HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Pathaan

「いや、なんてバカな質問をするんだい?あの時僕は自分の意見を伝えたかった。それは世界を変えられると思ったからじゃない。ただ音楽で、911に対する自分の気持ちを伝えたかったんだ。」

7年前の Skrufff とのインタビューで彼の "Stoned Asia Music Presents World Peace" というコンピレーションについて語った時、ロンドン出身のアーティスト・DJ Pathaan はこのように語っていた。

「音楽が世界を変えたり、人に影響を与えることは可能だと思うかって?もちろん思うよ。」

しかし、今彼にそのコンピレーションのタイトルが何か世界に変化を与えたかを訪ねると、あきれたような返事が帰って来た。

「僕があのタイトルでCDをリリースしたのは、実は911の前に数年間、マンスリーでニューヨーク市に自分の家を持ってたんだけど、911以降ビザを取得するのにたくさんの問題に直面したからなんだ。あまり詳しくは話すつもりはないけど、それ以来アメリカに戻る事はなかったよ。けど、今は Obama が大統領だし、もしかしたら戻るかも。僕にとってあのタイトルはそんなに大きな問題じゃなかった。でも流通の会社はあのタイトルが政治的に問題があると思ったらしく、僕に反対してきたんだ。バカだよね。」

7年後の今も Pathaan は世界のオルタナティブ・エレクトロのシーンで先駆者として君臨し続けている。UKのBBCでは毎週 "Pathaan’s Musical Rickshaw" を放送し、最近では "Nomads 7" と "globetronica 11" という2つのコンピレーションをリリースしたばかりだ。Skrufff は以前、彼を 『Chill-Out 界の最も怒りっぽい男』と呼んでいたが、今では少し冷静(Chilled out)になったようだ。

「いや、あの頃別に怒っていたわけじゃないよ。ただ大きなクラブや有名なDJばかりが注目されすぎて、他の人たちが全く注目されないのにムカついてただけなんだ。だから僕はただ誰にもスペースを与えないようなあのクラブ界の輪にコメントしてただけなんだよ。」

ただ、彼は自分の怒りを完全にコントロールできるようになったわけではないらしく、このようにも語っている。

「最後にキレちゃったのはいつかって?結構最近だね。そして、今でもその事を考えると怒りを覚えるよ。イギリスの大統領の Gordon Brown が (シンガー・オーディション番組 "Britain's Got Talent" 出場者の) Susan Boyle の容態を知るために電話をしたというのを公表した時は本当に腹が立ったね。一体あれは何だったんだ?」

Interview & Introduction : Jonty Skrufff (Skrufff.com)
Translation : Shogo Yuzen

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Skrufff : 君の音楽についてを話したいんだけど、今回のコンピレーションの "Globetronica II" について、プレスリリースで「Pathaan は(このコンピレーションで)自らのサウンドを改造することを目的としてる。」って書かれてるよね?なんで変化が必要だと思ったの?

Pathaan : いや、それは言い回しがちょっと変わっただけだよ。僕が自分の音を改造するなんて、車のハンドルを再度発明しようとしてるのと同じだよ。多分プレスリリースが言いたかったのは、僕のサウンドは常に進化し続けているってことだと思うよ。そして、音楽的に言えば "Globetronica II" と "Nomads 7" の両方で新たにサウンドに加えた層や質感はあると思うよ。

Skrufff : さらに君は "Outer-nationalist"(『国外人』)って言葉をプレスリリースで使っているよね?何故その言葉を使ったの?メディアではその言葉はどういう意味を持つのかな?

Pathaan : 僕は自分の音楽を "World Music" って呼びたいんだけど、その言葉はもう時代遅れになってるし、一定の年齢の人間しか惹き付けない言葉になってるよね。だから、"Outernational"(『国外的』)っていう言葉遊びは僕の世界中の音を混ぜ合わせた音楽を表現するにはぴったりだと思ったんだ。僕の音楽には隔ても無ければ、特定のジャンルも無いからね。多分、バレアリックと同じような意味を持つ言葉だと思うよ。

-- じゃあ、最近よく使われる『チルアウト』っていう言葉についてはどう思ってる?

Pathaan : 商業的な企業が創造性に欠ける音楽で市場を溢れ返らせてから、2000年代前半の全盛期に比べるとチルアウトは廃れてしまったと思うね。でも個人的には別に チルアウトっていう言葉を使うのを避けようとは思ってないよ?でも音楽的には僕のテイストや方向性は常に変化してるけどね。今でもイビサやその他のリゾート地で、昨年の夏に Cafe Mambo でプレイしたような夕暮れに合う音楽をプレイするのは好きだけどね。

Skrufff : 世の中にチルアウトのシーンはどれくらい残ってると思う?

Pathaan : 僕の知る限りではチルアウトのシーンはクラブには存在していないし、存在したこともないと思う。神話にすぎないんだよ。プロモーター達があたかもシーンがあるように話をしただろうけど、実際には彼らは嘘を付いていただけだからね。

Skrufff : Globetronica や Liquid Sound 以外にも君は伝説的なサイケトランスのレーベル、Dragonfly を運営してるよね?こういった活動と、ゴアからの影響はどれくらい関係があったのかな?

Pathaan : ゴアのトランスは好きだったし、四角形にステップを踏むダンスも好きだった。僕も実はそういう音楽の方が得意だったりするよ。旅行者やヒッピー、そして、パーティー好きな人間が80年代にゴアを乗っ取ったつもりになってシーンを変えてしまったと思うんだ。だけど、時間は全てを癒してくれるから、たくさんの場所はもう健全になったと思うよ。

Skrufff : ゴアやインドでパフォーマンスをすることはあった?

Pathaan : うん。何度かインドではプレイしたことあるね。最近では去年の Big Chill でプレイしたのが最後かな?他にも Youth/Big Life Management の為に Dragonfly と Liquid Sound のディレクターをしてるから、トランスとの繋がりがあるんだ。僕が思うに、インドは僕の音楽性に影響を与えた部分があるんじゃないかな?僕の母親はパンジャビ出身だったし、国が分裂する前に彼女はパキスタンの北西の国境に移り住んだんだ。そこで僕の父親に出会ったし、僕の名前の Pathaan の由来もそこから来てるんだ。僕の中でインドは特別なものだね。僕はインドの人間も、混乱状態も、平穏さも、食べ物も、匂いも、音楽も引っ括めて全部が好きなんだ。

Pathaan

Skrufff : 90年代の Bowie (David Bowie) とのツアーでは君は15,000人の観客に向けてプレイしてたよね?それで調子に乗ってしまうことは無かったのかな?

Pathaan : そうだね。10年以上つき合ってる彼女がいるから大丈夫かな?それに僕の中のヒッピー性っていうのも天狗になってしまうのを防いでくれたと思う。結局最後には僕たちは同じ花から生まれた花びらに過ぎないんだよ。

Skrufff : 今でも Bowie と連絡は取ってるの?

Pathaan : 連絡を取りたいんだけど、1998年のクリスマス、僕たちのツアーの翌年から連絡は取ってないね。彼と彼の家族が健康で暮らしていることを願うよ。

Skrufff : Danny Rampling と腕を組み合って撮っている写真を見たんだけど、将来的に爆発的な成功をおさめたスーパースターDJになりたいと思ってるのかな?

Pathaan : またおかしな質問をするんだね!僕は今の自分の状況に満足しているし、ここまで来るのに過去年々も努力をしてきたんだ。僕の音楽を通して、世界中のビーチ、ラウンジ、ダンスフロアと場所を問わずに人々に喜びを届けてきた。それにプロデュースもやって、二つのレーベルも運営してる。BBCにも "Pathaan's Musical Rickshaw"っていう番組も持ってるし、自分の人生が音楽で満たされているから、本当にこれが完成系だと思うよ。それが無ければ僕は人生で大事な部分を失うことになる。

一昨年に父親が亡くなった時も音楽が僕を支えてくれたんだ。僕がまだワイルドでパーティー大好きな少年だった頃に Danny Rampling は僕の音楽性に大きな影響をもたらしたことは確かだね。当時、Pure Sexy や Glam で遊んでいるアジア人は僕以外にあまりいなかったし、その頃から彼と付き合いがあるのはすごく良い事だと思うよ。

Skrufff : Rampling は復活する前に一度引退しているよね。君がもう定職に付こうと思った事や引退を考えたことはあるのかな?

Pathaan : 音楽が僕の定職であり、愛であり、情熱なんだ。頼むからおかしな質問はやめてくれよ!

Skrufff : 最近では自分の仲間は誰だと思いますか?そして、それは何故ですか?

Pathaan : う〜ん、面白い質問だね。僕が今まで気付かなかったような音楽を教えてくれる人はみんな仲間だと思ってるよ。だから Charlie Gillet や Gilles Peterson, レーベルだと Essay Recordings, それにブログや Twitter をやってる人たちの大勢が仲間だと思ってるよ。

Skrufff : 先日、Laurent Garnier が『UKのリスナー達は音楽に対して頭でっかちになってしまって、他の土地に比べてもう実験的な音楽を受け付けない国になった』って言っていたけど、君はこの意見についてどう思う?

Pathaan : Laurent Garnier の意見は的を得てると思うけど、あの意見は彼がブッキングされたギグにしか当てはまらないんじゃないかな。彼が自分のお店をロンドンに開けば、敏感な人はすぐにそこに集まると思うよ。たくさんのバーやクラブが金のために自分達の音楽の方針を変えてしまって、その結果ロンドンが変わってしまったのは事実だと思うよ。例えば週末にショアディッチの辺りでやっているパーティーを見てみれば、それはわかると思う。だけど、今でも実験的なことが行われる余地はまだ残っていると思うよ。

それでもロンドンは世界で最も実験的な街、っていう肩書きはもう語れないだろうね。だから白、黒はっきり決められるような問題じゃないんだ。この状況を招いたのには様々な要因があるんだよ。でもそれを全部話してたら長くなるな…

Skrufff : いや、続けてください。

Pathaan : もっとも大きな理由の一つが、ロンドンが物価の高い街であることだろうね。創造的な人間は創造的でなければならない。だから、自分の生活や食っていけるかっていうことを常に気にしているようではいけないんだ。もちろんそれはどこにいたって生活を送っている限りは避けられないことなんだけど、ロンドンではそれが異常な状態になってしまってる。多くの人にとって支出があまりに多くなり過ぎてしまってるんだよ。今でもたくさんの創造的な人がその中でなんとか耐えていると思うけど、それに耐えられない人間は精力的で創造性のあるシーンを求めてベルリンに引っ越してしまった。もちろんロンドンが一周回って以前の姿を取り戻すことはあるだろうけど、しばらくはないだろうね。

賢人が昔にこう言ったんだ。「時代は常に繰り返す。また良い時代が早く来る事を祈るしかできない。」ってね。だけど、僕がどれだけ耐えられるかはわからないよ。」

End of the interview


Pathaan の新たなコンピレーション、"NOMADS 7" と "GLOBETRONICA II" は好評発売中。
彼のBBCの番組 "PATHAAN’S MUSICAL RICKSHAW" は毎週日曜日、午前2時から午前4時までオンエア中。



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