international news_2009.02.10
Text by Jonty Skrufff (Skrufff.com) _ Translation by Yuki Murai (HigherFrequency)
ベルリン待望の新しいクラブ、 Dice のオーナーの Isan Oral に Skrufff 氏がインタビュー。発電所跡地にオープンした当クラブの、オープンまでの軌跡を追った。
「あまり格好いいとは言えない地味で工業的なコンクリートのスタイルと、とてもハイセンスなデザインを同居させることで、 Dice 独自のヴィジュアル・アイデンティティーを打ちたてようとしたんだ」と Isan は語る。
「第二の Berghain、第二の Tresor、第二の E Werk…まあどこでもいいんだけど、とにかくそういう風にはなりたくなくって、僕らはこのベルリンに全く新しい、ユニークなクラビング・エクスペリエンスを提供しようと思ってる。この建物は元々発電所だったけど、随分様子が変わったと思うよ。部屋のひとつひとつがすごく狭く作られてるし、それに夏向きの屋根付きテラスだってあるんだ」。
「パーティーの規模によって、部屋を小さく、ひとつひとつ使うこともできれば、広げることもできる。大勢の人が来れば他の部屋を空けて、もし静かな感じだったらワンフロアしか開けない、というようにね」。
ベルリンの地理的な中心部、 Alexanderplatz から数百メートルのところに位置する 2000平方メートルのスペースに、3つの部屋と2つのフロアがあり、立方体状のコンクリート・ブロックが並んでいる。この何の説明も書かれていないコンクリート・ブロックは S トレインの側、新しいショッピング・アーケードの後ろに隠れていて、Isan の話によると、元々は何やら不穏な設備であったという。
「この発電所はシュタージ(訳注:東ドイツ時代の秘密警察・諜報機関である国家保安省の略称)専用に電力を提供していて、彼らはここでベルリン市民全てを監視していた。彼らにとってはここがメインの発電所だったから、巧妙に隠されていて、誰もこの建物が何なのか知らなかったんだ。 建物の歴史としてはすごく面白いんだけど、ごてごてに改装されていたから、一体どうやってこれを改築したらいいのか全然見当もつかなかったよ」。
Dice のオフィシャル・ラウンチ・パーティーは2月14日、メインフロアに Guy called Gerald と Octave One を迎えて行なわれるが、彼らは Kiki、Mathew Styles らとここ4週に渡って『ソフト・ラウンチ』とも言うべきパーティーを行なってきた。もっとも、Isanに言わせると、これは『コンストラクション(工事)』パーティーとのことで、建物の半分がまだ内装も終わっておらず、瓦礫が転がっている状態だそうだ。
「ここのとこの世界的経済不況のせいでついつい慎重にならざるを得なくてね。それでコンストラクション・パーティーを開いて、このクラブがどんな感じで動くのか、客は来るのか、来たとしたらどれくらい来るのかを検証してるんだ」とのこと。
「すぐに全資金を注ぎこんで『新しくて完璧なクラブができました!』という風にやるよりも、みんなと一緒に少しずつこのクラブを作り上げていきたいんだ。経済問題は実際にすごく厳しい状況にあるけど、逆にクラウドと一緒にこのクラブを作り上げていくチャンスを作り出してくれたとも言える。お客の動きとか、どうやってお客がこの場所を使うのかということを見られる機会をね。たとえばバーは左側に作るべきか、右側に作るべきかということを、実際にクラブを動かしながら見いだし、随時見直すことができるんだ。僕は慎重に、かつ楽天的にやってるんだ」と笑顔で語る。
1月、Kiki と Marc Houle を迎えて行なわれたプレ・オープニングイベントでは、数百人近い人々が中に入れないという騒ぎが起こった。 Isan と、彼のクラブ Dice の両方にとって、成功はもはや目前のものといえるだろう。だが、凍えそうな火曜日の午後、クラブの中で Jonty Skrufff に語りかける彼は、しっかりとした意志を持ち、フレンドリーで非常に落ち着いた様子だった。
Skrufff : ラウンチにあたってのプレスリリースには「ベルリンには長い年月に隠されたアンダーグラウンドがあった。新しい何かがついに始まる」とあったけど、 Dice の構想には何年くらいかかった?
Isan : 僕は4年前にベルリンに来て、3年の間、新しいクラブを作る計画を練っていたよ。まず最初は Bangaloo というコンセプチャルなクラブ(Skrufff氏 曰く「セレブだらけのギラギラしたクラブ」)を始めたんだけど、それは自分が本当にやりたかったものとは全然違ったんだ。職の確保と資金作りが主な目的で、その仕事をやりながら、自分自身が作りたいクラブについて色々考えてたんだ。どんなクラブがベルリンではうけるだろうか、とか考えるようになって、ちょうど1年後に場所探しを始めて、その9ヵ月後にこの建物を見つけて、オーナーとの契約の準備に入ったんだ。実際の工事などは、去年の夏から始めたね。
Skrufff : 初めて見た時はこの建物はどんな感じだった?
Isan : 設備やら機械やらの山さ。10年以上誰も中に入っていない、見捨てられた元発電所そのものだったよ。建物は汚くて、古い設備で埋め尽くされていた。最初見たときはすごくエキサイティングに思えたけど、よくよく見ていくと問題だらけだったんだ。全部がアスベストに覆われていてね。それで、全部を引き剥がして廃棄するのに相当な努力を費やしたんだ。古い設備の一部はすごく魅力的だったからとても悩んだんだけど、ともあれそれは捨てなきゃいけなくなってしまった。これが最初の大きなハードルだったな。残すための解決法がないか探してたんだけど、毎回ドアを開けるたびに新しい問題点を発見するような状態だったからね。
Skrufff : Trasor や Berghain も元発電所だけど、この発電所はどうやって見つけたんだい?
Isan : Bangaloo の仕事を辞めたあと、新聞に僕が Bangaloo を去って新しいクラブを作るという記事が載ったんだ。それを見た人たちが大勢、「私はこんな建物を持ってますよ!他にもこんな建物やこんな建物も…」と電話してきたんだけど、その中に Vattenfall という電力会社でディレクターをやっている人がいたんだ。彼は僕のことを以前 Bangaloo のフロアで見たことがあったそうで、それですごく親しみが沸いたんだけど、そうしたら「実はあなたにぴったりの建物があるんです」っていう話でね。一緒にコーヒーを飲みがてら会うことになって、彼はこれ以外にもいくつか建物を紹介してくれた。 Vattenfall はオープンマインドな会社で、古い建物を生き返らせるのにすごく興味があったし、それにこれがとてもいいイメージの宣伝になるってこともよく分かってたんだ。
Skrufff : このクラブには大きな屋根つきのテラスがあるけど、ここはちゃんと音を出す許可は取っているの?
Isan : もちろんさ。ドイツでこういうことをするのは本当に大変だったけど、ここでは実際に屋根つきテラスで音を出すことができるよ。だけど、周囲の住民の人たちがどういう反応を示すかには気をつけるつもりだね。実際近所には何もないんだけど、500メートル離れるといくつかアパートがある。まあ、大体こういう時はいつも一人くらい文句をつけてくる男がいるものだからね。
Skrufff : ベルリンの大きいクラブは、たとえば Trasor とか Berghain みたいにドイツ語の名前がついてるけど、どうして英語の ’Dice’ という名前を選んだんだい?
Isan : 最初にこの建物を見たとき、ドイツ語で立方体という意味の 'Wurfel' という言葉が思い浮かんだんだけど、実際この言葉はドイツでは全然通じないんだ。そこで、Kraftwerkの作品だとか、他のドイツ語の言葉も考えてみたんだけど、まだ他に何かあるように思えてね。 Dice のコンセプトは、何か他と違うこと、オープンマインドであること、国際的であることだから、英語で名前をつけることにしたんだ。あと、ネーミングは分かりやすくて覚えやすいことが大切だろう?僕らはいつもこのクラブを「Cube」って呼んでいたけど、あるとき誰かが、「そうだ、 Cube の別な言い方は Dice だな」と言ってから、それに決まったんだ。
Skrufff : プレスリリースには、世界各国のクラブと提携を結ぶと書いてあったけど、今のところどんなラインナップが揃っているの?
Isan : イギリスのクラブにはもう随分話を持っていってるよ。それに去年一年は、色々新しいアイデアを見出すために、マイアミ、ニューヨーク、香港といった世界のあちこちのクラブを見て回ったんだけど、その結果、世界中のどのクラブにもベルリンで通じるようなコンセプトは無いってことを実感した。ベルリンはユニークな個性を持った、すごく特別な場所だからね。どのクラブも、それぞれの場所ではうまく機能してるけど、ベルリンではダメだ。すごく難しいことだよ。そう、イビサはイビサ、バルセロナはバルセロナでしかないんだ。
Skrufff : 提携先のクラブとはどんなコラボレーションを考えてる?
Isan : まだコラボレーションが決まったところはなくて、今はとりあえずDiceを始めようってところだな。皆に僕達がどんなふうに活動していくのか見せる必要があるし、そのあとで計画を立てようと思うよ。
Skrufff : 自分でもDJをやったりする?
Isan : いや、15年前にやってみようと思ったけどダメだったな。僕はどちらかというとダンスフロアの住人の一人なんだ
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