伝説的テック・ハウス・ユニット Slam のメンバーとして活躍する傍ら、ダンス・ミュージック史上、最も信頼性のある重要なレーベルの一つである Soma Records を運営する Orde Meikle。Daft Punk を大ヒットさせ、最近では Vector Lovers や Alex Smoke を成功へと導いたこの Soma Records と Slam は、この移り変わりの激しいシーンの中で、一切妥協することをせず、一貫して革新的な活動を続けてきたのである。
「Soma の運営は昔からの夢だったんだ。本当さ。とりわけ今のような時代においても、本物のインディー精神を貫き通しているレーベルをスタート出来たことについては、すごく誇らしいね」
「今までに一度だってセル・アウトしたことはないんだ。しようと思えば出来た瞬間は何度もあったけどね。それに、今だって可能であれば新たなる Daft Punk を見つけたいと思ってる。ポテンシャルがあって、Daft Punk のようにブレイクできる可能性のあるバンドをね」
Soma Records の話はともかく、今回のインタビューの目的は、Resist Records から最近リリースされた Slam の最新ミックスCD" Night Drives " について語ってもらうというもの。インタビューの中で 、ハウスとテクノの中間に位置付けられる Slam のサウンド・スタイルとは対照的に、今回のアルバムで表現されている徹底したミニマル・スタイルは、ユニットのDJスタイルを完璧に表現したものだと Orde は語った。
「僕たちは、いつでも新しくてフレッシュなサウンドを探してる。今回のコンピレーションは、どんなレコードが僕たちの興味を引いているのかを、ストレートに表現したものなんだ。だから、最近のミニマル・サウンドが僕たちの興味を引いていることは間違いないだろうね」
「Alex Smoke や Nathan Fake 、Guido Snider 、The Black Strobe といった カッティング・エッジな新しいプロデューサーは、本当にファンタスティックだと思うよ。彼らには T In The Park にも出てもらったんだけどね。それに僕らの良い友達で、大酒飲みのMathew Jonson もヤバいよね 」
「それに、The Hacker や Ritchie Hawtin 、Model 500 (Juan Atkins) 、Funk D'Void や僕らみたいな以前から活躍しているベテラン もいるしね。僕らは常に前を見て進んでいるんだ。ただ、ジャンル分けされるのは嫌だね」
> Interview : Jonty Skrufff _ Translation by Kei Tajima (HigherFrequency)
Skrufff (Jonty Skrufff) : 今回のコンピレーションですが、どのように制作を進めて行かれたのでしょうか?二人で集まって、「とりあえずトラックを集めて、ライセンスが取れるものを入れよう」という感じでしたか?
Slam : いいや、全然。今までのコンピレーションもそうだったんだけど、僕らはすごくラッキーでね。リクエストしたトラック全てを問題なく収録することが出来て、順番を変えたり、トラックを変えたりしなくても済んだんだ。僕らの場合、最初にイメージしたものがそのまま完成するケースが多くてね。難しい問題と言えば、トラックの数を削ることぐらいだったよ。今回は幸運にも2枚組だったから良かったけど、それでも難しかったくらいなんだ。DJとして、今現在どんな作品をプレイしているのか、どんなサウンドに興味があるのか、そしてどんな新しいプロデューサーに引かれているのかがよく表れている作品が出来たと思うよ。
Skrufff : 今回のアルバムは、昨年リリースされたアーティスト・アルバムとは全く違うサウンド・スタイルですね…
Slam : その通り。ただ、" Year Zero " の制作には全部で2〜3年かかっていて、あのアルバムをつくり始めたのは、Sugarhill とかそういった初期に影響されたアーティストを聴いていた、 ちょうど Alien Radio Tour が終わった頃だったんだ。しかも、ヴォーカル・トラックが多かったから、ヴォーカリストをグラスゴーに来てもらって、録音してっていう作業がかなり大変でね。
だからあのアルバムは、3年半もしくは4年前に僕らがいた地点のスナップ・ショットみないなものなのさ。なんせ、僕たちがアルバムをリリースした時点で、予定していたリリースから2年以上遅れていたんだから。僕たちのDJとしての感性はそれから随分変化したんだ。それに、DJコンピレーションは、アーティスト・アルバムより早くそのアーティストのサウンドの方向性を表現するものだからね。僕らにとってアーティスト・アルバムは時間をかける仕事なんだ。ただ、そうはいったものの、今ちょうど取り組み始めた新しいアルバムは、もう少し早く完成させるつもりだよ。
Skrufff : ミニマル・ハウスがこれだけ急に人気になったのはなぜだと思われますか?
Slam : 単に、ダンス・ミュージックを聴いて育ったような若い連中が、ハウスに新しいエレクトロのエッセンスを加えたってことさ。要するに、連合体みたいなものなんだ。あるものはミニマルだし、あるものは新しいテクノのような音をしてる。ループは相変わらずいっぱい入っていて、ビートは軽いのにダークでヘヴィーといった感じにね。
Skrufff : 昨年の4月にインタビューをした際に、ダンス・ミュージックを支配しているスーパー・スターDJや スーパー・クラブははいずれ消えていくだろうと予測されていましたね。あれから18ヶ月が経ちましたが、いかがでしょうか?状況は代わったと思われますか?
Slam : 間違いなく変わってきたと思うよ。例えば、スーパー・クラブはほとんど無くなったしね。ただ、かろうじてシーンの先端にしがみついてるという感じかな。イビザだって、音楽的にずいぶん変わってきたとは言われてるけど、未だに音楽好きというよりは、お金を浪費することにしか興味がなくて、メディアの注目が集まらなければ、どこかに移動してしまう人なんてたくさんいるでしょ。最近、グラスゴーの友達が新しいパーティーをスタートさせたんだけど、ほとんどロックばかり流れるようなパーティーなんだ。バレアリックっぽい感じのね。Prince の 'Sign of the Times' のミックスというか、 Prince と The Clash をミックスさせたような感じで、僕にしてみればスクール・ディスコなんだよね。ちょっと退化している感じ。ただ、世の中ってこういうものだよね。メディアが他のものに注目していれば、何人かの少し飽きっぽい人々は他のトレンドを追いかけていくものなんだ。
Skrufff : 最近、国際連合によってスコットランドが「先進国で最も暴力的な国」 に位置付けられましたが…
Slam : レポートに対する多くのスコットランド人の反応と同じく、ショックだよ。ここではそんな結果は明らかにされていないからね。だけど、そんなに驚いたとは言えないな。やっぱり事件は多いし、グラスゴーは治安の悪いことで昔から有名なんだ。ただ、国際連合がそれを裏付けたとは知らなかったね。'90年の間に少しは良くなったと思ったけど、今回の結果で僕が間違ってたのが分かったよ。都市は少しショックを受けて、問題に対して真剣に取り組んだ方がいいと思う。酷いし、とても心配な統計だよ。
Skrufff : クラブなどで、トラブルに巻き込まれたことはありますか?
Slam : あぁ、もちろんだよ。グラスゴー出身者にはニューヨークも怖くないっていうジョークもあるぐらいなんだから。確かに、ニューヨークはグラスゴーより安全なんだ。だから、グラスゴーで育った人は、暴力やに対して用心深く育っていると思うよ。クラブや街の中でも、危険な場所になりえるってことを常に意識しているからね。ただ、常に危険なことが頻繁に周りで起こってるってわけじゃないんだ。そんな頻繁には気がつかないよ。レーベルを経営している僕の友達も、カップルの喧嘩の仲裁に入って前歯二本を無くしてしまった。Stuart ( McMillan )と 他の友達も、バーで喧嘩に巻き込まれて、Stuart が仲裁に入っている間、友達 は腕を折ってしまったんだ。グラスゴーに住む人なら、一度は喧嘩に巻き込まれたことがあると思うよ。僕は当時学生だったな。ギャングの文化は '90年代で少し力を弱めていたように見えたけど、グラスゴーでは常に根付いていたし、最近になってまた極端に増加してきているみたいだね。ギャングの一味でいることがクールなことのように見えるんだろうな。
Skrufff : お子さんはいらっしゃいますか?
Slam : あぁ、息子が二人いるよ。6 歳と 3 歳なんだ。護身用のナイフを持って歩くには若すぎるから、それが心配なんだよね。男の子にはドラッグと喧嘩の問題。そして女の子にはドラッグとその他のいろいろな問題がつきまとう。実際、僕たちはグラスゴーでもリッチなエリアに住んでいるってわけじゃないからね。
Skrufff : グラスゴーでも一番リッチなエリアに住まれていると思っていました…
Slam : いいや、グラスゴーの地価はイギリスでも4番目に高いんだ。もちろん南東のエリアを除いてね。グラスゴーでも、住むことを想像もできない場所だってあるんだ。結構高い場所なんだよ。今僕たちはグラスゴーの端の方に住んでるんだけど、交通はすごく便利で、町の中心に行くまで15〜20分くらいしかかからないしね。以前住んでいた場所よりかは遠いけど、時間的な部分では今の方が早く中心部に着けるんだ。
ただ、グラスゴーはすごく良い場所だよ。いいショップもたくさんあって、ちょっとした歴史もあるし。大きすぎないから、移動するにも便利で、いろんな人に会えるしね。
Skrufff : DJやプロデューサーとして活躍する傍ら、Soma Records を運営されていますが、作業のバランスはどのようにとられているのですか?
Slam : 1か月のうち、だいたい1週間くらい Soma で仕事しているよ。今でも世界中からたくさんデモが送られてくるから、テープを聴いたりね。僕たちのレーベルの運営の仕方は、会社の中でスタッフそれぞれに役割分担があって、個人がその仕事をこなしていくこと。だから全員合意の段階では、全体ミーティングなんかがたくさんあるんだ。Soma で働いているときは常に忙しいよ。それに、ツアー中だって常にレーベルとは e-mail で連絡を取り合っているしね。最近では今まで以上に Soma の仕事に時間を費やしているんだ。
Skrufff : レーベルの設立は多くの人々の夢でもありますが、実際に始めてみて、そこで初めてそれが如何に難しいことか気付く人は多いですよね…
Slam : 僕から言えるのは、「レーベル業でお金を儲けられると思うな」ってことだけだね。アーティストであれば、レーベルからの報酬はいくらかあるだろうけど、本当に成功したいのなら相当の努力が必要だよ。特にインディー音楽業界にはものすごく厳しい時代なんだ。
Skrufff : あなたのように、長い年月、常に意欲的に活躍するのは大変ではないですか?
Slam : 正直言うと、旅して回るのには少し飽き飽きしてきたね。ただ、セット中の気持ちは今までと全く変わっていないし、レコード屋でスペシャルなレコードを見つけた時は、まだあのスリルを味わえるしね。多分、そのワクワクする気持ちが消えてしまった時に、DJやバンドとして活動する意欲を保つのが難しくなるんだと思う。ただ、新しいレコードを人々に聴かせたり、新しいことを試してみたいという興奮や、緊張感があれば、まだ続ける価値はあると思うんだ。無くなってしまえば、ダンス・ミュージックと自分との関わり方に疑問を持つことになるだろうね。だけど、今はまだそういった興奮を感じるんだ。
Skrufff : Daft Punk とはまだ連絡を取り合っているんですか?
Slam : あぁ、もちろんさ。Thomas はちょっと耳を悪くしちゃったみたいで、あんなに若くして成功したからね、少し業界から距離を置いてゆっくりしたいんじゃないのかな。二人とは今でもすごく近しい関係だし、彼ら自身や、彼らの成し遂げた偉業、そしてアティテゥードをすごく誇りに思っているよ。常にみんなの好みの音をつくるって感じではないのに、自分たちなりのやり方で、それを成し遂げてしまった。僕たちは、お金のための音楽よりも、いい音楽を生み出すために、アーティストを刺激するような存在でいたいんだ。
Slam のニュー・コンピレーション " Nightdrive " は Resist Records から発売中
End of the interview
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