HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Moby Interview

‘80年代後半からシーンの前線で活躍し、そのジャンルを卓越した音楽スタイルで支持を受け続けている Moby が、キャリア初となるベスト・アルバムをリリースすることになった。

その音楽スタイル同様、元パンク・ロック・バンドのメンバー、NYクラブシーンで活躍したDJ、歯に衣着せないコメントで知られる批評家、Virgin galactic の宇宙飛行にいち早く参加契約をしたロマンチスト…といった様々な顔を持つアーティスト Moby。今回のアルバムには、’Go’や’Pocelian’、’Honey’といった彼の音楽をきっかけにダンス・ミュージック・シーンにのめり込んだファンには懐かしい楽曲の数々や、Blondie の Deborah Harry をフィーチャーした楽曲 ‘New York, New York’、最新アルバム”Hotel” より ‘Lift Me Up’ などが含まれている。

今回 HigherFrequency では、そんなベスト・アルバムのリリースを記念したインタビューを掲載。多面であるが故にミステリアスな Moby の本音に迫った内容を是非楽しんでもらいたい。

> Text: Toshiba EMI 提供 _ Introduction: Kei Tajima (HigherFrequency)

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Q : ニューアルバム ”Go-The Very Best Of Moby” の収録曲はどうやって決めたのですか?

A : そうだね。自分がベストだと思った曲を基準に選んだものは、他人の基準にあてはまらなかったんだ。大概、自分のお気に入りってみんなが良いと思わないものなのさ。だからここに収録されているほとんどの楽曲は自分の友達やレコード会社の人に直接選んでもらったものなんだ。彼らのほうが客観的な視点で選んでくれると思ったからね。

Q : 収録曲はシングルとして成功を収めているものばかりですけど?

A : ああ、そうだね。まあ、ベスト・アルバムをリリースするとなると、どうしても人気の楽曲を収録せざるを得ないのさ。みんが気に入って買ってくれるような内容であるのが理想だよね。

Q : あなたはマスコミにしばしば “物議をかもす人物” と言われていますが、なぜでしょう?

A : とりたてて自分が物議をかもしているとは思わないけどね。僕はきっと、おしゃべりで頑固なんだ。 特にエレクトロニック・ミュージック・シーンで ’90年代に活躍したほとんどの人たちは、自分たちのジャンルについてか、もしくはクラブ・カルチャーについての意見しか持っていなかったんだ。でも僕はパンク・ロック出身で、いい意味でも悪い意味でも全てのことに関して意見を持っていて、それがきっとそんな風に言われる原因だったのかもしれないね。パンク・ロック出身だからかもしれないし、ただナルシストのおしゃべりなだけかもしれないし、どうだろうね。

Q : ダンス・ミュージック業界において、孤立しているように感じたことはありますか?

A : 難しいのは、僕はダンス・ミュージックが好きなのに、そう呼べるアルバムを正直この11年間作っていない。DJするのも、ダンス・ミュージックも、自分の買ったダンス・アルバムも好きだよ。でもこの何年かは特別に音楽シーンとの結びつきを感じていないかな。

Q : あなたは問題意識が強いアーティストとして知られているにもかかわらず、そういった面は自分の音楽と切り離すことが大切だと考えているのでしょうか?完全菜食主義者で、ブッシュ大統領を嫌っているかもしれないけど、それについては歌わないですよね。

A : 今までクリエイティブに何曲か自分の意見を伝えるような曲、政治や社会問題、倫理問題にインスパイアされた楽曲も書いてみたんだけど、全部ひどい出来だったんだ。ここ30、40年くらいの社会問題を取り上げた数多くの名曲があったよね。Public Enemy、 Clash、 Cat Stephen、 Creedence Clearwater Revivals…でも僕がやろうとすると、やけに説教じみてて高圧的なんだ。だからそういう曲を書かないのは自分にとっても周りにとってもいいと思ってる。僕の小うるさい意見はエッセイで発表するのさ。

Q : あなたが最初に影響を受けた音楽は主にパンクやニューウェイヴのようですが、ダンス・ミュージックを作ろうと思ったそもそも動機はなんだったのですか?

A : 子供のころ様々な種類の音楽に触れ合うことが出来たんだ。ラジオで流れてるポップ・ミュージック、母親が聴いてたへんてこな音楽、友達の兄弟が聴いてた奇妙な音楽やら、全部好きだったんだ。自分がパンク・ロックやニューウェイヴをやりだしてからも結局いろんなジャンルが好きだった。ニューヨークのクラブに夜繰り出すと、パンク・ロック、レゲエ、ヒップ・ホップ、ニューウェイヴといったあらゆる音楽が隣で鳴ってるんだよ。だからダンス・ミュージックを作り始めたときもべつに他のジャンルの音楽を否定したと考えたわけではなくて、ただ単にその当時最も熱中してたのがダンス・ミュージックってだけたったんだ。これは言いかえると、多くの問題の原因でもあってね。なぜなら、ダンス・ミュージック・シーンではダンス・ミュージックだけを好きであるべきだとか、ダンス・ミュージックに対する永遠の忠誠や忠実を誓うようなところがあるんだ。でも僕はダンス・ミュージックが好きなのと同じくらい他の音楽も好きだった。おそらくこういう風に考えるのは、自分がニューヨーカーだからだろうね。ニューヨークは本当にいろんなものがごちゃ混ぜになっている場所だし、こう感じるのは自然のことなんだろうね。

Q : キャリアの始めのころ、あなたは ”完全菜食主義者で禁酒、禁欲主義の厳格なクリスチャンのダンス・スター” として知られていました。なぜそのようなライフ・スタイルを選ばれていたのですか?

A : 15,6年前のインタビューで、自分は「完全菜食主義者でクリスチャン、酒は飲まない」って言ったんだ。それでいまだにそういうイメージがつきまとってる。イギリスだけだけどね。他の国に行ってもそんな風には言われないよ。ただ「レコードを出してる風変わりなニューヨーカー」って言われるだけさ。イギリスのジャーナリストはいまだに僕をそう呼んでるけど、実際のところ僕は長年そういう生活をしてないんだ。僕は今でも完全菜食主義者だけど、この複雑な世の中で、肉を食べるかどうかは各個人のチョイスだし、そのチョイスをお互いに尊重しあえばいいと思うんだよ。いま僕は絶対禁酒主義者だけど、以前はかなりの酒を飲んでたこともあったしね。それに、キリスト教の教えは好きだけど、他のクリスチャンとあまり共通点があるとは思えないし。宗教に関しての議論は絶対にしようと思わない。イスラム教、ヒンズー教、ユダヤ教、なんであろうと僕だったら非難するより布教するね。

Moby Interview

Skrufff : あなたが一躍名を広めることとなったアルバム “Play”の制作中、このアルバムが商業的に大きな成功を収めるだろうという予感はありましたか?

A : “Play” 製作中は、もう僕のキャリアはおしまいだと思い込んでいたんだ。”Play” の前のアルバム ”Animal Rights” は商業的にも批評的にもひどいものだったからね。もちろん僕は一番好きなアルバムなんだけど。だから ”Play” 製作中は誰からも注目されないような奇妙で目立たないアルバムを作っていると思ってた。万が一世界で10万枚も売れたら上出来だってね。だからこのアルバムに対する期待はものすごく低かった。実際 ”Play” が発売された当初は批評も良くなくて人気がなく売り上げも悪かったんだ。コンスタントにツアーを行って、口コミで徐々に広がってやっと成功したのさ。 LA タイムズは最後には ”play” を支持してくれたけど、最初にリリースした時のレビューでは、彼らにこう書かれたのを覚えてる。「 このアルバムに ”Why Does My Heart Feel So Bad” という曲が入ってるが、それはこんなにひどいアルバムを聴かされたせいだろう」ってね。

Q : 大きな成功は時に人を最悪の人間に変えてしまうことがありますが、あなた自身そのような危険を経験したり、成功を味わいながらもしっかりと自分をコントロールしようと努めたりしていたのですか?

A : 友達には誘われるんだけどね。ベルリンは好きだよ。でも過ごすんだったら数日間の間だけかな。そのあとはやっぱり帰りたくなっちゃうんだ。パーティーやナイトライフが充実しすぎてるんだよね。パーティーに行こうと思えば毎日でも行けるんだ。だから時間が過ぎるのもすごく早いし。そういう生活はしたくないんだ。だからやっぱり地元がいいな。友達もみんなここにいるしね。

Q : あなたにはシャイなところがあって、自己認識の高い人のようですが、このような性格はセレブに合っているのでしょうか?

A : 初めてインパクトのある名声を手にしたのは’83年に自分のプレイしていたパンク・ロックのバンドが僕の学校新聞に取り上げられた時。自分の顔写真が新聞の表紙に載ったんだ。それくらい強烈な名声は今までになかったね。だって突然学校のロックスターになったんだよ。それから23年くらい経って、いろんな浮き沈みを経験したよ。しばらくはニューヨークのクラブ・シーンでDJとして名を馳せたし、”Go” が発売されてダンス・シーンで有名になった。それから名声を得たりそうでなかったり。名声を得る利点と言えば、多くの人に音楽を聴いてもらえるってこと。素晴らしいことだよ。一生懸命自分がやったものをだれかが注目してくれるからね。今の世の中はみんな名声にとらわれすぎているけど、僕は実際にそれを体験したからこそ簡単に異議を唱えることが出来る。名声を得ることは本当に魅力的だし、だからみんなセレブや名声に憧れてるんだ。たぶん彼らのほうが自分たちより良い人生を送ってるんだろうってね。でも実際自分が体験してみると、ちっともそうじゃないんだ。幸せの度合いから言うと、彼らはたぶん僕たちよりも全然ハッピーなんかじゃないよ。

Q : 最新のアルバム”Hotel”にはサンプリングを使用した曲が減ったようです。これには理由があるのですか?

A : そうしなかった理由をうまく説明できればいいんだけど、実は今回いつもと違うソフトウェアをパソコンに入れていて、このソフトのサンプリング機能がものすごく使い難かったんだ。だからサンプリングをあまりしなかった。僕が怠け者だったからって言うのがホントの理由なんだ。このソフトを使うのにうんざりしてたから。これが真実さ。

Q : “Hotel”ではあなた自身がヴォーカルを勤めている曲がかなり増えましたね。歌うのは好きですか?

A : 自分の声が特に好きっていうわけではないけど、歌うのはすごく好き。”Hotel”以前では ”Animal Rights” で歌ったのが最後で、実はこのアルバムが ”Hotel” で歌おうと思ったきっかけなんだ。それに、 ”Hotel” にはものすごくパーソナルな曲が多かったから、自分が歌うのが一番しっくりくると思ったのさ。ラッキーなことに、スタジオではあまり上手くない歌声もそれなりに聞こえるようにできるからね。

Q : あなたの数々のプロモーション・ビデオのなかで特に印象に残っている作品はどれですか?またそれはなぜですか?

A : 自分のビデオの中で好きなのは ”In This World”。小さなアニメのエイリアンが地球にやって来てみんなに挨拶するんだけど、自分が何年もの間描いていたアニメ・キャラクターがもとで、大好きなエモーショナルで切ない感じがあるんだ。だから最も気に入っているのは ”In This World” だね。

Q : もし今までの自分のキャリアにおけるハイライトを一つ上げてくださいと言われたらどう答えますか?

A : UK キャリアのハイライトといえばおそらく2〜3年前にカーネギーホールで募金のためにDavid Bowieとパフォーマンスの準備をする機会があって、僕は ”Heros” のアコースティック・バージョンをやりたいと思っていてね。それで David Bowie が僕のアパートにある日やってきたんだ。朝の10時ごろ、僕のアパートのリビングルームに彼がいて、アコースティックギターを持った僕の隣に座って一緒に練習したんだ。あれは最高だったね。

Q : もしミュージシャンではなかったら何になっていたと思いますか?またその理由は何ですか?

A : もしミュージシャンではなかったら、おそらく建築家か政治家になってたかな。わかんないけど。音楽以外で僕が好きなのは建築と政治だからね。実際多くのミュージシャンや有名人が建築に携わってるし。これはぼくたちのナルシストな部分から来るのかな。それと同時に、建築が素晴らしいのは、電源を消したり目を瞑ったりしても消えないアートのかたちだから。建物は実質的で重要な存在で、人々の生活の様々な面にインパクトを与えるからね。だから建築に惹かれる人か多いんじゃないかな。

Q : 最後になりますが、ベスト盤を出した後は何をする予定ですか?

A : ベスト盤はこの秋にリリースされるんだけど、そのあとまた新しいレコードを出せればいいね。そのためにもう400〜500くらいの曲を書いてあるし、たぶん’07年の秋くらいまでにはリリースできるかな。だから僕が今考えなきゃいけないのは、一にどんなアルバムにするのか…ダンス系のレコードか、パンク・ロックか。二にどの曲をアルバムに収録するかだね。

End of the interview

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