DATE : 3 October 2009 (Sat)
DJ : DJ:
yoshiki (Runch, op.disc), KON (Primitive, Premier), dj masda (CABARET, coupe, toboggan), Kazuhiro Tanabe (420TOUR, Mokmal Sound), Ryuji Suganuma (freebase), mitchelrock (freebase, 匠・TOOL), Tomotsugu Kondo (Ni.com, selfservice), TEN (ERR, STERNE), MIYA (ERR, soup), YOSHIDA (ERR, soup), YASU (ERR, microsurf)
LIVE : NUMB x SAIDRUM (ekoune sound), ditch (op.disc, Snork Enterprises), miclodiet (soup)
PHOTO & TEXT : Mitoki Nakano
イベント詳細
ERR(エラー)は、今回が初開催となるオープンエアーパーティー。新宿の深部・落合を拠点に、音楽、映像、アートを媒介に、ジャンルや国内外問わず数々の場を提供し続けている地下空間、『SOUP』 と毎月WOMBで開催されている 『STERNE』 のレジデントとして活躍していることでも有名な、TEN を中心に開催される運びとなった。 スタッフの意気込みも力強く、ひょっとしたら、今回のパーティーはいつもとはちょっと違うものになるんじゃないだろうか。新しい何かが開けるんじゃないだろうか。と淡い期待を膨らませながら、開催地である達磨山高原キャンプ場へと向かった。 夕方にキャンプ場に着くと、心配されていた天候もバッチリ回復していた。実は、この時、台風がやってくるということで、少し前から天候に関してはバッドコンディションになるのではないかと予想されていたが、ERR 開催時は、初めから終わりまで快晴で、次の日からまた悪天候へと逆戻りしたという、なんとも幸運に恵まれたのだ。これもERRへの皆の気持ちを汲んで、神様が与えてくれたプレゼントだったのかもしれない。キャンプ場は、こじんまりとして、キャンプサイトもきちんとしていて、トイレも炊事場も綺麗だし、何より抜群のロケーションに目を奪われる。 周りは山に囲まれ、下には駿河湾が広がり、それがフロアからは180度見渡せるという絶景に位置している。晴れれば富士山がぽっかりと顔を出し、夜には港町の夜景が瞬く美しい景色の中、音楽と遊べると思うと胸が躍る。 空気も澄んでいて綺麗だし、心なしか足も軽くなった気がしてくる。今回、注目すべきはサウンドシステムに FUNKTION ONE を導入したこと。 もはや伝説になりつつある、宇川直宏が主宰の Mixroofice やフジロックなどの大型野外フェスやパーティーフリークを虜にしているオープンエアーパーティー、The Labyrinth でも使われている、クリアでエッジの効いた音の鳴りで有名な、ハイクオリティサウンドシステム。 私も初めて Mixroofice や The Labyrinth に行ったとき、この音に衝撃を受け、FUNKTION ONE の音の虜になった一人。この音を存分に堪能できるなんて、なんて贅沢なことなんだろうと心の底から思った。 |
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だんだんと山際が赤く染まり始め、美しいグラデーションを帯びながらセンチメンタルな夕暮れが訪れる。テントを張り終え、まずはお酒を一口。だんだんと心も体も解放されてきたころ、パーティーは一時間押しぐらいでスタートし始める。トップバッターは SOUP の YOSHIDA。最小限の音を無駄なく生かしたミニマルなトラックを中心に、パーティーの始まりを予感させるような低めのじわじわと攻めていくようなプレイ。無機質な音の中にも、人柄を感じさせる有機的なグルーブでフロアが徐々に熱を帯びてくる。 私は、今年の夏皆既日食を観に、屋久島へと旅に出たのだが、この時出会った友達とも久しぶりにフロアで再会し、ハッピーな空気に包まれる。陽も沈みかけて来た頃、藍色の空の彼方には、強かに妖艶に輝く満月が浮かんでいる。今日はフルムーンパーティーだ。きっと何かが起こるに違いない。そんな予感を感じさせる、神秘的な月光に照らされたフロアはダンスに取り憑かれた妖精達の遊び場だ。宴というよりは、儀式に近いようなそんな感じさえしてくる。 テントにお酒を取りに戻ると、面識のないお向かいさんに急に話しかけられ、お酒を勧められる。話を聞いてみると、誰の知り合いでもなく、情報を聞いて名古屋から駆けつけたのだとか。オープンマインドで楽しもうと前のめりなお客さんが多くて嬉しくなった。こういう風に、いろんなものを飛び越えて、繋がりを結んでくれる力が音楽にはあるのだよなあと再認識する。 駿河湾に広がる、無数の光の瞬きがキラキラと揺らめいて、いよいよ本格的なパーティーの始まりを告げる。 次は、Tomotsugu Kondo。ディープなハウスグルーブを丹念に繊細に練り合わせ、時にパーカッシヴなリズムで捻りを加えながら、深い闇の中へと皆を引き込んでいく。月の光は、クロスして、私達の響宴の場を映し出し、周りを見渡せば、大自然の健やかな空気の中で解放されたクラウド達が自由に音楽を楽しんでいる姿が見受けられた。都内のクラブや大型の野外フェスでは、パンパンのフロアに顔をしかめたり、トイレやバーに並ぶ長蛇の列に不満の声を漏らす人々が多い中、ゆらゆらと体を揺らしたり、目をつぶって音に聞き入ったり、友人と話しながらゆったりと音楽に身を委ねたりと各々の楽しみ方で伸び伸びと遊んでいる気がした。 | |
お腹が空いてきたので、バーで特製のベジタコライスを注文してみる。これが本当に絶品でびっくり。バーナーでお湯を沸かして、お味噌汁を飲んだりと、オープンエアーの楽しみは朝霧JAMなどを筆頭にキャンプインすることの楽しみもあって、普段クラブで会っても中々話せないお友達とも話したりして、いつもの何倍も楽しみが詰まってるっていうのも忘れてはいけない要素だと思う。 次は、NUMB x SAIDRUM のLive。90年代より、日本のエレクトロミュージックで活躍する彼らは、モジュラータイプの software synthesiser である、Reaktor を使い、コンピュータ音楽の為の通信プロトコルである Open Sound Control で二台のラップトップにシンクをかけて、ビートやエフェクトなどをリアルタイムに構成し、フィジカルに Midi Contllor を演奏する。今回のメンツからはちょっと異色のアーティストだが、ヒップホップや、テクノ、ノイズ、ダブ、エレクトロニカなどの様々な影響を感じる、懐の深い、深淵な音の世界を体験させてもらった。複雑なリズムやビートで構築されながらも、フィジカルな感覚を全面に押し出した、フロアライクな内容かつ近未来的なサウンドになっていた。プロフェッショナルなパフォーマンスに、クラウドも満足していた。 そして、Kazuhiro Tanabe 。煙たいブラックな香りのするトラックをカッティングエッジに調理していく。民族的なサウンドに金属的な刃を突いていくようなプレイ。フロアの酔いもいい感じに回っていて、低空飛行の渦に皆がぐるぐるとハマっていく。 さらには、SOUP 主宰の MIYA が幅広い電子音楽のバックグラウンドから抽出される、ダンスミュージックとしてのグルーブをシンプルに体現するような、鋭利なキックとハットを刻み続ける。固い音の粒を一つ一つ、紡いでいくように音楽が空に広がってゆく。 | |
宵も深まっていく中、次々とディープな音が闇に解けていく。micro diet のLiveが始まる。ミニマルミュージックを軸に、電子音響やハーシュノイズを織り込んだ、アヴァンギャルドなスタイルのライブ。踊らせることを忘れない、ミニマルでタイトなビートに、アクセントのようにノイジーなサウンドや空間的な広がりを持った、音の波が訪れ、一所に収まらない、正に前衛的なパフォーマンス。 先の読めない、アブストラクトで実験的なサウンドに皆打ちのめされながら、拍手で締めくくる。 夜の深い時間にぴったりなのが、mitchelrock。ラディカルで、ルーディーな極悪サウンド。今にも落ちてきそうなくらいの、満点の星空の元で、骨太なベースに、重いキックを響かせ、ロケーションにもバッチリとはまるスペーシーな音の中にズブズブと埋められていく。グットタイミングなブレイクに皆、感嘆の叫びを漏らす。全身の細胞が呼び覚まされるような感覚に陥っていく。 その後を、yoshiki ががっちりとフロアにクラウドを沈めていく。クリックテクノ、ミニマルハウスを中心に、低くて、重い音をベースにポップでトリッキーな音で遊びつつ、独自のクルーブを展開していく。彼のDJで踊っていると、音楽って、こんなにも自由なんだなあと思わせてくれる。現場で培った感性を存分に発揮して、どこまでも新たな音の世界の旅へと連れてってくれる。ネバーランドへと一緒に連れてってくれる、ピーターパンみたいだなと思って、踊ることがとにかく楽しくてしょうがない。 ふと周りを見渡してみると、そんなパーティーピーポーが満面の笑顔で、身体全体で音楽を受け止め、それに答えるように一生懸命踊っているのを見て、初めて本格的なクラブパーティーに行って、衝撃を受けたことを思い出した。その時、扉を開けると、煙たい空気が辺り包み、フロアはビリビリと低音で揺れていて、人々は狭いフロアの中で踊り狂い、何も知らない子供の私をオープンマインドに受け入れてくれて、ただただエネルギーが交錯していて、次元の違う、突き抜けた 「楽しさ」 っていうのをその瞬間に初めて、心から感じた。その時から、私にとって、踊ることが身体と精神のメディテーションのような役割を果たすようになった。そういう一連のできごとがフラッシュバックした。こういうことは、フロアに人が集まって、エネルギーの渦ができないと、体験できないことで、一人で家でいくら良質な音楽を聴いていたって、わからないこと。だから、遠くの場所まで、大変な思いをして、その場に居合わせないといけないんだと深く心に刻み込んだ。「この場で起こってることを、この目で見なくっちゃ」 と。 そんなことを郷愁にかられながら思い出していると、 ditch のLiveが始まった。彼のプレイが始まると、一気に空気が一変する。とっても乾いていて、冷たいんだけど、その冷ややかさの中にある、一本ぴーんと張った緊張感が妙に心地よい。触れたら怪我をしてしまいそうな、ドライアイスのような熱がこもっていて、それでいてとっても繊細。内省的なドープな空間の中に、牙を剥くような鋭さがあって、圧倒的な世界観の中にひれ伏したくなる。好戦的で、悪辣なサディステックな世界観。FUNKTION ONE との相性もとても良くて、夜空に繰り広げられる異世界の中で、本当に持っていかれそうになった。フロアのあちこちで叫び声が聞こえ、フロアの盛り上がりもこの頃、一度目のピークを迎えたように感じた。 | |
夜も深い帳から、明るさを取り戻し、空も白み始めたのと同時に、Ryuji Suganuma のプレイが始める。幻想的な夜明けの雰囲気の中、ディープでミニマルかつ、ストレンジ。一見風変わりなテクノやハウスの中のファンクネスを見いだし、それらをうまく生かし、爆発させるようにグルーブを引っ張っていく。不思議な国で、小人達が踊りだしちゃうような音の中で、夢のように朝陽を祝福するような、幸せな色が溶け出した時間だった。皆が気持ち良さそうに音のテーマパークの中で、無邪気に遊んでいた。 レイブの朝の幸せな雰囲気に浸りながら、masda へとバトンタッチ。朝方にベストマッチなシンセの音が綺麗なトラックを多様し、ミニマルな中にもセクシーさのある音のベースを崩さずに、どっしりとした安定感のあるハウスグルーブでフロアを盛り上げる。 あまりにも心地よくて、羽が生えて、空まで行ってしまうんじゃないかと思ったほど。ストレンジグルーブをとびきりファンキーに仕立て上げて、クラウドの心をがっちり掴んでいた。個人的に、とっても好みの音で我を忘れて、踊っていた。 この頃になると、暑いくらいにからっと晴れた、秋晴れの青空に目を奪われる。KONが、グルーヴィーかつ、トランシーなセットでフロアをアゲていく。パワフルで、開かれたサウンドの中で、クラウドもハメをはずしつつ、思いっきり踊っている様子が伺えた。経験に裏打ちされた、踊りへのツボを捉えた、レイヴィーなプレイだった。 そんな、パワフルなサウンドから YASU へと移行。昼のレイブのハッピーな雰囲気がそうさせたのか、ノリノリでプレイ。柔らかに流れるようなハウスグルーブを軸に、ミニマルでタイトなトラックやユニークで奇天烈なトラックを挟みこみ、変化を付けながら展開していく。陽ががんがんに刺すフロアでも前のめりなクラウドはダンスを止めずに、どこまでもDJのプレイに食らいついていく。 そして、最後をまとめあげたのは、TEN。ラテン調の変則的な曲からスタートして、どれもアッパーでハッピーな選曲。しかしそのどれもが、喜んで溝を掘り続けているかのように、うまくひとつの物語を刻んでいく。たった一夜の出来事が、どんなに素晴らしいものだったかということを回想するような時間だった。参加者のほとんどがフロアに集まって、皆で拳を振り上げ、両手を掲げて、音とひとつになって、参加した皆のエネルギーがフロアにこだまして、何倍にも膨れ上がっている。皆の一体感がものすごいエネルギーの固まりとなって、あるひとつのゴールを目指してドラマチックに駆け上がっていった。大きな多幸感と達成感のまっただ中にあった。 プレイが終わると、割れんばかりの拍手の中、アンコールが一曲流され、最後には皆の 「ありがとう」 という歓声がいくつもフロアに飛び交った。簡単に言ってしまうと安っぽく聞こえてしまうけど、皆の音楽への愛が溢れている、象徴のような終わりだった。 | |
私が、今日は何か起こるんじゃないかと思った、予感はどうやら当たっていたみたいだ。一つのパーティーが成功するには、たくさんの人の協力が必要だ。場所を提供してくれる方、運営スタッフ、いい音楽を鳴らすDJ、そして反応のいいクラウド。さらに、サウンドシステムやロケーション、そのすべてがうまい具合にマッチしていないと、本当のパーティーの成功は訪れない。正直、私は今年大型の野外フェスに数回参加したが、パーティー全体として考えたときに、そのどれよりも楽しかった。ビックパーティーでは、アーティストとオーディエンスのレスポンスがうまくいってないことが多かったし、会場通しが離れすぎていたり、トイレなどの諸問題に苦労することも多かった。ウン億円するようなレーザーや、派手な飾り付けや、大迫力のサウンドシステムはなかったけど、シンプルにいい音楽を素敵な場所で楽しもうというオーガナイザー側の心意気がとても伝わってくる、素晴らしいパーティーだった。オーディエンス側も、皆でパーティーを作り上げていこうと前向きに参加していこうとする態度が今回の成功へと導いたと思う。 さらに、会場もゴミを出すことなく、綺麗に使うことができて、キャンプ場の方からもまた来てくださいと言われたそうだ。そういうことからも、いかにこのパーティーの参加者が、しっかりと意志を持って参加したかが見て取れる。ただ遊びにいくんじゃなくて、参加者としての自覚があるからこそできることだと思う。自分が楽しませてもらった分を返していく、そういう態度が今こそ必要なのではないか。 こういった、小さなパーティーの成功が新たなシーンを作っていくのだろうなとふと思った。セカンドサマーオブラブも、デトロイトテクノの流行も、いわゆるムーブメントと呼ばれるそれらすべてが、小さなパーティーから始まったんだから。初めからシーンなんてないんだし、ある一つの成功があって、その評判を聞きつけた、パーティーフリークがだんだんと集まって、大きな船となって、大海に向かって、漕ぎだしていく。待ってるだけじゃ始まらない。自分たちの遊び場は、自分たちで作っていかなくちゃ。商業的になりつつある、音楽の世界を自分たちの手に取り戻していくこと。ただひとりのヒーローやカリスマを崇拝することじゃなくて、主役はオーディエンスの私達だということを、私はダンスミュージックから学んだ。そんな風に、今回のパーティーが新たな風を吹き込むことのできるような、ある意味革新的なパーティーシーンの幕開けになればいいなと願っている。 | |
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