伝説のプログレッシヴバンド『GONG』時代から30年のキャリアを持つカリスマ、スティーヴ・ヒレッジと、ミケット・ジローディからなるSYSTEM 7。近年に於いてもヒレッジのソロアルバムは、ヴァージンレコードより続々とCDが再発される等、今尚根強い人気を誇る重鎮が、手塚治虫の大作『火の鳥』 を如何に解釈し、羽ばたかせたのか!? 本アルバムをコーディネイトした、手塚治虫の愛娘、るみ子氏とのインタビューで、その全貌が明かされる。
> > Interview & Text : Wakyo. Inc
Q : まず始めに、今回のプロジェクトの動機と、きっかけを教えて頂けますか?
るみ子 : レインボー2000という音楽イベントにさかのぼるのですが、そこでのパーティの雰囲気が、父が『火の鳥』の中で描いていた宇宙観や、精神世界と何か通ずるものがあるように感じられて「いつかダンスミュージックというフォーマットを使って『火の鳥』を表現出来たら良いな」と思い始めたのが、そもそもの発端でした。
Q : イメージキャラクターでフライヤーやTシャツに『火の鳥』が起用されていましたよね。
るみ子 : イメージキャラクターではないですが、コネクテッド(*恵比寿にあるテクノショップ)とのコラボレーションで、限定Tシャツを作りました。本当はもっと色々な形で、イベントに絡めたかったのですが、漠然としたアイディアばかりで、結局この時はこのTシャツ企画だけで終わってしまいました。その後、色んなアーティストのLiveなどを聴くたびに、『火の鳥』のイメージに合った音楽を探し求めていたのですが、そんな中、宮島で開催された世界聖なる音楽祭で、SYSTEM 7の音楽を聴いて、これは『火の鳥』の世界観を表現できるアーティストだなと強く感じたのです。
スティーヴ : 僕らにとっても、宮島は特別な思い入れのある場所だったからね。そこでのプレイがそう思ってもらえるきっかけとなっていたなんて、とても光栄だよ。 あそこで経験した事は、日本の伝統や、文化をとても深く感じる事が出来たんだ。言葉では説明出来ないんだけれど、とても不思議な何かを感じ、僕らの音楽にそれらを反映する事が出来た場所なんだ。
Q : その宮島で、今回のプロジェクトの事についてお話をされたんですか?
るみ子 : その時は、未だ何も…。ただ、感じるものだけは強くあって、それをどのようにまとめればいいかというアイディアまでは浮かばなくて。漠然と「いつかSYSTEM 7に音楽で『火の鳥』を表現してもらいたい」と思うようになったんです。
Q : では、その願いを彼らに伝える事が出来たのは、ごく最近の話なのですか?
るみ子 : 彼らが2004年に『Encantado』のアルバムツアーで来日していた時に、初めて直接会うことが出来て、その時に『火の鳥』の英語版を渡したんです。
Q : 『火の鳥』の原作は知っていましたか?
スティーヴ : 手塚とアトムは勿論知っていたよ。世界的に有名だからね。 でも僕は、るみ子に会うまで『火の鳥』の存在は知らなかったんだ。 その時に貰った1冊を読ませてもらったんだけど、非常に衝撃を受けたね。 とても奥深いストーリーと想像力に圧倒されたよ。完全に吹っ飛ばされたね!インスピレーションがどんどん湧いて来る内容でもあったし、とてもわくわくしたよ。完全にハマってしまい、書店やネットで探しまわって、全巻手に入れて読破したんだ。
るみ子 : その時点では『火の鳥』はコンピレーションアルバムとして、色んなアーティストにお願いして、SYSTEM 7にはそのうちの1〜2曲を作ってもらおうと考えてました。
スティーヴ:でもね『火の鳥』を読み進めるに連れ、音のイメージがどんどん湧いて来てしまってね。これはとても1?2曲では収まらないと思い「是非、僕らにアルバム丸ごと任せてくれないか?」と、るみ子に提案してみたんだ。
るみ子 : そんな事を提案してくれるなんて、びっくりしたのと同時にとても嬉しかったです。もう「是非アルバム1枚でお願いします」と、即決でした。
Q : では、相思相愛と言った感じで、プロジェクトが進んで行ったわけですね。
スティーヴ : これは、単なるインスパイア・アルバムだとは思っていないよ。本当の意味で、コラボレーション作品になっていると思うんだ。制作にあたって、るみ子とは色々と意見を交換し合って来たし、彼女が様々なアイディアをくれたんだ。
Q : では、実際の制作はどのように進めて行ったのですか?
スティーヴ : 実際の楽曲制作に入る迄はとても準備の時間がかかったよ。『火の鳥』の世界観を完全に理解する為に、10回以上は読み込んだ。 気になるイメージや好きなエピソードは、読み進めながら、デジタルカメラで、マンガのコマを撮影して表現したいテーマを選んで行ったんだ。最終的に100カット近いコマになってしまったので、更にそこから30程に絞り込み、アルバムの世界観と『火の鳥』全体に流れる世界観を損なわないイメージを考えて、最終的に10曲分のコンセプトに絞り込んで行ったんだ。そこまでの作業を終えた時点から、楽曲制作に入るわけだけど、その時には一切マンガの事は考えないで、曲を作る事だけに集中をしたんだ。
Q : それは通常のSYSTEM 7の楽曲の作り方とは、やはり異なっていましたか?
ミケット : こんなプロセスでの制作は始めてね。小説に影響されたりという事は過去には在ったけど、それとはちょっと種類が違う制作過程だったわね..。普段は、旅先での影響が音楽に反映される事が多いわね。
スティーヴ : 今迄に色んなアルバムや楽曲を作って来たけど、違った手法での制作はとても刺激的だったし、何しろとても楽しみながら出来たので、良かったと思ってるよ。
るみ子 : 最初とんでもなく失礼な事をお願いしてしまったのでは!?と、すごく心配になりました。だって、まず漫画を読む事から始めないと行けないわけです。英国の彼らは日本人ほど漫画を読み慣れてないだろうし、そのうえ内容がとても奥深いテーマのものだし。人によっては、そこまで深く読み込めないこともあるし、むしろ読むのが苦痛になってしまうのでは?と… しかもそれを音楽に表現してほしい!なんて注文なのですからね。
スティーヴ : 確かに大きな仕事になってしまったけどね(笑)。でもそれは、やり甲斐のある、とても良い意味での大仕事だったよ。僕らのほうこそ、こんな壮大なテーマの作品を、僕らの音楽が汚してしまわないかを心配したくらいだよ。でも出来上がった曲を、るみ子が気に入ってくれたので、とても安心している。
るみ子 : 出来上がった曲を初めて聴いた時は、本当に涙が出るほど嬉しかったですね。先日のMotherのLiveでも、大きなサウンドシステムで聴いて、「この人達でなければ、火の鳥は絶対に出来ない」と胸が熱くなりました。それほど『火の鳥』の世界観がそのまま表されたサウンドで、最初に宮島で感じた自分の直感は間違っていなかったんだと思いました。
Q : るみ子さんから、SYSTEM 7に『これだけは聞いてみたい』というような事は在りますか?
るみ子 : 『火の鳥』は、日本では広く知られていますが、海外の人には殆ど知られていない作品だと思います。今回SYSTEM 7が『火の鳥』とコラボレーションして、アルバムを発表すると言うのは、どのようにうけとめられるでしょうか?なかなか想像しにくいんですが…
スティーヴ : 『火の鳥』を知らなくても、手塚の名前は皆知っていると思うよ。それに手塚の『火の鳥』を読んだ事が無かったとしても、ヨーロッパをはじめ、世界各地には「フェニックス」の伝説物語として知っていると思うんだ。手塚自身も、こうした世界に伝えられている「フェニックス」や「鳳凰」といった言い伝えをモチーフに『火の鳥』のストーリーに活かして居たと思うので、アルバムの世界観を理解するのには、それほど苦労はしないんじゃないかな?
ミケット : このアルバムリリースが、世界の人々に手塚の『火の鳥』を手に取ってもらえるきっかけになってくれれば嬉しいわね。
スティーヴ : 住んでいる地域や、人種、信仰に関係なく、手塚の『火の鳥』は受け入れられ、理解されると思うんだ。日本だけでなく、これは世界全ての物語だよ。太陽編に書かれている事は、911以降、現在の世界全てに警鐘を与える重要なテーマが描かれていると思う。確かに漫画は、イギリスやヨーロッパでは特別な人達しか手に取らないジャンルの物では在ると思うけれど、あのビデオクリップがTVで流れたら、興味を引かれずにはいられないと思うよ。
Q : ですよね。あのビデオクリップは話題になると思います。寸分狂わずに『火の鳥』の世界観とSYSTEM7の音楽の世界観をマッチして表現されていますしね。るみ子さんは今回のアルバムでは、どの曲が一番気に入っていますか?
るみ子 : 全部好きですけど、やはり1曲目の『HINOTORI』ですね。あの曲が『火の鳥』の”全て”を表現している気がします。
スティーヴ : だからあの曲は『HINOTORI』という曲名になっているんだけどね…(笑)それにこの曲には今迄のSYSTEM 7が創って来た、全ての音が詰められているから、ある意味SYSTEM 7メガミックス的な、集大成とも言える曲なんだ。
るみ子 : 1つ1つの音すべてに、火の鳥の様々な姿が浮かんで来て、まさに「SYSTEM 7の中に火の鳥が生きている!」そう感じられる、素晴らしい曲ですね。
スティーヴ : 本当かい!?そう感じてくれて嬉しいよ。
るみ子 : 頭の中で感じていた火の鳥のサウンドイメージが、忠実に音になって再現されていたので、本当に驚きました。
スティーヴ : あの曲にはSYSTEM 7ならではの独特のハーモニーが在るからね。今後も様々なヴァージョンで進化しながら、永遠に定番としてプレイし続けて行くと思うよ。でも世界観を崩されたく無いから、他の人にはリミックスされたくは無いかな?でも、もし誰かにリミックスをしてもらうなら、カール・クレイグになら任せてもいいかもな…彼とは長い付き合いでね。僕らの音を良く理解してくれて居るんだ。
Q : コラボレーションと言えば、今回のアルバムでも、DAEVID ALLEN、始め SON KITE、 EAT STATIC、JAM EL MAR(JAM&SPOON)、MITO(クラムボン)と言った面々を起用していますが…
スティーヴ : 基本的にコラボが好きなんだよ。過去のアルバムでも、コラボレーションは積極的に行って来た。皆、凄く興味を持ってくれてたし、楽しく作業が出来たよ。 コラボする相手のイメージに合った『火の鳥』の作品を渡して、読ませる所から始めたんだ。
Q : どんなリアクションでしたか?
スティーヴ : 皆、かなりの影響を受けていたよ。読み終えた後は、2つ返事でコラボレーションのオファーを受けてくれたし、誰もがこのプロジェクトに積極的に参加したがってくれたね。中でも、特にSONKITEが一番興奮してた。本を渡したのは昨年、日本でのイベントで共演した時なんだけれど、渡したその場で直ぐ読んでしまったからね。彼らのLiveセットでもプレイしていたし、仕上がりもかなり気に言っているみたいだ。
Q : スティーヴはどの編が一番気に入って居るのですか?
スティーヴ : どのエピソードもそれぞれ好きだよ。1つは選べないな。まあ、とは言え、今回のアルバムの中で選んだエピソードやキャラクター、シーンはどれも大好きだよ。あ、でもアルバムのコンセプトから曲のイメージが外れてしまうという理由で、我王(*鳳凰編の主人公)の曲は外してしまったんだ。今回のアルバムだけではとても伝えきる事が出来なかったので、次回必ず、我王を収録したアルバムを考えているよ。
るみ子 : 我王については、何度かやりとりをしているなかで、気に入っていると聞いていたのに、今回のアルバムに入っていなかったので、テーマとして難しすぎて作れなかったのでは? と思っていたんですよ。でも、次回のアルバムでも『火の鳥』の別の世界観を表現してくれるなんて、今からとても楽しみです。
スティーヴ : この次回作はMIRROR SYSTEMのアルバムにするつもりだよ。そのプロトタイプとして、先行シングルに「Moopie Love」というトラックを入れてみたんだけど…
ミケット : 私はムーピーの話が大好きなの
スティーヴ : MIRROR SYSTEMだからと言って、アンビエントにするつもりは無いんだ。ダウンテンポな作品にはなると思うけれど、最近気に入って居る新しいサウンドが在るし、その辺を積極的に取り入れて行きたいんだ。サイケデリックなミニマル的要素も入って来るともうよ。このプロジェクトでは、新しい音の世界観を表現したいね。
Q : アルバム『Phoenix』に続き、次のプロジェクトからも目が離せませんね…楽しみにしています。
End of the interview
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