ソロ名義では Vladislav Delay, Luomo, Uusitalo、コラボ・プロジェクトとして Mortiz Von Oswald Trio, Sistol, Vladislav Delay Quartet と多くの名義を使い分け、常にエレクトロニック・ミュージックの最前線を走り続けている北欧の異才 Sasu Ripatti。様々なアーティストとの共作をはじめ自身のレーベル Humme を運営するなど、アーティストとしてだけではなくプロデューサーとしての才能も遺憾なく発揮している。
今回、ポップなハウススタイルの Luomo、アブストラクトで廃退的とも言えるエクスペリメンタル・ダブ・エレクトロニカ・スタイルの Vladislav Delay 名義でUNITに出演するということで、ライブ直前の彼にインタビューを決行。尽きることのない創造力と驚くべきバイタリティーを兼ねそろえ、全く異なったスタイルを器用に使い分け見事に両立している、そんな逸脱したセンスを持つ彼の心の中をのぞきみることができた。
Interview : Midori Hayakawa (HigherFrequency), Yuki Murai (HigherFrequency) _ Translation : Yuki Murai (HigherFrequency)
Introduction : Midori Hayakawa (HigherFrequency) _ Thanks : root & branch
HigherFrequency (HRFQ) : あなたの音楽的なバック・グラウンドを教えて下さい。
Sasu Ripatti (Vladislav Delay aka Luomo) : バック・グラウンドだね。僕はドラマーだったよ。今でもドラムはやってるんだけど、元々はすごく若いうちからドラマーでね。人生の殆ど大部分、音楽を作ってきたんだ。 僕の音楽の背景にあるのはジャズで、そこから色々な音楽、たとえば、ポップスにワールド・ミュージック、ヒップホップ、R & B、テクノ…といった風に、幅広いスタイルがあるけど、でもジャズこそが僕のバック・グラウンドだと思うよ。
HRFQ : 色々な名義をお持ちですが、中でも Luomo 名義でのある種ポップとも言えるハウス・スタイルと、Vladislav Delay 名義のシリアスで実験的なスタイルを見事に両立し、成功されていることに驚きます。何故このような活動の形をとることになったのですか?
Sasu Ripatti : うーん、それは特に問題じゃないかな。音楽は、いわば自分が話す言葉みたいなもので、そこには色々な方法があると思うんだ。食べ物みたいなものとも言えるね。スパイシーなものを食べたら、マイルドなものを食べたくなったり…あと、アジアの人がイタリア料理を作るだとかね。
僕にとっては、色んな方法で”話す”のはすごく自然なことだし、つまり色々と選択肢があるってことだよ。色々な音楽が好きだし、それを作るのも好きなんだ。僕は飽きっぽいから、もし長々と同じ種類の音楽をやってたら飽きてしまうと思うよ。
たとえば Vladislav Delay のアルバムを何ヶ月もかけて作ってるとするよ。終わる頃には、「もうこれ以上やりたくない」って気持ちになるんだ。それで、リフレッシュするために何か別のことをやろうと思って、ヴォーカルものでポップな Luomo をやって、それから又他のことをやる…。バラエティがあるってことは、すごく大切なことだと思うよ。
HRFQ : 昨年末 Luomo 名義でリリースされたアルバム "Convivial" は様々なアーティストをフィーチャリングしていますが、それぞれ全く異なった畑で活動しているアーティストで驚きました。どのようなコンセプト・基準で選抜したのですか?
Sasu Ripatti : 最初のコンセプトは、ヴォーカリスト達と作り上げる作品の幅を、もっと広げていこうということだったよ。以前のアルバムでは、ほんの1〜2人のヴォーカリストとしか一緒にやらなかったから、今回はできるだけ多くのヴォーカリストと仕事してみようと思った。『ボキャブラリー』を増やすためというか…ヴォーカリストをある意味、”楽器”としてみれば、いろいろなスタイルができると思ったんだ。そこでまずは色んなヴォーカリストに声をかけるところから始めたんだけど、幸いたくさんヴォーカリストの友達がいたから、音を先に作って、話を受けてくれそうな人たちに送ってみたら、みんな是非参加したいって言ってくれてね。
有名な人を使いたいとは全然思わなくて、自分が好きな人、一緒に仕事がしたい人を選んだよ。送った音に唄を入れて送り返してもらって、又送ったりを繰り返して、ニューヨークにいる人はちょっと別なんだけど、他はみんな、ベルリンにある僕のスタジオに来てもらったんだ。そう、コラボレーションってやつだよ。
HRFQ : 昨年のUNITでの Mortiz Von Oswald Trio のライブの際、自作の金属パーカッションを使われていたそうですね。 大変素敵な音で、是非実物を見たかったのですが、とても混んでいたので残念ながら見られませんでした。よろしければそれらの楽器の詳細を教えていただけますか?
Sasu Ripatti :
あれは、小さいパーカッションを色々と、たくさん揃えたんだ。一部は自分で作ったけど、他は Pete Engelhart っていうニューヨークの彫刻家が作ったものでね。その彫刻は叩いて音を鳴らすことができて、それ自体がアートなんだ。彼の作品には実物大の、金属でできた巨大なバッファロー型の彫刻があって、もちろんそれも全部叩いて音を鳴らすことができるんだ。あと、僕が持ってる彼の作品で、小さなパイプ状のものがあるけど、本当は大きな筒の一部なんだよ。全部は本当に高くって買えないね(笑)。彼はもうかなり高齢で、おそらくもう新しい作品は作らないんじゃないかな。
他には僕は元々ドラマーだから、小さい、変わったドラムだとか、パーカッションのコレクションが沢山あって、それも使ったよ。Luomo や Vladislav Delay ではドラムも叩くけど、Moritz と一緒の時はパーカッションしかやらないんだ。
HRFQ : 他の種類の楽器、たとえばパーカッション以外の楽器を作られたりすることもありますか?
Sasu Ripatti : いや、パーカッションだけだね。
HRFQ : ちょっと違う質問になりますが…。あなたはフィンランドのご出身ですが、ご自身の音楽性や考え方において、出身国に影響されているなと感じる部分はありますか?
Sasu Ripatti : 特にはないんだけど…もちろん、フィンランドで生まれたから、僕の中には何かしら、自身のルーツとして存在してるとは思うよ。音楽にもね。だけど、それはアクティブにでてくる影響じゃなくて、表に出てこない影響なんだ。アクティブな面での影響は、東京だとか、サンパウロだとか、旅した先により影響されてる。でも間違いなく、自分でもはっきりとは分からないけど、フィンランドの影響はどこかに確実にあると思うね。もちろん、いい影響だよ。
HRFQ : 先程、自分のスタジオを持ってらっしゃると言っていましたが、それはご自宅にあるのですか?機材はどんなものを使ってらっしゃいますか?
Sasu Ripatti : ベルリンには過去7年住んでて、スタジオもあったけど、実は6ヶ月前にフィンランドに戻ったんだ。ベルリンには住んでないけど、とりあえずスタジオはベルリンにある状態だね。曲は自宅で作ってるよ。たまたま今、またベルリンに戻ってるけどね。 スタジオで音を作るときの機材はフィジカルなもの、ハードウェアばかりだな。ライブをするときには Ableton Live を使ってるよ。
HRFQ : 何度も来日していますが、日本の印象は?
Sasu Ripatti : 本当に本音だから、もしお世辞みたいに聞こえたら嫌なんだけど、実際日本は一番来て面白いところだよ。日本でギグをする機会さえあれば、できるだけ来るようにしてるんだ。いつも楽しいよ。
HRFQ : 日本のどんな点が面白いと思われますか?
Sasu Ripatti : 東京なら、都会的な雰囲気とかかな。来るたびに何か新しいもの、新しいコンピュータを探したりするし、日本の文化、人々、食べ物がとても好きだよ。…何だかすごく能天気に聞こえそうなことばかり言ってるけど、本当誤解しないで欲しいな。今回も10日間こちらに滞在してるし、いつ東京に来ても嫌な思いをしたことがないんだ。今は高円寺に泊まってるよ!
HRFQ : 今注目しているアーティストはいますか?
Sasu Ripatti : いや、僕はいつも、新しい人を知るのは遅いからね。リサーチ的なことはしないし、みんなが名前を知った後にやっと僕が知るって感じだよ(笑)。自分のやってることで精一杯だから、いつも後から知ることばっかりだな。
HRFQ : それでは、一番好きなアーティストは?
Sasu Ripatti : (ジャズ・トランペット奏者の)Miles Davis だね。あと、小説家なら…、えーと…(しばらく考えこんで)、好きな映画も、好きな本も、好きなアルバムも、好きな画家も沢山ありすぎるから、「一番」を聞かれるといつも困ってしまうんだ。もし50個聞いてくれたら50個答えられるんだけどな。まあでも、僕のフェイバリットはやっぱり Miles Davis だね。
HRFQ : ご自身のレーベル Huume のコンセプトをお聞かせ下さい。ご自身のレーベル、他のレーベルからリリースする作品の決定的な違いは?
Sasu Ripatti : Huume は自分の作品をリリースするためのレーベルだね。自分の作品を自分で、シンプルにリリースするための手段として数年前に始めたんだ。他のところからリリースする場合、ミステリーというか、自分では何が起こってるのかあまり分からない部分が出てきてしまうだろう?特に海外のレーベルで出した場合なんて大変さ。あと、最近は大きいレーベルであればあるほど、売れる作品ばかりを沢山売ろうとするしね。自分でやれば、そういった事は全部自分でコントロールできるよ。だからこのレーベルを始めて以来、自分の作品はここからしか出さないんだ 。
HRFQ : 日本のファンのみなさんにメッセージをお願いします。
Sasu Ripatti : みんなのことをすごくリスペクトしてるよ。来るたびに楽しい経験ができるし、レコードも買ってくれてありがとう。「リスペクト」という言葉はシンプルに聞こえてると思うけど、意味はすごく深いんだ。
HRFQ : 本日はお時間ありがとうございました。
End of the interview
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ニュース : Luomo a.k.a. Vladislav Delay のニュー・アルバムが発売へ (2008/10/31)
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