世界で活躍する日本人DJとして誰もが真っ先に思い浮かべるであろうDJが、Satoshi Tomiie である。80年代後半からその才能を世界にアピールし始め、今もなおダンス・ミュージック・シーンの前線で活躍しつづける彼が、イギリスの名門レーベル Renaissance が新しくラウンチするコンピレーション・シリーズ "3D" にコンパイラーとして抜擢され、その発売を記念して、彼の「ホーム」である日本でもリリース・パーティーが行われた。
HigherFrequency では、Yellow でのギグを終え、今年の5月まで続くという長いリリース・ツアーの合間、日本でつかの間のオフタイムを過ごす Tomiie 氏に接触。コンピレーション "3D" についてはもちろん、彼の住むニューヨークの最近のシーンについて、レーベル Saw Recordings について訊いた。
> Interview & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 以前 Dream の際に、E-mail インタビューをさせていただいたんですが、直接会ってのインタビューは初めと言うことで、とりあえず近況から教えていただきたいんですが。
Satoshi Tomiie : とりあえず(CDが)出たばっかりで、リリース・ツアーが1月13日にニューヨークから始まったので、そのあとヨーロッパを回って、それから香港、東京、シンガポールとギグをやって、それで今また東京にいるんですけど、これからまたアジアを回って、オーストラリアに行って、その後はまたアメリカに戻って、アメリカをマメに回ると。マイアミ(WMC)もその中に入ってますけどね。そんな感じでこのツアーが5月まで続きます。
HRFQ : 5月までですか。じゃあ今年はツアーでめいっぱいという感じですね。
Satoshi Tomiie : まぁ、毎年こんな感じですけどね。
HRFQ : Yellow のギグは、いかがでしたか?平日でしたが。
Satoshi Tomiie : すごい面白かったです。平日だし、来てくれてる人たちにも気合が入ってるから、いいパーティーになりましたね。
HRFQ : 先週末はまたアジアの方に出られていたんですよね?
Satoshi Tomiie : シンガポールでプレイしました。Zouk はいつプレイしても面白いんですけど、知らない間に24時間ライセンスを取っていて、24時間やろうと思えば何時間でも出来るようになっていて、逆に終わりが分からなくて「何時までやればいいの?」みたいな。お客さんも他のクラブが終わる時間に来たりして、いつもと変わった感じでしたけど。
HRFQ : 今回のツアーは Renaissance からリリースされた "3D" のプロモーションの一環として行われているわけですが、この"3D"、 なかなか面白いコンセプトを持ったアルバムですね。コンパイルをする際に、普通のコンピレーションを制作するときと違った楽しみはありましたか?
Satoshi Tomiie : 大変ですよ。3種類作るから。物を作るのは楽しいんですけど、3つ作らなきゃいけないから…特にスタジオのディスクは (Disc2) 、おのおののパーツを作らなくちゃいけなくて、大変でしたね。ゼロからリミックスしたものが2曲と、ゼロからリメイクしたものが1曲、あとエディットしたものがいくつかあって、そのパーツを作りつつ、他のCDもコンパイルしつつ、曲も作りつつ、DJもしつつ…って感じで。今回のアルバムの話しは去年の3月くらいに来て、納期が11月って聞いてて、「あ〜時間あるな」と思ったんだけど、結局夏は旅で何も出来ないから、実際に始めたのが9月の初めくらい。だから2ヶ月で全部やらなきゃいけなかったから結構大変だったかな。
HRFQ : フロア・ライクなディスク1と、作品集であるディスク2 、ホーム・リスニング的なディスク3、コンパイルするのに一番時間がかかったのはどれですか?
Satoshi Tomiie : 曲集めに一番時間がかかったのは、ディスク1。作業に一番時間がかかったのはスタジオかな。コンパイルしていて楽しかったのはホーム・リスニング。自分のルーツ音楽を集めてきて、友達にテープをつくってあげてるような楽しみがあったから、それはそれで楽しかったですね。しかも昔は出来なかった難しい音と音とのミックスが出来るようになったし。
HRFQ : ですよね。実は結構難しかったんじゃないかな、と思って。ジャンル的にいろいろ入ってますよね。
Satoshi Tomiie : でも最終的に落ち着いたので、自分では気に入ってるんですけどね。
HRFQ : 先程もお話されていた通り、時間がかかったというディスク2ですが、'Love In Traffic' など、聴いていて思わず「グッ」と来てしまうトラックが収録されていましたね。収録されたトラック中でも冨家さんにとって思い入れの強いトラックや、面白いエピソードのあるトラックがあれば教えてください。
Satoshi Tomiie : エピソードですか…エピソードは特にないですね(笑)ただ、ここに収録したのは厳選したトラックなので、どれもこれも思い入れはあります。だから一曲ずつ解説した方がいいんだけど、そんな時間はないから…とりあえず 'Tears' と 'Love In Traffic' は自分の中でのマイルストーンとして外せないと思ったし。どれもこれも自分的にも未だにかっこいいと思えるトラックですよね。
HRFQ : フロア・ライクなディスク1ですが、定番なエレクトロ・アーティストの名前は見つからず、ほとんど聞いたことのないアーティストばかりでした。トラックもエレクトロより一歩進んだ感じですね。
Satoshi Tomiie : エレクトロに影響されて、それから自分たちの音楽を新しく作り出している人たちがかっこいいんですよね。ここに入っているアーティストは、純粋なドイツのエレクトロを自分たちで聴いて、消化して曲を作ってる人ばっかりだから。「またこいつか!」っていうアーティストがいるのも分かりますけど、僕はその "隙間" にいるようなアーティストが好きなんです。そういった "隙間" が好きなのは昔からそうなんですけどね。
例えば、最近「これからはピアノ・ハウスが流行る」なんて言われてるんですけど、そういうテーマを前面に出してアルバムを作ってしまうと、作品よりコンセプトの方が先に来てしまって、比較っぽくなってしまうので。まぁそのピアノ・ハウスもどうってことないなって感じなんですけどね。やろうとしてることは分かるけど…みたいな。
HRFQ : 随分と長くニューヨークをベースに活動されていますが、日本とニューヨーク、冨家さんにとってどちらが「ホーム」と言えますか?
Satoshi Tomiie : まぁ、日本でしょうね。ニューヨークには住んでますけど、やっぱり日本で生まれたし、日本じゃないですか。自分の音楽スタイルも、日本で音楽を聴いてきたからこそこうなったような気がします。そういう意味でもやっぱり日本が「ホーム」かな。
HRFQ : 最近 Pacha NYC が出来て、ニューヨークのクラブ・シーンに盛り上がりに期待する声もあるのですが…
Satoshi Tomiie : いや、Pacha はまだニューヨークのシーンにインパクトを与えるっていう感じにはなっていないですね。どっちにしろ人は出てますよ。クラブもいっぱいあるし、ちっちゃいのも大きいのも新しいクラブがどんどん出来てるし。だから人は出てるんですよね。ただ、音楽が面白くないから。クラブ・シーンそのものは悪くないんだけど、発信するものがない。それが最近の状況かな。まぁ、人が出てるってことはポジティヴですよね。
HRFQ : Pacha NYC なんかは、かなりゴージャスな感じですよね。Pacha の中に Pachita というもう一つのクラブがあったりとか。
Satoshi Tomiie : やっぱりニューヨークのクラブはビジネスもあるし。ストリート・カルチャーみたいなものはもうあんまり生まれてこない。すごく「コーポレート(企業的)」な感じですよね。
HRFQ : 先日の E-mail インタビューでは、南アメリカが面白いとお話されていましたが…
Satoshi Tomiie : 今でもそうですね。ちょうど5月に South Fest に呼ばれてて、それは2万人規模でアルゼンチンでやるんですけど、やっぱりお客さんがいいから、やりがいがあるというか、楽しいですね。
HRFQ : デジタル・ダウンロードの普及によってかなり便利な世の中になりましたが、Saw Recordings もデジタル・マーケットには力を入れられていますか?
Satoshi Tomiie : ダウンロードの売り上げは、今までレコードで上げていた売り上げに匹敵することはないから、微妙なさじ加減でバランスをとってますね。まだレコードも売ってるし、ダウンロードもやってる。ただ世の中的にはこれからダウンロードが主流になっていくだろうから、その辺は微妙に状況を見極めつつやっていますね。
HRFQ : このマーケットにはどのくらい期待されていますか?
Satoshi Tomiie : 期待って言うよりも、こういうデジタル・ダウンロードは違法駐車するところにパーキングエリアを建てたって感じのものだから、違法ダウンロードを減らすって意味ではいいと思いますね。
HRFQ : 今でもレコードは使われていますか?
Satoshi Tomiie : レコードも使ったりはしますけど、CDがほとんどですね。
HRFQ : ソフトウェアもDJセットに使われていますか?
Satoshi Tomiie : 試してみようとは思ってるんですけど、当分はないです。コンピューターからコントーラーからすべて持っていかなくちゃならないし、セットアップの手間を考えるとちょっと無理だなと。ただ楽曲制作には使ってますね。ここ数年ツアーばかりだけど、例えば Ableton Live なんかはコンピューターに対する負担が軽いから、結構それでツアー中も音楽を作れるようになったので。
HRFQ : 今年もマイアミが近付いてきましたが、どんなパーティーでプレイされる予定ですか?
Satoshi Tomiie : Shine っていうシェルボルン・ホテルに新しく出来たクラブがあって、いい感じで、サウンドシステムもしっかりしてるんですけど、今年はそこで Lexicon AvenueとAudiofly X、Cass& Mangan 、Chab 、Hector Romero なんかと3月24日(金)にパーティーします。
HRFQ : Saw Recordings からのリリースがあれば教えてください。
Satoshi Tomiie : ちょうど Slok が新しいのをリリースして、今回のコンピレーションにも入っている 自分でやった Chab のリミックスがあって、Audiofly X 、Dan Berkson 、それから Gay Gerber 、Cass& Mangan も…このコンピレーションを作っているときにサインしたアーティストがいっぱいいるんで、そういったアーティストをリリースします。あとは今自分のシングルを。今 Sprit Catcher にリミックスを頼んでいて、それとカップリングで出します。
End of the interview
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リリース情報 : Satoshi Tomiie / Renaissance Presents 3D (2006/01/30)
Satoshi Tomiie プロフィール
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