HigterFrequency パーティーレポート

ENGLISH PARTY REPORT

CABARET @ UNIT, TOKYO

DATE : 4 December, 2009 (Fri)
【UNIT】
GUEST : Jan Krueger (Hello?Repeat/Berlin)
DJ : sackrai (Archipel, OP.DISC, minimood, TELEGRAPH, rrygular), yone-ko (CABARET, Runch)
【SALOON】
DJ : dj masda (CABARET, toboggan), Ryuji Suganuma (freebase), YASU (microsurf), sin (waltz)

Photo by ryu kasai
Text by Mitoki Nakano





待ちに待ったパーティーがやってきた。私が絶大な信頼をおいている、パーティー 「CABARET」 が今夜も幕を開ける。今回のゲストは Jan Krueger。
Jan Krueger は、ベルリン在住のDJであり、変則的なミニマルハウス/テクノをリリースする、Hello? Repeat のレーベルオーナーでもある。テクノの聖地ベルリンで最も熱いクラブ、panorama bar や Watergate で最高の名誉であるレジデントDJを務めている。彼の影響を受けたアーティストの中には Daniel Bell の名前も挙げられており、「CABARET」 との相性もバッチリ。以前、CHAOS で来日した際にも、素晴らしいDJプレイを披露しており、次の日の昼の12時近くまでグルーブが途切れなかった。それ以来、彼のDJの虜になってしまい、今回も更なる期待に胸が躍っている。今回の合い言葉は、「Magic !」 どんなミラクルな瞬間が起こるのか、楽しみだ。
素敵なパーティーマジックをこの目に焼き付けよう。


オープンのメインフロアでプレイするのは、Sackrai。いつもはLiveが多いが、今回はDJプレイでの参加となる。
抜けのいい、空間的なテクノとミニマル、パーカッシブなベースラインのハウスを織り交ぜながら、緩やかにディープに展開していく。アーバンなセンスで、過度な展開を抑えつつ、柔らかなグルーブを紡いでいく。フロアも徐々に人が集まり始め、ちらほらと踊る姿が目に入る。

その頃、SALOON では、sin がプレイ。人柄が感じられるような、ぬくもりを感じるハウスグルーブを鳴らす。
黒さと白さを程良い、絶妙なバランスでミックスしつつ、根底にあるダンスすることへの喜びを歓喜させるようなプレイ。元ダンサーであった彼だからこそできる、独自のフィルターを通した、フロアライクなスタイルが確立されていることを感じるプレイだった。


UNIT と SALOON を行ったり来たりしながら、踊っているうちに、あっという間に今回のゲストDJである、Jan Krueger へとバトンタッチされる。

バックボーンとなるハウスを中心に、独自の解釈で厳選された、ジャンル、新旧を問わないストレンジでクールなサウンドでフロアを沸かす。さっきまでどこか消極的だったクラウド達も、いつもより低く作られたブースを囲むように、前のめりにダンスし始める。熱狂するクラウドに呼応するように、Jan のDJパフォーマンスも勢いを増してくる。プレイの前半は、フリーキーなフレーズのトラックを軸に、低いところから徐々に盛り上げていき、ハイハットの刻みやボイスサンプルでハメつつ、後半はディープハウスのような、メロウでロマンティックな歌モノやシンセのメロディが美しいトラックで締めるという、物語性を内包した流れを感じるプレイだった。

この時、感じたのはすごくよくできた映画を見ているような気分だということ。
例えるなら、デヴィット・リンチの映画のように、どこか不穏で、全体の印象としては夢を見ているような感じで、はっきりとした展開はないんだけれど、どんどん引き込まれていく。
あらゆるところに伏線が張りめぐらされていて、いろんな場面が繋がっていき、最後にははっと驚かされる。
うまく全体の流れの中に仕掛けを仕込んで、口元がニヤけるような憎い演出を施す。気づいたら、相手の手の内だった。そんな気持ちのよい 「やられた感」 をもたらしてくれる。
上品なルーディーさの漂う、頭の良い人のするDJだなと感じた。故に魅力的であるのだろうなと強く思った。


そんな私の気持ちとシンクロするように、フロアも熱を帯びていき、叫び声やDJを煽る黄色い声が幾重にもこだまする。ダンスする足下がゆらゆらと煌めいて、ストロボが光る度に、「やられた感」 を纏った笑顔がフロアに浮かび上がる。歓声に沸く、恍惚の渦の中で、パーティーフリーク達に見守られながら、Jan から yone-ko へとグルーブを繋げていく。

ハットとキックの間を行き来しつつ、変態的な、フレーズやボイスサンプルのあるトラックを挟んで、ゆっくりと、緻密に、繊細に、グルーブを練り上げていく。音の行く先を追っていくと、知らぬ間にすごい深い領域までハメられていて、抜け出せなくなってしまう。もうすごいところまで来ちゃったな、もう無理だなと思った瞬間にいい塩梅でヌケる部分を作ってくれる。そのやり方が本当に抜け目がなく、絶妙で、完全に彼の術中にはまってしまう。極限までミニマルなDJスタイルであることが、最大限にグルーヴィーであることの証明であるかのようなプレイ。ミニマルでありながらも、多様なカラーの音世界に旅させてくれ、中毒性のある、ヒプノティックなプレイに舌を巻く。


一方、SALOONでは、sin の後を yasu がプレイ。タフで重みのある低音をキープしつつ、ディープでミニマルなトラックやユニークなトラックで変化をつけていく。ミニマルなリズムのループの中に、時折垣間見える、ダークさとポップなファンクネスをしなやかに表現していく。クラウドの反応もいい具合に解れてきて、DJとの距離感もどんどん縮まっていく。

温まったフロアを masuda が引き継ぐ。セクシーで、どこか湿り気を帯びたような印象を受ける、懐の大きい、安定感のあるプレイ。全体的にはハウシーで、音響的でセンチメンタルなメロディがたおやかに広がったり、テッキーな上音が絡んだり、捻くれた、遊び心のある音をタイミングよく挟みこんだりする。上げたり、下げたりを繰り返して、展開を盛り上げるのではなく、タイトなグルーブを刻みつつも、クラウドを飽きさせない、引き出しの多さには、裏打ちされた経験を感じずにはいられない、渋さとファンキーさの同居するプレイ。

そして、SALOON の最後を務めるのは Suganuma。ディープでミニマルなリズムの中に、ヘンテコなマッドネスを感じるトラックを紡ぎながら、展開されていく。「音で遊ぶ」 という感覚に重きをおいていることがよくわかるプレイスタイル。彼のDJで踊っていると、音の色や形が見えるようで、「音を楽しむ」 という 「音楽」 というものをそのまま体現しているような気持ちになってきて、こっちも楽しくなってくる。独特の浮遊感の中で、音の階段を一歩進んでは、二歩下がり、最終的には多幸感を感じさせるようなドラマチックな展開に持っていくプレイは、フリークアウトしたクラウドを存分に楽しませていた。

メインフロアに戻り、yone-ko が最後を締めくくると、拍手とともにまだまだ踊り足りないクラウド達が何度もアンコールをせがんでいた。SALOON でアフターを強く希望していたオーディエンス達が多かった中、今回はきっちりと時間通りにパーティーは終わりを告げた。
素敵な時間があまりにも刹那的すぎて、帰り道は本当に淋しい気持ちでいっぱいだった。Jan がインタビューで語っていたように、ハウスミュージックは 「LOVE」 という言葉を具現化したような、パーティー感の余韻に浸りながら、眠りに落ちた。


今回のパーティーでは、少しだけ残念な気持ちも残った。それは、ビックパーティーと時期が被っていたせいもあるかもしれないが、お客さんが少なかったからだ。やっぱりお客さんがある一定数いたほうが、パーティーはどんどんいい方向に熱狂が膨らんでいくし、もっともっとと求めてくれるオーディエンスがいれば、グルーブはどんどん延びていって、楽しい時間も続いていく。
今回のことで、まだまだミニマルハウス/テクノというジャンルがマイノリティな存在であるんだということも感じた。だけれども、「CABARET」 が単に売れているアーティストを呼ぶのではなく、自分たちの目指す方向、パーティーのカラーにはまる人々しか呼ばないという、確固たる信念を持ち、媚びることなく、自分たちのやりたいことをやるというスタンスを私は信じている。

今は、ダウンロードで楽曲が買えたり、DJをインターネットラジオで流せる時代になった。「家のクラブ化」 を肌に感じるけれども、やっぱりダンスフロアは必要なんじゃないかと思う。薄暗いフロアと、キラキラ光るホコリや塵の中で、汗とお酒の匂いに揉まれながら、踊る。DJとオーディエンスの対話の中から生まれる、予想もつかない 「magic」 が起こる瞬間。あの時の幸せに包まれたような気分を対価できる瞬間を私は他に知らない。それは、皆が参加して、作り上げていくものであって、熱狂はフィジカルな体験に他ならない。楽しもうとすることで、「magic」 はどこまでも無限大に広がっていく。

私は、今回のパーティーでも現場主義のDJ達のプレイの面白さを実感したし、時代は変わっても、「今夜はブギー・バック」 がヒットした時代からパーティーの真髄は変わっていないんじゃないかと感じた。
「とにかくパーティーを続けよう」 この言葉を信じて、もっとたくさんの人がパーティーに足を運び、音楽をダンスすることを期待している。

 




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