ミニマル/クリック・ハウス・シーンを牽引するドイツはケルンのレーベル Kompakt の看板アーティストであり、代表曲 "Happiness" が John Digweed や Michael Mayer のミックスCDに収録されるなど、ジャンルを超えた幅広い層からの支持を受けている Superpitcher こと Aksel Schaufler。これまでに Ivan Smagghe や Joakim といったエレクトロの注目株を招聘してきたパーティー Endless Flight で約2年ぶりの来日を果たした彼が、出番を直前に控えた Unit の控え室で HigherFrequency のインタビューに応えてくれた。
> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Yoshiharu Kobayashi (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 本日はお時間ありがとうございます。今晩のDJ楽しみにしていますよ。
Superpitcher : とんでもない、こちらこそありがとう。
HRFQ : さて、約2年ぶりに日本に帰ってきてくれたわけですが、あなたから見た日本の魅力とは何ですか?
Superpitcher : 日本は何もかもが最高さ。今回で3度目の来日になるんだけど、前回は確か2年前だったのかな。日本では毎回楽しい時間を過ごせているし、色々なことに驚かされてばかりなんだ。音楽だけじゃなくて他の文化的な面とか人々の態度とかも、南アメリカやオーストラリアとはまた違って、僕にとっては本当に目新しいことばかりだからね。日本に来たことによって初めてアジアを知ったという感じがしたよ。いや、でも日本は他のアジアの国とは違うと思うから、アジアを知ったと言うより日本を知ったと言う方がいいのかな。本当にもう驚きの連続さ。それに僕は日本食が大好きなんだ。日本食は本当に洗練されているよね。世界中探してもこんな食べ物は他に無いと思うよ。僕の舌によく合うのも嬉しいね。
HRFQ : あなたは今回DJとして私たちを楽しませてくれますが、ライブ・セットをやることもあるのでしょうか?
Superpitcher : いや、ライブは一度もしたことがないんだ。やってはみたいんだけど、まだ出来るか分からないな。今はどうすれば面白いライブが出来るか色々とアイデアを練っているところなんだけど、なかなか難しそうでね。とにかく今すぐという話ではないよ。もうちょっと時間がかかりそうなんだ。
HRFQ : DJとしての Superpitcher と、音楽クリエーターとしての Superpitcher との間に何か違いはありますか?
Superpitcher : 実はそれが結構悩みどころでね。僕はその二つをしっかり別けようとはしているんだけど、実際のところは互いに影響を与え合っているんだ。僕は DJ をするときに全く自分の曲をかけないこともあるんだけど、それはそれでライブとは違った素晴らしいものがになるんだよね。だから、これには良い面もあれば悪い面もあって、そう簡単な問題ではないというのが正直なところさ。
HRFQ : ちょっと分裂症的でもありますね。
Superpitcher : 特にアルバムをリリースしたときなんかは、アルバムのプロモーションみたいなセットを組んだDJをしたらどうだとプロモーターに言われることがあるんだけど、あまり気が進まなくてね。でも、アルバムからの曲をプレイするように望んでいる人もたくさんいるみたいだから、DJとライブは違うんだということを説明しなくてはいけないこともあるんだ。そんなときは本当に分裂症的になってしまうよね。
でも、やっぱりDJは楽しいよ。スタジオにいるときとは全く別の音楽になることもあれば、同じような音楽になることもあって、毎回違うからね。それにテクノ寄りのセットをやっているときでも、クリエーターとしての自分を忘れてはいないんだ。僕のレコード・バッグには凄くディープな音楽からロックまで色々と入っているんだけど、そんな幅の広さこそがクラブ・カルチャーやパーティーの醍醐味だと思っているんだよね。僕はこれまで数え切れないほどDJをしてきたけど、一度として同じだったことはないんだよ。一度もね。これは本当にエキサイティングなことだし、だからこそ僕はDJをするのが好きなんだ。
HRFQ : あなたは音楽制作を始めたころは、今となっては懐かしいアタリの機材をよく使っていたと思いますが、急速に進歩をしたテクノロジーは今や当時とは較べものにならないレベルに達しています。このようなテクノロジーの進歩はあなたの音楽制作に影響を与えていますか?
Superpitcher : いや、そうでもないな。僕はそんなに機材オタクではないし、音楽を作る上で大事なのはアイデアとその人の気持ちなんだって信じているからね。確かに音楽を作り始めたころはアタリの世話になったよ。でも、新しいアタリを手に入れるのはもうそんなに簡単ではないし、よく故障もするんだ。まだ使えるものも持っているよ。でも、アタリに固執するのは一種のノスタルジアだと思うから、アップルのコンピューターと新しいソフトウェアを買ってみたんだ。そっちの方が音楽制作において色々な可能性がありそうだから。とは言っても、結局僕はそういったソフトウェアもテープレコーダー同然のシンプルな使い方しかしていないんだけどね。新しいソフトウェアが出てくると、使ってみろとよく言われるから試してみるんだけど、確かにいいんだ。でも、実際僕はそういった機材はあまり使わないんだよ。今でも僕は昔ながらの方法で曲を書いているんだ。何年もかけてレコードから集めたサンプル集を作るようなことを未だにしているしね。僕は最新のテクノロジーに頼り過ぎるようなことはしないんだ。例えば、もう古くて余り使えないシンセサイザーの機能をアップデートするようなソフトウェアが出てきたら僕も使うけど、実際テクノロジー自体には余り興味が無いんだよね。
HRFQ : あなたはグラムやメタル、ロックなどを聴いて育ってこられたそうですが、それらの音楽があなたの現在の音楽性に影響を及ぼしていると思いますか?
Superpitcher : ああ、かなり影響を受けているよ。メタルやハード・ロックに関してはそうでもないけど、グラムや '80年代のイギリスのポップ・バンドなんかは今でも聴いているくらいだからね。あの手の音楽が持つパワーとか雰囲気には本当に刺激を受けたな。まるで語りかけられているように感じるくらい僕にとってはリアルな音楽なんだよ。だから、意図的なものではないけど、僕のDJにも最初のころからそういう音楽の影響は出ていたと思う。僕にとっては本当に大切な音楽だからね。
HRFQ : シングル曲の 'Happiness' は大ヒットとなりましたよね。こんなにも大きなヒットとなることを予想できていましたか?
Superpitcher : いや、全然。このヒットに僕は何にも貢献してないよ。僕はただ一生懸命音楽を作っただけで、それがみんなの気持ちを揺さぶったというだけさ。この曲は売れるに違いないとか、そういったことは考えたこともないんだ。みんながこの曲のことを褒めてくれたのは本当に嬉しかったけど、決してそれを狙って作ったわけではないしさ。もちろん、みんなが気に入ってくれたこと自体は嬉しいよ。だって、それはみんなが僕の音楽へ込めた気持ちを理解してくれたということだからね。音楽をやっていく上で、それ以上の喜びなんて無いと思うんだ。
HRFQ : それでも、DJ Hell、John Digweed、James Holden、Michael Mayer、Miss Kittin、それに Sasha といった錚々たる面々があなたのことを絶賛していますよね。
Superpitcher : それは本当に驚きだし、嬉しいことだね。
HRFQ : あなたの音楽はどこか暖かみのあるもので、Kompakt の他のアーティストとは一線を画するところがあると思いますが、あなた自身もそのようにお考えですか?
Superpitcher : そうだね。でも、それも意図的ではないんだ。ただ結果としてそうなったというだけでね。面白いのは、それが Kompakt みたいに硬派なミニマルのレーベルで起こったということなんだと思う。でも、僕はそのことについてはそんなに気にしてないよ。人から意見を求められればそうだと認めるけど、僕が Kompakt の作品が好きなことに変わりは無いからね。
HRFQ : あなたは Michael Mayer と数々の作品を共に手掛けてきました。それに Westbam ともコラボをしましたよね。彼は本当に素晴らしい人ですが…。
Superpitcher: ああ、彼は僕の親友さ。
HRFQ : Westbam や Michael Mayer とのコラボレーションはいかがでしたか?
Superpitcher : 僕は人とコラボレーションをするのが本当に好きなんだ。基本的に僕は一人で作業することが多いから、たまに入り込み過ぎておかしくなりそうなときもあって、そういったときは誰かパートナーが居ればいいだろうなと思うこともあるからさ。でも、そのパートナーも誰でもいいというわけではなくて、何かしら自分と関係のある人でないと駄目なんだ。Michael Mayer と Westbam を較べても、全く別物だしね。
Michael と僕は最近新しいスタジオを作ったから、そこでよく一緒に作業をしているんだ。彼はそのスタジオの近くに住んでるから、ふらりと来て何か一緒に作るといった感じでね。今までそんな経験はなかったから、本当に新鮮だよ。音楽的にも僕たちが予想していた以上の成果を出せているしね。
Westbam の場合はまた少し違って、携帯電話を使って歌詞のやりとりを何ヶ月もしたりしていたんだ。このコラボは長年暖めていたプランだったから、時間はかかったけど本当に楽しい作業だったね。こんなふうに、ただ単に音楽だけの関係ではなくて友情も深められるような作業の仕方は本当に大好きなんだ。
HRFQ : 大変面白いお話でした。本日はどうもありがとうございました。
Superpitcher : こちらこそ。本当に楽しかったよ。
End of the interview
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