HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Tobias.

Multicolor Recordings の看板ユニット Sieg Uber Die Sonne のメンバーであり、他にも Odd Machine、 NSI などの名義を使い分けて’90年代初期からドイツを拠点に良質なテクノ・サウンドを世に送り出してきているベテラン・アーティスト tobias.。最近では Mathew Jonson の Wagon Repair や John Tejada の Logistic Records などから深みのある作品をリリースし、時代の開拓者としてさらなる活躍をみせているところだ。

そんな彼だが、先日行われた渋谷のイベント・スペース Module のアニバーサリー・パーティーでは、ベテランならではの芯のあるテクノ・サウンドを見せつけ、圧巻ともいえるライブを披露。ライブ後の興奮冷め止まぬ HigherFrequency チームを前に素晴らしいキャリアと音のシリアスさからは想像も付かない愉快な趣きで多くの質問に答えてくれた。

Interview & Translation : Yuki Murai (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)
Thanks : Module, Yone-ko & Sackrai (the suffragettes)

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HigherFrequency (HRFQ) : 昨日の Module アニバーサリーはいかがでしたか?

Tobias. : 良かったね、本当良かったよ。 みんな、ヨーロッパで普段見てる人達よりも、音楽自体に興味があるんだなって思ったね。それと機材にもかなり興味があるよね。僕のとこまで見に来て、「PCだけじゃなくてちゃんと本物の機材を持ってきてくれてありがとう!」なんて言われたりしたよ。

HRFQ : どのようにしてダンス・ミュージックのアーティストとしてのキャリアをスタートしたんですか?以前はポップ・ミュージックのエンジニアをされていたと聞いたことがあるのですが、なぜミュージシャンという道を選ばれたのですか?

Tobias. : もう6年前のことになるんだけど、なんというか…いわゆる「Middle age Crysis (中年の危機)」ってやつだよ。 当時付き合ってたガールフレンドと別れて、仕事も辞めて…何もかも全部辞めて、ベルリンに出てきたんだ。 実際、ずっと前から、仕事の一方でいつも音楽をやっていたよ。もちろん、仕事もサウンド・エンジニアだったから「音楽」をやっていたわけだけど、それはただ生活のためにやってたことだからね。 それでいよいよ、本物のミュージシャンになることを真剣に考え出したんだ。

ずっとミュージシャンになりたかったから、今では沢山とは言えないけどそれでちゃんと稼げてるし、僕にとっては最高だね。 旅をして回って色んな人に会って、ちょっとお金も貰ってね! よーし、乾杯!(笑)

HRFQ : これまでに Martin Schopf との Sieg Uber Die Sonne、 Max Loderbauer との NSI、Ricardo Villalobos との Odd Machine といった多くのユニットを結成されてきましたが、これらの名義でのスタンスの違いというのはありますか?

Tobias. : うん、どれも違ってるね。 結局どれも相手との関係があるわけで…いわば友人関係みたいなものだね。 君の友人関係にしたって、他の誰かからは得られないものを誰かから得たり、というような事があるだろう? 音楽だって、その人との友人関係のあり方で変わってくるんだよ。例えば Atom (Heart) とは’87年からの付き合いだからもう20年にもなるけど、僕らは一度もスタジオレコーディングをやったことがなくて、いつもライブをやるんだよ。それに、ライブのためにリハーサルしたこともないんだ。僕らの間にはいつでもちゃんと「つながり」があるからね。 でも、例えば Dandy Jack との場合だと、まだまだつながりが浅いから(リハーサルで)ちょっと練習が必要なんだ。 NSI を一緒にやっている Max (Loderbauer) だと、自由にやっていけばそれぞれ必要なものがお互いから出てくる感じだね。だから、それぞれのプロジェクトが、お互いの関係性に基づいて違ってくると言えるね。

HRFQ : 最近 Mathew Jonson の Wagon Repair から 'I Can't Fight The Feeling' というEPをリリースされましたね。他の作品でもそうですが、この作品からも‘90年代のテクノやエレクトロに近いグルーヴを感じました。その辺は意識しましたか?

Tobias. : いや、してないよ(笑)。 別に‘90年代風とか‘80年代風とか‘70年代風とか意識してなくて、ただ沸いて出てきたものだよ。 僕だって‘90年代のテクノは大好きだけど、「こういう風にしよう」とか前もって決めることはまずしないんだ。そのときに応じたサウンドを使っていくだけだね。 まあ、音そのものは同じものを使ってるな。ドラム・マシーンはいつでも 808 (Roland TR-808) だよ!僕は本当いつも808を使っててね、あれは毎回違った音がするんだ。 それがもしかしたら‘90年代風に聴こえたかも知れないけど、狙ってやってはいないね。

Tobias.

HRFQ : 近頃はハード・シンセを使わずにPCだけで作るプロデューサーも増えていますが、やはり、楽曲制作には今でもハード・シンセを多用しているんですね。

Tobias. : そうだね、全部売り払っちゃった人もいるだろうけどね(笑)。 機材はどんどん進化しているけど、僕はもうサウンド・エンジニアで稼いでるわけではないから、新しい機材は入れてないんだ。 以前はエンジニアの仕事で、最新のコンピューターに、最新バージョンの Logic に、最新のプラグインに…という感じで、いつも全部最新のものを使ってたけど、仕事を辞めてベルリンに出てきたらお金もないし、貯金もないし…それで結局、前から持ってたものを使うしかなかったんだ。 だけど、自分にとってはいい進歩だよ。考えようによってはすごく貴重なことだし(笑)。 だからみんなも、いつも最新のものを使おうなんてことはしなくてもいいと思うよ。 自分で何をしてるのかすぐに分かるような、小さい機材を使うのが僕は好きだね。 昨日のライブでは Boss のDD-7、AKAI の MPC-1000、それと TR-808 を使ってたよ。あとは、スタジオでの機材になるけど、Roland の DEP-5 をよく使うな。これは本当にオススメだね。

HRFQ : '90年代初期からずっとシーンの第一線で活躍されているあなたですが、その成功の秘訣を教えていただけますか?

Tobias. : 特に秘訣があるとは思わないけど、ただ、音楽が大好きなだけだよ。 自分がやっていることを本当に大好きでいることが、秘訣かな。 僕はスターになろうとか、ビッグなプロデューサーになろうとかは思わない。音楽が本当に好きで、みんなの前でライブをやるのが好きで、ライブで僕がみんなに示したものがみんなから又返ってくる。 そんなプレゼントが返ってきたときに、本当に幸せだなあと思うよ。成功の秘訣は自分のやってることを楽しむことさ。 そうして、本当に大好きなことで生活できているって事を実感するんだ。

HRFQ : ご自身のやってることに妥協はない、ということですね。

Tobias. : うーん…レコーディングスタジオで、サウンドエンジニアの仕事を18年間続けてたことが妥協だね。 機材についてはすごく学べたし、設備もしっかりしてたけど、コマーシャルな音楽のためのスタジオで、テクノのスタジオではなかったわけだ。 例えば Milli Vanilli との仕事で、いくら待遇のいいコマーシャルな世界にいるといっても、僕自身とのつながりはそこには無かったし、僕は単に音の制作に関わってるだけだったからね。 機材について学び、技術を得て、テープのカットの仕方を学んで…実物のテープを切ってたんだよ(笑)、コンピューターにも詳しくなって、色んな人が来て、コーラスの人が来て…それを全部レコーディングするんだ。 それはいい経験だったけど、やっぱり妥協だったね。

繰り返しになるけど、今は好きなことで生活できてるのが本当に嬉しいんだ。 ここまでの道のりが簡単ではなかったのも、良かったと思うよ。ほんの数年ですぐに有名になって、成功してしまったプロデューサーなんかは、エゴで自分のコントロールが利かなくなってしまったりするだろう? 自分が何者なのかをちゃんと理解する時間が必要だよね。

Tobias.

HRFQ : そうですね。そうやってすぐに有名になってしまった人は、最初のうちはすごく良かったのに、ほんの短い間に名前を聞かなくなってしまったり…

Tobias. : ハハハ、僕は有名になるつもりがないからね!(笑)。 スタジオに入って、さてレコーディングをしようとしても、頭の中にプランは全然ないんだ。ビジネスじゃないからね。 「よし、それじゃやってみるかな、ラララ〜」って、そうやって一気に出てくる感じだな。 明日にはもしかして画家になろうとしてるかもしれないけど(笑)、リタイアして引っ込んでしまうことは考えてないよ。なにかを求めて、常に進歩していこうと思う。 ゴールするのが目的じゃなくて、ゴールまでの道のりが目的なんだ。

HRFQ : それこそがあなたの「成功の秘訣」だと思います。 ところで、日本の音楽シーンで現在注目しているアーティストはいますか?

Tobias. : 最近の人はわからないけど、古い人なら一杯知ってるな。 子供の頃…’80年代はずいぶん日本に影響されて、細野晴臣とか YMO とか聞いてたな。 YMO の3人の中では細野が一番好きで、前回来日したときはコンサートで本人に会って、一緒に写真も撮ったよ! あとはエレクトロニックなシャンソンをやってるコシミハルも知ってるよ。 …最近はDJ以外だとレコードやCDを買わなくなって、Myspace でチェックして終わることも多くてね。 レコードを買うのがDJの仕事だっていうのにな(笑)。

HRFQ : 今後のリリース予定や、新しいプロジェクトの話があればお聞かせください。

Tobias. : ここのところ Jitter という映像プログラミングのソフトを使って、映像の制作をやっているよ。先日もポーランドの Unsound Festival で NSI のライブをやったんだけど、そこでは映像とシンクロしたショーをやったんだ。

HRFQ : それは是非日本でも見てみたいですね!それでは最後になりますが、今俄然注目が集まっているベルリンで、日本のクラブ好きの若者へお勧めの場所などありましたら教えていただけますか?

Tobias. : やっぱり Panorama Bar かな。 もちろん音もすごくいいんだけど、雰囲気がすごく面白いんだよ。すごくドレスアップして遊びに来る人もいれば、適当な格好の人もいるし、ゲイの人達も沢山いるよ。 ちょっとおかしくなっちゃって床で倒れてる奴なんかもいたりするけど(笑)、誰もお互いを比較したり、競ったりはしなくて、みんながみんな、ただそこにいて一緒に楽しんでるんだ。 あとは Watergate だね。Panorama Bar とはまた違う感じの場所だけど、大きくて綺麗でいい場所だよ。

HRFQ : 本日はお時間ありがとうございました。

End of the interview


>> 2008.11.3 (SUN) Module 7th Anniversary CHAPTER 2 feat. TOBIAS. aka NSI の模様はこちらから



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