1999年に行われた、Muzik Magazine誌主催のBedroom Bedlamコンテストで見事に優勝を果たしたことをきっかけに本格的にDJ/プロデューサーとしての活動を開始したWill Saul。2002年にそれまで勤務していたソニーミュージックを退社し、自らSimple Recordsを設立した彼は、ブレイクスやダウンテンポを中心としたハイクオリティな作品を数多く世に送り出し、また自らの作品 "Cliff"のリミキサーに、今をときめくInfusionを起用することで大ヒットに導くなど、アーティストとしてだけではなくA&Rとしての才能も遺憾なく発揮してきた新進気鋭のイギリス人アーティストである。
今回が初来日となったWillは、Mike McKennaが新たに再始動させたイベントAddictionに出演、その幅広い選曲と高いDJスキルを我々の前で初めて披露してくれた。その興奮さめやらぬ翌日の6月20日、
HigherFrequencyが彼に独占インタビューを実施。日本のファンには今まで余り知られることのなかったその素顔に迫ってみた。
> Interview : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Photos : Ollie Beeston _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 昨日のSimoonでのイベント、Addicitonは如何でしたか?
Will Saul : スゴク良かったよ。お客さんの反応もとても良かったし。日本に来る前に色んな噂を聞いていて、その中には「日本のクラウドは立ったままで音を聴いている」なんてものもあったりしたんだけど、昨日のイベントでそれは間違いだった事が証明されたね。サウンドシステムもすごく良かったし、とても楽しい時間を過ごす事が出来たよ。
HRFQ : 日本人のアーティストで好きな人は誰かいますか?
Will : プロデューサーと言う点では、Mo Waxの初期にたくさん作品をリリースしていたMyloってアーティストが好きかな。あと、DJ Krushや、彼と一緒にアルバムをリリースした事があるトランペッターの近藤等則などの名前はよく耳にするね。
HRFQ : 日本はあなたの予想通りの国でしたか?
Will : 今まで一度も足を踏み入れたことの無い国だったから、クラウドやクラブがどんな感じなのか予想する事すら出来なかったのが正直なところなんだ。でも、イベントはとっても上手く行ったと思うし、サウンドシステムやクラウド、それにクラブ自体の雰囲気もスゴク良かったね。
HRFQ : 最近では、大勢のブレイクス系アーティストがイギリスから来日するようになりましたが、今のイギリスのブレイクス・シーンはどんな感じなんでしょうか?
Will : ここ3〜4年くらいはロンドンのFabricというクラブが先頭を切ってシーンを引っ張って行っている感じがするね。このクラブはおよそ2〜3千人は入る巨大なハコなんだけど、毎週金曜日にはドラムン・ベースからヒップホップまでを網羅したブレイクビーツをメインにパーティーを開催したりして、ブレイクス・シーンの発展にとても大きな貢献を果たしていると言われているところなんだ。僕もこのクラブのワンフロアーでブレイクスを回しているんだけど、やっぱりこう言った場所があるって事が、今のイギリスのブレイクス・シーンにとって追い風になっているのは間違いないだろうね。でも、一方でたくさんのレーベル自体が力を付けてきているのもまた事実なんだ。最近の音楽業界は全体的に落ち込んでいると言われているけど、おかげで単に流行に乗りたいが為に音を作っているような実力のないアーティストたちが消えたわけだし、その結果として純粋に音楽を作るのが好きな人たちだけが残ったと言う事を考えると、これはある種ポジティブな事なんだと思う。音楽が好きな人たちが運営するレーベルが中心になって、世界の色んな所でDJ活動をしたり、音楽制作を行ったり・・・何か原点に戻った感じがするよね。
HRFQ : と言う事は、ブレイクスのシーンは今がピークって感じでしょうか?
Will : まだまだ成長する余地はあると思うよ。色んな新しい事もイギリスでは始められているし、世界的にもマーケットはドンドン広がりつつあるからね。さっき君が言ったように、日本にもブレイクスの波が押し寄せてきているし、オーストラリアでもそうだ。ひょっとしたらイギリスのシーンより大きいかもしれないし、Fingerlickin'のレコードなんかは、イギリスよりオーストラリアの方がたくさん売れているみたいだしね。
HRFQ : Fabricでは今レジデント・パーティーを持っているんですか?
Will : いや、今までにあそこのルーム3で2回ほどやっただけなんだ。この秋にもう一回やるけどね。あと、僕個人としてはたまにプレイする事があるかな。
HRFQ : 最近ではここ日本でも小さなクラブに人気が戻りつつあったりするんですが、イギリスでも状況は同じですか?
Will : 間違いなくその通りだね。どうしても大きなクラブだと、個性的な感じが薄くなってしまって、雰囲気的にも弱くなってしまうでしょ。だから、CreamやMinistry Of Soundと言った大きなクラブはどこも大変だと思うよ。そもそもダンスミュージックは、みんなが日常から逃避できるアンダーグラウンドなムーブメントだったからこそ、こうやって盛り上がってきたと思うんだけど、一旦それが日常の一部になってしまうと、みんな慣れてきちゃって次第に飽きてきてしまうものだからね。そんな中でFabricが上手くやっていられる理由って言うのは、音楽に対してものすごく純粋な形でアプローチをして、常に新しいアーティストや最新の音楽を提供してきたからじゃないかと思うんだ。サウンドシステムやクラブ自体もすごくアンダーグランドだしね。それに、何よりも重要なのは、彼らは自分たちを決して安売りしたりしていないってこと。世界ツアーに出かけたりもしないし、Ibizaでパーティーをする事もないし・・・。あくまでハコに徹している感じがするんだ。まぁ、これは運営している人たちの気質に負うべきところが大きいんだろうし、願わくばこのままこの姿勢を貫いていって欲しいものだね。
HRFQ : ところで、以前はソニーミュージックで働いていたそうですね。担当は何だったんですか?
Will : 肩書きはダンスミュージックのプロダクト・マネージャーで、A&R的な事もちょっとはやったけど、主にはダンス系作品のマーケティング・コーディネーションが僕の仕事だったね。元々ソニーでは、大学生の時に実習で2年ほど働いていた経験があって、それが終わった時に彼らから仕事をオファーされたのがきっかけだった。でも、あの会社では音楽も石鹸や砂糖と同じように「商品」としてマーケティングされていたし、みんな別に音楽に対する愛情があるからやっているって感じでもなかったから、僕の音楽業界に関しての見方は完璧に歪められてしまったんだ。だから、数年働いた後に辞めて、あまりにビジネスライクで魂を失ってしまったものへの反発として、自分でSimple Recordsを設立する事にしたというわけ。
HRFQ : でもソニーでの経験はSimple Recordsを始めるにあたって役に立ったんですよね?
Will : 役に立ったかと聞かれれば、答えはイエスかな。Simple Recordsを一緒に立ち上げた仲間の一人はソニーの弁護士で、もう一人はマーケティング・ディレクター、そしてもう一人はデザイナーだったしね。それに、もうあそこへ戻ることは無いにしても、たくさんの事を学べたのは事実だし、長い間続けるような仕事ではなかったけど、それなりに価値ある経験だったのは間違いないと思うよ。
HHRFQ : そのSimple Recordsの戦略を教えていただけますか?
Will : 多分みんな僕のことをブレイクビーツのDJとしてカテゴライズしているんだろうけど、でもレーベル自体はブレイクビーツだけというわけでは決してないんだ。勿論、ブレイクビーツが核にはなっているんだけど、その他にもブロークン・ビーツやダウンテンポ系の作品なんかもリリースしているし、Ninja TuneからFinkという名義で作品をリリースしているSideshowっていうアーティストや、Precision Cutsというブレイクビーツ系のライブアーティストも居たりするしね。だから、僕らの戦略は、それらの要素をすこしずつ取り入れながら、ブレイクビーツのレーベルと言うよりは、アンダーグラウンドのレーベルとして運営していくというものだと言って良いと思う。
あと、作品のリリースと言う面においては、今年の後半にはレーベルのサンプラーCDをリリースする予定で、その後には僕自身のニューアルバム、そして来年にはSideshowのアルバムをリリースしていく事になっている。次に予定されているシングルはSlideshowの"Slide EP"という作品で、このEPにリミックスを提供してくれたMatthew Johnsonは、Richie HawtinのレーベルMinusからも作品を出したことのある、アメリカでは結構人気の高いミニマル・テクノ系のプロデューサーなんだ。で、その後に控えている僕自身の作品"Digital Watch EP"には、ドイツのレーベルGet Physicalに所属しているM.A.N.D.Yというアーティストによるエレクトロハウス系のリミックスが収録されることになっている。まぁ、来年にはレーベルも少しは大きくなっているといいなぁとは思うけど、普通はレーベルを確立するためには2〜3年はかかるものでしょ。特に一貫した姿勢でお客から信頼されているレーベルを作るためには時間がかかるものだからね。
HRFQ : その他にこれから出てくるリリースはありますか?
Will : さっき話した僕のEPが出るのが9月。で、その前の7月には、前回のAddictionパーティーでも来日したレーベル10 Kiloから、Nathan Coleのリミックスと一緒に僕のリミックス作品がリリースされる事になっている。あと、FabricのレジデントでもあるAli BのレーベルAirから、以前Daft PunkやCassiusと仕事をした経験を持つヴォーカリスト、Steve Edwardsをフィーチャーした作品が11月あたりには出ることになるだろう。まぁ、そんな感じでたくさん色んな事をやっているよ。
HRFQ : 今後はDJ活動と制作活動のどちらに重点を置いていかれるつもりですか?
Will : 正直言うと、もっとスタジオでの時間を増やせたらいいなぁとは思っている。で、時々いいライブにだけ出演する・・・まぁ、これってDJとして活動を始めた人なら誰でも夢見る事なんだけどね。あちこちを旅して周るって言うのも、そのいく先々でじっくりと時間が取れて、あちこち観て回ったり、そこの文化を堪能したりすることが出来なければ、決して楽しいものではないと思うんだ。ただ、飛行機に乗って、ホテルとクラブの間を往復っていうのだけじゃつまらないからね。まぁ、それもイベントの内容がよければ悪くはないんだろうけど、僕としては、出来れば一ヶ月のうちに2回から3回のペースで、一箇所に4〜5日滞在することが出来て、ギャラもシッカリ出る(笑)みたいな感じで出来たらいいなぁと思っているんだ。でも、その為には何枚かしっかりしたアルバムを出さなきゃいけないし、そうなるのがあくまで理想って感じかな。
HRFQ : 最近のお気に入りのトラックを教えてもらっていいですか?
Will : 今、僕的に面白いなぁと思っているレーベルは、ドイツの"Get Physical"というレーベルかな。今のところ、10枚か11枚くらいを出しているレーベルなんだけど、どの曲もディープでメロディアスなエレクトロ・ハウスですごく良いものばかりなんだ。あと、Mattew Johnsonがやっているカナダのレーベル"It Is What It Is"も好きだね。ブレイクビーツという事に関して言うと、Adam FreelandのレーベルMarine Paradeがお気に入りで、その他にもKompaktと言ったドイツ系のレーベルもいい仕事をしていると思うよ。
HRFQ : 今のブレイクスのシーンで、最も勢いのあるアーティストは誰だと思いますか?
Will : 今のところで言うと、やっぱりFingerLickinかな。彼らのサウンドはパーティー系のブレイクスだし、それこそ世界の色んな所でブレイクしまくっているんじゃないかな。僕は、あまりこの手の音楽がチャレンジングなものには思えなくて、自分自身では殆どプレイしないんだけど、踊るためには間違いなく最高の音楽だし、彼らは自分たちの言った通りの事にキチンとこだわっているから、その点に関してはすごくレスペクトを感じているんだ。あとは、Adam FreelandのMarine Parade。彼自身のアルバムの2〜3万枚は売れたみたいだし、Evil 9の新作も聞いたけど、すごく良い作品だったよ。そう言えば、彼らとも何曲かコラボレーションをする事になっているんだ。
HRFQ : 日本のファンに向けて何かメッセージはありますか?
Will : 僕のパーティーに来てくれて有難う。とても楽しかったし、みんなも楽しんでくれたことを願っているよ。あと、Simple Recordsをよろしく!
End of the interview
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