South America Music Conference

ENGLISH South American Music Conference

South American Music Conference

「サウス・アメリカン・ミュージック・カンファレンスには、世界中の名プロデューサーやアーティスト、ミュージシャン、専門家が集合するだろう。この"眠らない都市"で、ダンス・ミュージック・シーンにおいて最も権威のあるイベントに参加することは、誰にとっても特別な経験となることは言うまでもない」

上の文章からも伝わってくる通り、昨年12月10日〜11日にかけて開催された南アメリカ初となるダンス・ミュージック・カンファレンス、"アルゼンチン・ミュージック・カンファレンス"にかけるオーガナイザーや出演DJたちの野心と情熱は、並々ならぬものであったようだ。ブエノスアイレスのダウンタウンに位置するカンファレンスの中心には、キャパ総勢25,000人を収容する4つの大きなフロアが用意され、Diego Rokや Anderson Noiseといったローカルの人気DJと共に、Pete TongやFerry Corsten、Richie Hawtinといった世界のトップスターDJたちが次々に登場。ヨーロッパからたった16時間という距離でありながらも、ヨーロッパとは天と地ほど気温の差がある常夏のアルゼンチンで、ホットな真冬の祭典が繰り広げられたのであった。

今回お届けするHigherFrequency Specialは、このサウス・アメリカ・ミュージック・カンファレンスにスポットライトをあて、エクスクルーシブ契約を結んでいるJonty SkrufffのトップDJたちとのインタビュー取材を元に、その熱き2日間の模様をお伝えするものである。少し開催から日が経っての掲載となったが、はるか日本の裏側で行われた世界中が注目するビッグ・イベントの雰囲気を感じ取ってもらえると幸いだ。

Text & Interview : Jonty Skrufff _ Translation : Kei Tajima & H.Nakamura (HigherFrequency)


PHOTO

PHOTO

PHOTO
PHOTO PHOTO PHOTO

Argentina: Chris Liebing

「南アメリカでは、ブラジルとコロンビアに行ったことがあるけど、アルゼンチ ンは今回が初めてなんだ。ここは他とはちょっと違った感じがするね。特別なヴァイブを感じるよ」

ジャーマン・テクノ・プロデューサー Chris Liebingは、彼の泊まっている高級ホテルのプールサイドにて、リラックスして優雅に日光浴をしながら、今夜のセットについて考えていると語った。昨日は盟友Christian Smithと共に、パネル・ディスカッションに参加。今夜はJohn AcquavivaやDerrick May、 Misstress Barbaraといった大御所と肩を並べてプレイすることが決定しているのだが、彼自身はあまりプレッシャーを感じていないという。

「大体いつも会場に2時間前くらいに着くようにして、前のDJやクラウドを観察する。そこからどうしたら自分にとってベストなプレイが出来るか考えるんだ」

「ラップトップ2台とミキサーはいつも自分のを持ち歩いてる。ラップトップの一台はFinal Scratch用で、もう一つはサウンド・エフェクトとして使っているAbelton Live用だよ」

テクノロジーに頼らないDJといえば、このイギリス人DJ、Justin Robertsonである。レコードをつめたバッグを何個も持ち込んできたJustinは、エクレクティックなプレイをするDJだと言えるだろう。


PHOTO

PHOTO

PHOTO
PHOTO PHOTO PHOTO

Argentina: Justin Robertson

「アルゼンチンに来るのは何度目かなぁ。もう7回くらいはここでプレイしてるんじゃないかな。Pachaや、Creamfieldsでもプレイしたし。それに一ヶ月前のChemical Brothersのツアーでも回したしね。その時もこのホテルに泊まったんだ」

一般的にマンチェスターのDJというイメージが強いが、最近ウエスト・ロンドンに移り住んだというJustinは、ブエノスアイレスではヒーロー的存在である。しかしそんな彼でも、いざというときの為に、かなり広いジャンルの音楽を持ち歩いているという。

「基本的にどんなジャンルでもカヴァーできるよ。とにかくいろんなスタイルに惹かれるんだ。どんなスタイルに惹かれるかって?それがよく分からないんだよね」とJustinは笑う。

「ジャッキング・ハウス、アシッド・ハウスっぽいやつ、エレクトロ・ハウスとかね。僕が惹かれる音楽にどんな共通点があるのかはよく分からないんだけど、絶対何かがあるんだろうね。フレッシュで、エネルギーにあふれてる感じ…そういうエネルギッシュで、ダイナミックなレコードが好きなんだ」

その後のプレイでは、バンギングなセットを望んでいるかのようなクラウドを前に、かなりハードなセットを披露していたJustin。彼がスピンしていたのは"テック・ハウス"ルームだったのだが、そんな区別は関係なしといった感じ。どうやら今夜のクラウドはハードな音楽がお気に入りのようで、これは"ハウス・ルーム"のDanny RamplingやBad Boy Bill には少々痛かったのではないだろうか。ただ、Smokin Joにとってはあまり気になることではなかったらしい。


PHOTO

PHOTO

PHOTO
PHOTO PHOTO PHOTO

Argentina: Smokin Jo

「去年の3月にハイネケンのツアーでTiestoとアルゼンチンでプレイしたわ。アウト・ドアで15,000人くらい集まったんだけど、本当にすごかったの」

土曜日のイベントは4時にスタート。とはいっても会場が混み始めるのは深夜12時をまわってから。その日初の外タレDJとして午後7時にセットをスタートさせたDanny Ramplingは、極端に少ないクラウドと、テクニカル・プロブレムに苦戦しながらプレイしなくてはならなかった。

「かなり頻繁に機材が問題を起こしたし、ライトもクラウドもすごく少なかった。残念だね」とギグの後に不満そうに語るDanny。

「しかも、セットのスタート時間もすごく早かったんだ。ちょっと信じられなかったけどね。5,000人は入るキャパの部屋で、300人しかいない中スタートしたんだ。セットの終りの方までには、あと200-300人くらい増えていたけど、かなりタフなセットだったよ」

そんなDannyよりも、さらに頻繁にテクニカル・プロブレムが続いたというBad Billのセットに続いて、午後11時にSmokin Joがブースに登場。その時点でも"満員"とは言いがたいフロアだったが、彼女がKelisの" Milk shake(Tom Neville mix)"でセットをフィニッシュさせる頃には、会場はエネルギッシュなヴァイブであふれていた。その頃、舞台の袖口で出番を待つBBC Radio1の看板DJ Pete Tongは、ステージ前まで詰め掛けてきたファンと握手したり、サインをして時間をつぶしていたという。

そんなPete Tongに詰め寄ったファンよりも、もっと大勢のクラウドが詰め掛けた、センターにある巨大な"プログレッシヴ・ルーム"では、Way Out WestやJudge Jules、Lucien Foortがプレイし、クラウドの数は10,000人にまで膨れ上がっていた。


PHOTO

PHOTO

PHOTO
PHOTO PHOTO PHOTO

Argentina: Lucien Foort

「南アメリカのクラウドは、新しいエレクトロニック・ミュージックに敏感で、新しい音に対してすぐに順応するんだ。それがイギリスやヨーロッパのクラウドだと、ダンス・ミュージックを長く聴いているだけあって、新しいヴァイブをつかむのに時間がかかるみたいだね。南アメリカほど新しいレコードをかけるのに適した場所はないよ」

本日出演するDJの中でも、最も元気で活気のあるDJの一人でありながら、彼の人生で一度もドラックを使用したことがないというオランダ人DJ Lucien Foortは、アルゼンチンで売られているコカインのレートがたった12USドルであるにも関わらず、ビールの効果でクラウドを盛り上げたらしい。

にも関わらず、(もしくはそのおかげで)ホールのヴァイブは、Lucienのセットを機に容赦なく高まっていき、Way Out WestやTall Paul、Nick Warrenがセンター・ステージに登場する頃には、DJがHardfloorの"Acperience"の7分にわたるピッチ・アップ Mixを含む、ハード・トランス・アンセムをかける度に、何千人ものクラウドが叫び声をあげるなど、ものすごい盛り上がりをみせた。Nick Warrenのセットが終盤に向かって落ち着いてくると、今度はJudge Julesがステージに登場。彼がターン・テーブルのスイッチをオフにし、CDJ1000をプラグ・インすると、予想通り一気にBPMを上げ、エネルギッシュなセットをスタートさせた。


PHOTO

PHOTO

PHOTO
PHOTO PHOTO PHOTO

Argentina: Judge Jules

「オランダとイギリスはダンスミュージック・フェスティバルにおいてマーケット・リーダー的存在を果たしてきたけど、南アメリカ・ミュージック・コンファレンスは、それに匹敵することが出来るイベントだと思うよ。ステージングといい、ラインアップといい、組織的な部分といい、そして最も重要な要素・・・お客さんの雰囲気といい、最高のイベントであることは間違いないね」…イベントの翌日、JudgeはSkrufffとのインタビューにおいてこの様に語っている。

残念なことに、彼に同行していた奥方が病気になってしまったのだが、Judgeは何とかショッピングだけには繰り出すことが出来たようだ。信じられないくらい安い価格でクリスマス・プレゼントを買うことが出来るため、このショッピングはどのDJにとっても欠かせない行事予定となっている。レザーショップや最高のクオリティを誇るステーキ・ハウスなどが林立するショッピング・センターを見ていると、これがほんの2年前ほどに経済的に破滅した国の姿なのか、と目を疑ってしまうくらいだ。

Argentina: Jody Wisterhoff (Way Out West)

「Nick (Warren)が昔、"アルゼンチンはマジでやばいよ。雰囲気は良いし、治安も良いし、他の南米の国とは違って、とても暖かいヴァイブを感じられるところだよ"って言ってたのを思い出したよ」

この発言を聞く限り、Way Out WestのメンバーJody Wisterhoffは、滞在中にこの手の被害にはあわなかったようだ。また、アフターアワーズ・クラブで見つけたスリのあとを追いかけ、逃げようとするところにパンチを一発食らわせたDJ Danも、その時にはJodyと同じく「この国は比較的安全だ」と思っていたようだ。しかし、次の日の夜、Danはもっと深刻な問題に遭遇し、その思いは一変することになる。

「Chris Liebingや何人かの友達と一緒に、午前2時くらいにアフターアワーズ・クラブを出たんだけど、"ホテルまで歩いて帰ろうか、それてもタクシーを拾うおうか?"ってことになってね。でも、5分くらいブラブラしているうちに偶然タクシーが通りかかったので、結局それに乗って帰ることにしたんだ。ところが、しばらく走って暗い通りにタクシーが差し掛かったとき、そこら辺にたむろしていたストリート・ギャングたちがいきなり近づいてきて、オレたちの乗っているタクシーをブロックしようとしたからビックリ!でも、運転手が即座にアクセルを踏んだものだから、連中はあわてて両脇に飛びのいて事なきを得たんだけど、「あのままもし歩いて帰っていたら?」とゾッとする思いだったよ。確かにブエノスアイレスは比較的平穏な国であるのは間違いない。でも、どこの大きな街にも暗い場所はあるものさ」


PHOTO

PHOTO

PHOTO
PHOTO PHOTO PHOTO

Argentina: Danny Rampling

「ブエノス・アイレスは、とてもロマンチックな街で、ヨーロッパからの影響がとても強い街だと思うよ。しかも、めちゃくちゃ安いしね!マイアミに比べると、同じ値段でたくさんのものが買えるんだから」

ただ、Dannyは今回のコンファレンス全体については、多少の不満があるようだ。例えば、オーガナイザーはレーベルの代表者を一つのまとまったミーティング・イベントに集めるべきだったとか…。しかし、これはむしろコンファレンスの将来を考えての前向きの批判であって、彼が92年以来訪れているマイアミのウインター・コンファレンスに対しての考えとは比べようがないくらいポジティブなものだ。

「マイアミは完全に法外なものになったと思うよ。ホテルの料金は倍だし、クラブのスタッフはひどいものだし、とにかく態度が悪い。これも全て"VIPがどうした"だの、"リムジンがどうした"だのって、本来マイアミが目指していたものでも何でもない"下らない考え方"が生み出したものなのさ。"スーパーモデルを引き連れてリムジンから降りる"なんていうのは、ハウスミュージックでも何でもありゃしない。全くどうでもいいことなんだよ」 Dannyはマイアミの現状に関しては相当手厳しい。

「マイアミに対抗するっていうのは、基盤を築くのさえ何年もかかる大変なことだ。でもアルゼンチンはとても暖かく迎えてくれる場所であるのは間違いないね。アルゼンチンにいくのは楽しいし、この国を訪れるのは大好きなんだ。太陽を浴びながらノンビリと過ごす4日間…とにかくグレイトだね」

またJudge Julesも同じようにこのコンファレンスの将来について楽観的だ。

「ブエノスアイレスはとてもヨーロッパ風の雰囲気に包まれた場所だ。マドリッドとパリを彷彿とさせる威風堂々たる通りもあるしね。もし、オーガナイザーが、幅広いジャンルを元に、もっと音楽ビジネスの関係者を惹きつける事が出来れば、彼らが長い間チャレンジしてきたマイアミに勝つチャンスも大きくなるはずさ」