HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Pete Heller


伝説的なハウス・デュオ Farley & Heller の片割れである、アシッド・ハウス・プロデューサー Pete Heller 。Farley & Heller をはじめ、過去に多くのアーティストとコラボレーションしてきた彼が、新しくラウンチするレーベル Phela Recordings で、コラボレーション路線を打ち出してきたのも、意外とは言えないだろう。レーベルからは、Faithless の Sister Bliss 、また X Press 2 の Rocky、Darren Priceなどをフィーチャーしたトラックが連続してリリースされる予定であり、ファースト・リリースとなる Darren Price とのコラボレート作品 'Amerika' は、George Bush をターゲットにした政治的テーマを匂わせるトラックである。しかし Pete によると、「必ずしも政治的な部分を象徴したものではない」とのこと。

「トラックの中で政治的な雰囲気を演出しているあのサンプルは、実はそこまで政治的ではなくてね。これはある人がオーディエンスを叱りつけている演説の中から取ったものなんだ。昨年 Darren はこのサンプルをアカペラで使ってたよ」

「本当はアメリカの総選挙に合わせてリリースしたかったんだけど、間に合わなかったんだ。レーベルから作品をリリース出来るようにする準備にすごく時間がかかってね、トラックのリリースも遅れてしまったのさ」

政治的な活動に関しては、かなり活動的だった学生の頃に比べたら、少し大人しくなってしまったかもしれない。確かに、以前の活動が後を引いてるだけなのかもしれないけど、政治に関心があることには変わりがないし、そういったメッセージを少しでも音楽に取り入れていくことは続けたいと思うんだ。

'80年代にマンチェスター大学で学んだ後、アシッド・ハウス・ブームの直前にロンドンに戻り、Busbys に場所を移したDanny Rampling の伝説的なイベント Shoom のレジデントDJとして活躍すると共に、Junior Boys Own の売れっ子プロデューサーの一人としてその名を上げていった Pete Heller 。イギリスのバンド Farm のスマッシュ・ヒット 'Altogether Now' をプロデュースし、オーバー・グラウンドでも商業的な成功を果たした彼は、続けて '90年代のイビザ・アンセム 'Ultra Flava' 、' Big Love' などをプロデュースしクラブ・シーンでも名声を得た。また、リミキサーとしても、今もなおトップ・クラスであり続ける彼、最近では New Order や Underworld の楽曲のリミックスを彼の Kentish Town studio から世に送り出したばかりである。

そんな彼に今回は 'Amerika' に焦点を当ててインタビューを行った。

以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)

Skrufff (Jonty Skrufff) : このように政治的テーマのある作品をリリースするのは珍しいですね。代表作 'Big Love' とは正反対のトラックのように感じられるのですが…

Pete Heller : 必ずしもダンス・ミュージックを政治的活動を行ったりやメッセージを伝えるのに適したフォーラムだと思っていないんだ。ただ、もちろんそれを通して何かを伝えることは可能だし、実際に Faithless の Sister Bliss とMaxi Jazz といったアーティストは音楽を通じて彼らの意図を伝えているしね。ただ、それってかなり難しいことだと思うんだ。ダンス・ミュージックは基本的に快楽主義の精神から成り立っているからね。そこにメッセージを伝えようったって思うようにはいかないのさ。

Skrufff : 頻繁にアメリカを訪れられているのですか?以前と比べて今のニューヨークをどう思われますか?

Pete Heller : アメリカには行っているよ、僕の姉が住んでるから結構頻繁にね。全体的に今の世の中の動きとして、都市のほとんどがお金を持っている人しか住めないような場所になって来ていると思うんだけど、僕にしてみればニューヨークもその一部だという感じ。マンハッタンもそうだし、ロンドンもそう。規制がなくて、まだ人々が楽しめる場所があるっていう部分で、ロンドンの方が少しはマシなのかもしれないけど、そういう意味でニューヨークは完璧に馬鹿げてると言えるだろうね。ほとんどのクラブが深刻なドラッグ問題で頭を悩ませているわけだけど、僕にしてみれば、それは Bush の右翼的政治が及ぼした影響が、文化にまで浸透してしまった結果だと思うんだ。Bloomberg や Giuliani のように企業がバックについた市長が出てくると、必ずその企業の意図が表面に表れてくるものなのさ。

最近のアメリカはすべてのことにおいて企業的になって来ていているし、傾向として、クラブやパーティーで楽しむ人々より、静かな隣人を周囲に持つことを好む人が増えて来ているんだ。ニューヨークは以前まで快楽主義者の集まるクレイジーな場所として知られていて、それがアーティストやとんがった人々、自分を表現したい人々を惹きつけていたのに、今のニューヨークにはそういった人々のためのスペースがないんだ。すごく高いから、住めないのさ。

Skrufff : 新しいレーベルでは、コラボレーション作品を中心にリリースされていくようですね。今後リリースされていくX Press 2 のRocky やSister Bliss をフィーチャーした作品は、すでに完成しているのでしょうか?

Pete Heller : いいや、今ちょうど制作してるところだよ。Rocky とは一曲作り終えたところなんだけど、もう数曲計画してるんだ。最近では、Victor Calderone とも曲を作ってるし、Scarlet Etienneっていう女性アーティストとも一緒に仕事してる。好きなアーティストと一緒に仕事をすることがそもそものアイデアでね。そういったアーティストに大きくてバカ高い ケンティッシュ・タウンにあるスタジオに来てもらって、数日間一緒にトラックを作るんだけど、僕にとってはいい変化だよ。常に隠者のようにスタジオにこもって仕事をしてるからね。

Skrufff : ご自分でエンジニア業も手掛けられるんですか?

Pete Heller : するよ。あまりやりたくはないんだけど、自分でやったほうが安いから。

Skrufff : 「ソフトウェアの発達したせいで、スタジオの機材やシンセサイザーが廃れてしまった」という記事を最近読んだのですが…

Pete Heller : 正しい部分もあるね。僕のスタジオには古いアナログ・キーボードがたくさん揃ってはいるけど、近年になって様々なソフトウェアが発達してきて、いろいろなことが変わり始めたね。以前までソフトウェア・シンセなんて全然信用してなかったし、嫌いだったんだけど、最近実際に使ってみて、かなり使えるってことに気付いてね。通常のシンセと同じようなことをしてくれるんだけど、仕上がりが格段にいいんだ。しかも、通常のシンセでは出来ないようなことも、たくさん出来るしね。Native Instrument の Reactor なんて、本当に素晴しいソフトウェアだと思うよ。

Skrufff : テクノロジーが進化すると、曲作りはしやすくなるものなのでしょうか?

Pete Heller : そういうものでもないと思うよ。音をクリエイトすることと、人々に興味を持たせて、感動させることの出来るような音楽を作ることが出来るかは、まったく別の問題だよ。素晴しい機材を揃えることももちろんだけど、それをどう使うかも重要なのさ。Trentemoller みたいなアーティストなら、そういったソフトウェアを使おうが、アナログなシンセを使おうが、いいトラックが作れるはずなんだ。それは彼らが優れたアーティストだからさ。

Skrufff : 近年のミニマル〜エレクトロ・ハウス旋風については、どのような意見をお持ちですか?

Pete Heller : 面白いと思うし、そこにもソフトウェアの発達が大きく関わってると思う。テクノロジーの面では、昔からダンス・ミュージックは常にカッティング・エッジなものだった。'80〜'90年代頃を考えれば、誰よりも早くニュー・テクノロジーを取り入れるのはダンス系ミュージシャンだったんだ。サンプラーがそうだったようにね。最近のシーンでも、新しくて興味深い音楽を作っている人は、常に新しいテクノロジーを取り入れて、一味違った音を作ろうと努力していると思う。ミニマル・ブームもそれと同じで、ベルリンが今の音楽シーンの中心にあるのは、そこに多くのソフトウェア会社があるからさ。ベルリンのプロデューサーたちは、そういった企業からもらったソフトウェアを使って作業してるんだ。

Skrufff : ベルリンにはよく行かれるのですか?

Pete Heller : いいや。だけど、また行きたいとは思うよ。ベルリンからはいい音楽がたくさん出て来てるからね。彼らのおかげで、ダンス・ミュージック全体のテンポが、昔のみたいに遅くなってきているから素晴しいと思うんだ。最近チューリッヒのクラブで回したんだけど、そこで若いDJがいい感じのグルーヴィーなエレクトロをプレイしていてね。シカゴ・ハウスが始めて出てきた時のことを思い出したよ。テンポ遅めの、ディープで、グルーヴィーなエレクトロニック・ミュージックだったな。bpm は 124 / 125 くらいで、観客もすごくエンジョイしてたよ。

Skrufff : 海外でも頻繁にDJなさっていますが、DJ業とプロデューサー業のどちらに重点を置かれているのですか?

Pete Heller : 仕事の依頼が来たものを受けるって感じかな。プロダクションの話があればそれに重点を置く。例えば今は3つのリミックスを手掛けててね、その中には Underworld の楽曲も含まれてるんだ。

End of the interview

'Amerika' は Phela Records から発売中


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