「一緒に世界中を旅してくれる人を見つけるのは難しいよ。これだけ頻繁に旅してるから、同行者も僕が受け取るのと同じギャラを要求するのは当たり前だからね。だから移動する時は、たいてい一人か二人だよ」
ウエスト・ロンドンのレコーディング・スタジオでインタビューに応える Pete Tong は、彼の日常生活は、"スーパースターDJ" の肩書きから人々が想像するようなグラマーなイメージとはかけ離れた、"喜び (pleasure)" より "プレッシャー(pressure)" に支配されたものだと話した。
「人間ってのは結局仕事に熱中してしまう、負けず嫌いな生き物なんだ。常にお金を稼ぐことが頭の中にあって、となりの人の行動を気にしてしまうのさ」
「大の問題は、少しでも暇な時間が出来ると、"音楽をつくらなきゃ、全然音楽をつくっていないじゃないか!時間があるうちにやらなくちゃ"って思ってしまうこと。休みの日や、時間がある時なんかは、映画を観たり、本を読んだり、ただボーッとするべきなんだ。何もしないでただ座っていることも、仕事をすることと同じくらい大事なんだよね」
BBC Radio 1 の Essential Selection において、長年ホストを務めていることから見ても、ダンス・カルチャーにおいて最も影響力のある DJ の一人であると言える彼には、事実上、全く"暇な時間" など無いはずだが、最近では、このように世界中を飛び回るスターの生活がもたらす落とし穴 - 周りに集ってくる取り巻きや、関連のトラブルに対する対処は、以前より楽になったと話す。
「DJとしては珍しいことだけど、以前より全然楽になったね。ああいう連中とはいい関係を持つことが大事なのさ。そうすることによって、自然と障害を避けることが出来る。僕の彼女はかなりタフでね。彼女がいるおかげで、何とか僕も自分の時間をつくることが出来るというわけさ」
インタビューの中で、最近 スーパー・モデルの Kate Moss が巻き込まれたトラブル (そして最近では Boy George も) などについて語った彼は、Moss の追い込まれた状況に対して同情する考えをみせた。
「ああいう風に人が陥れられるのを見るのは辛いよね。実際に彼女が起こした問題よりショックだよ。でも、もし彼女に問題があって、記事に書かれていることすべてが本当なら、彼女は問題を対処しようとトライしてるってことなんだから、応援するしかないと思うんだ。彼女が今までに受けてきたまるで "魔女狩り" の様な仕打ちには、かなり信じ難いものがあるよ」
「もちろんスーパー・モデルも世界中を旅するだろうけど、彼らはグループで旅をするよね。それって、普通はみんな一緒に旅をするっていう一つの例だと思うんだ」
「その点、DJって少し孤独な職業なのさ。たくさん旅をして、何もする気力がなくなるくらい疲れ果ててしまう。毎日パーティーしながら、僕のようなスケジュールをこなすなんて、不可能だよ。まだ20代なら出来るかもしれないけど、45歳ではとても無理。そうは言っても、どんな職業にも問題はあるから、言い始めたら限がないけどね」
このようなライフ・スタイルはともかくとして、彼の人生において一番の焦点はやはり音楽だと語る彼。そして今回のインタビューでは、次なる大きな企画である、コンピレーション・アルバム "Essential Selection" について話してくれた。最近リリースされた Trustthedj.com 、Fashion TV のコンピレーションCDをはじめ、過去に何枚ものコンピレーションを手掛けてきた彼だが、今回リリースとなるコンピレーションは、Universal からのリリースであり、これは彼が2001年に Warners / AOL を離れてから初となるメジャー・レーベル・リリースとなる。
「ダンス・ミュージックに飽きて、クラブに行かなくなってしまったという人には、特にチェックしてもらいたいアルバムだね。だから今回 Universal からリリースすることにしたのさ。大きい、影響力のあるレコード会社とまた一緒に仕事をしてみたかったんだ」
「メジャー・レーベルなら、こんなにレコード・ビジネスが厳しい時代でも、スムーズにトラックをゲットして、マーケットして、広く流通することが出来るし、彼らは I Tunes みたいなデジタル・ダウンロードの流通にも精通しているからね」
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以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)
Skrufff (Jonty Skrufff) : こういったコンピレーションを制作される際、通常100以上、もしくは1,000以上のトラックからトラックを選ばれている訳ですよね?どうやって選ばれているのですか?
Pete Tong : 90年代にミックスCDのコンピレーション・ワークを始めて、 Cream や Ministry (Of Sounds) のコンピレーションをつくっていた時は、かなりシンプルな方法でやってたよ。基本的に、例えトラックがビッグ・ヒットじゃなくても、その日聴いて気に入ったトラックを選ぶって感じだったな。他にあまりコンピレーションをつくっている人がいなかったから、そういうやり方でも良かったんだ。
でも、90年代後半になって、TVコマーシャルのヒット・チューンのコンピレーションをやるようになると、あまり満足を感じることが出来なくなって、行き詰ってしまった。その理由は、その時リリースしていた作品のほとんどが、人々がラジオで聴くようなトラックばかり入った、僕の趣味が反映されたものだったから。クラブのDJ としての僕を反映したCDはすごく少なかったんだ。
今回のコンピレーションは、そういった初期の Cream や Ministry (Of Sounds)のコンピレーションと似ているかもね。自分のレコード・ボックスの中からレコードをチョイスして、楽しめて、それでいて同時に新発見出来るようなまとめ方をしてみた。でも、あまり分かりやす過ぎるものにはしたくなかったんだよね。M.A.N.D.Y や Hans Peter Lindstromm、Trentmoller 、Bob Sinclairといった一般のリスナーには比較的新しいアーティストを紹介したかったんだ。それが今回トライしたことかな。
Skrufff : 今日のコンピーレーションCD市場についてどのような意見を持っていらっしゃいますか?
Pete Tong : 最近、ものすごい数のコンピレーション・アルバムがリリースされてるよね。アンダーグラウンドなものも含めて、その中にはもちろん素晴らしい作品もあると思うよ。だけど、僕がリサーチしたところによると、その中のほとんどが6ヶ月〜1年かけて5,000枚〜10,000枚っていうセールスしか 上げていないんだ。世界規模でね。
プロモーションの面で言うと、クラブやホテル、それにDJにとってすごくいい宣伝になると思うんだ。ただ、ビジネスの面では、あまりいい結果を上げているとは言えないよね。僕が今回このコンピレーションをつくろうと思ったのは、今こそビッグな作品をリリースする時だと思ったからなんだ。Carl Cox がリリースして、大ヒットになった "F..A.C.T" っていうミックスCDみたいな感じかな。あのアルバムには、ほとんどと言っていいほどヒット・トラックは入っていなかった。ただ、彼にとってのヒット・トラックがコンパイルされてたんだね。そしてそれを耳のいいオーディエンスが発見したんだ。初期の Rennaissance のミックスCDもそんな感じだったね。
Skrufff : 今日のミニマル音楽ブームについてはどう思われますか?
Pete Tong : すごく気に入ってるよ。ただ、レッテルを貼りつけてしまって、ミニマル限定って感じにはしたくないんだ。ただ、明らかに DC 10 や Cocoon が最初に開拓した音楽は、さらに有名になってきてるよね。ああいう風に広めていくのがベストだと思うし、一番影響もある。Nag Nag Nag や Erol Alkan、Soulwax や Too Many Dj's みたいな NY パンク・ロック・タイプや、'80s っぽい Liquid Liquid タイプ のシーンももちろんまだ存在してる。そういった音楽はいつでもベルリンの音楽の影響を受けてきたし、その逆も言えると思うんだ。だけど、これから僕たちが耳にしていく音楽は、そういったものとは全く違うレベルにあるのさ。以前よりもう少し意味が深いというか、ハウス・ミュージックの原点とテクノの原点を融合したような音楽なんだ。
ミニマル・レコードと呼ばれる音楽について最も面白い2つの点は、まず素晴らしい音が入ってるということ。そして、すごくリラックス出来る音楽であるということ。だから人々の耳にスッと入っていって、心地よく響くんだ。バンギングでハードな音楽で踊らせるのではなくてね。'Body Language' はその典型的な例だよ。間違いなくこの夏僕が一番聴いていたアルバムだし、今シーズンにイビザで発見した一番の宝物だったね。ビッグ・ヒットって訳ではないけど、重要なアルバムだよ。絶対に飽きないし、誰にも嫌われない。一方で 'Pump Up The Jam' みたいなレコードは、気取ってないし、スタートからグッと引き寄せられる感じはすごく良かったけど、すぐ飽きられてしまったよね。
Skrufff : Ableton をはじめとする今日のテクノロジー改革について、どう思われますか?
Pete Tong : すごく重要だと思うし、エキサイティングな展開だと思うよ。Ableton は、Logic が始めてシーンに登場して来た時と同じくらい、ダンス・ミュージックにとって重要な意味を持つと思うし、かなり素晴らしいプログラムだよ。あとはそれを人々がどう使うかだよね。ギターみたいなものさ。要するに、弾き方は知らなくちゃいけないってこと。ミックスという点では機械に任せることが出来るけど、それでもいいセットになるとは限らない。DJとしての技術 、シーケンス…いつ次のトラックをミックスするか、どのくらい前のトラックを残しておくかは、例え Ableton を使っていても、すごく大事な部分だよね。
Ableton は旅をする点でもすごく便利だし、世界中のアーティストの音楽に同時にアクセスしたり、自分のレコード・コレクションも全部取り入れることが出来て、世界中のどこからもサーバーを通してアクセスできる上に、バックアップも出来る。全てにおいて素晴らしいよ。僕は、スタジオやターンテーブルの隣にアナログが山積みになったオフィスに缶詰めになっている時間より、世界中を飛び回っているほうが多いから、すごく忙しいんだ。だけど、Ableton のおかげで、今は旅をしながら仕事が出来る。旅をしながらいろんなアーティストの音楽を聴いて、それを繋げられるなんて驚きだよ。だから、ミックスを構成できるというのが、僕が Ableton を使う最大の理由かな。
Radio1のショーでもAbleton を使っているよ。ただ単にミックスをするためだけではなくて、ショーをさらにエキサイティングに、スムーズにするためにね。一般な使われ方よりも、ビートをマッチさせるというのが、僕たちが Ableton をショーに使う一番の理由と言えるかもしれないね。それに、僕にとっても、どこかのスタジオにこもって機材に囲まれてショーをつくるより、自分のラップトップで出来てしまうというのが大きいね。
Skrufff : 今でも DJするときは アナログを使っていますか?
Pete Tong : そうだね、特に今はドイツのアーティストがすごくいい作品をたくさんリリースしていて、そういうトラックはCDで見つけるのが難しいんだ。実際、Sven Vath やTanya Vulcano みたいなDJにしても、あまりCDではプレイしないよね。Sven Vathのプレイにはいつも惹きつけられてしまうんだ。自分がどんなにいろんなレコードを聴いてきたと思っても、彼がプレイする2時間のセットの中では、自分が見たことも聴いたこともないようなトラックがたくさんプレイされる。そして、そういうトラックは大抵古いレコードだったりするんだ。素晴らしいと思うよ。ファンタスティックだね。そういうことがシーンを前進させていくんだろうね。
Skrufff : Armin Van Buuren が Mixmag の最新号で、「スーパー・スターDJに必要なのは、個性と支持者である」と話していましたが、あなたはこのようなDJのセレブ化についてどのような意見を持っていらっしゃいますか?
Pete Tong : このシーンに長くいて良かったことの一つは、物事の盛衰を見ることが出来たということ。少し前まで世界一の人気者だった人が、次の瞬間には下降してしまう。もちろん、それで彼らのキャリアが終わってしまうって訳ではないけど、人々がそれにどう対処していくのかを見るのはすごく興味深いよ。Oakey やCarl Cox 、Sasha みたいなDJは全員こういう経験をしてきたんだ。Judge Jules だってそうさ。彼が白い馬に乗って、Migmag の表紙になった時なんか、まるで彼がシーンを制覇してしまうかのように見えたよね。Tiesto だって同じさ。
でも、なぜ 今Carl Cox が今まで以上にパワフルに活動して、成功しているのかと言うと、彼の仕事に対する熱意がものすごいからなんだ。彼は彼自身を再発見して、Space でのレジテントをはじめ、世界中をDJして駆け回っている。今の Carl は、僕が初めて彼に出会った時…南ロンドンやブライトンをサウンド・システムを持って駆け回っていた時の 彼と同じくらい熱意に溢れているんだ。何よりも一番大事なのは、仕事に対する姿勢と情熱じゃないかな。トップにいる人間はいつでも非難の対象になるんだ。たいていの人が、上にいる人間の足を引っ張ろうとするからね。ただ、何か飛びぬけたものがない限り、簡単にナンバー1にはなれないんだ。DJとして成功するためには、ミックス・スキルが大事で、それはDJとして当たり前だと言われてきたけど、Sasha よりミックス・スキルが劣ってるから、成功できないってわけじゃないだろう?
カリスマ性があるか、いいパーティーをオーガナイズしているか、センスがいいか…スキルのほかにも、一人のDJが有名になるにはいろんな要素が考えられるよ。DJとして、ミックスが出来ることはもちろんだけど、人と比べてミックスが下手だからって、成功しないって訳じゃない。まず、なぜその人が有名なのかってことを考えないで、他人の悪い部分にばかり気をとられてると、いつか足元をすくわれるよ。ナンバー1になるには、それなりの理由があるんだから、彼らをリスペクトするべきだよ。だからブレイクして、有名になって、それから完璧にシーンから消えてしまったって人はあまりいないよね。
Skrufff : 2003年に Sunday Times で発表された長者番付500人の中にランクインされていましたが、彼らの推測によると、あなたが大きいイベントでプレイする際に、30秒ごとに300ポンド (日本円で約6万円) 稼いでいるということでしたが、正しいですか?
Pete Tong : 正しくないよ。
Skrufff : DJに払われる膨大なギャラの価格は最近になって変化してきましたか?
Pete Tong : 確実に変化したね。ただ、バブルだった 90年代後半でも、本当に膨大な価格のギャラは、ごく一部のDJにしか払われなかったと思うよ。僕は除いた他のDJね。もしかすると、Chemical Brothers や Basement Jaxx みたいなバンドは今でもそのくらい稼いでるのかもしれないけど。ただ、やっぱり一番多くギャラをもらってるのは Tiesto なんじゃないかな。彼は今だにナンバー1だからね。
ギャラに対して、僕はいつも「多く貰えるなら嬉しい」って感じだけど、優先しなくちゃいけないこともあるよね。だから、通常プレイする時は、ただ高いギャラを貰えるからって理由でクラブを選んだりはしないよ。その国で一番注目されてる、ホットなクラブでプレイしたいんだ。そういうクラブではプレイ出来ない時もあるかもしれないし、オファーが来ないかもしれない。でも、とにかくそれがいつも僕が考えることなんだ。それに、ホットなクラブは、必ずしも高いギャラを払ってくれるって訳じゃないよね。
End of the interview
Pete Tong の 'Essential Selection' は Universal Records から発売中
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リリース情報 : Pete Tong / Pure Pacha 2005 (2005/08/22)
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