Ricardo Villalobos や Akufen のリリースでおなじみのレーベル Perlon からリリースした 'Calculated Extravagant Licentiousness' が世界中のクラブでプレイされ、ここ日本でも多くのファンを得ることに成功したドイツのクリック / ミニマル系集団 Narcotic Syntax。その Narcotic Syntax の中心的メンバーである James Dean Brown と Yapacc が全国ツアーの一環として Colors Studio に登場した。
実験的かつユニークなミニマル&エレクトロ・サウンドを放出した James Dean Brown のDJ、そして Yapacc の貴重なライヴ・セットによってクラウドを確実にロックしていた彼らに HigherFrequency がインタビューを決行。彼らの楽曲制作に対するスタンスや、グループ名の由来、今後の意外なプランなどを和やかに語ってくれた。
>Interview : Cameron Eeles _ Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency) _ Photo : Ryota Kawai
HigherFrequency (HRFQ) : Narcotic Syntax が活動をスタートしたのは ’90年代中盤ですが、現在のメンバー構成になったのは ‘03年だそうですね。
James Dean Brown (以下JDB) : そうなんだ。Narcotic Syntax は僕と Perlon の Zip で始めたユニットでね。楽曲もいくつかプロデュースしたよ。僕は人と一緒にコラボレーションするのが好きなんだ。アイデアも交換できるし、インスパイアし合えるしね。それに僕にはきちんと機材の扱い方を知っている人が必要なんだ。家にはいろいろとアナログ機材があるんだけど…11個の異なるリズム・マシーンとかね。でも最近はコンピューターで仕事する方がいろいろと便利だと思うんだ。ただ、Zip は忙しい人だから一緒にプロデュースするのが難しくなってしまってね。Markus Nikolai とも楽曲を作ったことがあるよ。それから’03年に Yapacc と出逢ったというわけなんだ。
HRFQ : お二人が出会ったきっかけは何だったんでしょうか?
JDB : クラブで会ったんだと思う。会って話をしているうちに、Yapacc の方から「一緒に曲を作らないか?」って尋ねて来てね。そうやって僕たちの始めてのトラックであり、 “Superlongevity 3” にも収録された ‘Pingpong Voodoo’ を完成させたんだ。それがすべての始まりで、こうやってユニットを組むに至ったというわけさ。雑誌を読んでいると、Narcotic Syntax は 「Perlon のチーフの Marcus Nikolai と Zip のユニット」とか、「Zip と Yapacc のユニット」って書かれているんだけど、僕の名前が出てきたことが無い(笑)だからここでハッキリさせておくけど、Narcotic Syntax は、僕自身とその他のゲストで成り立つユニットなんだ。
HRFQ : “Superlongevity 4” は素晴らしいコンピレーションですね。中でもあなた方のトラック ‘Raptor’s Delight’ にはものすごく惹かれるものを感じました。
JDB : ありがとう。ドイツでは誰もそんなこと言ってくれないよ!「嫌い」とも「好き」とも言ってくれないんだ。でも不思議と他の国では評判がいいんだよね。今ドイツで盛り上がってるのはミニマルばかりで、曲の構成に注目して楽曲を作っているプロデューサーは少ないんだ。Markus Nikolai はそのうちの一人だし、他にも、年配のプロデューサーの中にはスキルと曲の知識、文化についての教養がある人が数人いるけど、そんなに多くはいないね。
HRFQ : ‘Raptor’s Delight’ですが、このギリシャ神話のプロメテウスにまつわる話を、ラヴソングに変えてしまったのは何故ですか?また、タイトルは Sugarhill Gang の ‘Rapper’s Delight’ をもじったものですよね…?
JDB : この歌詞を書いたのは Robert (Conroy) で、歌詞の中にギリシャ神話を取り入れたのも彼なんだ。タイトルについては、彼が歌詞の中で大ワシだの何だの歌うものだから、僕の方でちょっとした語呂合わせをしようと思ったのさ。僕は昔からこういった語呂合わせや言葉遊びをするのが趣味でね。古い伝統とも言うべきかな。Atom Heart や Pink Elln、Dandy Jack と一緒に仕事をする時も、みんな一緒になって語呂合わせをしようとするんだ。僕がプライベートで書く文も結構凝っていてね。Narcotic Syntax といった名前を使ったのもそういう理由からなんだ。文字を書くような感覚を音楽プロデュースにも流用したというわけさ。ライティングも音楽プロデュースもクッキングもすべて同じだからね。この3つには大きな共通点があると思っているんだ。
HRFQ : そうですね。名前については、私たちもお伺いしたかったんです。麻薬(ナルコティック)統語論(シンタックス)とはどういう意味なんでしょう?
JDB : このインタビューを読んでいる人が、音楽から感じ取ってもらえれば嬉しいんだけどね(笑)そして、解けない曲構成の中で絡まってくれたら…と思うよ。一番重要なのは、簡単には予測出来ない音楽を作ること。今僕は Treibstoff っていうレーベルの A&R をやってるんだけど、レーベルに送られてくるデモは、曲の初めを聴けば、終わりまで予測できてしまうようなトラックばかりで、僕はそれを拒否する内容のメールを毎日たくさん送らなくちゃいけないんだ。僕にしてみれば、そんなトラックってつまらないと思うんだ。だから僕らは麻薬(ナルコティック)なのさ。自分たちさえも驚かせたいからね。
Yapacc(以下Y) : その名前は JDB が考え出したもので、音楽も名前と同じものを表しているんだよ。
HRFQ : Narcotic Sytax の楽曲において、ヴォーカルは非常に重要な役割を果たしていますが、あなたたちがヴォーカルやヴォーカリストに魅了される理由を教えてください。
JDB : 僕たちはクラブで音楽を聴きたいだけなんだ。僕たちが求めるのは、“最高にエモーショナルな音楽”。僕らは俗に言うミニマル・シーンには関わりが無いんだ。リズムってエモーショナルなものだし、もちろんヴォーカルも同じで、ヴォーカルを聴くと、楽曲にも入り込みやすくなる。だからヴォーカルを入れるのさ。それに僕はコピーライターだから、歌詞を書いて、可笑しなストーリーを音楽に付けるのが好きなんだ。ヴォーカルは楽曲をよりエモーショナルなものにするし、リスナーの心に残るしね。
HRFQ : 最近リリースされた Robert Conroy とのコラボレーション作品は、ポップな楽曲構造なのに、クラブで聴いても違和感の無いようなトラックでしたね。
JDB : その通り。まさにクラブと楽曲構成のブレンドなのさ。
Y : 僕ら二人の楽曲に対する考え方は少し異なっていると思うんだ。もちろん同じアイデアを持つことはあるけど、僕らは全く異なった…というか、かなり異なった人間同士なんだ。だからこそ Narcotic Syntax の音には驚きがあるんだろうね。僕ら二人とも、スタジオで何が起こるか予測できないんだ。プロジェクトと音楽を想像するのは JDB だけど、僕はミュージシャンだから、楽器を演奏するのは僕というわけさ。
JDB : Yapacc は僕の頭の中にある音楽を演奏してくれるんだ。
Y : いつも驚きの連続だよね!
JDB : だいたい僕がはじめに楽曲の構成を作るという建築家のような役割をして、そこにサンプルやリズムのアイデアを取り込んでいくんだ。そこにミュージシャンの Yapacc がまるでデザイナーのようにアイデアを足していくという感じなんだ。二人でコンピューターに向かって作業していて、僕が何も言わなくても、Yappac が僕の頭の中にあるアイデアをそのまま実行してくれることがあるんだ。これは僕らがいいチームだって証拠だよね。
HRFQ : では、このクラブとポップ・ミュージックの融合はこれからも続くのでしょうか?
JDB : もちろんだよ。これは僕らの将来への方向性でもあるんだ。でもこれから先何が起こるか分からないからね。最近 “Provocative Percussion”っていう EP を作ったんだけど、そのプロジェクトも終って、今はまた新しいプロジェクトに取り掛かっているんだ。その新しいトラックはかなり *クラウト・ロックを意識した感じになっていてね。今度は、クラウト・ロックを再びクラブ・シーンに甦えらせるというわけさ。
HRFQ : James、あなたの DJ セットはものすごく包括的で、ファンクやテクノ、ラテンといったジャンルが含まれていますが、あなたが“混合的ミックス”と呼ぶそのセットについてお話していただけますか?
JDB : (笑)以前オーケストラは、有名な曲を寄せ集めたメドレーを録音していたんだ。彼らは、時代の違う楽曲でも、それらを集めてリズミカルな流れで演奏していた。僕の“混合的ミックス”とは、君が挙げたようなスタイルの音楽をプレイすること。もちろん人を驚かせるためでもあるんだ。例えば僕がミニマル系の楽曲からプレイを始めれば、クラウドは「あ、今日はこういう音なんだ」って思うよね。でも、それから20分後には、全く違うスタイルの音楽が聴けるというわけさ。昨日のセットの後も、「君のセットを聴いていると、まるで音楽の歴史を聴いているように感じる」って言われたんだ。
HRFQ : Yappac、あなたのライヴ・セットにも同様のことが言えると思いますか?
Y : 同じとは言えないかな。でも毎回違ったスタイルでパフォーマンスをしたいと思っているから、ある意味似ているかもしれないね。僕は、フロア向けのセットをすることが多くて、プレイする楽曲の中にはミニマルなトラックもあるし、メロディックなもの、テクノ寄りのトラックもある。僕はたくさんのプロジェクトを手掛けているから、そういったすべての要素をセットに取り込めるんだ。
JDB : 時には自分のしたいようにすることも重要なのさ。最近では、あまりにも多くのプロデューサーが彼ら自身をある一定のサウンドに縛り付けてしまっているように感じるんだ。きちんとした音の方向性を持つことも重要だと思うよ。フロア向けの楽曲も作らなきゃならないしね。でもそればかりを作るのは、僕らのスタイルじゃないんだ。僕らのレコードの売り上げがいいのは、人とは違ったサウンドを作っているからだと思っているしね。それに、今僕たちはまたスタイルを変えようとしているんだ。名前は変えずにね。仮にデス・メタルをやったとしても、ユニット名は Narcotic Syntax のまま代えないつもりだよ。
HRFQ : では最後に今後のプランを教えてください。
JDB : 今後と言えば、間違いなくそのクラウト・ロックだろうね。’70年代にあったような、コンセプト・アルバムを作りたいと思っているんだ。楽曲を3曲収録して、曲の長さが20分くらいある楽曲を1曲、お互いにリンクしている楽曲を2曲入れて、最終的にアルバムの長さが40分くらいになるように仕上げる。まるで当時の LP のように、20分の長さの楽曲が表面と裏面に入ってるんだ。それに、20分の長さを12分くらいまでにエディットした EP も作りたいと思っていてね。これは既に Zip に話してあって、彼も「いいアイデアだね。音が気に入ればの話だけど」って言ってくれたんだ。彼はアルバムでリリースした楽曲が、違ったかたちで EP に収録されるというアイデアが好きだからね。だから、あとは完成した楽曲を彼が気に入ってくれることを祈るのみさ。それが僕らの次のプロジェクトかな。
*クラウト・ロック - ’60年〜’70年代初期のドイツで流行したジャンル。ジャーマン・プログレ
End of the interview
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パーティー・レポート: ORGANZA 04 feat.NARCOTIC SYNTAX @ COLORS STUDIO, TOKYO (2007/02/03)
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