HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Michael Mayer


クリック・ハウス、ミニマル・ハウスの総本山としてワールドワイドで絶大な人気を誇るドイツ・ケルンのレーベル Kompakt。特にここ数年は John Digweed や James Holden といったいわゆるプログレッシブ系のDJが、Superpitcher、DJ Koze、Justus Kohncke などのレーベル所属アーティストのトラックをプレイすることでその認知度も飛躍的に拡大、まさに激動するヨーロッパのクラブ・シーンの震源地として常に注目を集めている存在である。その Kompakt のレーベル・オーナーにして、数々のレーベルを傘下に収める Kompakt ディストリビューションの総帥、そして自らもDJ/プロデューサーとして活躍する Michael Mayer が、レーベルの名前を冠した UNIT の人気イベント"Kompakt Night"に出演するために来日、HigherFrequency とのインタビューに応えてくれた。

「あんまりプログレッシブ・ハウスのことは分からないから…」と語り、インタビューの最中に彼の作品を絶賛しているトップDJたちの名前を挙げても「誰、それ?」といった感じの Michael。シーンのトレンドがどうしたとか、スーパースターDJがどうしたといった話には一切関心を持たず、ただひたすら自らの鼓膜を感動させる音楽のみを集め、プロデュースし、そしてリリースする…。このシンプルな反復作業の中に、ケルンというドイツの一都市にありながらも、全世界のクラブ・ミュージック・ファンを感動させる Kompakt サウンドを次々と送り出してきた彼の原点があることを知ることが出来たのは、HigherFrequency にとっても何よりの感動的な瞬間であった。

> Interview : Laura Brown (ArcTokyo) _ Translation : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Photo : Mark Oxley (HigherFrequency) _ Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)

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HigherFrequency (以下HRFQ) : 以前、日本でプレイされたのは一年前でしたね。前回の来日の際に最も印象深かった出来事は何でしたか?

Michael Mayer : 全体を通して親切なもてなしに加えて、食事も素晴らしかったよ。ただ、パーティーという点で絞って言うと、一番印象深かったのは名古屋かな。そこは素晴らしいクラブで、プレイするのはその時が2回目。1回目にプレイした時もビックリするくらい楽しめたんだけど、2回目はそれよりもっとスゴかったんだ。それが前回の来日で一番印象深かったことかな。あぁ、それに東京の Loop も素晴らしかったよ!

HRFQ : 昨年リリースされたアルバム 'Touch' は、あなたのソロ・アーティストとしてのデビュー作品だったわけですが、この作品をリリースするまでに10年以上の時間を費やされていますよね。これほど長い時間がかかってしまった理由とは何だったのでしょうか?

Michael : もちろんアルバムを制作するためだけに10年かかったってわけじゃないよ。他に抱えてた仕事…例えば Kompakt の仕事なんかも同時にこなしていかなくちゃならなかったから、すごく忙しかったのさ。平日はオフィスでだいたい一日8時間とか10時間仕事をして、週末にはいろいろな場所をDJして回るって感じでしょ。だから、スタジオに入れる時間といえば平日の夜くらいしかなかったんだ。しばらくはそんな感じで頑張って制作を進めてたんだけど、ある時ついに「こんなの無理だ!」って思ってしまってね。やっぱり睡眠や自由な時間が必要だったし、少し会社に余裕が出来て、僕が楽曲制作に集中できる時間がとれるようになるまで、アルバム作りを一時中断していたというわけさ。

それで、今回のアルバムを作ることになった時、今度はそれだけに集中してみたら、何と3週間っていう速さで完成したんだ。音楽制作以外に何もしなくてよかったから、すごくハッピーだったし、楽しんでアルバムをつくることができたよ。

HRFQ : Kompakt は、もともとケルンにあるレコード・ショップだったんですよね?

Michael : 今でもそうだけどね。

HRFQ : 元々は、Wolfgang がオーナーだったレコード・ショップに、あなたがお客さんとして行ったのがきっかけという話は本当ですか?

Michael : 僕は Kompakt がオープンしたその瞬間に、一番最初に入店したお客だったんだ。というのも、当時僕は Kompakt がオープンするのを心待ちにしていたからね。ケルンにあるどのレコード・ショップよりもいいセレクションを期待していたし、「この新しいレコード・ショップなら、僕を満足させてくれるはずだ」って思っていたんだ。でも、実際そうじゃなかった!だから僕も彼にあれこれ注文をつけ出したんだ。「おい、せっかくのチャンスを水に流すのか?こんなセレクションじゃ長続きしないぞ!」ってね。それで結局一週間に2・3回は店に来てレコードのオーダーをしたりって感じで、手伝うことになったんだ。その6ヵ月後には彼とパートナーになって、それからはずっと一緒に働いているって感じかな。

HRFQ :Wolfgang とレーベル業を始めようと思われたのはいつ頃なんですか?

Michael : そうだね…93年の時点で既にレーベルとしての活動を始めてはいたかな。でも、多いときで、Profan や、New Transatlantic といった7つのレーベルを同時に運営してたから、それぞれのレーベルに力を入れて名前を広めていくのは難しかったんだ。もちろんそれだけのレーベルをやるのは楽しかったさ。でも、増えれば増えるほど、自分たちの本当にやりたいことを実現するのが難しくなってくるような気がしてね。それに、今までに膨大な数をリリースしてきたから、何がなんだか分からなくなってしまったんだ。だから全てのレーベルを統合して、一つのレーベルの下でリリースしようってことになって、それが Kompakt だったというわけ。レーベルを一つに統合して、名前もショップと同じにしたんだ。そうやってすごくコンパクトになったのさ!`

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HRFQ : "Kompakt のサウンド" とはどういったものだと思われますか?トラックをリリースする際の選択基準などはあるのですか?

Michael : まず、音にアーティストの人間性が表れているということ。音的な技術だけではなくて、音を通してつくり手の個性を感じることが出来るということが僕たちにとって重要なポイントなんだ。最近ではテクノロジーが発達して、音楽をつくることは難しいことではなくなったでしょ。だからこそ、音を通してアーティストの特別な個性を感じられるような作品をリリースしたいと思っているんだ。だから、一つのスタイルに絞ってリリースしているわけではない。アンビエントでも、ハードなテクノでも、何でもいいんだ。ただ、コンピューターを買って音をつくりましたってだけじゃなく、それ以上の努力を感じることの出来る音楽でないとダメ。個性的なエッセンスを感じることが出来ない音には、興味は感じないね。

HRFQ : 最近 Kompakt からリリースされる作品は、テクノ・アーティストだけではなく多くのプログレッシヴ・ハウス系アーティストのコンピレーションにも収録されていますね。こういったクロスオーバーの動きはレーベルにとってプラスになっていますか?

Michael : 確かに、最近になってそういう動きが出てきたね。John Digweed が彼の Fabric のコンピレーションに Kompakt のトラックを入れたのがそもそもの始まりだったと思うんだけど、初めはビックリしたよ。それまでに John Digweed とも、プログレッシヴ・ハウス・シーンとも何の交流もなかったからね。それに、僕たちはああいう音楽に興味がなかったし、彼らが僕たちの音楽に興味を持つなんて考えてもみなかったんだ。彼らの活躍しているような環境に、僕たちの音楽がマッチするとは思えなかったしね。

これについては、Kompakt は前よりセル・アウトしてるなんて批判的な意見を言う人もいるみたいだけど、僕たちにしてみれば Kompakt は昔と全然変わってなんかいないんだ。でも、もしプログレッシヴ・ハウスの人々が、Kompakt の音が好きでプレイしてくれてるなら、それはすごく嬉しいことだよ。それに、Kompakt の音がこれからどんどんプログレッシヴ・ハウス寄りの音になっていくってわけではないしね。今プログレッシヴ・ハウスの人々が Kompakt の音をピック・アップしているのは、僕たちの作品が優れているからだし、優れているからこそダンス・フロアで映えるんだ。まぁ、よく分からないけどね。あんまりプログレッシヴ・ハウスには詳しくないから。

HRFQ : あなたは Kompakt から日本人プロデューサー、Kaito - Hiroshi Watanabe の作品を何作かリリースされてきましたが、彼のサウンドと出会ったきっかけは何だったのですか?初めて彼の作品を聴いたときどのような印象を受けましたか?

Michael : どうやって Hiroshi の音楽と出会ったかと言うとね…これはすごくいい話なんだけど、あれは 99年の夏か、春の終わりだったかな。すごく天気がいい日で、突然ちょっとセンチメンタルな気分になってね。「トランスって昔はこんなに美しくて、心のこもった、あったかい音楽だったよね…」なんて言いながら、アーバン・トランスのトラックを聴いてたんだ。それで、どうにかしてこういう心に響く、誠実なトランス・ミュージックを甦らせなきゃいけないって考えていたんだけど、ちょうどその時、テーブルの上においてあった Hiroshi のCDだかDATが目に入ってね。それを聴いてみたら、まさにベストなタイミングで僕たちのイメージに完璧にフィットしてきたんだ。安っぽくなくて、すごく洗練されたディープなトランス…あれは素晴らしい出来事だったよ。Hiroshi のトラックに出会ったときはすごくハッピーだったし、今でも彼の作品が大好きだよ。

HRFQ : その他、ここで触れておきたい Kompakt の今後のリリース作品や、新しく出てくるアーティストなどありますか?

Michael : そうだね。Justus Kohncke がいるよ。実は、彼と僕らとはすごく付き合いが長いんだ。もともと友達だったんだけど、最近 Kompakt からリリースし始めてね。彼はすごく面白い音をつくるアーティストで、本当に Kompakt らしいというか…僕たちの両親が聴いてたみたいなダサいドイツの70年代ポップスみたいなものから、ディスコ、テクノ、とてもアップ・リフティングなエレクトロまで、かなり広い音楽ジャンルの影響が感じられる音をつくるんだ。それに彼はかなりの機械オタクで、最新のテクノロジーのことは何でも知っていて、でも、そういうテクノロジーを使いながら、何と言うか…すごくヴィンテージな音をつくるんだよね。彼の音こそ「最新のテクノロジーをどうやってポップ・ミュージックやソウル・ミュージックなんかに対して使えばいいのか」っていうことの良いお手本だと思うんだ。

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HRFQ : 最近 Kompakt では MP3 のダウンロード販売を始められましたね。それについて何点かお伺いしていきたいと思います。まず初めに、Kompakt で取り扱われている全てのタイトルをオンライン・ショップで販売されていくつもりですか?

Michael : そう考えているよ。ただ、MP3 のダウンロード販売に反対していて、やりたくないっていうレーベルも中にはあるし、僕にも彼らの気持ちはわかるんだ。僕たちだって MP3 の販売に大賛成というわけじゃないからね。それに、サウンドや全ての面を考えても、やっぱりレコードが一番だと思っている。だけど、そろそろレーベルとして、MP3 のダウンロード販売という「新しい売買の方法」をオファーしてもいいんじゃないかって思ったんだ。どうせインターネット上にはフリーでダウンロードできるトラックがいっぱい転がっているんだし、Kompakt のトラックをそうやってダウンロードしてもらっても構わないんだけど、リスナーの中には音楽をつくることがいかに大変なことか、アーティストが曲作りにどれほどの力をつぎ込んでいるのかを理解して、楽曲にお金を払いたいと思ってくれる人も絶対にいるんだ。それが音楽を合法にダウンロードできる方法が必要だと思った理由なのさ。

あと、もちろん僕たちのレーベルの楽曲が中心にはなるんだけど、同時にスタイルのマッチする他のレーベルの楽曲も一緒に買えるようにしていきたいと思っている。例えば Playhouse とかね。Playhouse は Kompakt で流通してるわけじゃないんだけど、オンライン・ショップでは一緒に売ってるんだ。スタイルがすごくマッチしてるからね。それに、Kompakt の音を聴く人は Monica Enterprises の楽曲も好きだと思うし。だから、Kompakt のものだけを売っていくってわけではないんだよ。

HRFQ : MP3 はレコード・マーケットを消滅させてしまうと思いますか?それとも共存していくと思いますか?

Michael : こういう話はCDが出回り始めた時から、何度も何度も繰り返されていると思うんだけど、僕は絶対にCDや MP3 がレコードの代わりになれるとは思えないんだ。テクノロジーは年々発達してきているし、今じゃピッチがコントロールできるCDプレイヤーや MP3 プレイヤーだってある。でも、やっぱりレコードの代わりにはなれないよ。レコードを買ったときのあのワクワクする気持ちや、レコードの表面にある溝、その溝をタッチする時のあの感覚は格別だからね。だからこそレコードはテクノロジーに押しつぶされることなく、こんなに長く支持され続けているんだ。

それに、いつの時代でもレコードを必要とする人はいる。僕は、DJをする時はいつだってレコード・ボックスを持っていくんだ。ただ i-pot をつなぐだけじゃ満足できないからね。僕にとってレコードはあって当たり前のものだし、CDや MP3 とは違う、スペシャルなものなんだ。ただ、家で聴くためにレコードを買う人がいるとはあまり思えないし、僕だって家では i-pot で音楽を聴くさ。

でも、レコードをセットして、聴いて、反対側を聴いて、例え突然傷がついてしまったとしても、それは自分のレコードだけにあるとってもパーソナルな傷だと思うんだ…こういうことってすごく大切でしょ。だからみんなレコードが好きなのさ。そんな感じで、僕はあんまり危機感は感じてないね。

HRFQ : MP3 ダウンロード販売に関してですが、今後、Bleep.com や他のオンライン・ショップでも楽曲を販売していかれるつもりですか?それともKompakt のホームページ上でのエクスクルーシヴ販売を続けていかれるのですか?

Michael : そもそも MP3 ダウンロード販売は最近始まったばかりで、徐々に発達していっているビジネスだから、まだ人々もマーケットに対して結構ヒステリックな部分があると思うんだ。こういうオンライン・ショップをつくっている人たちは特にね。現状ではお互いにクレームをつけ合って、足の引っ張り合いをしてるような感じもあるし。だから、状況が落ち着いて、人々が協力してビジネスをやっていこうっていう雰囲気になるまで、あと1年ぐらいはかかるんじゃないかと思うんだ。

もし他のオンライン・ショップで Kompakt の楽曲を売ることになった時には、Beep.com が一番最初になるかもしれない。でも全ての楽曲を全てのサイトで買えるようにしてしまうのは、あまり賢くないやり方だと思うんだ。これって、食品雑貨店に行くか、スーパーに行くかを選ぶのに近い考えで、欲しい野菜はもちろんスーパーに置いてあるけど、食品雑貨店で野菜を買うのも楽しい。食品雑貨店で買う野菜は質がいいし、いいアドバイスも得られるからね。

だから、自分のレーベルの音楽をどこに置くかってことには慎重になった方がいいと思うんだ。あくまで自分たちのカラーに合ったところに置くべきで、もし場所を選ばずに置いてしまえば何かを失ってしまうだろう。それに、人々は自分たちのお気に入りのショップ・アドレスを持っていたいと思うはずなんだ。そこに行けば自分たちの好きな音楽が買えて、嫌いなものは置いてない場所をね。

HRFQ : DRM に関してはどのような意見を持ってらっしゃいますか?昨年の9月、Rienhard Voigt にも同じ質問をしましたが…

Michael : DRM って ?

HRFQ : MP3 ダウンロード販売の際にかけられるコピー・コントロール・システムです。

Michael : あぁ、あれはひどいシステムだと思うよ。音楽を買った人たちをあんなやり方で苦しめるなんて!Kompakt の MP3 は、買った人が気がすむまで何回でもコピー出来るようになってるよ。実はこの間、i-tuneに対してすごく腹が立ったことがあってね。最近気になってたポップ・ソングを何曲かオンライン・ショップで買ったんだけど、会社のコンピューターでトラックをダウンロードしたから、i-pot に落とせなかったんだ!全く意味が分からないよ。トラックをCDに焼いて持ち帰って、i-potに落とすことも出来ないし…。全くのナンセンスだよ。

HRFQ : 分かりました、最後の質問です。テクノ・ミュージックの将来を表現するのに、最も相応しいキーワードは何だと思われますか?

Michael : キーワード?…"Openmindedness (オープン・マインドでいること) " とは言いたくないな。最近ではまるで決まり文句みたいになってるからね。でも、テクノ・ミュージックにおいて、常に順応でいることはすごく大事なことだと思うんだ。ここ5年間を振り返ってみると、テクノ・シーンにとってかなりプラスになるような出来事がたくさん起こっていて、例えばその一つにエレクトロ・クラッシュがあると思う。僕はたいして好きじゃなかったんだけど、でもエレクトロ・クラッシュ・ブームのおかげで、クラブに遊びに来る若いクラウドの中で歌モノのトラック熱が再燃して、ダンス・フロアで歌モノをプレイすることが普通になったんだ。ブームは去ったけど、今でも彼らの間ではダンス・フロアで歌モノ・トラックを聴く習慣は残っているから、今となっては例え僕がセットの真ん中で歌モノをプレイしたとしても、若い子達に「何やってるのこのオジサン?」って目で見られることもなくなったというわけ。だから、全ての人が常にいろいろな音楽に興味を持って、オープン・マインドでいることは大事だと思うんだ。

End of the interview

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