90年代も後半に差し掛かった頃、Superchumbo という何となく愛嬌のある名前が、当時、名門としてシーンに君臨していた Twisted Records の黄色いジャケットに踊るようになる。それまでシーンを席巻していたダイナミックなトライバル・ビートや、いわゆる暗黒系ハード・ハウスなどと呼ばれていたサウンドに、若干食傷気味になりつつあった筆者は、それまでのハウスにはない粘り気のあるサウンドと、ニューヨーク・ハウスの流れを汲みながらも、どこか洗練された感じがするそのグルーブ感に、かなりの驚きと新鮮さを感じたものだ。
それから8年…。活動の拠点をニューヨークからロンドンへと移した Superchumbo こと Tom Stephan は、今や Kiss FM でレギュラーを持ち、Missy Elliot の" Get Ur Freak On"を始め、大物アーティストの作品にリミキサーとして起用されるなど、DJ、プロデュースの両面に渡って第一線級での活躍を繰り広げている。そんな Stephanが、先日待望のデビュー・アルバム "Wowie Zowie" を Twisted Records よりリリース。そのプロモーションを兼ねて Skrufff とのインタビューに応じ、アルバムの内容、そして、今回の作品にゲストとして迎えられている Samantha Fox などについて話を聞かせてくれた。
> Interview : Benedetta Skrufff (Skrufff.com) _ Translation : Kei Tajima _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
Skrufff (Benedetta Skrufff) : "Wowie Zowie" はあなたのファースト・アルバムとなるわけですが、なぜ今アルバムを作ろうと思われたのですか?
Tom Stephan : レコードを何枚も出せてしまえそうなほど、頭の中がアイデアでいっぱいで、だからこの際まとめてリリースしてしまおうと思ったんだ。それに、以前からある一つのサウンドに特化してみたいと考えていて、それにはアルバムをつくることが一番の方法だと思ったのさ。
Skrufff : 最近では、どのくらいの期間をニューヨークで過ごされてるのですか?あなたのフォーカスはロンドンやイギリスから大きく逸れてしまったと感じますか?
Tom : 僕はロンドンに住んでるし、ヨーロッパのクラブ・シーンはアメリカ国内のどの場所のシーンと比べても格段に大きいと思ってる。ただ、もちろんニューヨークにはすごく惹きつけられる何かをいまだに感じているんだ。やっぱり自分が初めてハウス・ミュージックやクラブと出逢った場所だし、いつでも僕にとってスピリチュアルなハウス・ミュージックの "故郷" みたいなものだからね。ただ、いくら最近のニューヨークのシーンが元気を取り戻してきてると言っても、僕が10年以上前に住んでいた頃のニューヨークとは確実に違う場所になってしまったと思う。まぁ、僕も長年DJをして来て、「そういうものなんだ」って思うようになってきたけどね。あるブームが終わりを迎えれば、違う国や違う都市、違ったクラブが突然注目されて、ブームの中心になる…。僕にとって、今はイタリアが一番アツくて、いいパーティーが行われてる場所だと思うよ。
Skrufff : なぜそう思われるのですか?
Tom : あの国のクラブには毎回驚かされてしまうんだ。去年くらいから特にね。最近では少なくとも一ヶ月に一回はイタリアでプレイしていて、今年の夏には僕の今一番のお気に入りのクラブ Cocorico でレジデンシーも持つことになっている。ナポリのクラブも素晴らしいし、あと最近ミラノでもプレイした。ローマはまだなんだけど、例えばベルガモっていう場所にも良いクラブがあったりして、国中のあちこちにグレートなクラブが散在してるんだ。とにかく、すごいエネルギーに溢れているし、みんなオシャレで、僕が何を着てようと「彼らには負けた!」って思ってしまうんだよね。
Skrufff : 今回のアルバムに収録されたトラックをライブでプレイする予定はありますか?
Tom : 今回のアルバムでは、そういったことにもチャレンジしてみたかったんだけど、自分はまだそういう段階に達していないと思ったんだ。それに、無理やり何かをしようとするよりも、自分の本能に任せたかったしね。だから今回はそこまで進めなかった。今回のアルバムにたくさんのアーティストをゲストとして招いたのは、彼らを一度にステージの上に集めてライブをするのは不可能だからってことが大きいかな。誰か自分と波長の合うアーティストを一人見つけて、その人とアルバムをつくってみたいとは思うけど、まだそう思える人に出会っていないんだ。
Skrufff : あなたのバイオグラフィーに「"Wowiezowie!"とは、皆が望み羨むもの。僕はその絶望と執念の感覚に魅了される」と書かれていますが、これはどういった意味なのですか?
Tom : そこで表現したかったのは、ダンス・フロアにいる時の期待感なんだ。僕がニューヨークで初めて Junior Vasquez を聴きに行った時に体験したような感覚……ただ、僕自身は彼ほどにクラウドをいじめることは出来ないけどね。というのも、僕は世界中を旅して回っているDJだし、レジデントDJでなければあそこまでクラウドをじらす機会には恵まれないものなんだ。彼はよく、あるトラックの断片を何時間ものセットの中で少しずつ、何回もプレイしてた。そうするうちにクラウドは、早くそのトラックをフルでプレイして欲しくてウズウズし始める。で、次第になかなかそのトラックをプレイしないDJに対して憤りさえ覚えるようになるんだ。そして最終的に彼がそのトラックをようやくプレイした時には、フロア全体が凶暴なほどの盛り上がりをみせる……ただ与えるだけではなく、そういった"ギブ・アンド・テイク" がDJには大事なのさ。アルバムが完成して、初めて全体を見回したとき、このアルバムにもそういった"ダンス・フロアの期待感"がたくさん含まれていることに気付いたんだ。
Skrufff : クラブ・ミュージックに対して、今でもDJをスタートした時と同じくらいのハングリー精神でいると思われますか?
Tom : 正直、DJという立場でダンス・フロアに立つようになってから、考え方は変わったね。以前と比べてクラブに行く回数もかなり少なくなったよ。やっぱり週に2回以上もクラブでDJをしていたら、エネルギーを回復することも必要になってくるし。だけど、2週間も休みをとると、プレイしたくてしょうがなくなってしまうんだ。音楽は僕のモチベーションそのものだからね。
Skrufff : 成功に対しての意欲は強い方だと思われますか?
Tom : 成功というよりも、常にその時点でするべきことを考えながらやってきたと思う。ずっと前にリリースした "Revolution"というトラックは、僕にとってターニング・ポイントとも言えるような作品で、というのも、このトラックは僕にとって初めてのヒットで、このリリースの後、僕のDJキャリアは大きく変化していくことになったからなんだ。でも、そのトラックをつくった時は、まさかこの作品が僕の人生を変えるとは思っていなかったし、だいたい初めからそんな風に期待して作品をリリースするなんておかしい話でしょ。だから僕は、常に自分をインスパイアするような音楽をつくって、リリースしてからどんな反応があるかをみるようにしている。リリースする前から人々の反応を気にしていたら頭がおかしくなっちゃうよ。
Skrufff : 現在でもレコードでプレイされていますか?それとも…?
Tom Stephan : いっそレコードなんて捨ててしまえれば…と思ってるよ。CDだけでプレイ出来てしまえばすごく楽なんだけど、レコードは僕にとってある種、精神安定剤のような役目を果たしていて、十分にセットが出来るほどのCDが手元にあるのに、レコード・ボックスを持っていないと何故だか落ち着かないんだ。ただ、もちろん音はレコードの方が良いんだけど、トラックをつくったらすぐe-mailで送れるっていうテクノロジーの便利さも否定できないね。ただ、レコードの音はやっぱりあったかいと思うよ。最近になってCDもすごく進んできて、音もレコードくらいに音が出るようにはなったけどね。
Skrufff : 通常どのくらいセットのための準備をされますか?
Tom : どんなセットにしたいか事前に少し考えておくんだ。そうやって頭の中の地図の上に目的地を記しておくんだけど、フレキシブルに対応できるようにもしているよ。やっぱりその場に行ってみて、クラウドのリアクションを見てからじゃないとわからないからね。たまに、かけたいトラックを準備しておいたのに、プレイしなかったなんてこともあるんだ。
Skrufff : 週ごと、(もしくは月ごと)に何曲くらい新しくセットに取り入れていますか?
Tom : それは、その週にどの位いいレコードがリリースされるかによって変わってくるな。もちろん僕のセットのコアとなる部分は何週間かは同じだけど、週ごとに、そこに5枚から10枚くらい加えていくって感じかな。そんなに多くないかもしれないけど、新しいレコードがあれば加えていくよ。
僕の持っているレコードの中でも、飛びぬけて素晴らしいと思うトラックを"宝石"って呼んでるんだけど、僕の"宝石"トラックを他の人がプレイしてるのを聴いたことがないんだ。多分彼らにはそれ程までに魅力的なビッグ・チューンには聴こえないのかもしれないね。でも、僕のセットではすごい存在感を放ってくれる。そういうトラックは僕のレコード・ボックスの中にずっと留まることになるんだ。あと、毎週水曜日にロンドンでラジオ・ショーを持ってるから、当日はショーのために一日中新しいトラックを聴いて準備しているね。そのおかげで常に新しい音に触れることが出来るのさ。
Skrufff : アルバムに収録されたトラック"Sugar"では Samantha Fox をヴォーカリストとしてフィーチャーされていますが、彼女の"3ページ目のモデル"としての過去(イギリスのタブロイド紙 The Sun の3ページ目には、決まってトップ・レス・モデルの写真が掲載されており、Samantha Fox はそこに頻繁に登場していたことから"3ページ目のモデル"として知られている)や、ポップ・アイコンとしての彼女の存在をどのくらい意識なさっているのですか?
Tom : 彼女の"3ページ目のモデル"としての過去は、イギリス人以外の人にはあまり関係ないんじゃないかな。実は、このトラックのアイデアはマイアミのレストランで生まれたんだ。僕が食べ物を注文をして、ウエイトレスが「他にはなにか要りますか、シュガー?(掛け声)」って尋ねてきたんだけど、それがあまりにもいい響きだったから、"シュガー"っていう言葉を使ったトラックがつくりたくなってね。それで、早速制作を始めて、トラックのイメージに合ったヴォーカルを探すことにしたんだ。もちろんセクシーなヴォーカリストをね。そうしたら、たまたま僕の音楽出版社で働いている男性が、Samantha のマネージメント・オフィスで働いている人を知っていて、彼女自身も一緒にトラックをつくれるプロデューサーを探しているということを聞いて…。その瞬間に彼女ならピッタリだと思ったよ。そうやって一緒に仕事をすることになったんだけど、彼女は本当のプロだったね。自分が何をすべきかきちんと分かっていて、本当に素晴らしい仕事をしてくれたよ。
End of the interview
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ディスク・レビュー : Superchumbo aka Tom Stephan / Wowie Zowie (2005/06/14)
Tom Stephan バイオグラフィー
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