ヨーロッパ・テクノシーンにおいてトップアーティスト一角を占めるポルトガル出身のアーティスト、The AdventことCisco Ferreiraが、5月の上旬にArcTokyoの招聘によりジャパンツアーを行い、名古屋Magoと東京ageHa@Studio Coastにおいて、長年のキャリアに裏打ちされた貫禄あるライブセットを披露してくれた。
1980年後半にJack Trax Recordsにおいてエンジニアとしてそのキャリアをスタートさせ、その後TransmattのサブレーベルFragileやR&S等からシングルをリリースするなど、90年代の初めには既に頭角を現していたCisco Ferreira。 そんな彼が93年に盟友Colin McBeanと共に結成したのがThe Adventである。99年にはColinが脱退し、The AdventはFerreira一人のプロジェクトとなるが、その後もコンスタントにハイクオリティな作品を連発し、ヨーロッパのテクノ・シーンを語る上で外せない重要なアーティストとしての地位を守り続けてきた。近年ではストレートなミニマルトラックだけではなく、エレクトロ色を色濃く反映した作品もリリースしており、今回のライブにおいてもその幅広いセットが日本のファンを魅了してくれたばかりである。そんな彼にHigheraFrequencyがインタビューを敢行。非常にハッキリとした自らのポリシーを持ち、辛らつな意見も辞さないFranciscoならではのスタンスが伺える内容のインタビューとなった
> Interview & Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HigherFrequency (以下HRFQ) : 今回の来日では1週間ほど滞在されていたようですが、どのようにして過ごされましたか?東京以外の街を訪れる機会はありましたか?
The Advent (Advent) : 日本に戻って来ることが出来て嬉しいよ。来日は今回で2回目になるんだけど、世界の中でもプレイしたい国の一つであるのは間違いないね。今回のツアーでは、初めて名古屋に行く機会があってClub Magoと言うところでプレイしてきたんだけど、とても素晴らしいクラブで内容的にも良いパーティーだったよ。
HRFQ : 日本のテクノシーンについてはどの様に思いますか?ヨーロッパなどの他の国と比べてどういった所が面白いと思われますか?
Advent : いいクラブがたくさんあるって言う点が一番大きいかな。ヨーロッパにも幾つかいいクラブはあるんだけど、日本のクラブの方がエキサイティングかもしれない。まぁ、僕にとって日本は「テクノの国」って感じだし、それに巣晴らしいレーベルやDJ、プロデューサー達もたくさんいるからね。特にSUBVOICE から出ているShufflemasterの作品は大好きなんだ。
HRFQ : あなたのWEB上にあるバイオを読んでいて分かったのですが、今は二人の子供に恵まれて、スタジオ機材と一緒にロンドンからポルトガルのリスボンに移り住んでいるそうですね。今は、活動の拠点は殆どポルトガルなのですか?リスボンとロンドンの生活で何か大きな違いはありますか?
Advent : 1999年にロンドンから移るチャンスがあったので、そうする事にしたんだ。まぁ、こう言ったことこそが音楽を作っていて良かったなぁと思えることで、なぜなら世界のどこにいても音楽は作れるわけだからね。それに元々僕はポルトガルのMadeiraっていう島の出身だったから、僕にとって自分のルーツに還るようなものだったんだ。ここでの生活はロンドンでの生活に比べて快適だし、特に子供がいると尚更だね。子供が子供でいられるオープンスペースもたくさんあるし。あと、僕の家はビーチのそばにあるから、夏になると毎日が休日みたいな感じになるんだ。
HRFQ : ポルトガルのダンスミュージック・シーンはどのような感じですか?
Advent : 僕にとってポルトガルは、EUの中でもプレイするのに最高な場所の一つなんだ。だからこの国に住んでいる限り、あちこち旅行をするような忙しい毎日を送る必要もないんだ。毎月国内のあちこちでパーティーが行われているし、大きなフェスティバルや、ポルトという街で開催されているストリート・パレードなんかもある。その意味でポルトガルのシーンは、あらゆるジャンルのDJが需要を感じる事の出来るようなシーンに成長してきたんじゃないかな。まぁ、10年前は誰もこの国でパフォーマンスしようなんて考えなかったわけだから、この流れはこの国自体にとってもいい事だと思うね。
HRFQ : 特に去年、ヨーロッパのテクノシーンは色々と困難な時期にあったと言われていますよね。例えば、Prime Distributionの倒産とか・・・去年に比べてシーン全体は再び活気を取り戻してきていると思いますか?それとも悪い状況はまだ続いていると思いすか?
Advent : いい質問だね。Prime Distributionがまだ健在だった90年代において、彼らがテクノシーンを代弁していた時期は一度もなかったと思うし、そもそも彼らのようなディストリビューターがシーンを先読みすること自体あり得ない事だと思うんだ。Primeは単にレコードの売買と言うビジネスにおいて失敗をしたわけだし、実際にはPrimeに多くの利益貢献をしていた小さなレーベルの多くが、キチンと支払いを受けていなかったという事実もあったしね。だから、Primeの倒産にはそれ程の驚きは感じなかったし、むしろシーンにとっては良い事が起きたと感じているくらいなんだ。これで人の真似をしただけの質の悪いレコードが一掃されたわけだし、それに、本当に良いアーティストやレーベルは既に他の新しいディストリビューターと仕事を始めているはずだからね。だから、これからは量より質にもっと重点が置かれていくようになると思うし、いい音楽がドンドン出てくる事が期待できるんじゃないかな。
HRFQ : 今年はLove Paradeもキャンセルになりそうですよね。この事は日本のテクノファンにも、ヨーロッパにおけるテクノシーンの現状に関して更にネガティブな印象を与えてしまったと思うのですが、この出来事に関してはどのように思われますか?やはりアンダーグラウンドの人たちが手におえる規模を超えてしまったと言う事でしょうか?
Advent : おそらく99%はキャンセルになるだろうね。まだ最終回答を待っている段階だとは聞いてはいるんだけど、恐らく5月の2週目には結論が出ると思うよ。でも、Love ParadeがEUで行われている唯一のストリート・パーティーだとは思わないで欲しいんだ。去年、スイスのチューリッヒで行われたストリート・パレードには本当に大勢の人が参加していたしね。だから、ベルリンでの出来事はそれ程ネガティブには捉えていないんだ。
HRFQ : シーン全体はやはりコマーシャルに走り過ぎてしまった感もありますが、徐々に本来あるべきようなアンダーグラウンドで実験的なフィールドへと戻ってきていると思いますか?
Advent :その通りだ。Love Paradeが問題を抱えるようになってしまったのも、やはり余りの短期間にコマーシャルになり過ぎたからだと思うしね。だから最近またアンダーグラウンドに戻りつつある傾向は良い事なんじゃないかな。
HRFQ : このような環境の中で、あなたのレーベルKombination Researchはコンスタントに作品もリリースしながら順調に活動していますよね。このレーベルはあなたの作品だけをリリースする為のレーベルなんですか?
Advent : このプロジェクトをスタートさせた時の主な考え方は、「自分自身の作品をリリースするためのレーベル」というものだったんだ。(アーティストが運営する)ほとんどのレーベルでは、自分以外のアーティストの作品をリリースする事が多いと思うんだけど、それだとやっぱりセールス的に波が出てくるでしょ。でも、もしアーティストが自分自身のレーベルを持って、そこから自分のソロ作品に限定してリリースを行っていったとすれば、しっかりとセールスを維持していく事が出来るじゃないかと思ったんだ。でも、1度だけ自分じゃないアーティストの作品をリリースした事があるかな。それはAbstract Thought(Drexciya Storm #4)というアーティストの作品で、彼らは90年代の初めの頃から僕に影響を与え続けてくれていたアーティストだったから、僕のレーベルにとってはとても重要なリリースだったんだ。
HRFQ : Alpha Recordingsに関してはどうですか?こちらはどちらかと言うとハウスよりの制作スタイルのレーベルだと思いますが・・・
Advent :ハウスは始めの頃から存在していたからね。テクノやテックハウス、トランスなんかよりもずっと前からね。サウンド・エンジニアとして働いていた頃、当時のダンス・ミュージックのパイオニア達とたくさんのセッションをする機会があったんだけど、その時僕に刷り込まれた音楽がハウス・ミュージックだった。それ以来、ずっと僕の音楽はハウスの影響を受けてきたし、G Flame名義でのプロジェクトも、ハウスという自分の別の側面を表現するために立ち上げることにしたんだ。
HRFQ : 今後何か予定されているリリースはありますか?オリジナルとかMix CDとか・・
Advent :リリースの予定はいつもたくさんあるよ。ALPHA 008がもうすぐベルギーのNEWWS経由で店頭に並ぶと思うし、その他にも今後数ヶ月で何枚かのリリースが予定されているんだ。
HRFQ : MP3ダウンロードが最近のマーケットの停滞に影響を及ぼしていると思いますか?
Advent : コマーシャルなマーケットと比べると、僕らの音楽がそれほど悪影響を受けているとは思わないね。なぜなら僕らの音楽はオンラインに乗っかる前に何度かコピーされてしまう事が多くて、クオリティ的に第1世代のものじゃないからね。でも、例えばマドンナみたいに世界中のメジャーなスタジオで仕事をしているようなアーティストだと、そのスタジオのいずれかで働いているアシスタントの人間が、さっと気づかれないようにコピーした後にオンラインに乗せて百万ヒットにでもなってしまえば、それは彼女のセールスにとって本当に大きな痛手になるだろうね。Adventの音もたくさんオンラインで見かけるけど、殆どの場合クオリティはかなり悪いからね。
HRFQ : DVD作品をリリースする事には興味がありますか?もしあるとすれば、どのような事をトライしてみたいですか?Jeff MillsのExhibitionistみたいなDVD Mixコンピですか、それともショートフィルムとのコラボレーションですか?
Advent : どちらかと言うとショートフィルムだね。ドキュメンタリータッチの。
HRFQ : あなたが今でもかつてのパートナーであるColin McBeanと仲良くやっていて、彼があなたの結婚式のベストマンを務めたと言う話を聞いてとても嬉しく思ったのですが、彼がユニットに在籍していたときと離れてからでは、The Adventの音楽制作において何か変化はありましたか?
Advent : いや、全く無いね。KR007 (注:Kombination Researchの007番" Comply EP")を最後に彼は離れたんだけど、それ以降もスタイル的には何ら変わっていないんだ。いつもこの質問をされるんだけど、僕はColinと出会うずっと前からレコードをリリースしていたし、最初の4年間はずっとソロで活動していたんだよね。ケンイシイやJoey Beltram、Aphex Twinなんかよりもずっと前からR&Sで作品をリリースしていたし、そもそもRenaat(注:Renaat Vandepapeliere - R&Sの創業者)をDerrick Mayに最初に紹介したのも僕だったんだ。それに、デトロイトのFragile Records (Transmattのサブレーベル)の第1弾リリースに抜擢されたのも僕だったし(注:1989年)、他のレーベルでも何枚か第1弾リリースを飾った事もあるしね。だから、Colinの離脱が僕の音楽にインパクトを与えたと言う事は全くないよ。
HRFQ : あなたの音楽制作はコンピューターが中心になっていると思いますが、最近では最新テクノロジーを通過した後に、アウトボード系を中心としたある種のオールドスクールへの原点回帰をするテクノアーティストも何人かいるようです。これについてはどう思われますか?
Advent : ちょっとそれ(Adventの制作がコンピューター中心であると言う事)は間違っているね。僕の2000年以前の作品は全て古いアナログ機材で制作されたもので、それまではコンピューターをシーケンサーとして使っていただけなんだ。それに、まず第1にサウンド・エンジニアとしてのスタンスを持つ僕としては、アウトボード系の機材は大好きだし、今でもたくさん使っているよ。
HRFQ: メジャーレコード会社との関係と言う点においては、あなたはあまりいい経験をされていないようですね。特にInternal時代のPete Tongとの関係についてよく耳にするのですが、最近のメジャーレコード会社の悪戦苦闘ぶりについてはどう思われますか?やはりストリートで何が起きているかを知らないビジネスマンが多くなったからだと思いますか?
Advent : メジャーとの関係がいつも悪かったわけじゃないんだ。あくまでそれは、僕らのメインのA&RでありInternalのレーベル・マネージャーでもあったChristian Tatersfieldが、Internalがポリグラムに吸収されたのを契機にレーベルを離れてしまい、残された僕らが後を引き継いだPete Tongとディールをしなければならなくなった時期に起こった話なんだ。Peteは、当時のテクノシーンに関して何の知識も持っていない、A&Rとしてはまったく不適任な男で、彼が知っていた事といえば、Derrick、KevinそれにJuanといった典型的な3人の名前だけで、僕らがURやBasic Channelなんかの話をしても、彼はそれが誰かさえもわからないような状態が続いていたんだ。まぁ、そんな感じだったから、僕のFFRRでの最後のアルバム、"New Beginnings"の発売は予定よりも13ヶ月も遅れてしまい、出すべきタイミングを一年以上も逃してしまったというわけ。だから彼らから離れる事にしたんだ。まぁ、質問にあった「知識のないビジネスマン」と言う事に関して言うと、おかげでトランスはこんなにも大きくなったけど、テクノはイギリスで忘れられた存在になってしまった、と言う感じかな。
HRFQ : あなたのWEB Siteは本当にクールで、パックマンやスペースインベーダーなんかのゲームもあったりしてとても楽しめたのですが、このサイトは誰がデザインされたのですか?
Advent : このサイトは、ポルトガル出身のDJ/ProducerでWebデザイナーでもあるA.Paulが制作したもので、アートワークを僕が渡して、二人で何時間もかけて僕のイメージに近づくように作業をしていったんだ。一番気を使った部分は、他のサイトと比べてもっと使い勝手を良くするってところだったかな。多くのサイトはアーティストやレーベルのごく一部の特徴しか表現できていないでしょ。だから、僕らのサイトではもっとユーザーの視点に立ったものを作ろうと思ったんだ。でも、気に入ってくれて嬉しいよ。
HRFQ : 最近のお気に入りの曲をあげてもらえますか?
Advent : Chris McCormack "erase techno"。 随分前にリリースされたものだけど、いまだに使えるね。
HRFQ : 次にブレイクするアーティストやDJは誰だと思いますか?
Advent : ポルトガル出身のWLA Garcia。注目すべき新しい才能だよ。
HRFQ : アジアのファンにメッセージをお願いします。
Advent : Adventのファンの人たちには「僕の音楽をいつもサポートしてくれて有難う」と言いたいね。だから日本に戻ってきたし・・・あと中東に平和を。みんなに愛を。
End of the interview
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