Meng Syndicate 名義で初期のトランスをプロデュースし、音楽キャリアをスタートさせたオランダのテクノスター・Jeroen Verheij (a.k.a. Secret Cinema) が、この音楽ビジネスの不況の中、自身のレコード・レーベル・Gem を創立した。
さらに一風変わったことに、彼は初のミックス・コンピレーション "Welcome To My Club" のリリースを予定しており、ポッドキャストやフリーダウンロードの世界へと少し遅れた進出を果たすようだ。
「コンピレーションはCDであり、アートワークであり、ボックスでもある。一緒に仕事をしてきた人や、これから仕事したい人へのプレゼントだって考えているんだ。このミックスに収録されている音楽はすごく新鮮で、僕が今、クラブで聞きたい音楽っていうものをよく説明していると思う。個人的には 『クラブ向けのテクノ』 って呼んでるんだけどね。そして、実際にリリース前からこの作品は話題になっているよ。何故このミックスをリリースするかというと、誰かがこのCDを聞いた時に Secret Cinema のサウンドをすぐに理解することが出来る。このほうが僕の音楽の趣味が伝わりやすいと思ったんだ。」
また、無料で配布しているポッドキャストとの共存について指摘すると、彼はこのような意見を述べていた。
「ポッドキャストのおかげで、リリースの前から素晴らしいギグを大量に行うことができるんだ。Space Ibiza で6〜8月の間、連続でレジデンスを務めているみたいなもんだよ」
コンピレーション、そして、Jeroen 自身が彼の故郷であるロッテルダムから離れた街を拠点としているという事実は、Gem のリリース(Peter Horrevorts の 'Bloody Hands'、Egbert の 'Yourself'、そして、Secret Cinema の 'Glad Chord') から感じられる卓越したセレクトセンスや、オランダで最も有名なテクノDJとしての立ち位置に大きく影響している。
90年代初頭には同じくオランダで活躍する Michel de Hey とチームを組み、Grooveyard や Point Blank などを始め、数々の名義で Hey の運営するレーベル・Immaculate Music から作品をリリースし、何万枚ものヴァイナル・レコードを売り上げた。その後、彼は1994年にスタートした Secret Cinema というソロ名義を復活させ、数々のフェスでのヘッドラインを務め、さらに "White Men Can't Funk" や "Revenge of a Nerd" をはじめとするアルバムを次々と発表した。
このようなタイトルの作品を発表しているにも関わらず、彼自身とそれらのタイトルとは関係はないと断言し、「僕は10代の頃に Nerd (オタク)だったわけでもない。」と語っている。
「音楽製作にコンピューターが使われ始めた時、僕はすでに思春期の終わりに差しかかっていて、すでに人格は形成されていたんだ。だけど、僕の音楽への没頭ぶりはすごくて、太陽が出てみんながサーフィンやスケートボードをしに行ってるような時でも、曲を作るまでは部屋を出なかったね。そう考えると結構オタクっぽいかも知れないけど、僕は夜遊びもしてたし、16歳の誕生日の夜にはDJ達がみんな自分のトラックをプレイするのをクラブに聞きに行ったりしてたんだ。そんなオタクなんていないよね?」
Interview & Introduction : Jonty Skrufff (Skrufff.com)
Translation : Shogo Yuzen
Skrufff (Jonty Skrufff) : レコード会社はみんな空前の不況に面しているけど、こんな状況かで去年の12月にGem を設立しようと思ったのは何故なの?すごく奇妙なタイミングでの設立だと思うんだけど、何故レーベルを10年前、15年前に立ち上げようとは思わなかったの?
J.V (Jeroen Verheij) : 僕は長いキャリアを通してずっとライブ・パフォーマンスばかりしてきたんだ。だけど自分の曲だけを15年間演奏し続けて、そろそろ変化の時期だと思ったんだよ。だから、セットを組んだDJプレイを始めたんだ。僕はキャリアを通して、ずっとレコードは買い続けてたから、それを全部スタジオに持って行ってそこでミックスしたんだ。これまでの僕はライブ・パフォーマンスのプロでしかなかったからね。
だけど、時が経つに連れて、自分のサウンドがクラブには壮大過ぎたり、激しすぎるって感じて、それからは3000人以上のオーディエンスの前でしかライブはしないって決めたんだ。今は3000人以下のギグではDJプレイをすることにしてる。その方が柔軟性があるからね。オーディエンスに合わせて雰囲気を変えることはあるけど、もちろん僕の音楽の好みの範囲でしかやらないよ。
そうやって自分のパフォーマンスにDJプレイを取り入れて行く過程で、他人の曲をプレイしている内に、オランダにはたくさん才能のあるアーティストがいることに気づいたんだ。例えば、Egbert や Peter Horrevorts とかね。彼らの音楽は本当にかっこよかったから、レーベルから出したいと思ったんだ。実際、リリースした2作品は既に売り切れて、再プレスが決まってるし、売り上げも良くなってるよ。時には流れに逆らって、辿り着いた場所で何かを生み出すのがいいんだ。『テクノ界の鮭』 って呼んでよ(笑)。
Skrufff : Gem ではマーケティングをどれぐらい重要視するの?あと、君自身のマーケティングはどう?
J.V : レーベルを設立する前、Gem ってのは僕がオーガナイズしていたパーティーの名前で、僕が招待したアーティストとジャムするのがコンセプトだったんだ。2000年には Joris Voorn ともぶっつけ本番で一晩中ジャムしたんだよ。バーでバンドが演奏するのと同じような感覚で、だけどもっとエレクトロニックなダンス・ミュージックのやり方で演奏するっていうのがその時のビジョンだった。Gem のリリースで一番焦点を置いているのは、僕がフロアでかけたいような音楽ってところかな? もし僕が好きなトラックじゃなかったら、Gem では プレスしないよ。だから Gem からリリースされる作品は、それぞれのアーティストによって作られているけど、あくまで僕の音楽的趣味で統一されてるって感じかな?アーティスト側も満足してくれていることを願うよ。
Skrufff : 最近見た君のインタビューの中で、ガンジーの 「私がこの世の中で唯一認める制圧者は自分の中の小さな声だけである。」 という言葉が引用されていたんだけど、すごく興味深い言葉だよね?何故この言葉を選んだの?
J.V : それは確か Beatport のインタビューの時だったかな?その言葉はもちろん僕が考えた言葉じゃないけど "Secret Cinema" とは一体何なのかをよく現してると思うんだ。ガンジーが言うところの 「自分の中の小さな声」 っていうのは、僕の中にある小さな映画(シネマ)なんだ。音楽が僕のイマジネーションに語りかける時、僕だけが唯一見える、僕の中での映像っていうのかな…。その記事の中では、彼らは僕が20年間も音楽業界に関わってるのに、今でも音楽に対する信仰を失ったり、大金に目がくらむこともなく、テクノ・ミュージックへの愛や純粋な気持ちで活動している、って書いてくれていたよね。
Skrufff : 君の中の 「小さな声」 は君になんて言ってる?
J.V : 僕はこれからも長い長い間、音楽を続けるって言ってるよ。
Skrufff : じゃあ、きっとその声は 「Jeroen Verheij、またの名を Secret Cinema はガンジーのように世界平和に命を賭けたことは無いかも知れないけど、自分を信じること、献身するということは理解している。」 って言ってるんだろうね。それでも、自分を疑ったりすることはある?
J.V : いつもそうだよ。クリエイターやアーティストであればそうだと思う。いつインスピレーションが降って来るかなんてわからないしね。そして、常にトップにいて変化に対応していくには、それなりのダメージもあるんだ。だけど、毎日自分のやりたいことを出来ている事実は忘れないし、自由も感じてる。そうすれば、モチベーションっていうものを保てるんだ。後は、みんなが左を向いてる時に僕は右を向いていたりする。さっき言ってた「流れに逆らう」って話に戻るけど、他の人達への競争心っていうのが僕の中でのエネルギーにもなってるんだ。
Skrufff : オランダは人口から考えても、かなり多くの国際的に成功したDJを生み出しているよね。それは何故だと思う?
J.V : オランダが小さな国だからじゃないかな?オランダ人はちょっと尊大なところがあるから、みんな常にもっと上を目指してるんだ。だから、オランダでプレイするDJはそんなオーディエンス達を前にプレイしなきゃいけない。彼らを満足させるには並大抵じゃない努力が必要だよ。もし、オランダ人を満足させられたら、世界中どこでもやっていけるぐらいじゃないかな?後は、国が海やら川やらに囲まれているからこそ、ここを離れて世界を旅したいっていう気持ちが強いのかも知れないね。
Skrufff : まだ自分が成し遂げるべきことはどれぐらい残ってると思う?
J.V : 僕もいつも自分自身にそう問いかけてるよ。最新のリリースもうまく行ってるし、これまでにはオランダの大きなフェスティバルのほとんどでトリを務めてきた。だけど、まだ広い世界が広がってるんだよ。僕はみんなにSecret Cinema っていうのがどんな人間で、何故それまでに音楽に身を捧げるのかを知ってもらいたいんだ。その実現には近づいているのかも知れないけど、まだまだ長くて険しい道だよ。
Skrufff : 10代の頃からの友達、例えば同級生とかとは未だに連絡を取ったりしてるのかな?
J.V : 何人かはね。でも同級生とはあまり連絡は取ってないかな。一人、同級生で誕生日が一日違いのヤツがいるんだけど、学校を卒業してからも毎年お互いの誕生日を祝うようにしてるよ。だけど実際に会ったりはしてないね。昔はカードを送ったりしてたけど、最近は電話をすることが多いかな?15年来の友達もいるし、新しい友達もいる。新しい友達は音楽やアートをやってたりして、僕に刺激を与えてくれる人ばかりだね。
Skrufff : 写真ではいつも帽子を被っているけど、何故そんなに帽子が好きなの?
J.V : 何年か前の マイアミの Winter Music Conference のとき、初めて帽子を買ったんだ。その帽子がすごくかっこよかったから、ロンドンに行った時にさらにいくつか帽子を買ったんだよ。それで、気がついたら 「帽子を被ってる人」 っていう感じになってたね。今度6時間のソロ・セットをやる時には帽子を脱ぐつもりだけど(笑)。普段は、ここのところ常に帽子を被ってるよ。脱ぎたい時は脱ぐって感じだけど、面白いことに帽子を脱ぐとみんな僕に気づかないんだ!それって結構便利だよね。
Skrufff : 去年、僕らは ジャカルタの JADE electronic music conference でも会ったけど、今の世界のダンス・シーンに対してどう思ってる?
J.V : 世界中でダンス・ミュージックは繁栄してると思うよ。今ではエレクトロニック・ミュージックだけを聴いて育った世代もいる。彼らはクラブでかかっているような音楽にもすぐ馴染めるからね。あと、DJとしての生活は 「夢を生きる」 ような生活だから、DJを志す人はとても多い。それによってシーンはますます大きくなっていると思うんだ。まあ、国によっては音楽的な嗜好っていう点で少し遅れているところもあるけど、これは僕の個人的な意見だね。彼らは自分が聴きたい音楽じゃなくて、トップ10チャートに入る音楽しか知らないんだ。だから、みんなには僕の音楽を聴いた上で気に入ってもらいたいんだよ。決して、僕らのマーケティング戦略が良かったからっていう理由じゃなくてね。 DJが現れては、プロデューサーは消えて行く、だけど Secret Cinema はフローし続けるよ!
End of the interview
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