツによって、普段はクラブで遊ぶために足を運ぶ人も、アンビエント/チルアウト・ミュージックを愛好する人も、そのどちらでもないけど人との時間を共有することが好きな人も、その全てを受け入れる懐の深いパーティーだった。季節の変わり目の穏やかな時期に森の奥深くで行われるパーティーは、身心共に癒される極上の体験を与えてくれるだろう。是非とも、皆さんに足を運んでいただきたい。

 

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Event information

 

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CAMP Off-Tone 2016 5th Anniversarry ~future with the music~
Date: 2016/10/1 (Sat)〜2(Sun)
Place: マウントピア黒平(山梨県甲府市)
Open/Start: 14:00

 

Line up:

[Outer Space]
Tom Middleton (Global Communication / Jedi Knights / Cosmos / UK)
Kaito (feat. Jiro&Guitar)
DJ 蟻
fishu
hakobune -guitar orchestral set-
Hiyoshi
Matsusaka Daisuke
Nogawa
R N S T
Sound Furniture feat. 今西玲子 and 山本コヲジ 〜 和ambient Set 〜
SUGAI KEN × adzuki
Yoshinori Saito

 

[Inner Space]
Chromatic Wave
metaholics
Morrissy
Ryo Arase 
SoundQuest〜箏笙声〜(今西玲子/井原季子/行川さをり)
山本コヲジ

 

[Sound]

fishu

[Visual]

idealsolution

 

[Decoration]

Taiki Kusakabe, MAJIO

[Candle]

FUJICANDLE

[Art]

檻之汰鷲(ORINOTAWASHI)

[Photographer]

Jiroken, nacoh

 

[Kids Space]

mamanomad
[Books]

PARADISE BOOKS
[Bodycare]

Lily
[BAR & FOOD]

まるまん, Craft Beer Diner TAKIEY,Happy Shake 他

 

 

Ticket:
前売り券: 一般 10,000円

※限定200枚 ※公式ショップは特典付き

Ticket outlets:

Off-Tone SHOP http://offtone.thebase.in/
クラベリリア https://ticketpay.jp/booking/?event_id=4484

 

More info: http://www.offtone.in/camp/
Twitter: https://twitter.com/off_tone
Facebook: https://www.facebook.com/offtonemusic

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