HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Prins Thomas

盟友 Lindstromと共に自国のシーンを盛り上げ、世界に発信する『ノルウェーのディスコ大使』として、そしてドイツはフランクフルトの名門クラブ・Robert Johnson でのレジデンシーと Mix CD を手がける一方、2つのレーベルを経営と、今や国際的に大活躍中の Prins Thomas。以前からたびたび来日し、日本各地でそのヌルくて熱い(?)DJプレイを繰り広げてきた彼だが、今回のジャパン・ツアーに伴って、HigherFrequency もついに多忙な彼をキャッチ。DJ、プロデューサー、そして二児の父でもある素顔に迫った。

Interview : Midori Hayakawa (HigherFrequency)
Translation : Yuki Murai (HigherFrequency), Shogo Yuzen
Introduction : Yuki Murai (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : あなたの音楽的なバック・グラウンドを、またアーティストとして活動するようになったいきさつを教えてください。

Prins Thomas (P.T) : 音楽に出会ったのは1982年、僕が7歳の時だね。7歳の誕生日に Beatles の Blue Album (1967 - 1970) をプレゼントしてもらったのをきっかけにお小遣いでレコードを買い集めるようになったんだ。84年か85年ぐらいに Hip Hop カルチャーについてのドキュメンタリーをノルウェーのテレビで見て、初めてDJっていうものに興味を持ったね。その頃は自分の部屋にあったターンテーブルを使って、ポップやロック、エレクトロニック・ポップ、エレクトロやヒップ・ホップを混ぜてプレイしてたね。George Kranz-Din の 'daa daa' とか Blaze の 'Whatcha gonna do' とか JM Silk の 'Musicis the key' とかのヘビーなものも買ってたのを覚えてるよ。でもそれが新しいジャンルのハウスだっていう認識はなくて、小節の2拍目と4拍目にしかビートのない古いエレクトロだとしか思ってなかった。

しばらくの間、毎週クラリネットのクラスにも通っていて、10歳の頃にはチェロも始めたんだ。

数年間アマチュアのマーチングバンドとかカルテットで演奏を続けてたんだけど、全然自分が向いていないことに気づいたんだ。だから、それまでやってた楽器は全部捨てて地元のロックバンドでプレイするためにベースを弾きはじめたんだ。

バンドで演奏したり、コンサートをやったりデモ制作を続けるうちに93年〜94年頃にクラブでDJをすることも始めたんだ。その頃ノルウェーのDJシーンはどんどん成長していて、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドの境目にあったとも言えるんじゃないかな?

10年間ノルウェーでDJプレイを続けて、いいキャリアも積んだと言えるんだろうけど、だんだんわだかまりを感じるようになってDJを辞めてしまったんだ。同じクラブでプレイを繰り返すことに疲れてしまって、バンドをやっていた頃のようにまた音楽を作りたいと思い始めたんだ。だけど、僕はコンピューターを買うお金もなければ、使いこなす技術もなかった。ほとんど全てのDJプレイを断ったら、僕の収入はすごく低くなってしまって定職につかないと生活できなくなってしまったんだ。9〜5時の仕事をしてるっていうプレッシャーはいい意味で僕を制作に追い込んでくれた。ダラダラと時間を過ごして「まぁ、明日やればいいか」なんて言ってる暇はなかったんだ。もちろん Hans-Peter Lindstrom と一緒に仕事をしたこともすごく良かったね。彼がきっかけでまた僕は楽器を使うようになったんだ。

DJをやったり、楽器を演奏したりするっていうバックグラウンドは僕がここまで来れた大きな理由の一つだろうね。もっと大きいのはたくさんの親切な人が僕のことを何度も何度もブッキングしてくれたかな?僕はなんて運がいいんだろうね(笑)

HRFQ : ノルウェーのご出身ですが、音楽性や考え方において、出身国に影響されているなと感じる部分はありますか?あなたにとっての母国とは?

P.T : ノルウェー出身であることは僕の音楽に大してさほど影響を与えていないと思うよ。でも静かな場所に住んでいるっていう事実は少なからず影響してるかな?ここでは楽しいクラブのイベントがそんなに多くは無いから、クラブに遊びに行く代わりに早起きてしてスタジオに行くっていうことができるんだよね。僕の5歳の息子が毎朝6時半に起こしにくるから、そうじゃなくても早起きだったかも知れないけどね…

ノルウェーの民主主義で、それぞれの個性をすごく大事にする社会に生きていることは非常に楽しいよ。生活水準もここではすごく高くて、どこに行ったってすぐそばに美しい自然もあるしね。でもノルウェーは物価がすごく高いし、さっきも言ったけど面白いことがそんなにたくさん起こる場所じゃないね。だから僕はいろんなところを旅するのが好きなのかも知れないね。

HRFQ : あなたがオーナーを務めるレーベル Full Pupp は自身やノルウェーのアーティスト、Internasjonal はノルウェー国外のアーティストの作品をリリースしていますが、何故その異なった2つのレーベルを始めようと思ったのですか?

P.T : Internasjonal を設立した理由は Full Pupp は既に「国産」アーティストしか取り扱わないっていうっていうプロフィールが付いちゃってたからなんだ。僕にとってそれぞれのアーティストを最低限管理することは大切で、Full Pupp のアーティストはみんなオスロ在住で、僕の近くに住んでいるからそれができるんだ。それにオスロの Bla でやってる僕たちのイベント "Full Pupp Night" で毎月会うこともできるしね。だけど、僕の元に素晴らしいデモがたくさん届くし、いい音楽を作っている人たちにたくさん出会うから、別のレーベルを設立しようって考え始めたんだ。

僕はいつもたくさんの音楽を作っているし、いろんなリミックスをやってるから、そのエネルギーを他の人に作品をプッシュするために使うっていうのは僕にとってのチャレンジだったね。

HRFQ : 今注目のアーティストはいますか?

P.T : それは僕が契約したいアーティストってことかな?それならもちろんイエスだね!たくさんいるけど、今は秘密だから言えないんだよね。 もちろん自分のレーベルのアーティストには注目してるね。うちのレーベルのアーティストはみんなすごくいいアーティストだと思う。そうじゃないと契約しないしね。買い手やジャーナリスト、バイヤーを説得することは用意じゃないと思う。Internasjonal ではジャンルにはこだわらずにいい音楽はどんどん出していこうと思ってるんだ。 そして、少しずつでもみんなが世の中にはジャンルじゃなくて、「いい音楽」と「良くない音楽」2種類の音楽しかないことに気づいていくんじゃないかと思ってる。

HRFQ : 当時ディスコ・ダブシーンを共に牽引してきたとして Lindstrom との仲でも有名ですが、プライベートでも交流はあったりするのですか?

P.T : いや、プライベートではほとんど交流がないんだよね。オスロの郊外にあるスタジオをシェアしてるから、もうお互いのことは十分知りすぎててさ(笑)。実際のところ、僕は家から外に出て過ごすようなプライベートな時間自体があまり取れないんだ。曲作りにツアー、レーベルの仕事、夫の仕事に二児の父親としての仕事…それで時間を全部使ってる感じだよ。

Prins Thomas

HRFQ : あなたの音楽からはいつも、シリアスになりすぎない余裕や、ユーモアのセンスのようなものを感じるのですが、ご自身ではどうお思いですか?

P.T : 僕も大体そういう感じの事を思ってるから、他の人からそう言われると嬉しいね。作る音楽にはいつでも遊び心と楽しさがあって、しかもダンサブルであるように心がけてるよ。

スタジオでは、「これで皆踊ってくれるのか?」って考えるより、もっと楽しんでやることが大切なんじゃないかと思うんだ。僕は他の人たちが聞いてくれるのか、踊ってくれるのかよりも、楽しくやることについて考えてるほうが多いな。気取っててシリアスで、気難しい感じの音楽がたくさんリリースされてるから、自分もそういう曲を作らなくちゃいけないんじゃないかって考えてみたりするけど、最終的には僕自身のシリアスにならない性格が勝つんだ。曲作りは本当、楽しんでやってるね。

HRFQ : リエディットを得意とすることで有名ですが、あなたが思うその魅力は?

P.T : 近頃リエディットしてるのは自分のDJに使う用に作ってるものだけだな。もともと、カウンターの下にこっそり隠れてるような白盤だとか、80年代の古いへんてこなメドレーのレコードだとかを中古のレコードショップで探してきて盛り上がってしまうほうでね。そういうところにはナマっぽくて、エネルギーに溢れた古いディスコ・トラックが山ほどあるんだ。かけすぎたコンプレッサーに、ワイルドに切り貼りされたループだとか…。僕にとってはエディットの中にある人間っぽい部分が一番重要なんだ。あまりにもストレートでプロフェッショナルな仕上がりのは好きじゃない。結局のところ、行き着くところは Ron Hardy みたいなスタイルだな!!!

最近は、使いやすい曲ばかり作る人が多いようで残念だよ。彼らは 『プロデューサー』 として成功する近道を選んで、クリエイティヴィティを殺してると思うんだ。それと、大切なことを言い忘れるとこだったけど、どのDJ達も皆、同じ曲をプレイしすぎだよね…。もしイギリスのレコード屋に行って、店のスタッフと話したら皆、エディットばかりが(いいのでも悪いのでも)オリジナルよりも売れてしまう、って悲しそうに話してくれると思うよ…。

HRFQ : 特にここ数年は沢山リリースをされていますが、DJとプロデューサーとしてのスタンスの違いを教えてください。

P.T : DJとプロデューサーに共通して言えるのは、どっちも楽しくやってるってことだね。スタジオに一人で座って一人ぼっちで楽器を演奏するのと、クラブでクレイジーでハッピーな人たちに囲まれてるのは随分違うけど、自分にはどちらも必要なんだ。スタジオで過ごす日々が続くと、早くDJブースに戻りたくなってしまうしね。DJをやっていて、反応がすぐに返ってくる時は、すごいアドレナリン・ラッシュだよ。あと、DJをやってるときは自分が何をやってるのか…少なくてもどんな方向性でやりたいのか位は分かってるけど、曲作りに関しては、トライしては失敗し、そして成功して…が全てだよ(笑)。

HRFQ : あなたのオリジナルな選曲は、どのようなコンセプト・構成の元にあるのですか?

P.T : ハハハ…有難う。いつも自分自身とクラウドの両方が楽しくなるように心がけてるよ。もちろん、みんなをハッピーにすることが一番重要ではあるんだけど、自分が楽しめないようではいいDJはできないよ。それに音楽にはバラエティーがなければいけないと思ってるんだ。僕は3曲も同じような音のレコードを続けて聴いたらうんざりしてしまうから、たまに一部の人を混乱させてるみたいだね…(笑)。もし長い時間をかけてテンポを上げていくような場合に関しては、雰囲気をビルドアップさせるのも大切だけど、壊すのも重要だと思うよ。

あるときはディスコ、あるときはテクノ、あるときはロック…と、どれか特定のスタイルにより重きを置いてる時もあるんだけど、いつでも一定のルール、『3曲以上はかけない』 を守ってるんだ(笑)。

HRFQ : あなたのギグでのロングセットでは、特に後半になるにつれて非常にバラエティーに富んだ選曲をしていらっしゃいますね。本当に色々な(ジャンルの)音楽が好きなのだろうなと感じますが、よろしければ、オフの日や家ではどんな音を聞いているのか教えていただけますか?

P.T : 家ではあんまり音楽を聴いてないな。音楽は週末か、スタジオにいる時に聞いてるから、家では静けさこそが一番だと思ってるよ。でも、大抵月曜日には休みをとって家にいるから、アルバムを頭から最後まで丸ごと聴くにはもってこいだね。いろんな種類の音楽を聴いてるんだけど、最近よく聞いてるのは Captain Beefheart & His Masic Band の "The Mirror Man Sessions"、 Caetano Veloso の "Qualquer Coisa"、 Gabor Szabo の "Dreams" だね。
レコードボックスには ABBA のアルバムが全部入ってるし、他には Serge Gainsbourg と Jean Claude Vannier の サントラ盤 "Cannabis" だとか、Pat Metheny Group の "Still Life Talking" もある。どのアルバムにもピークタイム向けではないけど、ロングセットにはぴったりな曲が入ってるよ。

HRFQ : 過去に何度も来日されていますが、印象深い思い出は?

P.T : 最初日本に来たときに一番驚いたのは、とにかくノルウェーとは全然違うってことだね。ノルウェーは国全体にたった3百万人しかいない国だからさ…。道は人だらけですごく混んでるし、小さくてクールな店やクラブ、カフェが山ほどあって…。僕みたいな小さな田舎町の人間にはちょっとトゥー・マッチかな。

僕にとって一番スペシャルなことは、いつも素敵な人たちと出会いがあり、美味しい食べ物が食べられること。日本にはその両方があるよ。

HRFQ : 今後の予定を教えてください。

P.T : 12インチの "Mammut" が Full Pupp から出て、あと数ヶ月くらい後にはソロで別の12インチが出る。その後、うまく作業が終われば年末の前にアルバムを出す予定だよ。 5月には Eskimo から Lindstrom との共作アルバム "Lindstrom & Prins Thomas II" が出て、その前にシングル 'Tirsdagsjam' が出る。Playhouse からのリリースは自分が手がけたMix CDで、他にも共作曲が Full Pupp と Internasjonal の 両方からリリースされるよ。

毎週末のヨーロッパ各地でのプレイとは別に、今度ロンドンの新しいクラブ Cable で Full Pupp Night を隔月で始めるんだ。12月前にはオーストラリア、シンガポール、USツアーを予定してるね。

HRFQ : 最後に、来日を待ち望んでいる日本のファンのみなさんにメッセージをお願いします。

P.T : また日本に戻って、ダンスフロアでみんなのハッピーな顔を見るのを楽しみにしてるよ!

End of the interview



>> Prins Thomas Japan Tour 2009 の詳細は こちら から


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