HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Nitzer Ebb Interview


「これが特にアメリカ流なのかどうかは分からないけど、ここの多くのバンドやバンド・メンバーたちは、自己イメージに執着しているような気がするな。一方、言いたいことがあって、それをユニークな方法で表現していたという意味でも、僕らにはもっとやる気があったと思うんだ。僕たちの音楽は人々に聴いてもらうに値すると思っていたし、いろいろな意味で僕たちの音楽は反動的だった。当時回りにあったほとんどの物事を嫌っていたんだ。そういうことが刺激となって自分たちのスタイルを生み出すことが出来たんだろうね」

ロスの事務所からこのように語る Bon Harris は、過去に Smashing Pumpkins の Billy Corgan やゴス〜ロック・スターの Marilyn Manson のアルバムをプロデュースするなど、成功を語るのに申し分ない経歴を持っている人物だ。しかし、本当に彼の発言に重要性があるのは、彼が元祖エレクトロ・バンド Nitzer Ebb のメンバーだからであろう。

「Nitzer Ebb は自分たちの宣伝や栄光のためではなく、ただ音を聴いてもらいたい一心で続けていたんだ。バンドを始めたばかりのころは未来への期待や不安で夜も眠れなかったくらいさ。初期の頃はやる気に溢れてたね」

Bon がこのように昔の話を語っているのは、彼らのベスト・アルバム “Body Of Work”、そして ’04年に「もう二度と同じステージには立たない」と決別したかつてのバンド・メイト Douglas McCarthy と行った再結成ツアーを宣伝するためである。Douglas によって語られた話によると、度重なる喧嘩で次第に張り詰めていく緊張感の中、’95年、ニューヨークのホテル・ルームで二人は身を切るような仲たがいを経験したという。

「ヨーロッパ・ツアーの間、僕を含む北半球のすべての人々が、僕がどれほど酷い奴なのかを激しく議論したんだ」2年前のインタビューで彼はこのように語った。「Bon と僕が再結成するなんて、死んでもないだろうね。少なくとも僕が地獄に落ちるまでは」このような Douglas のセンチメンタルな言葉は、Bonの言葉によって反響された。

「“Never - 決して”ってものすごく強い言葉だと思うんだ。かなりの可能性であり得ないよ。少なくとも僕にはね」Douglas の発言とほぼ同時期に、再結成についての質問を受けた Bon はそう語っていた。それから2年後、彼はなぜ考えを変えたのかを喜んで説明した。

「当時、あの状況を考えれば正しいコメントだったんじゃないかな。前回 Nitzer Ebb の活動を停止した時は、かなり難しい時期だったからね。僕らはバンドとしてかなりの時間を一緒に過ごしてきたし、その時間もすごく濃いものだった。だから僕たちが強烈な分かれ方をしたのも、お互いにものすごく頑固になってしまったのも理解できるんだ。長い間二人組の片割れという見られ方をしていると、自分ひとりの存在として確立したいという願望が出てくるんだろうね。バンドのアイデンティティに自分を食い付かれてしまうのさ。その頃の状況を考えると、僕たち自身それぞれが満足するまでバンドには戻りたくないと言う意味だったんだ」Bon はこう言う。

「それから Doug は彼なりの方向へ進んだんだ。大学に戻って、グラフィックに夢中になって、それで今は映画の制作をしたり、Terence Fixmer と一緒に音楽をつくったりして、音楽的なことも楽しんでる。僕は僕で、自分のバンド Maven の活動をしたり、Marilyn Manson や Billy Corgan (Smashing Pumpkins) のプロダクションに関わったりしていたんだ。だから、お互い別々に楽しむ時間は十分にあったというわけさ。それに、音楽の流行には10年のサイクルがあって、以前インダストリアル・ミュージックが流行ったのはちょうど10年前だったというわけさ」

「数年前から少しずつ試験的に仲直りを始めてね。2年前には、すごく慎重に、相手を尊敬するような方法で話もし始めていた。そうしたら Mute が今回の ”Body OF Work” の話を持ってきたんだ。それからはすべてが強力な力によって動かされてるような感じだったよ。だから一緒にライヴする話が来たときは、『もちろんさ』って感じだったよ」



以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)

Skrufff (Jonty Skrufff) : 今後行われていくコンサートについて聞かせてください。どのようにしてプレイする楽曲を決められているのですか?古い楽曲をアレンジされたりしますか?

Nitzer Ebb (Bon) : その件については、Doug ともしっかり話し合っていてね。随分と長い間一緒にプレイしていないし、会場には僕たちのギグを今までに一度も観たことがないような若い人たちもいるんだ。だから、僕らの原点に戻るべきだと思っていてね。今回のツアーはいろいろな意味で限られているんだ。ほとんどが大きいフェスティヴァルだから、かなり短いショーだと思うし、改めて僕らを紹介する感じのものになると思うしね。初めくらいは古典的な方法でアプローチするのもいいと思うんだ。人々に “Nitzer Ebb 体験”というものが、一体どういうものだったかを知ってもらいたいのさ。ちょうどバンドを始めたばかりの頃のように、基本に戻って、何のギミックも無しにシンプルにプレイするということに関しては、二人の間で本当によく話し合ったよ。

改めて僕たちのレコードを聴き直してみても、最近の音楽と比べてあまり古臭い感じがしないんだよね。僕らのライヴ・ショーの強みの一つとして、シンプルさがあると思うんだ。だからそういったアプローチで、本当にただ忠実な演奏をするつもりだよ。以前、長年楽しみにしていた Bauhaus のショーを観に行ったときに、彼らが僕の大好きな曲をアレンジして演奏したときはがっかりしてしまったからね。

Skrufff : Nitzer Ebb としてまだ果たされていない使命のようなもの、または証明すべきことがあると思われますか?

Nitzer Ebb (Bon) : まだ果たされていない使命みたいなものは確かにあるだろうね。いきなり活動をストップしてしまったし、一般的に見て僕たち二人が違った方向に進みながらも、いまいち達成出来てない感じがあったと思うんだ。確かに、活動停止のあと、ものすごい数の人々から、多くのバンドが僕らにインスパイアされてるって話を聞いたよ。例えば Prodigy とかね。彼らは商業的にも大きな成功を果たすことが出来たわけだけど、これは僕らの目指す頂上が、商業的な成功だったと言っているわけじゃないんだ。ただ、僕らの心の中には、何かが未完全であったことや、果たすべき使命を果たさなかったという感じが常にあったんだ。Doug との決別は急なものでもあったから、今回の再結成は僕たちがお互いをリスペクトしてるってことを示すには一番の機会だと思うんだ。

Skrufff : あなたが Marilyn Manson に会ったのは彼がまだジャーナリストだった頃ですが、彼もまたアーティストとして大きな成功を果たした人物ですね。成功の本質とは何なのでしょうか?無作為なものだと思いますか?

Nitzer Ebb (Bon) : ある程度成功する人には、運の要素が大きく関わっているものだよね。Nitzer Ebb を始めたばかりの頃に遡ってみると、無作為に転がっているチャンスや、正しい場所に正しいタイミングでいることが全てだったよ。昔はそういう感じだったし、今なんてもっとそうなんじゃないかな。最近の音楽ビジネスの状況を考えると、今まで以上にチャンスを掴んだもの勝ちのような感じだよね。成功のパラメーターも狭くなっているし、その報酬期間もどんどん短くなってる。ただ、成功するための基本的な要素は昔も今も同じだと思うんだ。Manson を例に出していうと、彼はすごく尖った個性を持っているし、すごく頑固なんだ。ある意味自己執着と思えるくらいにね。ただ、時としてそういう要素が物を言うのさ。自分のやりたい事や、そのやり方に対する完璧なまでの頑固さがね。それが3人の前でも3千人の前でも、自分のやりたいようにプレイするってことさ。それもまた大事な要素の一つだよね。初めたばかりの頃は何も気にせず、音楽を芸術と考えてのめり込めばいいんだ。そうすれば、人々がそれを気に入るかどうかなんて気にしないしね。音楽に対する情熱があればいいんだ。

Skrufff : 最近ロスの Bondage Ball で DJ されているのを見ましたが、あれはフェティッシュ・パーティーですか?

Nitzer Ebb (Bon) : そうだよ。ここにはああいう感じのパーティーがたくさんあるんだ。フェティッシュ・シーンには Nitzer Ebb のファンがたくさんいて、僕のバンド Maven に出演依頼が来てね。DJ を真剣にやってるわけじゃないんだ。かなりオールド・スクールな感じだしね。立派なミックスもせずにレコードを順番にかけてるだけ。たまにやるのは楽しいよ。僕が音楽に興味を持ち始めた頃に聴いてたような音楽に興味を持ってくれてるんだろうね。でも、お酒を飲みながらレコードを回すのは楽しいよ。

Skrufff : DJ に対して敵意を持った時期はありましたか?

Nitzer Ebb (Bon) : いいや。もちろん初めは (Paul) Okenfold のような DJ が成長させたシーンの盛り上がりようには驚いたさ。何人の人々が彼らを観に来るのか、彼らが払われているギャラがいくらなのかを目の当たりにした時はね。初めはすごく異様なものに思えたよ。でもそれは、彼らがただ単にレコードを回してる奴らだっていう見方をすればの話だと思うんだ。ただ、他の物事と同様に、自分でやってみれば、DJ プレイには芸術的なセンスが大きく関係しているということが分かるし、正当な音楽のかたちであるってことに気付くのさ。僕たちがギグをしたデンマークのフェスティヴァルで、Boy George が DJ してるのを観たんだけど、彼は本当に凄かったよ。ミックスの仕方なんかがね。やっぱり聴く耳をもっていなきゃダメなのさ。素晴しい音楽の才能が必要だし、DJ はライヴ・パフォーマンスなんだ。プレイを台無しにするのもすごく簡単なんだ。素晴しい DJ とあまり上手くない DJ には歴然の差がある。それは僕自身が痛いほど経験したことなんだ。僕は DJ を尊敬してる。素晴しいと思うよ。だって、DJ は20世紀の終わりから21世紀初期にかけて生まれた音楽のかたちで、彼らがアーティストとして見られるようになったのはつい最近なんだ。

Skrufff : あなたと Doug が決別したのは、ニューヨークのホテルで喧嘩した ‘95年でしたが、話を聞いていると、まるで Spinal Tap (架空のバンドを題材にしたコメディ映画)のようですね。Spinal Tap を観ていて、「これって俺たちのことか?」と思うことはありますか?


Nitzer Ebb (Bon) : Spinal Tap 的な瞬間は毎日あったよ。音楽に関わるどんな場所でもね。スタジオやどこでもさ。アホらしすぎて最終的には笑いたくなっちゃうんだけどね。仕事には喧嘩が付きものだし、しょうがない。ピリピリした空気が流れている時に、たった今自分が真剣に発言した言葉がいかにアホだったかに気付いて、噴出しちゃったりするものなんだ。そういうのはかなり Spinal 風だったと思うけどね。ただ、あのホテルのロビーでの喧嘩はそれとは違った。何のユーモアもなかったし、かなり空っぽで惨めな経験だったよ。何よりも早くここから離れたいって気持ちでいっぱいだった。バンドに入って音楽に惹かれていくのは、毎日がお祝い事のようなものだからさ。でも、それが最悪の状態になってしまえば、「こんな気持ちになるなら、銀行で働いた方がマシだ」って思ってしまうよね。

Skrufff : 昔を振り返って、自分のとった行動を後悔することはありますか?

Nitzer Ebb (Bon) : いいや、当時のことは何度も考えたけど、後悔はしてないよ。もちろんよくない事もいくつかあったさ。でも、僕はすべての出来事は理由があって起こるものだと堅く信じているし、その出来事から学んで、振り返った時に、自分が以前より高い位置にいると思えれば、すべて良しだと思うんだ。

Skrufff : あなたはどの宗教も信仰しないそうですね?

Nitzer Ebb (Bon) : そうだよ。僕は熱烈なアンチ信仰家なんだ。どんな宗教組織も人類の存在を破滅させるものだし、破滅させてきた。だから強く反対してるんだ。ただ同時に、最近いろいろな宗派の、ものすごく信仰の強い人々に会う機会があってね。彼らはみんなすごくいい人だったんだ。だから最近では自分の発言にもっと気を使うようになったよ。その宗教に関わる人たちの中には素晴しい心を持った人々がいるから、彼らを尊敬して少し言葉を選んでるのさ。ただやっぱり宗教問題は僕にとって腹立たしいものだから、ビールを数杯飲めばうるさいほど語っちゃうだろうね。

Skrufff : 音楽をやめて、普通の仕事をしようと思われたことはありますか?

Nitzer Ebb (Bon) : いいや。バンドを始めた頃は、ある程度働いてバンドを続けるためのお金を稼ぐためにあちこちで仕事をしては辞めるっていう生活をしてたけど、プロになってからは、他の仕事をしようと真剣に考えたりすることはあまりなかったね。それに、さっき話したとおり、僕は運に恵まれてもいたんだ。だから、Nitzer Ebb の活動を休止したときも、Manson やいろいろなアーティストが僕に仕事に関わって欲しいと言ってきてくれた。そういう意味でもすごく恵まれていたんだ。何故かは分からないけど、いつもね。さっき言ったことと被るかもしれないけど、音楽に献身的でいれば、音楽は常に自分の元にやってくるのさ。Eddie Murphy の言ったコメントがあってね。彼と母親との会話の中で、母親が「俳優になるのはいいけど、万が一の時に役立つスキルを身につけておいたらどうなの?」って言ったんだ。その時彼は「そんなスキルを持っていたら、役者にはなれないよ」って応えたんだって。もし自分に音楽しか頼るものがなくて、それに完璧に身を投じていれば、全く予想もしない方向からチャンスが訪れるものなんだ。

 

End of the interview



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