'80年代後半にイギリスを席巻したマッドチェスター・ムーヴメントの中心的な存在として活躍し、今もなお現役としてシーンの前線を走り続けているバンド New Order。そんな長年にわたり多大な支持を集めているバンドの中心人物であり、"Hooky" の愛称で親しまれていることでもお馴染みの Peter Hook が、アメリカのスニーカー・ブランド K-Swiss 主催のイベント K-Sounds に DJ として出演するために来日を果たした。
今回のインタビューでは冗談を交えながらも、マッドチェスター時代の名曲を集めたコンピレーション CD "The Hacienda Classics" の制作裏話から、最近活動が盛んな DJ のこと、そして子供のことまで幅広く話を聞かせてくれた Hooky。後ろ向きとも取られかねない過去を振り返る作業も、歳をとるにつれて及び腰になっていく新しいことへのチャレンジも、臆することなく楽しみながらやっていることが窺えた彼の言葉の端々からは、New Order がデビューから20年以上も経った現在も変わらずに愛され続けている理由が読み取れるような気がした。
> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Yoshiharu Kobayashi (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : お忙しい中お時間を頂きまして、ありがとうございます。本日はインタビューができて本当に嬉しく思っています。
Peter Hook : かまわないさ。
HRFQ : 私が感謝の意を述べたかったのは、昨年の Fuji Rock Festival でのことがあったからなんです。昨年は3日間どしゃ降りが続いたせいで泥まみれになってしまい、日曜の夜には誰もが最悪の気分でした。そんな中、あなたたち New Order が現れて、お世辞ではなく、最高の夜を届けてくれましたよね。あれは本当に素晴らしかったです。
Peter Hook : 面白かったよね。'03年に俺たちがプレイしたときも雨が降っていたんだけど、そのときは泥まみれになるほどひどいもんじゃなかったんだ。でも、みんなフェスティバルでは泥だらけになることをどこかで期待しているんじゃないかとも思うよ。もし泥だらけにならないで帰ることになったら、チケット代を返せって迫ってくるんじゃないかな。
HRFQ : Bernard の言ったことには大笑いしましたね。彼は面白いことを言っていて、「ああ、どんな様子だったかは分かってるって。雨が降っていたから、オーディエンスはみんな濡れて凍えていたんだよね。…フェスティバルがそういうものだってことはわかっているさ。だって、友達に教えてもらったからね!」これは傑作でした。
Peter Hook : いかにもマンチェスターらしい皮肉だな…。
HRFQ : あなたは New Order でのライブが終わった後に、Red Marquee で DJ もしましたね。私の記憶では、とてもハードなセットだったと思います。ヴォーカルの入ったハード・ハウスをたくさんプレイしていたと思いますが…。
Peter Hook : ああ、俺はハード・ハウスが好きなんだ。
HRFQ : あなたは今そういった方向に進んでいるのですか?
Peter Hook : 音楽的には違うね。でも、DJ に関しては…。これはとてもおかしなことなんだ。普段からできるだけたくさんの曲を聴くようにしているけど、実際にプレイするのはその中でもほんのわずかでしかないんだよ。プレイするのにパンクを選ぶこともあれば、ロック、ダンス、ヴォーカル・ダンスを選ぶことだってある。その曲の中に何かひっかかるものがあれば、俺は何だってかけるんだ。だから、今はある特定のジャンルの音楽に影響を受けているというわけではないのさ。
'88年ごろから俺はダンス・ミュージックに夢中になっているんだけど、今でもその気持ちは変わってないよ。ダンス・ミュージックはドライブするときによく聴くんだ。車に乗っているときならいつだって聴いてるよ!ダンス・ミュージックは本当に大好きだから、Hacienda のコンピレーション CD をつくるのもあんなに楽しかったんだと思うな。子供を持つと良くないと思ったことの一つは、子供が学校に行ってる間に車の中で聴くか、DJ をしているときにしか音楽を聴く機会が無くなってしまうってことなんだ。だから、自分が車で聴くためのコンピレーションをつくってみたんだよ。でも、そういったコンピレーションというのは、どうしてもテンポが速くてアップリフティングなものが中心になってしまうんだ。というのも、俺の運転の仕方がそういう感じだからさ。
HRFQ : お子様は今何歳なのですか。15、16歳ですか?
Peter Hook : 16歳の男の子だよ。
HRFQ : ちなみに、彼はどんな音楽を聴いているのですか?
Peter Hook : 実は、Pearl Jam にはまってるんだ。あいつには Pearl Jam のライブ・チケットを手に入れてくれと、ずっとせがまれてるよ!あいつはロックが好きで、ダンス・ミュージックは全然聴かないみたいだな。特にアメリカのロックが好きみたいなんだけど、俺はそのへんの音楽はよく分からないなんだ。正直、あまりよく理解できないんだよ。でも、父親に反抗するのはいいことだと思わない?子供が親を困らせるのは、いつの時代だっていいことさ。
HRFQ : そうですよね。私もよく親を困らせるいい子供でした。ところで、ベースからターンテーブルに楽器を持ち替えたのは、元 The Stone Roses のベース・プレイヤー Mani の影響ですか?
Peter Hook : そうそう、間違いなく Mani の影響だと言えるね。でも、ベース・プレイヤーになる遺伝子を持って生まれてきたんだと自分でも思ってるよ。どうしてかは分からないけど、マンチェスター出身のベース・プレイヤーのほとんどは DJ もやっているからさ。でも、これは俺が Mani、Andy Rourke と組んでるバンドの Freebass が抱える問題の一つでもあるんだ。だって、みんなで集まろうとすると、いつも誰か一人は DJ をしていて来れないんだからね。でも、DJ をするのは面白いよ。DJ もライブをするときと同じくらいハラハラするものだけど、ある意味、もっとハラハラしてしまうこともあるしさ。だって、上手くプレイできていないときは、誰一人として頷いたり笑顔を向けたりしてくれないんだから。DJ を始めてからまだ数ヶ月しか経っていなかったときに、もう何年も DJ をやっている友達から、DJ は地球上で一番寂しい仕事だと言われたんだ。そのときは「あいつは何を言っているんだ?」と思ったんだけど、ある夜、あいつがなぜそう言っていたかが突然分かったね。だって、DJ が上手くいかなかったときっていうのは、とんでもない悪夢みたいなものだからさ!きっとみんなの注目を一身に集めてプレイしているわけだから、そう感じるんだろうな。
HRFQ : DJ をするときはベースも何も持っていないわけですから、一層心もとないでしょうね。
Peter Hook : そうなんだ。どこにも逃げ場がないし、誰も一緒にいないしさ。でも、今はチャレンジしているんだ!と考えなくちゃいけないんだと思うよ。俺にとって DJ は、バンドの課外活動のようなものなんだ。Bernard とも DJ についてはよく話し合うんだけど、あいつは DJ のことを「あんなのただの PA だろ。DJ だと言ってお前がやっていることは、ただの PA でしかないよ」と言うんだよね。でも、俺はそんなに単純なものではないと思っているんだ。だって、もし DJ が本当にただの PA だとしたら、こんなに楽しいはずがないじゃないか。DJ をするのは演奏するのと同じことなんだ。音楽を共有して相互作用を引き起こすのが、DJ の面白いところだと俺は思っているよ。
HRFQ : DJ は思っていたよりも難しいものでしたか?
Peter Hook : ああ、とんでもなく難しかったよ!しっかりと準備をして、ちゃんとプレイしないと、本当にひどいものになってしまうからね(笑)でも、上手く行ってないときでも、楽しみながらプレイするようにはしてるんだ。失敗したのを真剣に悩んでいる DJ を見ると、これはあんまり気にせず笑い飛ばした方がいいなと感じるからさ。
HRFQ : あなたは以前、クラウドが嫌がるようなトラックをプレイするのが好きだと言っていましたよね。その発言に私は興味をそそられたのですが。
Peter Hook : ああ、そういったこともするよ。
HRFQ : The Smiths の曲をかけてくれと今日誰かに言われたら、何と言い返しますか?
Peter Hook : 「ノー」だね。だって、俺は DJ をするためにわざわざ長旅をしてくるんだから、リクエストを断る権利くらいあるはずさ。でも、特にアメリカ人はリクエストを断ると本当に悪く思う傾向があると感じるね。本当のことを言うと、日本ではまだそういったリクエストは受けたことはないんだ。でも、まだ日本では2回しかプレイしたことがないからね。今日がそのときかも!
HRFQ : そうかもしれませんよ。私が何かリクエストしましょうか!
Peter Hook : DJ をやっていると本当に面白いことがいくつかあるんだ。Happy Mondays の曲をかけたちょうどそのときに「今日は Happy Mandays をプレイするの?」と誰かが訊いて来た瞬間なんかは、本当にやったと思うね(笑) そんなときはいつも嬉しくて笑い出しちゃうものさ。でも、他の誰かが「今日は The Smiths をかけるかい?」と訊いてきたら、「いいや」と応えるんだ。「なんで?」ともし訊いてきたら、「奴らは本当に嫌なやつだからね!」って言ってやるのさ。ほとんどの DJ が「オーケー、オーケー、すぐにかけるよ」って応えると思うから、こんな風に言われたら本当に驚くだろうな。そんなときはちょっと罪悪感も感じるよ。でも、リクエストをしたやつが大きくて強そうな感じだったら、ちょっと考えるかもね。
HRFQ : あなたがコンパイルした Hacienda の CD には素晴らしいトラックがいくつも入っていますね。ここにトラックリストがあるのですが、これはあなたが自分で自由に選ぶことができたのですか?
Peter Hook : ああ、完全に自分で選曲したよ。この CD を企画したやつが代わりに選曲する人間を用意したと言ってきたんだけど、「だめ、だめ、絶対にだめだ。自分でやるから!」って言い張ったんだ。でも、実際に選曲を始めてみると、どうしてあいつらがあんなことを言ったか分かったね。だって、選曲をするためには400ものアシッド・トラックを素面で聴かなきゃいけなかったんだからさ。いつまで経っても終わらないんじゃないかって感じるくらい大変だったね!6ヶ月もかけて曲を聴き続けて選曲したんだから、本当に一生懸命やったと自分でも思うよ。でも、そのトラックリストは本当に俺が選びたかったものとは違うんだ。それは確かに自分で選んだものではあるけど、Lil' Louis "French Kiss" みたいに、曲が手に入らなかったり、許可を得られなかったりしたものがたくさんあって、最終的には色々とごまかしながらやるしかなかったんだよ。
HRFQ : Robert Owen "Back in the Day" をこの CD に収録したかったようですが、最終的には別のコンピレーションに入れることになったらしいですね。
Peter Hook : そうなんだ。この話も傑作でさ。俺たちはこの曲をてっきり Hacienda の時代の曲だと思って聴いていたんだよ。でも、いくら探してみても見つからなくて、おかしいということになったんだ。そしたら、実はあの曲は '03年にリリースされた曲だってことがわかってさ。Hacienda が閉店になってから7年も経ってから出た曲だったんだ!(笑)でも、あれは本当に Hacienda っぽい曲だよね。だから、あの曲は絶対に入れたいと思ってたんだけど、企画したやつからの許可が下りなかったんだ。本当に残念な思いをしたね。全くあいつのせいでさ!あの CD を企画したやつは、凄い純粋主義者で、本物の音楽オタクなんだ。「誰も気付かないさ。いい曲なんだから入れてもいいじゃないか!」と俺は主張したんだよ。だって、本当に Hacienda っぽい曲だと思ったからさ。でも、結局その曲を収録できないということになって、本当にがっかりしたよ。あれは今回セレクトした中でも特にお気に入りの曲だったのに!
HRFQ : 一般的な質問をいくつかさせてください。あなたは今年8月に開催される Creamfields に出演しますよね。
Peter Hook : そうそう、Creamfields が開催されるリバプールと、俺の出身地のマンチェスターの対決をしてみようと思ってさ。
HRFQ : Cream のミックス CD を全部聴かなくてはいけないのにはうんざりしませんでしたか?
Peter Hook : あれはひどかったな!俺が Hacienda のコンピレーションをつくろうと思ったのも、そういった理由からなんだ。レコード会社で働いている友達がその CD を出すレーベルと関係があったから、「何だあれは、何でこんなものをつくってるんだ、収録曲の半分はどうしようもないじゃないか!」と言ったんだ。そしたらあいつは「じゃあ、自分でやってみたらどうだい?」と言ってきてね。「ああ、それはいいアイデアだな」って俺が言ったら、彼は「だろ、やっとやる気になったか」と言ってきたんだよ。そんなわけで俺たちは、典型的な Hacienda サウンドをセレクトしたコンピレーション CD をつくってみることにしたんだ。Hacienda が閉店して10年も経ってからやっとね!でも、その当時の Hacienda を楽しんでいた人はラッキーだと思わない?あれから10年も経った今になって、突然みんなが当時のコンピレーション CD をつくろうと決めたんだから。Tony Wilson もつくるつもりだって言ってたし、ロンドンにいる当時の仲間もつくると言っていたよ。「なんてこった、10年も待たされたと思ったら、今度は一気に3つもコンピレーションがリリースされるんだ!」って思うだろうね(笑)
HRFQ : 先週は Karl Bartos が同じ会場で DJ をしましたが、あなたたちはお知り合いなのでしょうか?
Peter Hook : 何回か会ったことがあるけど、彼は Bernard と仲がいいんだ。でも、Karl に会うことができたのは本当に嬉しかったよ。彼は本当にいい人だからね。
HRFQ : New Order の曲の中に Kraftwerk っぽい曲がいくつかあるせいで、著作権料の支払いを要求されたことがあると、どこかで読んだ記憶があるのですが。
Peter Hook : ああ、そんなことしょっちゅうだよ。新しいレコードをつくるたびに、俺たちはいつも Kraftwek の曲からリフを拝借していて、自分たちの間では 'あの Kraftwerk っぽい音' って呼んでるくらいだからね。でも、面白いことがあってさ。Karl Bartos も Kraftwerk でまるっきり同じことをしているんだって言うんだよ。しかも、彼らはその曲を 'あの New Order っぽい音' って呼んでるらしいんだ!それに、彼は New Order に影響を受けてつくったというアルバムがどれか教えてくれたりしてさ。本当に最高だったね!面白いのは、あんなことやってるのは自分たちだけかと思っていたら、実際はそうじゃなかったってことなんだ。本当に素晴らしいことさ。でも、自分のヒーローに会うのは本当におかしな気分だね。'77年に Kraftwerk の曲を聴いたときは、こんなの今までの人生で一度も聴いたことないと思ったものさ。The Sex Pistols に関しても、全く同じことが言えるね。あの2つのバンドの登場で、本当に世界は変わったんだ。だから、Karl Bartos と並んで座ったりしたら、本当におかしな気分になっちゃうよ。変な感じだよな。せっかく Kraftwerk とプレイしているっていうのに、何を話していいかわからないから、結局は他のメンバー2人と話したりして。本当におかしいよ。
HRFQ : こんな意見には同意できますか?「多くの人たちにとってマウスのクリックひとつで音楽体験が可能な今の時代においては、ライブ・バンドが集まることはより切実な意味を持つようになり、かつてないほど音楽とリスナーの間の草の根的なつながりは絶たれる危機に瀕している」
Peter Hook : いや、そんなことはないだろうな。みんな生で何かを見るのが好きなことは、これからもずっと変わらないと思うよ。例えそれがマウスのクリックひとつで何もかも済ませてしまうのに慣れている若い世代の話だとしても、生身の人間から受ける影響は大きいはずなんだ。俺がそう言う根拠は、この自分自身が生のパフォーマンスを見るのが好きだからさ。たとえ、それが DJ であってもね(笑)こういったことは永遠に変わらないはずさ。それにヴァーチャルな世界が世の中に浸透するほど、生身のものはより重要になっていくんだと思うな。昨日は大阪でプレイしたんだけど、あれは本当にいい夜になったんだ。そんなに混んではなかったけど、雰囲気は最高だったからね。「今日はあんまりお客さんが入らなくてすみませんでした」と関係者に言われたんだけど、実際はそんなの気にしてなかったよ。だって、来てくれた客が本当に素晴らしかったからさ!1万人の客が来てくれるより、たとえ10人でも本当に楽しんでくれる人がいた方が、俺は嬉しいんだ。面白いことなんだけど、俺は21歳で自分が本当に好きだと言える仕事を見つけて、しかもそれを29年間も続けることができている。そんな事実が、全てを物語ってると言えるんじゃないかな。今でも俺は、ライブで自分の馬鹿な顔を晒すために出かけているんだよ。しかも、それを始めてから29年立った今も、まだいい調子でね!
HRFQ : でも、あなたと同じことをやろうとしている人は山ほどいますけど、実際に29年間も素晴らしい音楽をつくり続けている人というのは他にいないんですよ。だから、あなたのやっていることは本当に素晴らしいのだと思います。本日はどうもありがとうございました、お話できて本当に嬉しかったです!
Peter Hook : 俺も楽しかったよ。いいインタビューができたじゃないか!
End of the interview
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