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international news_2010.01.06

Jonty Skrufff の JADE レポート - ジャカルタは新しいイビサになるのか?

Text by Jonty Skrufff (Skrufff.com) _ Translation by Shogo Yuzen

僕の友人Morf は、Facebook で時おり、ジャカルタの様子をこんなふうに語っていた。

「ジャカルタは服を着たままサウナルームに入るのと、車のエンジンを付けっぱなしのままガレージに閉じ込められるのの中間ぐらいの気候だよ。だけど、それ以外は最高だね!」

12月2日(水)から6日(日)にかけて、インドネシアのジャカルタで行われた Jakarta Annual Dance Music Event (JADE) 。今回で2周年となるJADEのヘッドラインを飾った Addictive TV の Graham、そして、同じくヘッドライナーの X-Press 2 の Rocky は共に、現地のクラブシーンと JADE に強い感銘を受けたようだった。

「ジャカルタは最高だったよ。僕達は金曜日に Blowfish でプレイしたんだけど、音響・スペース共に最高だったね。」と Rocky は語る。
「土曜日には Todd Terry がプレイしてるのを観に行ったんだけど、やっぱり音響とスペースは素晴らしかったな。Richie Hawtin が今週末ここに来るっていうポスターもあったし、他にも色んなパーティーやイベントのポスターもあった。ここでは今本当に色んなことが起こっているみたいだね。」

現在人気沸騰中のタイ人女性DJ ・Celeste も 「ジャカルタは素晴らしい場所よ」 と語っていたが、JADE の出演者で唯一、Secret Cinema (a.k.a. Jeroen Verhej) がジャカルタに対し、疑問を述べた。

「僕は数年前にもジャカルタに来たんだけど、今のジャカルタは当時とあまり変わってない。もちろん、DJ達は人気の曲をかけてるし、女性はみんな美人だし、音響も良いよ。メジャーなクラブシーンで必要とされるものは全て揃ってる。だけど、一つ問題があるんだ。ここにはシーンが存在しないんだよ。オーディエンス達は 『こういう音楽が聴きたい』 と思って遊びに来てるわけじゃなくて、ただ有名なイベントに参加して、そこに行ったっていう事実を作ってるだけで、踊りながら音楽に浸るために来てるんじゃないんだよ。

それでも、ジャカルタは今後アジアのエレクトロニック・ダンス・ミュージックの拠点になる可能性を大いに秘めてると思うね。JADE に参加している人たちみたいな先駆的なビジョンを持ってる人たちに感謝したい。JADE がどんどん成長して、アジアのエレクトロニック・ダンス・ミュージックの中心になることを願ってる。アムステルダムのイベント (ADE) がヨーロッパの中心にあるようにね。」

JADE は、現地のシーンをリードするDJ/プロデューサー・Ai Tumbuanにより発案され、インドネシアのトップクラス・プロモーターでありナイトライフの先駆者である Yudha Budhisurya と Arief Sundjaja の二人がパートナーとして参加している。彼らは Embassy Club というオーガナイズ会社を運営し、現地の有名フェス・Playground Music Festival も主催している。この国際的クラブビジネスに精通した3人は、世界のナイトライフ・シーンにインドネシアの名を轟かせることを目標としており、既に何千人もの人間がインドネシアに魅了され、夜な夜なクラブへ出かけているのを見れば、この目標は決して夢物語ではないことがわかるだろう。

Addictive TV のGraham はジャカルタについてこのように語っている。

「この街はすごく 『なんでもあり感』 のあるところだよね。想像とは全然違ったよ。僕はジャカルタのクラブシーンはもっと上海みたいに厳しい感じかと思ってたんだけど、実際は全くそんなことなかったんだ。」

ウィキペディアにも、ジャカルタは 「ナイトライフで有名。Blowfish や Stadium のようなクラブでは国際都市であることを感じられる。」 と説明されている一方、人種問題により引き起こされた4日間の暴動により1200人が死亡したことや、つい5ヶ月前には5つ星ホテルの The Marriot、Ritz-Carlton の二箇所での自爆テロにより9人が死亡した事件についても言及されている。

5ヶ月経った現在、全てのショッピングモールでセキュリティーによって車に爆弾が積まれていないかチェックされるようになり、ジャカルタでのテロの脅威は現実味を帯びたものになっている。しかし、それ以外ではジャカルタは非常に落ち着いており、「笑顔の国」 タイの人々と同様、現地の人々も笑顔で毎日を過ごしている。

東南アジアの文化紹介サイト into-asia.comでも解説されているように、 アジア圏 (特にタイ) での 「笑顔のシステム」 は非常に複雑なものであり、'yim yor' と呼ばれる人を馬鹿にした笑顔から、'yim mee lay-nai' と呼ばれる、内側に秘めた悪意を隠すための作り笑顔までも存在する。だが幸い、ここインドネシアのジャカルタでは 'yim tak tai' (他人への礼儀としての笑顔) の方が浸透しているように思えた。それは恐らく、地元の人々がタイのバンコクにいるような嫌な旅行者にあまり出くわしたことがないからなのだろう。旅行者主体のバンコクとは異なり、ここのクラブ・シーンは非常に地域密着型であり、活気のあるものなのだ。

「ここではパーティー・ピープルが足りなくなることがないんだ。」と X-Press 2 の Rocky はさらに続けた。

「僕達、そして、君 (Skrufff)、Addictive TV。3組とも別々のクラブで金曜日にプレイしてたのに、どこも大忙しだったよね?僕はJADE みたいなイベントは正しい方向に向かっていると思うし、メディアに取り上げられることになれば、もっとみんながジャカルタに目を向けるようになるんじゃないかな。」

ジャカルタでの3日連続ギグの初日、僕は1000人以上のキャパシティーを誇るX2というスーパー・クラブでギグを行った。このクラブはジャカルタの金持ちのエリート層を対象としており、ダンスフロアの真ん中に Marque という高級車の最新モデルが置いてあったりもした。しかし、これ以外の面では非常に雰囲気のいいクラブだったといえるだろう。

僕はオランダのトランス・プロデューサー Marcel Woods のプレイに向けて、フロアをウォーム・アップしていた。どうやら現在のジャカルタで一番人気のジャンルはトランスらしい。しかし、エレクトロなどに対してもこのパーティーのオーディエンスはすごくオープンで、Ramon Tapia, Oliver Ton, Oliver $ I spin などのトラックを2時間回している内にフロアがパンパンになり、ずいぶん疲れた様子のMarcel にバトンタッチする時にはフロアは幸福感に包まれていた。


6時間後、僕はジョクジャカルタ行きの飛行機に乗っていた。ジャカルタから50分の比較的小さな街だ。ジョクジャカルタはインドネシアの首都であり、大学が多く存在する街である。JADE のクルーによれば、ここは特別なパーティー・シティで、彼らが所有するクラブの一つ・Embassy もジョクジャカルタにあり、インドネシアで最も良いクラブの一つだと言っていた。

そんな話を聞いていたにも関わらず、僕がクラブに到着した深夜1時、200人のキャパシティーのクラブで踊っていたのはたった4人の女の子、そして、バーカウンターにパラパラと男性がいる程度。しかし、地元のレジデントである Billy は思わず感心してしまうほど、お客の入りなど気にしていないようで、アップテンポなハウスを笑顔で淡々とプレイし続けていた。そして1時半には女の子達、ゲイ、ファッショニスタなどあらゆる集団が現れ、クラブは見る見る内に満員となった。

女の子達はDJブースの前にあるお立ち台にのぼり、僕のセットの間ずっと踊り続けてくれて、クラブに訪れたオーディエンスも皆が楽しい時間を過ごそうとしているように思えた。ジョクジャカルタは最高だ。

日曜日、僕は再びジャカルタに戻り、Stadium でプレイした。ここの雰囲気は前日の Embassy とは全く異なり、5000人のクラバー達は4階建てのクラブで踊り明かしていた。ハコの雰囲気は暗く、特に上のフロアになると照明も限られており、少し怖いほどであった。このクラブは金曜の夜から72時間休まず営業し続けていることなど、様々な理由で有名である。Stadium はジャカルタの売春宿地帯の近くに位置しており、街を歩く人たちも非常にとげとげしい。しかし、一方でこのクラブは、Sasha などをはじめとする有名アーティストがサプライズで無料でギグを行ったことでも有名なんだ、と地元の伝説的人物は言っていた。

Stadium がプログレッシブ・ハウスで人気を得ているという話で、僕はプレイする楽曲の幅を狭めなくてはいけなかったが、インスト主体のエレクトロ・テックのセレクションにも皆満足してくれたようで、Ame の 'Rej' や Nathan Fake のトラックでは皆が手を上げるようなピークタイムが出来上がった。今回 Stadium に訪れるのは二度目だという Secret Cinema の Jeroen もそのとき、最前列で元気いっぱいに踊っていた。楽しそうな彼だったが、やはり後日のインタビューではジャカルタにはまだ足りないものがあると語っていた。

「前にも言ったように、ジャカルタには本物の 『シーン』 が存在しないんだ。必要なのは先駆的なエレクトロニック・ミュージックを作る地元のプロデューサー達なんだ。そして、彼らがそれをクールなものにすればいい。ダンス・ミュージックを作るという行為はDJになるために行う行為じゃなくて、カルチャーとしてやることなんだ。だから、何人かの人たちが集まってジャカルタのクラブ・ライフに新しい風を吹かせてくれることを期待してるよ。みんながその一部になりたいと思うようなカルチャーを作ることをね。だけど、ジャカルタに可能性を感じることも確かだよ。ここにはたくさんのクラバーがいて、みんなパーティーが大好きなんだ。僕もそうだよ。だから、ここで出会えたみんなにハローって言いたいね。」

ジャカルタの大きな利点の一つはその気候にある。ジャカルタは一年中夏のような熱帯気候であるにも関わらず、それを 『新しいイビサ』 として捉えるDJは一人もいない。どちらかと言えば、南アメリカのクラブ・シティ、サンパウロに近いものがあるようだ。サンパウロは2000万人もの人が住む巨大都市であり、ナイトライフは旅行者よりも地元の人たちによって作り上げられている。

「ジャカルタやバリを含めて、インドネシアはクラブシーンにおいて重要な場所になってくると思うよ。だけど、ヨーロッパ人にとってはイビサのようにはならないと思う。旅行しに来るにはちょっと遠いからね。」と Addictive TV のGraham は語る。

「だけど、アジア圏のメジャーなクラブシーンの中心になる可能性は秘めてると思う。ヨーロッパのDJ達も、日本や中国、オーストラリアに向かう前に一度ここに立ち寄れるしね。」

それに加え Rocky はこのように語る。

「正直なところ、『新しいイビサ』 になりえる場所なんてないと思うよ。当初のイビサがあれだけ素晴らしい場所だったのは、インターネットが無かったからなんだ。全て口コミで広がったからね。
今はインターネットがあって、起こったことは数秒以内に誰もが知ることができてしまう。だから過去のイビサにはいろいろと隠された秘密もあったし、それもイビサがあれだけ愛された理由の一つだと思うけど、今のジャカルタではそんなことは起こりえないんだ。」

これに対して、Celeste も同意見を述べた。

「だからイビサはイビサのまま、そしてバリは綺麗な海、天気とか、もっと独自の良さで人気の観光地になっていくと思うわ。それにジャカルタはアジアのほかの地域と繋がっているしね。でも交通に関してはすごく不便よ。」

横で聞いていた Jeroen がこの一言でインタビューを締めくくった。

「JADE のみんな本当にありがとう。ジャカルタのみんな本当にありがとう。だけど、お願いだから地下鉄、モノレール、なんでもいいから空港への交通手段を作ってくれ。頼むよ!」



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