’99年 Noise Music よりデビューを飾り、’02年に Carl Cox 主宰レーベル Intec からリリースされた 'Pontape' が爆発的ヒットを記録。その後も Technasia 主宰の Sino から数枚の12インチEPを発表し、その南米テイストを持ち味としたオリジナリティ溢れるサウンドで瞬く間にブラジルを代表するテクノ・アーティストとなった Renato Cohen。またこれまでに WIRE をはじめ幾度となく来日し、日本でも不動の人気を誇る彼が、今回 Technasia の Sino より待望のファースト・アルバムをリリース、さらにそのタイミングでレーベルオーナー Technasia のレジデント・パーティー X @ WOMB へ出演するとあり、来日直前となる彼にインタビューを試みた。アルバム "16 BILLION DRUM KICKS" の制作背景から、彼の音楽性の原点となる母国ブラジルへの思いなど大いに語ってくれた。
Interview & Introduction : Midori Hayakawa (HigherFrequency)
Translation : Shogo Yuzen
HigherFrequency (HRFQ) : 音楽的バックグラウンドを教えて下さい。
Renato Cohen (R.C) : 小さい時からロックが好きだったんだ。8歳の時にドラム、その数年後にギターを始めた。十代の頃はいろんなバンドを結成したね。だけど、電子機器の機材を使い始めてから、別に音楽をやるのに人の助けは必要ないって気づいたんだ。機械に組み込まれた演奏者達は24時間好きな時に働いてくれるからね。93年か94年にサンパウロのアンダーグラウンドなクラブに行って、生まれて始めてテクノを聞いたんだ。その時に思ったね。 「最高の音楽だ。自分のやりたいものはこれ以外にない」 ってね。
HRFQ : 2002年に Intec からリリースされた 'Pontape' は世界中で大ヒットしましたね。それによってあなたの存在はDJをはじめ、多くの人々に知られることになったわけですが、あなたの人生にはにどのような影響があったのでしょうか。
R.C : あの成功のおかげで僕の作品をブラジル以外の国にいる人たちにも聞かせることができた。あの時点で僕は自分の国では有名だったけど、ブラジルのシーンは世界からは孤立していたからね。
HRFQ : 今回リリースとなるファーストアルバム "16 BILLION DRUM KICKS" は Technasia 主宰 Sino からのリリースとなりますが、Technasia との関係についてこれまでの経緯を教えて下さい。
R.C : コンセプトから制作まで Charles が手を貸してくれた。僕たち二人は音楽に大して同じような考えを持っているんだ。最初にブラジルで出会って友達になってから10年ぐらいになるんだけど、その間もよく同じパーティーでプレイしたり一緒にツアーを回ったりしてたんだ。 いつも Sino は僕の音楽をサポートしてくれるから、同様に僕もリミックスの楽曲でレーベルに貢献するようにしてるよ。
HRFQ : デビューから10年越しとなる待望のアルバムリリースですが、何故今のタイミングなのでしょう?
R.C : 10年間沈黙を続けてきたっていうつもりはないかな。'Pontape' はそんなに古くないし、デビューから他の作品もたくさん作ってきた。2007年に10年間プロデュースやパフォーマンスを続けてきて、そろそろアルバムとかもっと大きなプロジェクトに取りかかってもいいころだと思ったんだ。デビューしてからずっとシングルばかりリリースしてきたし、ダンスフロア以外での仕事をしたいと思ったんだ。そして、2年かけて今やっとアルバムが完成したってわけだよ。
HRFQ : ファンの人たちはもっとあなたの音楽を聴きたいと思っていると思うのですが、あなたは年に1枚のペースで12インチのEPを出すだけですね。それには何か理由があるのですか?
R.C : 僕は自分の作った作品を全部リリースするわけじゃないんだ。リリースする時にはちゃんと世に出せるクオリティーのものだって自信を持ちたいからね。ここ数年でテクノはミニマルで暗くて、ふさぎ込んだ感じのものが増えてきたよね。僕はあんまりそれが好きじゃないんだ。音楽っていうものは幸せやポジティブなエネルギーを人々に与えるべきものだと僕は思ってる。だから僕はみんなのやってることを真似するんじゃなくて、アルバム制作とDJをすることだけに集中して、いいタイミングを待ってたんだ。
HRFQ : "16 BILLION DRUM KICKS"というタイトルはとてもインパクトがありますね。 これにはどういった意味があるのでしょうか? また、このアルバムのコンセプトも教えてください。
R.C : 僕は生音と電子的な音の組合わさった様々なスタイルを兼ね備えたテクノアルバムを作りたかった。ある時にキックがダンスミュージックにおいて最も基本的な要素だって思い始めたんだ。キックドラムから一曲を作り上げることもできるし、各楽曲からキックドラムを作ることもできる。キックドラムの星座で出来上がった宇宙の絵が僕には見えたんだ。それは人間の最も基本的な要素であるリズムとダンスっていうものを使った無限の可能性を秘めてたものなんだよ。だからその宇宙を表現する上でこのタイトルが一番いいと思ったんだよ。
HRFQ : ブラジリアン・ミュージシャンを多数フィーチャーした内容となっていますが、これは前々からの希望だったのでしょうか?
R.C : そうだね。これはずっとやりたいと思っていたことで、このアルバムがいい機会になったんだ。テクノロジーがここ数年ですごく発達したおかげで、ミュージシャン達と一緒に音楽を作ることがさらに簡単で面白いものになった。こういうことはこれからももっとやっていきたいと思ってる。
HRFQ : 完成までに2年の月日をかけて制作されたそうですが、一番こだわったのはどういうところでしょうか?
R.C : 僕は制作にすごく時間のかかる人間だから、全てのステップに多くの時間を費やしたんだ。テクノ・ミュージックのサウンドはここ数年で大きく変わってしまったから、たくさんの曲を作り終えた後も曲を最初から作り直したりしたんだ。
HRFQ : このアルバムを通して一番伝えたいことは?
R.C : ブラジルは植民地だったから、ブラジル人は色んな情報を集めてそれから新しいものや面白いものを生み出す能力に長けてると思うんだ。だから僕は自分の影響を受けたものや普段聞いているファンク、ディスコ、ジャズやブラジル音楽といったものを反映したテクノアルバムを作りたかった。音楽は人の気分を変える強い力を持ってると思う。僕は自分の音楽で人々の楽しい雰囲気を与えたいと思ってるよ。
HRFQ : ブラジルのダンス・ミュージックシーンは今現在どのような感じですか?
R.C : ブラジルのダンスシーンは全体的に数年前からは変化したね。すごく商業的になったと思う。だけどサンパウロやリオみたいな大都市にはいいアンダーグラウンドなシーンやクラブが残ってるよ。
HRFQ : 現在ベルリンに移住するアーティストが多い中、自国で活動を続けるその理由は?
R.C : ヨーロッパは好きだけどあそこに住みたいとは思わないんだ。住む場所としてはサンパウロが好きだし、ヨーロッパにはツアーでよく行くからここに住んでいればいいとこ取りができるんだよ。
HRFQ : 過去に Wire をはじめ何度となく来日していますが、日本に対する印象はどのようにお持ちですか?
R.C : 大好きだよ!!ブラジルに住んでいる人たちにとっては日本は特別な場所なんだ。(特にサンパウロには世界一大きな日本人の植民地があるからね)日本はブラジルから地球の反対側にあるから、一番遠い場所だね。僕は日本食が大好きだし、日本じゃ僕の携帯が使えないのもいいところかな。一般の人がすごく音楽について詳しいし、プレイした時の反応もすごいから、どんなDJやミュージシャンでも日本はプレイやライブをするのに最高の場所だって言うんじゃないかな。
HRFQ : 今回WOMBでのギグでは昨年も共演した日本人パーカッショニスト KTA★BRASIL とのセッションライブを予定していますが、このような生楽器演奏とのセッションは今後も積極的に行っていく予定なのですか?
R.C : これは続けていきたいね。Keita とのセッションは絶対に。一緒にプレイしてすごくマッチするんだ。パーカッションとテクノはライブでやるのにすごく相性がいいと思う。2ヶ月前に Keita がカーニバルで演奏するためにブラジルに来てたから、サンパウロの Clash Club で一緒に演奏したんだ。面白いコンビネーションだよね。ブラジル人が機械を使ってプレイして、日本人がサンバを演奏してるなんて。みんな日本人のパーカッショニストがサンバを演奏するのに興味津々だったんだけど、僕たちの演奏が終わったときにはみんな驚いてたよ。
今までWOMBでプレイした時は全部良かったから、今回も絶対いいパーティーになると確信してるよ。
HRFQ : 今後音楽を通して新たに挑戦したいことは?
R.C : 今回のアルバムで他のミュージシャンと一緒に音楽を作ることや、ダンスミュージックにおいてのリズムとハーモニーの新しいバランスを見つける楽しさっていうのを知ったんだ。これからはそれを追求していきたいね。
HRFQ : 最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
R.C : 毎回日本でプレイする度に僕を応援してくれることに感謝してるよ。日本でプレイすることも、日本の人が音楽を楽しんでいる姿を見るのも素晴らしいことだよ。ありがとう!!
End of the interview
>> Renato Cohen "16 BILLION DRUM KICKS" の詳細と来日公演については こちら から
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スペシャル : RENATO COHEN 16 BILLION DRUM KICKS (2009/05/01)
関連リンク
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