HigterFrequency パーティーレポート

Exit Festival 2004

Text by Keita Takahashi

今年で設立20周年を迎えるUK老舗レーベル、Ninja Tune。
深い静謐とグルーヴを湛えた Bonobo "Black Sands" に続いて発表されるのはモントリオール出身のビートメイカー Ghislain Poirier こと Poirier の通算7枚目のアルバム "Running High" である。01年から活動を始め、これまでにシカゴの優良ブレイクビーツ・レーベル Chocolate Industries やブレイク・コアの雄、Kid 606 らのリリースもある Shockout などでその手腕を振るい、好事家には既に注目を集めている彼。今作からは表記をシンプルに改め心機一転、とはいえソカやレゲエ、UKファンキーなどを混入させた独自のビート解釈はそのままに、Poirier という作家のネーム・プライオリティを向上させるはずの作品に仕上がっている。







まず今作を紐解く前に昨年から連作で発表されたシングル3部作について少々スペースを割こう。口火を切ったのは 09年4月に発表された "Soca Sound System EP" 。アルバム冒頭とラストに収録された 'Wha-La-La-Leng' と 'Karnival' を含む4曲が収められており、旧年から親交のあるMC、Face-T と Zulu が参加しアグレッシブなフロア・チューンを披露している。彼らが引き続き参加する第2弾 "Run To Riddim EP" ではダンスホール・レゲエ的ヴァイブスが注入されており、Poirier 自身が影響を受けたというトロントのカリブ系コミューンの息吹が随所に込められている。

Soca Sound System EP ('09.04.25) - ZEN12231                    Run To Riddim EP ('09.09.26) - ZEN12249

そして3部作のラストを飾った "Low Ceiling EP"。このシングルがリリースされた頃には Ghislain Poirier 名義時代のファンはもとより Diplo やM.I.A、バイレファンキから流出してきたリスナーまでをも取り込み大きなトピックとして紹介され、作家として更なる前進をアピール。アルバムへの助走を確かなステップアップとした。

Low Ceiling EP ('10.01.23) - ZEN12253                                 No Ground Under ('08.03.01) - ZENCD138UK

そして本題のアルバム "Running High" の話題に移る。今作は先述した3枚のEPからの12曲(アルバム本編)と収録曲のリミックス(輸入盤では未発表曲含む15曲を別ディスクに、国内盤では輸入盤からの楽曲+デジタル・リリースの7曲を本編に同梱という仕様)で形成されており、自身の楽曲に加え、彼の周辺人脈の音楽性を加えることにより、Poirier という音楽家の、そしてソカやデジタル・ダンスホールというジャンルの新しい胎動を伝えるドキュメント盤として機能している。収録されたリミキサーはノースキャロライナの敏腕トラックメイカー Machine Drum やブエノスアイレスのデジタル・クンビア系作家 Uproot Andy、Douster ら (輸入盤には加えてブリストルのベース・ミュージック新鋭 Baobinga、シアトルのビート職人Maga Bo 他多数) が地域やジャンルを越えて参加し、そのどれもが個性的かつ濃密な魅力を放っている。

 前作 "No Ground Under" で拡張した音楽性に深度と作家性を付記した今作。未だ日本国内ではシーンの細部や取り上げられるべき音楽家がなかなか瞭明でない分、Ninja Tune という大手レーベルでのフックアップが果たした功績は小さくないはずだ。かの地の音楽の匂いは確実にこの音盤のどこかしこに漂着している。リスナーには是非この作品をきっかけにソカやデジタル・クンビア、グライム、ダブステップ、そしてUKファンキーなど探索領域を広げることをお勧めしたい。世界的なベース・ミュージック百花繚乱の昨今、Poirier をきっかけにして広がる音楽地図は相当に面白いはずである。


Running High

国内盤:2010年4月10日(土)/ 輸入盤:2010年4月24日
LABEL : Ninja Tune / Beat Records

Tracklisting :
1. Wha-La-La-Leng
2. Marathon
3. Get Crazy
4. 90's Backyard
5. Enemies
6. Gyal Secret Pictures
7. Warehouse
8. Trust None Of Dem
9. Let Them Hate
10. Coco Drunk
11. Immigrant Visa
12. Karnival

Bonus Tracks for Japan :
13. Bang Bang feat. Warrior Queen
14. Pickney Too Bad feat Serocee
15. Wha-La-La-Leng feat Face T (Uproot Andy mix)
16. Erup - Click Mi Finger (Poirier Remix - Untrust Riddim)
17. Enemies feat. Face T (Machine Drum remix)
18. Coco Drunk (Douster remix)
19. Wha-La-La-Leng feat Face T (Maga Bo remix)