HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Westbam Interview

日本が誇るテクノ・スター石野卓球との長年にわたる盟友関係、そしてその絆の強さを証明するかのような WIRE 皆勤賞…。極東の小さな国におけるテクノ・シーンが、世界に誇れるほどの隆盛を極めることが出来た理由の一つに、Westbam というアーティストの存在があったことは紛れもない事実である。'80年代の初頭から活躍するベテラン・アーティストであり、常にドイツ・テクノ・シーンの中心人物として存在感を発揮してきた Westbam。'05年9月には、3年ぶりとなるニュー・アルバム"Do You Believe In The Westworld"をリリースし、ロック・テイストもふんだんに取り入れたオリジナル・トラックで新境地を開拓したばかりだ。

そんな彼が、WIRE 05 から約5ヶ月というインターバルで再来日を果たし、12月16日、ageHa の人気テクノ・パーティー Clash で迫力あるセットを披露。プレイ直前のバックステージ、ニューアルバムのこと、最近のドイツ・シーンの隆盛などについて話を訊いた。

> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)

triangle

HigherFrequency (HRFQ) : 今日はありがとうございます。Wire から5ヶ月ぶりの来日となりますが、どのように過ごされていましたか?

Westbam : 結構忙しくしてたよ。アルバムを制作したんだ。レコーディングをたくさんやってた。レコードをつくって、プレイするっていうお決まりの仕事さ。

HRFQ : Wire には今までに何回出演されているんですか?

Westbam : 毎回 Wire に参加してるのはヨーロッパでは僕だけだと思うよ。今年で何年目だっけ?

HRFQ : 確か7年目でしたよね。では7回ということでしょうか?

Westbam : そうだね。7回だ。

HRFQ : 8回目にも出演される予定ですか?

Westbam : もちろんさ!もし呼んでもらえればね。もし呼んでもらえなくても来ちゃうかも!「次は僕の番だよ」ってね。ハハハ!!

HRFQ : 先程もお話されていたアルバム "Do You Believe In The Westworld" は、ロックな方向性が強く感じられる作品ですよね。特に 'Sunday Morning' などは、Velvet Underground のような雰囲気も感じられるトラックですが、このアルバムに表れたロックの影響について少しお話いただけないでしょうか?

Westbam : テクノ・カルチャーは、ロック&ロール ・カルチャーを終わらせたと思うんだ。または、その逆に、テクノ ・カルチャーがロック&ロール・カルチャーを引き継いだとも言えるかもしれない。僕は以前から、ロック&ロール・カルチャーの持つ基本的な意味と、テクノ・カルチャーの持つ基本的な意味には、共通する点があると感じていたんだ…エネルギーとエクスタシーの感覚という部分でね。'60年代に「エクスタシーを感じること、それがすべてさ」と、Mick Jagger が言ったようにね。テクノ ・カルチャーはそれを引き継ぐように生まれたんだ。いくつかの新たなる意味が加わった状態でね。ずいぶんと長い間、ロック&ロールはエレクトロニック ・ミュージックのアイデアに対極するものだったけど、最近では双方が歩み寄っているように感じるね。

Westbam Interview

HRFQ : タイトルの "Do You Believe In The Westworld" にはどんな意味が込められているのでしょうか?Westbam だけに、二重の意味も込められているのでしょうか?

Westbam : 僕がDJを始めた '83年頃に "Do You Believe In The Westworld" というレコードをリリースした heater of Hate というイギリスのグループがいてね。当時はそのレコードをよくプレイしていたんだけど、時間が経つうちにすっかり忘れてしまっていてね。最近、欧米関連の政治的な問題について話しているときに、そのレコードのことが突然思い出されたんだ。ただ、あまり大々的に政治的な部分を打ち出したくなくてね。だから、このアルバムのタイトルが欧米人の僕にはぴったりなタイトルだと思ったんだ。

HRFQ : 自分自身を信じていらっしゃいますか?

Westbam : 信じてるよ。ある程度はね。タイトルには「僕の音や世界を信じられるか」っていう二重の意味も込めたんだ。そしてアルバムのアイデアとしては、エレクトロニック・ミュージックの方向性を示した部分もある。ここではあまり詳しく話したくなんだけど、このアルバムのカヴァーが表しているように、この作品のタイトルには、ダイレクトで、シンプルに政治的なメッセージを伝えるよりも、超現実的なものであって欲しいんだ。だからタイトルも質問形なのさ。もっとサイケデリックな方法で、Westbam とWestworld という二つの違ったものを暗示して、人によって様々な意味にとれるタイトルにしたかったのさ。

HRFQ : この質問は、「West-world を信じているか?信じていないだろうなぁ…」という少し反意語的な意味合いにもとれるものだと感じたのですが…。

Westbam : 世の中には60億くらいの人が住んでいて、その中のほとんどの人が僕の作品に興味を示すことはないんだ。これは僕だけじゃなくて他のアーティストにも言えることだけどね。世の中には、自分のことを気にしない人の方がほとんどなんだ。アーティストはこういったことを理解しなくちゃいけないのに、ほとんどが世界中から注目されたがる。僕は世の中に Westbam ワールドを信じていない人なんて、五万といると思ってる。だから僕はこれを反意語的な質問だとは思わないな。だって世の中のほとんどの人が、僕の音楽とは違う何かに興味を持ってることを知ってるからね。

HRFQ : ずいぶんと長いキャリアを持っていらっしゃいますが、あなたが活動を始められた'80年代と比べると、テクノロジーの面や、ジャーナリスティックな面でも大きな変化がありましたよね。現在と過去を比べられて、いかがですか?要約して、どのような意見をお持ちですか?

Westbam : 完璧に違った状況と言えるだろうね。僕が始めたときは、DJが真剣にアーティストとして扱われることなんて考えられなかったんだ。DJがリミックス等をやり始めたのは'70年代だけど、DJ文化が発達しはじめたのは'80年代になってからなのさ。それから20年経った今、DJはアーティストであり、そういった考えは常識と言えるほどに広まった。いいことだと思うよ。スーパー ・スターDJについての話をする時だって、僕は常にDJはアーティストとして真剣に扱われるべきだと主張してきた。すべてのDJではなく、アーティストとして努力しているDJの話だけどね。そういったDJこそ、出世するものなんだから。

僕にとってDJとして成功できたことは、まさに夢がかなったという感じだけど、シーンには悪い側面もあって…つまらない、お決まりのレコードを30分プレイするだけで、高額なギャラをもらっているようなDJもいるわけだからね。でも僕は競わない主義なんだ。音楽における僕のポリシーは、「自分の知ってることだけで満足するな」ということだからね。ただ、また違った方向から考えれば、この広くて、クオリティーの高いシーンには、たくさんの見方があると思うんだ。僕が個人的に良いと思えない音でも、多くの人に受け入れられることが、今のシーンでは十分に考えられるんだからね。

Westbam Interview

HRFQ : 素晴らしい。了解しました。最近ではドイツのアーティストの活躍が目覚しいですね。多くのアーティストが彼らの楽曲をプレイしています。ドイツのダンス・ミュージック ・シーンのパイオニアとして、最近の新鋭ドイツ人アーティストの活躍ぶりについてどう思われますか?

MWestbam : ベルリンみたいな都市に住んでいると、時々、新しい情報についていくことが難しく感じてしまうことがあるんだ。レコード ・ショップに行く度に、僕が聞いたこともないようなDJの名前が載ったフライヤーが置いてあるんだからね。ただ、それは良い傾向と言えると思うんだ。だってそれは巷には何か新しいものを作ろうとしている若いプロデューサーや、新しいスタイルを目指してレコードを買っているDJの卵がたくさんいるっていう証拠だから。それは良いことだと思うよ

これはあくまでも僕の見解だけどね。シーンでは常にいろんなことが起こっていて、僕のように毎週末ツアーに出ているようなDJには、シーンのすべての動きを見抜くことは簡単なことじゃないと思うんだ。僕自身、時々、遅れをとってるように感じることがあってね。毎週のようにプレイし続けるより、一週間ほど休みをとって他の人の音楽を聴いた方がいいと思うこともあるんだ。来年はそれを実行してみるのもいいかもしれないね。

HRFQ : あなたと Takkyu Ishino の近しい友好関係は有名ですね。彼は世界中で活躍する日本人テクノ・アーティストとして、長い間シーンに君臨している希有な存在ですが、あなたから見た アーティスト:Takkyu Ishino の魅力とは何だと思われますか?彼の持つ 「マジック」とは何なのでしょうか?

Westbam : 個性的なDJは、どんなトラックをプレイしようが、彼らの個性を音に反映することが出来ると言えると思う。Takkyu はそんな個性的なDJのうちの一人なんだ。 彼は普通の男だよ。でも、彼は音楽をプレイすることで彼の感情を伝えることが出来るんだ。何時でも何処でも、彼がプレイしていればすぐに分かるしね。彼は何時だってスペシャルだし、ユニーク。人の音楽をプレイしながら自分らしさを表現することが出来るなんて素晴しいと思うんだ。Takkyu だけじゃなくて、すべての素晴しいDJに言えることだと思うけどね。

HRFQ : ニュー・カマーのDJに何かアドバイスをいただけますでしょうか?

Westbam : さっき言ったようなことがそうさ。でも、アドバイスするのは難しいとも言えるよね。結局は自分で試行錯誤して見つけて行かなくちゃならないんだ。だから僕からのアドバイスは「アドバイスを受けるな」ってことかな。結局大事なのは、その人の性格。誰だって良いトラックをプレイすることは出来るけど、DJの仕事とは、そのトラックをユニークな方法でプレイして、人の心を動かすことなのさ。

Westbam Interview

HRFQ : 分かりました。最後の質問です。最近では、デジタル・マーケットが主流になってきましたが、それについてはどのような考えをお持ちですか?現在でもレコードは買われていますか?

Westbam : 僕は未だにレコードを買い続けているオールド・ファッションな奴なんだ。こういった質問は、今までに何度も聞かれてきたよ。それに、確かに僕自身「Final Scratch をやるべきか?」って何度も思ってきた。もちろんそうすることも出来たさ。ただ、「20年のキャリアがあるDJの価値といえば、レコード・コレクションと知識だ」って思い直してね。だから僕がフォーマットを変えることは、僕の可能性を高めることにはならないし、僕が築いてきたものから切り離すことになりかねないと思ったんだ。だからやめたのさ。でも、これは若いDJには別の話だよ。もし僕が10代の若いDJだったら、これは全く別の話。もちろんデジタルに乗り換えるさ。Final Scratch でも何でもトライして、インターネットを上手く活用して、音源をダウンロードすると同時に、プレイしたりしてるだろうよ。テクノロジーによって将来可能になることはたくさんあるんだ。ただ、いくらアナログがメインのDJツールでなくなったとしても、アナログ文化は無くならないと思う。だってDJカルチャーはアナログと共に繁栄していったんだからね。

だからアナログが跡形もなく消えてしまうとは思わないな。どんなエリアにおいても、伝統的なものは無くなっていないでしょう?伝説的なブルース・ミュージシャンがいきなりコンピューターを使い出して、シンセサイザーを弾いてる姿なんて誰も見たくないし、彼に「ブルースを一つ上のレベルに持っていく」なんて言って欲しくないはずなんだ(笑)他の芸術のエリアにおいても同じことで、現在でも活躍している画家はたくさんいるよね。ニュー・テクノロジーは、新しい物事をスタートさせるきっかけになるんだ。ただ、いくら科学が進歩したからといって、優れた画家がコンピューター・グラフィックを始めなければいけないとは限らない。テクノロジーの進歩によって次々と新しいアーティストが生まれてくるだけのことなんだ。だからこれは、既存のアーティストが転身するしないの問題ではなくて、そのフォーマットが芸術の一部として確立するかどうかという話さ。

HRFQ : すごく魅力的な考え方だと思います。Max、今日はありがとうございました。今後も応援しています。ありがとうございました!

Westbam : ありがとう!

End of the interview

関連記事


関連リンク