Dominik Eulberg や Extrawelt、 Minilogue などが活躍し、常にハイ・レベルなトラックを世に送り出しているケルンのミニマル・レーベル Traum
Schallplatten をはじめ、そのサブ・レーベルである Trapez や
My Best Friend なども総括している Triple R こと Riley Reinhold。 DJとしては約20年にも及ぶ長いキャリアを持ち、ここ最近では
Trapez レーベルからのミックスCD "Selection 5" もリリース。その長きDJキャリアから裏づけされた素晴らしいミックス・テクニックを世に知らしめたばかりである。
今回 HigherFrequency では、今をときめくミニマル・シーンのキー・パーソンであり、4月20日には待望の来日公演も控えている彼にインタビューを決行。 彼が主宰するレーベルのスタンスや今後のリリース予定、また、彼が拠点とするドイツの音楽都市ケルンについてのエピソードなどを大いに語ってくれた。
> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) :Traum Schallplatten、Trapez、MBF といった レーベルからリリースする楽曲をどのような基準で選ばれているのですか?
Triple R : 20年を超える DJ としてのキャリアと、’95年〜’99年の間、4000枚以上のディスク・レビューを書いたジャーナリストとしての経験、自分のラジオ番組を持ったことなどを通して、音楽のセンスを磨いていったんだ。
HRFQ : Traum や Kompakt といったレーベルがあるにも関わらず、ベルリンと比べると、あなたのホームタウン、ケルンは話題になることが少ないと思います。そのことで、腹が立ったり、イライラすることはありますか?
Triple R : 多くの教会が立ち並ぶこのケルンで、テクノを広め続けてもう20年になるんだ。’89年に初めてテクノ・パーティーをやったのを覚えてるよ。ある意味僕らはこの都市と切っても切れない関係にあってね。ここで活動することが不利なのは知ってるけど、楽曲のクオリティーに関してはドイツの他のどの都市にも負けたくないんだ。ドイツに来たら絶対にケルンに来てみて欲しいな。ケルンは、エレクトロニック音楽とジャズをロックの音楽構成で表現したインプロヴィゼーション・バンド CAN のように、素晴らしいアーティストを輩出したジャズ〜ロックで有名な都市なんだ。僕自身も Dunkelziffer をはじめとするたくさんのポスト CAN バンドに影響を受けたよ。だからケルンの中心地はバーやパブで溢れているけど、クラブはあまりないんだ。Westpol Gewolbe というクラブでは、SLG / Live や The Silent Jeffs、Alex Under、Cosmic Sandwich、Break 3000、Dirt Crew といったアーティストが出演してるけどね。
HRFQ : あなたは20年以上音楽シーンで活躍されていますが、今のシーンを昔と比べていかがですか?
Triple R : 時代が変わればシーンも変わるさ。音楽におけるデザインやサウンドデザインに対する考え方によって、この国のシーンや人々も随分と変わってきたと思う。メインストリームの人々も含めて、最近ではテクノを好んで聴く人が多くなったし、テクノはサブカルなものではなくなってしまった。新しいリスナーの中には、テクノの歴史を知っている人は少ないけど、新しいアーティストは新しいアイデアを持っているからいいと思うんだ。それに最近はインターネットの発達によって、誰でも簡単に情報を得ることが出来るようになったよね。現在のシーンにおいては、ヒップであることが重要なマーケティングの鍵なんだ。昔と比べると最近のクラウドはイベントに求める基準が高いから、イベントのプロモーターは一層の努力をしなくちゃならないしね。15年前はシンプルなテクノ・イベントでも700人が集まって満足してくれてたけど、そういう時代は終ってしまったのさ!
HRFQ : 様々な流行が起こっては消えていく今日のエレクトロニック・ミュージック・シーンですが、そんなシーンにおいて現在最もエキサイティングな事項とはなんでしょうか?
Triple R : 僕の口から言えるのは、僕たちのレーベルに関することだけかな。来年で Traum は10周年を迎えるんだ。それを記念してアニヴァーサリー記念盤を限定でリリースするんだけど、数日間の間、しかもレーベルからダイレクトでしか販売しないんだ。レーベルとして何よりもエキサイティングなのは、アーティストと契約して、彼らと一緒に仕事をしながら、彼らの成長を感じること。僕たちが契約した
Dominik Eulberg が世界的に成功したことは僕らにとってもすごく喜ばしいことだし、彼が今後の Traum を支えていくメイン・アーティストになることは間違いないだろうね。彼は今後レコードを数枚
Traum からリリースする予定だし、Jesse Somfay の楽曲のリミックスも手掛けているんだ。
最近はたくさんのドイツ人プロデューサーと一緒に仕事が出来ていて嬉しいよ。そういったプロデューサーとダイレクトな関係を持つことによって、彼らとも近い距離で仕事が出来るし、以前まであまりフォロー出来ていなかったDJシーンにも敏感でいられる。My
Best Friend から、Martin Eyerer と Oliver Klein をミキサーに迎えて、世界各国の良質なミニマル・レーベルの作品がフィーチャーされている二枚組のミックスCD
をリリースするんだけど、それも楽しみだな。Oliver Klein は MBF から12インチでリリースした ‘Kairo’ もヒットしたしね。それから今年はOliver
Hacke も久しぶりに Trapez から作品をリリースするんだ。
HRFQ : DJであるだけなく、プロデューサーやレーベル・オーナー、そして De:Bug マガジンの共同経営者と、“クール”な仕事を経験してきたあなたですが、こういったキャリアを手にするのは簡単でしたか?それともここまで到達するには大きな苦労があったのでしょうか?
Triple R : まず、僕は常に音楽に対する愛情を持っているんだ。だからこれまでに様々な音楽に対する記事を書いてきた。ただ、7年以上音楽について書き続けるうちに、音楽を表現するための形容詞や表現を使い果たしてしまったんだ。僕は今でも De:Bug の共同経営者ではあるけど、ここ3年は Jacqueline Klein をメインにたった5人で運営しているレーベルに集中してきた。ジャーナリストとしての仕事は、80組のアーティストを抱えるレーベルを、根底にある思想を貫きながら9年間も運営する力になってくれたと思う。レーベル運営の面では、ゆっくり、しっかりと一歩一歩進んでいる感じだよ。今すぐに大金を稼ごうとは思っていないんだ。レーベルを運営しながら、生活していければ嬉しい。だから作品においても、実用的な部分より、芸術的な部分を重要視しているんだ。それは今も変わっていないよ。
HRFQ : Traum Schallplatten、Trapez、My Best Friend といったレーベルが成功を収めている一番大きな理由は何だと思いますか?
Triple R : クオリティーの高い音楽と、インディー精神さ!
HRFQ : 今後 Traum からリリースされる 作品を紹介してもらえますか?
Triple R : テクノ系の作品は今後もたくさんリリースしていくつもりだよ。レーベルのアーティストの作品はもちろんだし、レーベルのポリシーでもある、新しいアーティストを発掘する作業も続けるつもりさ。今年は MBF のリリースに力を入れていて、この数ヶ月で既にいいレスポンスが返ってきてるんだ。それに、Traum Booking を通して、世界中のアーティストをブッキングして、レーベルのショーケース的なギグを各地でやりたいと思ってるよ。今後のリリース予定としては、Extrawelt ‘Doch Doch’のリミックスのリリースと、 まだリミキサーは明らかに出来ないけど、Dominik の “Limikolen” 12” のリミックスも発売されるんだ。6月には Traum にピッタリのデュオのデビューも決まっているし、Trapez の看板アーティスト Milan の Sandiego や Oliver Hacke が手掛けた SEG のリミックスも出る。それに、Gabriel Ananda も Trapez からレコードを出すんだ。最後になったけど重要なのは、僕自身が MBF ltd _cine から3枚のレコードを出すってことかな。5月にリリースするのが、’Lights In My Eyes’ (MNBF LTD-Cine12013) というレコードで、これは映画とテクノをパノラマ式のサウンドで同時に表現したものなんだ。’95年にリリースした ‘Red Flare EP’ 以来ずっとやってみたかった音で、Dominik Eulberg も Jeff Samuel もサポートしてくれてるよ。ブッキングとしては、ケルンで8月18日に行われる C/0 Pop festival で大きなパーティーが行われて、Dominik Eulberg や SLG のライヴ、Triple R が出演するよ。
End of the interview
関連リンク