international news_2009.07.29
Text & Interview by Jonty Skrufff (Skrufff.com) _ Translation by Shogo Yuzen
17,000社のレーベルと登録しており、100万曲を超える楽曲がアップロードされているロンドンの音楽ダウンロードサイト Trackitdown.net
は、2004年の Bayswater 創立から数々の困難を乗り越えてきた。何百ポンドの資産を持つ数々のダウンロードサイトが設立されては消えて行くこの時代で生き残ることは容易なものではなかったと、創立者でもあり、現在でも世界中を飛び回るDJでもある Ed Real は振り返る。
「2004年当時、ダウンロードで楽曲を売るというアイデアはダンスミュージックのレーベルから数々の批判を受けたんだ。ビジネスを始めるのには変わったスタート地点だったのかも知れないね。その頃はまだダウンロードの市場っていうのが存在していなかったから、いくつかのライバルと一緒にマーケットを作っていかなきゃいけなかったんだ。だからそれは当時の仕組みを変動させてしまうものだったし、それに対してレーベルは反対したんだよ。
今ではレーベルが収入を得る方法やコンテンツを発信する方法は少しずつ統合されつつあるけど、あの時代はまるで西部開拓時代のゴールドラッシュみたいだったから、物事が凄く複雑だったんだ。ビジネス的観点から言えば、僕たちの投資は必要よりも少なく済んだけど、後から考えてみればそのおかげで絶対に成功しなくちゃいけないっていう決意が固まったんだけどね。たくさんのライバル会社達が金を浪費して今になって問題に直面しているのを見て来たけど、そういう意味ではビジネスで無駄を無くしたことは重要だったね。だけどそのおかげで白髪やしわも増えたけどね(笑)」
同社はダウンロードのサイトを拡大させると共に、DJ機材(ターンテーブルやミキサー)やグッズの制作サービスも開始した。
「クリスマス前に試験的にグッズストアを始めたんだけど、ほとんどのレーベルが良い反応をしてくれたのには驚いたね。レーベルがどんどん能率化して、web 2.0 によって簡単にファンのデータベースを作れる時代が来た。だけど、ほとんどのレーベルがTシャツやパーカーみたいなグッズを作れずにいるんだ。様々な調査の結果、一番いいプリント技術を見つけることができたから今僕たちはDJやクラブ、メディア、エロクトロニック音楽に関わる全ての人たちが自分たちのグッズを販売できるようにしたんだ。僕たちが生産して、直接消費者に販売するからレーベル側には何のリスクも無いしね。」
Skruff (Jonty Skrufff) : サイトの設立から5年がたったけど、この5年間でバイナルのセールスは下がって、デジタルファイルのダウンロードによってレコード屋のマーケットもどんどん縮小してきたよね。バイナル愛好家のDJやレコード屋のオーナー達から不満をぶつけられたりすることはなかったのかな?
>Track It Down : 2004年に僕たちがサイトを設立するよりも前から徐々にバイナルから人々が離れていってるっていう傾向はあったし、レコード屋もその危険信号は察知してたから、僕たちが不満をぶつけられるようなことはなかったんね。でも個人的には毎週レコード屋に出掛けたりするのがなくなったのは寂しく感じているよ。僕たちは取り扱う曲全てにレビューを書いてるし、新しいニュースや情報を伝えられるように努めてる。それが僕たちの売りでもあるからね。」
Skrufff : じゃあ、DJやレコード屋以外からの不満はあったのかな?
Track It Down : 不満っていうよりも自分たちの音楽を僕らよりももっと上手く売れるっていう自信のあるレーベルのオーナー達からの拒絶の方が多いかな。小売りビジネスにおいて、一つの店が多くの商品を扱ってお客さんが一カ所で欲しいものを色々手に入れられるっていうのは重要なことなんだ。DJは一回の買い物で必ず1曲以上の曲を購入するんだ。だけど、一般常識っていうのが音楽の創造的世界では常に正しいわけじゃないからね。」
Skrufff: 登録している17,000社のレーベルのいくつぐらいが利益を上げていると思う?
Track It Down : 音楽のセールスが2009年のレーベルビジネスの一部になって、それが会社の推進力になってくれればいいと思ってるよ。ダンスミュージックは昔からレーベルのセールスで考えるとごく一部でしかなくて、それは今でもそうなんだ。だけど、デジタル時代を迎えたことで新たなレーベルが急増したり、DJ達が現れるようになった。彼らのほとんどがパフォーマンスやプロモーションで収入を得ていたり、もう一つ副業をやって生計を立てている。それが今までのダンスミュージックだったけど、これからは彼らがフルタイムで音楽に集中することでもっとクリエイティブに音楽を楽しめるようになればいいと思うな。それはシーンにとっても良い事だからね。
Skrufff : 過去5年間のダンスミュージックビジネスをどんな風に捉えてる?どのジャンルが栄えて、どのジャンルが衰退したのかな?
Track It Down : 僕たちのサイトではハウス、トランス、ドラムンベース、ハードダンスは5年前と変わらずシーンの中心にいると思うね。この4ジャンルの中で毎年スタイルの進化があるんだよ。特にハウスミュージックは今エレクトロやテックハウス、フィジェット、ベースライン、そしてファンキーでプログレッシブな要素を取り入れて大きく変化している最中だと思うね。
昨年一番目に見えて変わったのは、ブレイクスのファン達のジャンルがエレクトロやフィジェットのサウンドに移行したことかな?今でも素晴らしいブレイクスの音楽はあるけど、ジャンルの重要なアーティストの多くがもうブレイクスから離れてしまったんだ。だけど、ジャンルとジャンルの境界線はいつもあいまいだし、変化し続けている。それを把握し続けるのは簡単じゃないね。
Skrufff : ニューレイヴやニューディスコの流行っていうのは感じてるかな?これらのジャンルはハウスやトランスに並ぶものになってきてる?
Track It Down : 僕は年々にも渡って、サンプルの傾向を見てるんだけど今マッシュアップやフィジェットハウスの曲で昔のレイヴのボーカルがサンプルされているのは面白いね。今は90年代前半の音楽の楽しさやエネルギーに対する注目が集まっていて、今年のダンスミュージックの要素になってきてるんじゃないかな。
同じように僕たちがニューディスコやスペースディスコって呼んでるジャンルが過去の音楽の精神を現代のトラックで再現してるんじゃないかな。今までもダンスミュージックはそうやって進化してきたと思うけど、これはきっとここ数年のミニマルブームの反動なんじゃないかと思うよ。
Skrufff : たくさんのダウンロードサイトが設立されては消えていったけど、TID は他のサイトとはどこが違ったと思う?
Track It Down : 僕たちがもっとも力を入れているのは、ダウンロードしてもらう事なんだ。MySpace や HMV のような大きな会社も同じようなことをしたけど、それに全力を注いだわけじゃないからターゲットを逃してしまったんだよ。僕たちはみんなダンスミュージックの大ファンの集まりだし、僕たちのDJやダンスミュージックに対する熱意を伝えるのが Trackitdown.net のサイトなんだ。だから商品を紹介する時にも自分達の気に入ったものを選ぶからお客さんにとっても魅力的なんだよ。
Skrufff : 過去を振り返ってどの時点でこの会社は不安定なところから落ち着いたものになったと思う?
Track It Down : 一緒にサイトを創立した Nolan Shadbolt と僕は、2003年に音楽ビジネスを完全に牛耳ってたP2P(違法ファイル交換)に変わる何かを合法的に生み出す方法をずっと考えてたんだ。そして、年の終わりに僕たちは始動してそれに全力を注いだ。それからサイトを設立するまでに6ヶ月かかったんだ。ローマは一日にしてならずっていうみたいにね。すごく楽しかったけど、このコンセプトをレーベルやメディアにプレゼンして良い反応を貰えないのは悪夢のような日々だったね。困難を乗り越えて立ち上げたサイトが2004年の 7月 1日にクラッシュしたんだ。あの一時期は本当に悲劇だったね。だけど、早い時期で色んなことを学べたのは本当に良い経験だったと思うよ。
Skrufff : 全てを諦めて定職に就こうと思った事はある?
Track It Down : きっと自分でビジネスを始めた人は最初に敗北を味わうものだと思うし、そのプレッシャーを常に感じ続けるのは大変だと思う。だけど Trackitdown.net は関係者みんなの情熱の結果でビジネスと自分達の趣味が上手く組み合わさったものなんだ。だからどんな困難に直面しても、どれだけ自分を犠牲にしなきゃいけない時も努力を惜しまなかったし、この業界にいる誰よりも必死で働けたと思うんだ。
Skrufff : 他に付け加えることはある?ウェブサイトを立ち上げようと思っている人に対するアドバイスとか?
Track It Down : 音楽とテクノロジーのおかげで誰もが既存のルールブックを書き直せるようになった。だけど、それをビジネスにしようと思ったら数字で出すことが必要になんだ。この5年間で自分達を含めて数々の革命家と呼ばれた人たちを見て来た。だけど、他の人のお金を使うことは成功には繋がらないよ。
僕たちは僕たちのライバル会社達のように他の投資家に参加させたり、他の会社に所有されたりしていないんだ。だから、僕たちはお金に関してすごくシビアにならなくちゃいけない。他の会社はたくさん出費して、少しを得ることしかできていないけどね。他の会社達が小切手を片手に手を振る中で、人から曲を提供してもらい続けることは簡単なことじゃない。だけど、他の会社は今そのツケが利子付きで回ってきている中、僕たちの長い戦いはやっとその結果を見せ始めたんだ。
関連リンク